197.『妖精郷の封印鬼』の賑わい

 さて、大急ぎで星見の都から戻り、準備を整えて『妖精郷の封印鬼』までやってきたのだが……ものすごい人数がいた。

 ざっと見渡した限りでも100人以上はいるであろうその集まりは、おそらくこれから『妖精郷の封印鬼』に挑もうとするメンバーなのだろう。

『妖精郷の封印鬼』は6パーティレイド、つまり36人いないといけないわけで……3チームで既に100人を超えるのだから。


「やあ、トワ君。こっちだよ」


 そんな集団の中から声がかかる。

 声の主は白狼さんだ。


「お待たせしました。……来るのが遅かったですかね?」

「いや、そんな事はないさ。集合時間まではまだまだ時間があるし、リク君やハルさん達のパーティ、それから僕等の3つ目のパーティも合流してないしね」


 今日のレイドには白夜の第4パーティをメインとした助っ人が来ることになっている。

 そっちはまだ到着していないらしい。


「そうですか。ならいいんですが」

「まあ、この人の多さじゃ色々と大変だよね。土曜の夜っていう時間帯を考えても、人が多すぎるよ」

「……それだけ、ここの情報は売れたって事でしょうね」

「ああ、もう事前準備していたアイテム分は売り切れだって教授は言ってたよ。なかなかの稼ぎになったらしい。今度、利益の分配も考えないといけないって言ってたね」

「そんなのどうでもいいんだけどなぁ……」

「今回の調査は僕等も手伝ったことになってるからね。そこは譲れない一線なんだろう」

「それなら今度、時間が出来た時にでも教授と話し合ってみますよ」

「おや、『ライブラリ』も忙しいのかな? ひょっとしなくても宝探しに行ってるのかい?」

「宝探しって言うと、今やってる公式イベントですか? 残念ながらそっちじゃないです。今、ジパンの方に行ってまして」

「へえ、もう別の国に向かったのか。でも、ジパンまでの移動はゲーム内12日ぐらいかかるって聞いてたけど?」

「ゲーム内2日でジパンに到着できる高速船って言うのが出てるんですよ。定期船ほど頻繁に出ているわけじゃないですが、短い時間でジパンに到着できるから便利でしたよ」

「なるほど。2日で到着できるのか……それなら、僕達も移動を考えてもいいかな」

「ただ、何日に出発するかはよくわからないので、まずは港町フンフコーラルの船舶ギルドを訪ねる必要がありますね」

「そうか。まずは港町まで行かないとダメだよね。……ちなみに、高速船の情報は教授経由かい?」

「そうなりますね。高速船がリアル時間の昨日出発で、今日到着って知っていたから急ぎで行ってきたわけですから」

「それはかなりの強行軍だったんじゃないかい?」

「かなりの強行軍でしたね。ジパンの入口であるカンモンについた後、転移門登録を済ませたら即入国審査を受けて、大急ぎで首都の星見の都まで移動しましたから」

「ところで、星見の都まではどれくらいかかるんだい?」

「馬を飛ばしてボス戦含め3時間くらいですかね」

「なるほど。ボス戦があったって事はワールド初撃破ボーナスももらえたのかな?」

「もらえましたよ。ブロンズスキルチケットでしたが」

「フィールドボスじゃしょうがないか。これがレベル60くらいのダンジョンボスになるとシルバースキルチケットになるんだけど」

「さすがにそのレベルの敵が相手だと勝てませんよ。今回はおっさんも同行してましたし」

「おじさんもか、それは大変だったろう。ちなみにフィールドボスの情報って聞いても構わないかな?」

「構いませんよ、隠し立てする内容でもないですし。ボス名は双頭百足、レベルは45、弱点は氷、ボスのHPが半分まで減ると2匹の大百足に分裂してきます。……他に、何か注意点ってあったっけ?」

「特にないのう。あえて言うならば、毒をもっていそうじゃったが、かみつき攻撃を食らわなければ問題なさそうじゃった。攻撃力もそこまで高くないし、レベルと装備が足りていれば苦戦するような相手ではなさそうじゃわい」

「なるほど。僕達が行くときの参考にさせてもらうよ」

「そうしてください。……それにしても、リクもハルも遅いな」

「公式イベントの方に参加しているらしいからね。時間には間に合わせるって言ってたけど、ギリギリまで粘ってくるんじゃないかな?」

「遅れないなら構わないんですが。……今回のイベントって、『白夜』は不参加ですか?」

「いや、個人の判断に任せてるかな? 報酬的にも上位まで行けばゴールドスキルチケットやプラチナスキルチケットが手に入るし、それ以下でも色々なものが手に入る。実用品以外のアイテムだったらかなり簡単に手に入るから、トワ君達も行ってみてはどうだい?」


