196.星見の都へ
「さて、あそこが入国審査をしてくれる場所みたいだけど……結構混んでるわね」
街を仕切るようにしてできた壁。
そこに審査をするための窓口のようなものが複数並んでいた。
そこには審査待ちであろう行列が出来ているのだが……
「そうだね。ただ、場所によって列の長さが違うのはどういうことだろうね?」
「とりあえず行ってみよう。予定よりも早く着いたから余裕が出来たとは言え、ここで話をしてても仕方が無いからな」
「それもそうね。行ってみましょう」
ともかく俺達6人も入国審査を受けなければいけないのだ。
列の最後尾に並ぼうとしたところ、列の振り分けをしていた衛兵に話しかけられる。
「ここより先はジパンへの入国審査だが間違いないか?」
「ええ、そうよ。それでどこに並べばいいのかしら?」
「それは用向きによって異なる。入国の目的はなんだ?」
「目的ねぇ……簡単に言ってしまえば観光、あるいはどんな技術があるのかの確認、そんなところかしら」
「ふむ……そなたら、異邦人か?」
「ええ、そうなるわね」
「ならば身分を証明するものを見せてもらおうか。それがなければ通す訳にはいかぬ」
「身分証ね……全員が出さなきゃダメ?」
「基本的にはそうなるが……何か特別な身分証でも持っているのか?」
「うーん、特別な身分証ね……誰か持ってる?」
柚月の持ってる身分証は自分用だけなのだろう。
おっさんはギルドランクが低くて身分証を発行してもらえなかったものな。
となると俺の銀時計が通用するかどうかだが、どうなるか。
とりあえず、錬金術ギルドで受け取った銀時計を見せてみる。
「これじゃダメかな?」
「これは……少々お待ちを」
衛兵が足早に立ち去り、建物の中へと入っていった。
そしてすぐにもう一人、少し豪華な鎧姿の衛兵を連れて戻ってきた。
「錬金術の銀時計を持ってきたのはお前達か」
「ああ、そうですけど。それがどうかしたんですか?」
「済まないが、まずは本人のものかどうか確認をしたい。一緒に詰め所まで来てもらいたいのだがよろしいか?」
「構わないけど……俺達全員で?」
「そうなるな。銀時計が本物であれば全員分の身分証として機能する。余計な手間を省くためにも、全員で来てもらえると助かる」
「だそうだが、どうする?」
「行くしかないでしょ、ここは。審査もかなり簡略化出来そうだし」
「という訳でついていきますよ。どこに向かえばいいんですか?」
「協力感謝する。では私についてきてくれ」
衛兵に案内されて入国審査をしている建物の中に入る。
そこはしっかりとした建物で、まさに関所と言ったところだ。
「済まないがもう一度銀時計を出してくれ。本人確認の魔法をかける」
「わかりました。……これでいいですか」
「ああ、そのまま持っていてくれ。……ふむ、間違いなく本人のもののようだな」
衛兵が何か魔法をかけると銀時計が白く輝いた。
これが本人確認の魔法の結果なのだろう。
「ちなみに、本人以外が持っているとどうなるんです?」
「赤く光ることになる。この本人確認の魔法が生まれてからずいぶん楽になったものだよ」
「他にも身分証となるものを持っていますがそれは提示しますか?」
「いや、必要ない。それがあれば十分だ。念のため入国目的だけは聞いておこう」
「うーん、特に目的は。あえて言うなら観光とどんな技術があるかの確認、ああ、あとはギルドからこちらのギルドマスター宛の手紙を預かっているくらいですか」
「そうか。そう言うことなら問題はないだろう。……では、これを持っていくがいい」
渡されたのは1枚のメダル。
手渡されたときに魔法をかけられたから、本人確認の魔法をかけたのだろう。
「これは?」
「ジパンへの入国許可証になる。異邦人であれば何度も関所を通ることはないだろうが、次にこの関所を通る機会があればそれを見せるといい。そうすれば審査なしで通ることが出来る」
「ずいぶん便利ですが、もらってしまっても構わないんですか?」
「ああ、入国審査としてはもう終了しているからな。ジパンは君達を歓迎しよう」
「ありがとうございます。……ちなみに星見の都への道はどうなってますか?」
「セキの街の北門を出て道なりに北へと向かえばいい。ただ、最近は化生の類いが通る旅人を襲うことがあると聞く。異邦人であれば後れを取ることはないと思うが、十分に注意されよ」
「わかりました。ちなみにセキの街って?」
「ああ、この関所を境に港側が『カンモンの街』、陸側が『セキの街』と呼ばれているのだ。まあ、昔の人間が決めた事だ。あまり気にはしなくてもいいだろう」
『カンモン』に『セキ』ね。
大昔の出島のようなものかな?
