189.オッドの成長

 夕食や寝る支度を調えて夜時間のログイン。

 いつもの自室で目を覚ますと、エアリルが部屋の中を飛び回っていた。


「おはようエアリル。今日も元気なようでなによりだ」

「ああ、おはようトワ。そりゃあもちろん元気は有り余っているさ!」

「そうか。それで、今日はどうするんだ?」

「そうだね。トワについて回ろうかな。昨日はボス巡りなんて面白そうなことをボク抜きでやってたみたいだし」

「いなかったお前が悪い。さて、それじゃあ下に行くぞ。今日は特にやることもないがな」

「りょうか~い。それじゃあ、出発だ」


 とりあえず、寝起きのようなぼんやりとした頭のまま、工房へと顔をだす。

 そこではオッドが今日も元気に生産修行をしていた。

 これはオッドの希望なので特に気にしていないが、オッドを戦闘に呼び出すのは極めて稀だ。

 記憶が確かなら2~3回しか呼んだことがない。


 オッドとしては早く一人前の職人になりたいそうだから、頻繁に呼び出されることのある他のケットシー達とは考え方が違うらしい。

 それに修練しなければいけない内容も、【調合】の他に【錬金】が混じっているのだから尚更だろう。

 調合と錬金は色々と関係のあるスキルなので単純に2倍とはならないが、それでも2倍近い量の修練をしているのだ。

 たまには様子を見てやってアドバイスをしてやらないと。


「うにゃー、遂に出来ましたニャ!」

「うん、何が出来たんだ?」

「おお、これはご主人様にエアリルさん、これが遂に完成したのですニャ」


 見せられたのは1丁のハンドガンただし名前は『ネコ印のハンドガン★5』となっている。

 性能的にはヒグマの魔石で作られたアイアンハンドガン程度の攻撃力だから、ATK+30はあるか。


「ふむ、ハンドガンの製造に成功したか。……ところでハンドガンの作り方ってどこで学んだんだ?」

「それはもちろん、ご主人様の作り方を見て覚えたのですニャ。ご主人様の作り方は、魔力の通し方が丁寧ですので見ていてわかりやすいのですニャ」

「見ているだけでこの性能か……ふむ、ならば直接教えてやればもう少しマシなハンドガンが出来るかな?」

「本当ですかニャ!? ハンドガンの作り方を教えていただけるんですかニャ!?」

「まあ、そのうち教えようとは思っていたからな。それが多少早まっただけだ」

「ふ~ん、ちなみに多少ってどれくらい?」


 エアリルが茶々を入れてくる。

 無視されているのが面白くないのかな?


「2~3週間程度だな」

「……それってずいぶんと早くない?」

「スキルの習熟度から言えばそろそろ覚えてもいい頃だからな」


 今のオッドのステータスはこうなっている。


 ――――――――――――――――――――――――

 名前:オッド 種族:ケットシー(一般) 種族Lv.16

 HP:182/182 MP:210/210 ST:193/193

 STR: 20 VIT: 21 DEX:73

 AGI: 54 INT: 48 MND:35

 スキル

 攻撃:

【爪】【剣】【盾】【銃Ⅲ】

 魔法:

【風魔法Ⅱ】

 補助:

【魔法攻撃上昇Ⅱ】

 生産:

【調合Ⅹ】【錬金術Ⅹ】【細工Ⅳ】【生産ⅩⅠ】

 ――――――――――――――――――――――――


 銃スキルがどこで生えたのかとか、魔法スキルがどこで成長したのかはあえて聞くまい。

 だが【調合】と【錬金術】がともにⅩになり【生産】に至ってはⅩⅠだ。

 眷属のステータスにおいてⅠ上がるごとにプレイヤースキルの1~5程度のスキルレベルという事なので、オッドの【調合】と【錬金術】スキルは既に初級調合術や初級錬金術の半分を超えており、生産スキルに至ってはそろそろプレイヤースキルの【生産Ⅱ】になる頃だ。

 それよりも1つ確認だな。


「どうしてまたハンドガンなんて作ろうと思ったんだ? しかもこれ、他のケットシー達にも手伝ってもらった合作だろう?」

「はいですニャ。トワ様はケットシーの里の防衛戦力兼狩り部隊の現状をご存じですかニャ?」

「……確かウルスだったか? 彼と一度会ったきりだけど……」

「ウルス隊長に会われましたかニャ。ウルス隊長はケットシーの中でも進化したハイケットシーですニャ。……まあ、それは今はどうでもいいのですがニャ。彼らの装備を見てどう思いましたかニャ」

「一言で言えばボロボロだな。何とか壊れないようにだましだまし使っていると言ったところか」

「そうですニャ。狩猟部隊の皆さんの装備はボロボロですニャ。それじゃなくても、ケットシーの体力では重たいものを持てずに、小さな体で小さな剣を使って戦うしかないのですニャ」