 浮遊島で宝探しか……


「うーん、俺はあまり乗り気じゃないんですよね……」

「私もちょっと……」

「私もあまり行く気はないわね」

「同じくじゃの」

「ボクは浮遊島って言うのには興味があるけど、イベントには興味が無いかなー?」


 どうやらここにいるライブラリメンバーは全員あまり興味が無いようだ。

 あとは、おっさんだけど……こっちは聞いてみないとわからないかな。


「そうか、興味がわいたら行って見るといいよ。……まあ、僕も参加してないから人のことは言えないんだけどね」

「そうなんですね。てっきり白狼さんも参加してると思ったんですが」

「うーん、僕はあまり時間が取れないからね。学生とは違って夏休みというわけじゃないから」

「なるほど。それじゃあ、本格参戦はパスですか?」

「そうなるかな。景品にも興味はあまりないし、レイド準備のためのレベル上げに時間を充てさせてもらうよ。後半戦のイベントの方が僕には合うだろうしね」

「確か都市防衛戦でしたっけ。防衛戦という事はβのレイドイベントみたいな感じですかね」

「多分そうなるんじゃないかな。とりあえずそれまではレベル上げをメインに戦力の底上げを目指すよ」

「新しい国とかは目指さないんですか?」

「うーん、そっちも今のところはパスかな。一番乗り出来るほど時間があるわけじゃないし、何があるかもよくわかってないからね。とりあえずは様子見をさせてもらうよ」

「帝国とか魔法王国とか、色々ありそうですけどね」

「そうなんだけど、まだまだこの国のコンテンツも遊び尽くしてないからね。それを考えれば、そっちは後回しでもいいかなって」

「まだ、65レイドが完全にクリアされてないんでしたっけ?」

「ああ、まだ途中の段階だよ。あとは……」

「よう、トワじゃねーか」


 白狼さんと話をしてると、不意に背後から声をかけられた。

 振り返って確認すると、聞き覚えのあるその声の主は鉄鬼だった。


「この時間にここにいるって事は、お前さん達もレイドアタックか? そんなに周回するほど美味しいレイドなのかよ」

「うん? 鉄鬼か。報酬については聞いていないのか?」

「おう。俺達が買った情報は、ここの場所についてだけだからな。やっぱりレイドの情報は自力で集めないと面白くないぜ」

「……ここ、初見殺しが満載だから大変だと思うんだがなぁ」

「おう、大変だったぜ。今まで挑戦していたが、6回目の挑戦でようやくボスの最終段階まで行ったぞ。もっとも、そこでやられたがな」

「6回目で最終段階か……早い方、なのか?」

「どうだろうな。俺達も他のクランと合同でクリアを目指してるが、なかなか上手く行かねえからな。結局、クラン単位で指揮系統を分けずに一本化してボス戦に挑むようになったが、それでもまだボス攻略までは行ってないからな」

「そうか。まあ、頑張れ。最終段階まで進めたなら、大体手の内はわかってるだろうから後は慣れだ」

「わーってるよ。しかし6パーティレイドってのはきついな。全体のスケジュール調整だけでもかなり時間を食っちまう」

「そうだろうな。俺達だって、最初から週一でしか挑んでないんだから」

「それでもクリアできるんだからさすがだよな。それで……」

「おい、鉄鬼。何をしてるんだ? って、【白騎士】に【爆撃機】、いや今は【魔銃鬼】か。お前達もこれからレイドか?」

「おや、仁王か。珍しい……こともないか。レイドアタックの後だものな」

「久しぶりだね、仁王。そちらももう少しでクリアできそうなんだって?」

「ああ、レベル65レイドに比べればまだ楽だからな。ボスのギミックもわかったし、後は連携を強化すればいけるはずだ」

「そこまで楽でもないけどな。まあ頑張ってくれよ、【双腕】」

「おう。鉄鬼、そろそろ撤収だ。挨拶が済んだなら戻ってくれ」

「わーった。それじゃな、トワ、白狼、それに他の皆も。また今度、遊びに行くからよ」

「その時は事前に連絡をもらえると助かるな。出払ってるときもあるから」

「了解だ。それじゃーな」


 鉄鬼が立ち去っていくのと入れ替わるように、ハルやリク達、それから『白夜』の残りのメンバーも合流してきた。

 だが、合流してきたメンバーの中には見知った顔もあったわけで……


「アイラにフレイか。ここに来たって事は今日のレイドに参加するのか?」

「ええ、そうよ。それがどうかしたの?」

「こんばんは、トワ君、ユキさん。今日はよろしくお願いします」

「2人はここまでの案内役も兼ねての参加だよ。『白夜』じゃ数少ないケットシー持ちだからね」

「へえ、ケットシーの入手イベントをこなしてた訳か」

「まあね、眷属って言うのにも興味があったから」

「ちょっと時間はかかってたけど何とか手に入ったから。それで、ここまで来るのにケットシーの道案内が必要だって事になって、私達が先導することになったの」

「少なくとも、2人ともレベル50までは上がってるから足手まといにはならないはずだよ。ただ、パーティ単位での防衛戦には少し不安が残るから、パーティ構成を変えて欲しいんだけど」