鎖国をしているわけではないようだし、ちょっと違うか。
「ともかく君達の入国審査は以上だ。ジパンを楽しんで行ってくれ」
「ええ、ありがとうございます。それでは」
入ってきた入口とは逆の扉から出て行く。
そこにはもう1つの街が広がっていた。
「ここが『セキの街』って訳ね。流石に深夜だから人通りは少ないけど……それでも灯りがちらほらと点いてるわね」
「俺達のような夜にこの街に着いた客相手の店だろう。それよりも北門とやらに向かおう」
「そうね。あの口ぶりだと途中でボス戦もあるみたいだし、気をつけていきましょう」
俺達は関所を後にすると北門に向けて歩き始める。
途中で転移門が設置されていたのでそれも登録した後、北門へとたどり着いた。
北門の衛兵にも確認したが、このまま道なりに3時間も馬を走らせれば星見の都にたどり着くらしい。
そして、時折、旅人がモンスターに襲われるという話があるので気をつけるようにとの事だった。
北門を出たところでそれぞれが騎獣を召喚して北へと向かう。
そのまま1時間ほど走ったところで目の前にボスエリアが現れた。
「流石に私達より先にボスまで辿りついたプレイヤーはいないでしょうね」
「そもそも、船から降りるのだって早かったし、入国審査もほぼ素通りだったからな。俺達が初見だろう」
「わしらの手に負える相手だといいがのう」
「おじさんは戦力になりそうもないね。済まないけど後ろで邪魔にならないようにしてるよ」
「ええ、そうして頂戴。それじゃあ、準備をしましょうか」
準備としてバフをつけるために料理を食べることに。
ついでと思ってスキルを確認してみると、【知力上昇】と【精神力上昇】が進化可能になっていた。
それぞれにSP5ずつ、合計SP10を支払いスキル進化をしておく。
やっぱりこまめにスキルを確認しないとダメかな。
スキルがレベルマックスになったタイミングでメッセージは出てるはずなんだけど、あまり気にしてないからな……
「さて、準備はいいわね。トワ、始めるわよ」
「了解。それじゃあ始めるか」
準備も終わった事だし、ボスエリアへと進入する。
すると、森の中からギチギチと嫌な音が聞こえてきて、俺達の目の前にボスが飛び出してきた。
その姿は頭と尾の先端が頭になっている双頭の大百足、なかなかに気持ちが悪いな。
「ボス名、双頭百足。レベルは45、弱点は氷らしいな」
「耐性は特になし?」
「耐性は無いようだ。さて、どう倒したものか」
「トワは弱点属性で攻撃してみて。ドワンはタンク、ユキはバフとデバフをお願い。私とイリスは遊撃。それじゃ、行くわよ」
双頭百足との戦闘が開始される。
ドワンがしっかりとターゲットを固定してその隙に全員が各自の予定通りに行動を開始した。
ユキは神楽舞でバフとデバフを付与し始め、それにあわせて柚月とイリスも攻撃を始める。
おっさんは万一にも攻撃に巻き込まれないよう、射程ギリギリの距離から攻撃を行う。
俺も氷迅を取り出して、魔法増幅を行い氷属性の魔法を叩きこむが……
「かなりHPの減少速度が速いのう。流石にレベルが低いせいかのう?」
「そのようね。トワはもう少し火力を抑えた方が良さそうね」
「言われなくてもわかってるよ。ドワンもターゲットの維持よろしく頼むぞ」
「任せておけ。この程度ならば維持しきってやるわい」
バフやデバフの効果もあり、双頭百足のHPはぐんぐん減っていく。
そしてHPが半分を切ったとき双頭百足の様子が変わり、体の中央から分割されるように二匹の百足に別れた。
「ボスの名前が変化したな。大百足が二匹だ。弱点属性がなくなったな」
「ボスが分割されてHPも半分ずつになったのかな? 攻撃の通り方がさっきよりも早くなったよー」
「うむ、そのようじゃのう。攻撃頻度は上がっているがこの程度なら受けきれる。範囲攻撃で一気に叩くぞい!」