「それとこれとなんの……って、ああ、そう言うことか。銃ならば慣れてしまえば剣ほど接近せずとも戦えると言うことか」

「はいですニャ。弾丸の入手など問題はありますが、少なくともダガー程度の武器を使って戦うよりは安全ですニャ。今までも試作品と呼べるレベルになったハンドガンは、狩猟部隊の皆さんに使ってもらって調子を見てもらっていますのニャ」

「なるほどなあ。まあ、修行では何を作るにしても自由ではあるから咎めはしないが、そういう事情があるのなら、もっと早めに説明してもらいたかったものだな」

「はい、申し訳ありませんニャ……」

「ああ、責めてるわけでなく。お前さんの今の腕前ならもう少し性能のいいハンドガンを作れるぞ、多分。それからドワンのところとイリスのところのケットシーにも話を通さないとな」

「うにゃ! ハンドガン作りを許してくれるのですかニャ!?」

「別に秘伝の技術というわけでもないからな。それに柚月達のケットシー達も銃で戦うようになってたし今更だろう。銃自体がケットシーにあってる武器っぽいしな」

「それはありがたいですニャ! 早速キラクとジンベエに話を通しに行きますニャ」

「落ち着け。まずはドワンとイリスに話を通してからだ。きちんとした銃を作りたいならパーツもしっかりした物が必要だからな。あの2人にも指導してもらえるようにお願いしないと」

「わかりましたニャ。ボクからもお願いしてみますが、ご主人様もよろしくお願いしますニャ」

「わかってるって。……という訳で、エアリル。しばらくオッドに付き合うけど、お前はどうする」

「うん? ついていくよ? なんだか面白そうだしね」

「面白くはないと思うが……まあ、付いてくるなら構わないか」


 とりあえず方針は決まったので、まずはドワンの工房へ。

 こちらではドワンが自分のケットシーであるキラクに鍛冶を教えていた。


「ドワン、ちょっといいか?」

「うむ、どうかしたのか?」

「ああ、どうやらケットシー達が銃を作りたいらしいんだよな」

「ほう、銃か。それはちょうどいいかもしれんのう」

「ちょうどいい? どういうことだ?」

「修行段階としていい経験になると言うことじゃ。鍛冶の腕前も十分に上がっておるしな」

「それなら悪いんだけど、ハンドガンとライフルの銃身の作り方を教えてもらえるか?」

「ハンドガンは理解できるがライフルもか?」

「いずれ使う時が来るだろう。修行の一環としては悪くないんじゃないか?」

「ふむ、それもそうじゃのう。今やってる作業が一段落付いたらそちらを教えるとしよう」

「頼むよ。今までは見様見真似で作ってたらしいから、基本から教えれば大分上達できると思うからさ」

「なるほどな。あいわかった。そう言うことなら、すぐにでもきちんとした物が出来るじゃろう。……変なクセが付いていなければじゃが」

「そこのところは任せるよ。それじゃあよろしく」

「うむ。任されよう」


 そして次はイリスの工房。

 こちらでも似たようなやりとりを経てグリップを作ってくれることに。


 部品の発注は全て完了したので、後はそちらの完成を待って組み立てるだけだ。

 ただ待っているのも時間の無駄なので、ポーション作りの様子を見ることに。


「うみゃみゃ、ウニャニャン」


 オッドが謎の言葉を発しながら出来たのは『ネコ印のポーション★7』。

 そこそこの出来栄えだとは思うのだが……オッドは満足していない様子だった。


「ご主人様、ボクの手順で何か問題になってそうな事はありましたかニャ?」

「うーん、大きく言えば問題はなさそうだが……あえて言えば、薬草はもう少し細かくすりつぶした方がいいのと、煮出す温度が高めだったような気がするな。後は最後に魔力を注ぐときにブレが生じてた」

「なるほどですニャ。それではそこに注意してもう一度やって見ますニャ」


 オッドは再び作業台に向かい、謎の言葉を発しながらポーション作りを始める。

 今回完成したのは『ネコ印のポーション★9』だった。


「おお、一気に★9まで品質が上がりましたニャ! これもご主人様のおかげですニャ!」

「逆を言えば、お前さんの技術はその程度の物は作れると言うことだろう。……★10に上げるには、もう少し魔力の注ぎ方にムラが出ないようにしないといけないかな。あと、ポーションで使う薬草のすりつぶし具合だけど、作るポーションごとに最適なすりつぶし具合が違ってくるからそこも注意だな」

「わかりましたですニャ。次は★10を目指して頑張りますのニャ!」

「どうせなら、ミドルポーションに挑戦してもいい頃合いだと思うのだが……そっちは材料がないのか?」

「頼めば1週間ぐらいで用意してもらえるとは思いますニャ。そう言うことでしたら、今度里に戻ったときに発注しておきますニャ」

「普通のポーションだとそろそろ限界と言うところだろうからな。普通のポーションでもこれだけの物が出来るんだ。ミドルポーションでも少し慣れれば★6ぐらいは狙えるだろう」

「そうだといいのですがニャ……」

「まあ、自信を持て。……っと、どうやら銃の部品が完成したようだな」


 工房のドアがノックされたので、入室の許可を出すとキラクとジンベエがそれぞれの作った部品を持ってやってきた。

 品質を確認させてもらったが、★5から★7までの品質で少しばらけているな。

 流石にまともに作るのは初めてと言うことで上手く行かなかったかな?