「どういう風にするんですか?」

「済まないけど、イリスさんを貸してもらえないかな? トワ君達のパーティはトワ君1人で大体クリアできるって話だから、イリスさんを白狼の第3パーティで借り受けたい」

「わかりました。構わないよな、イリス?」

「大丈夫だよー」

「それはよかった。それじゃあ、イリスさんの代わりに……フレイにトワ君達のパーティに入ってもらうとして、レイドアタックの準備といこうか」


 レイドアタックの準備、つまりは消耗品の分配や各自の装備品の消耗具合などの確認だが、直前までイベントに参加していたハルやリク達以外については、消耗品の配布だけで終わった。

 ハルやリク達は装備品が消耗していたので、念のため修理をしてからのレイド開始となった。

 とはいえもう何度もクリアしているレイドだから、油断しなければ負ける要素はないのだが。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「話には聞いてたけど、あれだけの敵をこんな簡単に倒せちゃうんだね……」

「流石に驚きだわ。というか、私達って本当に数あわせだけよね」


 パーティ単位での繭防衛戦が終わった後のアイラとフレイの感想がこれだ。

 俺達のパーティはいつも通りテンペストショットで削った後、他のメンバーで一気に倒してしまっていた。

 イリスが加わった白夜の第3パーティも、イリスのテンペストアローで削った後を残りのメンバーで攻撃することで終わったらしい。


「そんな事を言われても、これが一番楽だからな。そうでもなきゃ、初見のメンバーを1パーティ分も連れての参戦なんて出来ないさ」

「そうそう。その分、ラスボス戦では頑張ってもらう事になると思うからよろしくねー」


 かなり余裕が出来てしまっていることで、インターバルにはそんな会話を交わす余裕もあった。

 その後の6パーティ全体が集まっての繭防衛戦も成功して、いつも通り繭の被害なしでラスボス戦、封印鬼との決戦となった。

 封印鬼戦は……なんというか予想通りの展開だったな。


「流石に『白夜』でも第4パーティ以降では攻撃力が劣りますか」

「そこは流石に申し訳ないと思ってるよ。ただ、僕達としても全体の底上げをしたいところだからね」

「構わないですよ。その分、こちらからの援護射撃を増やせばいいだけですから」


 実際、増援として現れる小鬼どもは俺が出向けば大体終わってしまう。

 それ以外の手空きになっている時間は、封印鬼への援護となるのだが……これで結構ダメージを与えてる気がするな。

 パーティ自体は別だがイリスも俺達と一緒に行動しているし、全体としての戦力に問題は無い。

 封印鬼にたどり着くまでの時間もかなり急いだので、封印鬼討伐に時間がかかっても時間切れになる心配も無いからな。

 結局、封印鬼との戦闘は1時間半近くかかったが被害0のまま終了することが出来た。


「……これが妖精の加護なのね。妖精が手に入るのが待ち遠しいわ」

「ケットシーを手に入れてたから妖精も手に入れることが出来たんだよね。そう考えるとラッキーだったかな?」


 アイラとフレイは本来の実力じゃまだまだここにはたどり着けないであろうことは確実なので、まさにラッキーというべきなんだろう。

 他の新規入手の4人にしても、嬉しそうに会話をしている。


「うん。第4パーティぐらいまでならここでも通用するかな」

「来週は第5パーティですか?」

「うーん、第5パーティはまだまだ育成段階なんだよね。レベルだけは十分に育ってるから、第6パーティと合同で低レベルレイドに挑ませてるけど、まだまだ連携力不足なんだ。だから、来週も3パーティ連れてくる必要があれば第3パーティを連れてきて、フェアリーブレス狙いかな」

「了解です。流石に俺達じゃこれ以上の戦力を増やすことは出来ませんし、そこは白狼さん達にお任せしますよ」

「うん、わかったよ。……さて、報酬の分配も終わったし解散するとしようか。レイドエリアから出たらすぐにポータルに向かって撤収するんだよ? さっきは仁王や鉄鬼君だったから問題なかったけど、数週間とはいえ僕達がこのレイドを独占していたのは間違いないからね。余計なトラブルが起こらないとも限らないからさ」

「わかりました。それじゃあ、準備が出来たら教えてください。全員の準備ができ次第、レイドクエストを終了させますので」


 その後、全員が報酬分配などを終了させてることを確認してレイドクエストを終了。

 レイドエリアから脱出したらすぐにポータルへとアクセスしてクランホームに帰還した。


 なお、ハルやリク達も一度『ライブラリ』に用事があると言うことなので一緒にクランホームに帰還することとなった。


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