「そうしましょうか。イラプション!」
「テンペストアロー」
「ウェポンチェンジ・双撃、テンペストショット!」
それぞれ各自が繰り出せる範囲での最大威力の範囲攻撃を大百足に仕掛ける。
テンペストアローとテンペストショットの効果が終わったところでわずかにHPが残っていたが、そこに追い打ちをかける存在がいた。
「ボクの出番! サンダーレイン!!」
自由行動によって飛び出してきたエアリルがサンダーレインを大百足に浴びせかける。
それが最後の一撃となり大百足二匹が塵となって消えていった。
〈エリアボス『双頭百足』のワールド初撃破です。ボーナスSP10ポイント、ブロンズスキルチケットが与えられます〉
思った通り、このボスのワールド初撃破は俺達6人だったようだ。
普段より少し多めのSPとブロンズスキルチケットを入手することが出来た。
……もっとも、ブロンズスキルチケットの使い道には困るのだが。
「やっぱりワールド初撃破だったんだね。お疲れさまです、皆さん」
「まあ、私達より先行しているパーティなんていないでしょうからね。さて、ボス戦も終わったことだし急いで星見の都を目指しましょう」
「そうじゃの。これ以上ここに留まる理由もないし急ぐとするかの」
「そうだねー。レイド攻略の時間ももうすぐだしね」
「それじゃあ急ぐとするか」
「そうだね。いやあ、おじさん、やっぱり役に立て無くて申し訳ない」
「レベル差があるんだから仕方が無いわよ。それよりも早いところ北へ向かいましょう」
「そうだね。そうしよう」
俺達は改めて騎獣に乗って北へと向かう。
途中で道が北東よりに変わっていったが、道なりと言うことだったのでそのまま道なりに進んでいく。
やがて空が白み始める頃、行く手に大きな街が見えてきた。
「あれが星見の都ですね」
「そのようだな。なんというか、本当に和風の街だな」
薄明かりの中見えてきた街はセイルガーデン王国の王都ほどでは無いが、白い立派な壁によって囲われた街だった。
まだまだ薄暗く、壁があるため街の様子は窺えないが、街の規模は王都と同じくらいはありそうだった。
「とりあえずは街の中に入って転移門の登録を急ぎましょう」
「そうだな。もう結構時間ギリギリだ」
「はい、急ぎましょう」
俺達はそのまま騎獣を走らせて星見の都へとたどり着く。
都に入るときは特に審査などもなくすんなり入ることが出来た。
都の街並みは古い和風の街並みだが、やはりまだ夜が明ける前の時間帯なので人通りは少ない。
入ってきた門がどこにあたるかはわからないが、おそらくは東門だろう。
街に入ったすぐ側にサブポータルがあったためサブポータル名から東門が確定、そこから転移門広場へと転移、転移門を登録する。
〈【星見の都】の転移門ワールド初到達パーティです。称号【星見の開門者】が与えられます〉
何やら新しい称号がもらえた。
称号効果は無いようだから記念称号のようなものだな。
「称号、もらえましたね」
「まあ、記念品みたいなもののようだけどね。とりあえずもう少しでレイド攻略の時間になるから、一度クランホームに戻るわよ」
「そうだねー。急いで戻って支度しないと」
「まあ、ゲーム内時間ではまだ2時間ほど余裕があるがの」
「急ぐに越したことはないだろ。おっさんはどうする?」
「おじさんもクランホームに戻って今日は終わりにしようかな。流石に疲れちゃったよ」
「それじゃあクランホームに戻りましょうか。トワ、お願い」
「ああ、わかった」
転移門からクランホームを選び、クランホームに帰還。
戻った後は各々レイド準備に向かうことになった。
俺も一旦ログアウトして一休みしてからレイドに向かうことにしよう。
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