「頼まれたしニャ物をお持ちしましたニャ」

「これで、銃作りも捗ると思いますのニャ」

「ありがとうですニャ。キラク、ジンベエ」

「大したことではニャいニャ。その代わり、銃作りを少し見学させてもらいたいニャ」

「どのようにして銃が出来ているのか気にニャるニャ」

「わかりましたニャ。ご主人様、構わないですかニャ?」

「お前が気にしないなら、構わんぞ。……どれ、先に俺が手本を見せるか」


 俺は共有倉庫から適当に部品を取り出して準備を始める。

 魔石は……ブレードウルフでいいか。


「いいか、最初は余り強い魔力でそれぞれをつながないように気をつけるんだ。最初のパスが通ったら、魔石を中心にパスを太くしてやって、通す魔力量も増やしていく。最後は全部の材料をまとめるように、魔力で渦を巻きながら混ぜ合わせてやれば完成だ」

「うにゃ。いつも横で拝見させていただいてますが、いつ見てもお見事ですニャ」

「確かに。初めて見させていただきましたがお見事ですニャ」

「魔力の通し方が絶妙でしたニャ」

「まあ、【魔力操作】と【気力操作】を使わなければこういう感じだ。そっちのスキルを使ったやり方は……口で説明すると、最初から少しずつ魔力と気力を流し込んでいくという形になるんだが……」

「うにゃぁ……さすがに慣れるまでは無理ですにゃぁ……」

「だろうな。まずは、普通に★10を目指すところからだな」

「いきなりハードルが高いですニャ!?」

「頑張るのですニャ、オッド」

「頑張ればきっといいことがありますニャ」


 いきなり高めのハードルを示されたオッドは、半泣きになりながらもせっせと銃作りを開始した。

 正式にハンドガン作りが出来ることになった事もあってか、オッドの腕前はめきめき上達し、最後の方では★9までは作れるようになっていた。


「いやー、オッド君、ここまでいきなり作れるとは思わなかったよ」

「見様見真似で★5まで作れたんだ。正式な手順を教えてもらえればこんなものだろう」

「ふーん、で、次は何を作らせるつもりなの?」

「とりあえず★10が作れるまではポーションとハンドガンだな。『中級の壁』は難なく超えたんだ。異邦人プレイヤーとは別のルールに則ってるのかも知れないしな。それが終わったらミドルポーションとライフル製造かな」

「楽はさせてあげないねぇ、この師匠は」

「自分で飛び込んできた道だ。余り簡単なことばかりさせても興醒めだろう?」

「かも知れないかな? まあ、程々にね?」

「わかってるさ。……おーい、オッド。作業が一段落付いたならマタタビ酒があるから一休みしたらどうだ?」

「マタタビ酒!? でも、もう少しでナニカがつかめそうな気も……って材料がもうないのニャ!?」

「そう言う訳だから、一休みしておけ」

「……うう、わかりましたニャ。あとで、キラクやジンベエに追加のパーツを頼んできますニャ」

「ああ、そうしておけ。魔石は、ブレードウルフやファングウルフクラスまでの魔石なら適当に使ってしまって構わないから」

「ご主人様、感謝いたしますニャ。……でも、本当に作った銃は全てケットシーの里で使っていいのですかニャ?」

「ああ、構わないぞ。というか、あのレベルの銃を俺達が売り出すと市場を荒らすことになるからな。売り出すわけにはいかないのさ」

「なるほどですニャ。凄腕の職人にはそれ相応の悩みがあると言うことですニャ」

「悩みって程でもないけどな。あまり市場を独占してもいいことはないってだけだ」

「ともかく、感謝いたしますニャ。これで、狩猟部隊だけじゃなく一般のケットシーでも銃の練習ができますニャ」

「それはよかった。どう考えてもケットシーが剣を持って戦うのは無理があるからな」

「昔のケットシーは腕自慢がいっぱいいたらしいのですがニャ。今のケットシーでは厳しいですニャ」

「そう言うことなら、その銃は尚更ケットシー達が使うべきものだな」

「ではお言葉に甘えさせていただきますニャ」


 オッドが作成した約40丁の銃の行く先を決めた俺は、ひとまず近くの椅子に腰を下ろす。


「そう言えば、ユキは? 今日はまだ見てないけど?」

「今日は遅くなるって言ってたからな。そのうち来るんじゃないか?」


 そんなことを言っていると、工房の扉が開かれた。

 入ってきたのはシャイナを連れたユキだ。


「こんばんは、トワくん」

「こんばんは。大分、遅かったな?」

「リクの勉強を見てあげてたら、ついね……」

「……それはご苦労様だ」

「それじゃあ、私は在庫の生産に……」


「トワ、ユキ、いるかしら?」


 在庫の生産をしようとしていたユキを遮ったのは柚月の呼び声だった。


「教授が話があるんだって。少し談話室に来てくれないかしら?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る