188.力の羅針盤
技の羅針盤を無事入手し、錬金術ギルドを後にした俺はガンナーギルドへとやってきた。
こちらでも受付で羅針盤について聞いてみる。
「はい、異邦人の方々への『力の羅針盤』の許可は下りています」
「それじゃあ、『力の羅針盤』がほしいんだけどどうすればいい?」
「トワ様には普段より貢献していただいているのでお渡ししたいのですが、特別扱いするわけにも行かず……済みませんが、これらのモンスターを討伐してきていただけますか?」
「わかりました。それじゃあ、早速行ってきます」
「はい、ご武運をお祈りします」
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『力の羅針盤の入手』
クエスト目標:
以下のモンスターを討伐する
アースドラゴン 0/1
いずれかの属性ワイバーン 0/1
氷鬼 0/1
雷獣 0/1
クエスト報酬:
力の羅針盤
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さて、クエストは受注した。
受注したはいいがボス系の討伐クエか……
流石に人数が揃わないときついが、柚月達がいるタイミングで誘ってみるか?
レベルだけなら既に適正レベル帯だし、装備は平均よりも遥かに上だから負ける要素は少ないし。
そんな事を考えていたらフレチャがかかってきた。
相手は……ハルか。
『もしもーし、お兄ちゃんヒマしてる?』
「暇と言えば暇だが、どうかしたのか?」
『これから力の羅針盤を取りに行くんだけど、お兄ちゃんも来ない? ユキ姉はもう誘ってあるよ』
「確かに俺も力の羅針盤を取りに行くところだが……自分達のパーティはいいのか?」
『それも含めて大丈夫だよ。行けるなら王都の転移門広場に来てね』
「わかった、すぐに向かう」
『おっけー。待ってるねー』
思いがけないところからのお誘いだが……自分達のパーティは大丈夫なんだろうか?
ともかく王都の転移門広場に移動だな。
サブポータルから転移門広場を選択っと。
「あ、お兄ちゃん。こっちこっち」
転移門広場に移動したらすぐにハルに捕捉された。
ハルの側にはハルのパーティメンバーとユキがいて……って。
「ああ、お待たせ。……って柊と椿がいないな?」
「実はお兄ちゃん達を誘った理由ってそこなんだよね。2人は今日ログインできないらしいんだよね。だから、お兄ちゃん達のクエスト進行を手伝ってあげようと思って」
「本音は?」
「わたし達の眷属はまだ育ってないし、椿と柊の2人が抜けた穴を埋めずにボス4戦はキツイ」
「なるほどな。でも、それなら明日以降でもいいんじゃないのか?」
「2人が来たらまた2人の分も回るよ。わたし達の分を今日中に終わらせておきたいだけ」
「まあ、そう言うことならお言葉に甘えるか。ユキも行くようだし」
「うん。私達だけじゃ辛いよね?」
「流石にエリアボスを俺達2人だけで倒すのはなぁ……」
「まあまあ、わたし達も同行するんだし負けはないよ。もう戦い慣れた相手だしね!」
「そうですね。それにトワさん達も十分にお強いですし」
「装備分の差もあるけど普通に戦闘職でも通用するよねー」
「今日はよろしくお願いします」
話はまとまったのでハルのパーティに加入することに。
ハル達のパーティは言うまでもなく全員レベル60だ。
「そう言えば、リクの方はどうなってるんだ?」
「リクはパーティメンバーが全員揃ってるからそっちで行くって言ってたよ」
「そっか、それならいいや」
あいつ1人だけ置いていったらあとで何か言われそうだからな。
「それじゃあ、出発するけど、お兄ちゃん達は第6エリアや第7エリア行ったことないよね?」
「ないな。だから転移はできないぞ」
「そこは了解してるよ。……そうなると全部で移動に2時間ぐらいかかるけど問題ないよね?」
「うちの家事が終わってるのはお前も知ってるだろ?」
「私の方も問題ないよ」
「りょうかーい。それじゃあ、まずは第6エリアを抜けて氷河、それから氷鬼を倒しに行こう。ちなみにレジストブリザードポーションは持ってる?」
「んー、手元にはないな。一度、クランに戻ればあるが」
「お兄ちゃんにしては珍しいね? この手のポーションを用意してないなんて」
「そもそも氷河に行く機会がなかったからな。売り物としては沢山作っているが、全部クラン倉庫に放り込んでるよ」
「そっか。それじゃあ、とりあえずわたしが持ってるレジストブリザードポーションを渡すね。氷鬼のところまで騎獣で20分弱だからポーション1つでボス戦まで足りるし」
「わかった。終わったら使った分は補填するよ」
「別にポーション2つぐらいいいよ。……さて、まずは北門に移動しよう」
「了解。道案内は任せるよ」
「任せて。……ちなみに、お兄ちゃん達の騎獣ってフェンリルだよね? どの程度のスピードで走れるの?」
「んー、サラブレッドよりも速いかな。本気になれば」
「それなら問題ないか。じゃあ北門にしゅっぱーつ」
ハルのパーティに便乗してボス巡りをすることになった俺達は、まず北門まで移動する。
北門を出た後は騎獣に乗って北を目指すわけだが……初見のエリアだからな、注意しないと。
―――――――――――――――――――――――――――――――
北門を出て余計なモンスターとのエンカウントを避けつつ森林地帯を抜け、火山エリアを駆け抜けること十数分、どうやらボスエリアまで到達したようだ。
「ここのボスは属性ワイバーンだけど、戦い方って知ってる?」
「いいや、流石にまだ調べてないな」
「私も知らないかな」
「まあ、わたし達もいるわけだし大丈夫だけど軽く説明するね。ワイバーンは基本的に飛び回ってるから、攻撃のために下りてきたところを迎撃するのが基本かな。HPはそこまで高くないし、翼を部位破壊できれば飛べなくなるから、まずは翼を破壊することかな。後は尻尾も部位破壊可能だけど、斬撃系の攻撃じゃないときれないからお兄ちゃんには無理だね」
「そうなるな。まあ、俺は翼を破壊することを優先するよ」
「それじゃあ、私は尻尾の切断かな?」
「尻尾はできたらで構わないよ。まあ、ドロップが増えるから破壊した方がおいしいんだけど」
「わかったよ。……それじゃあ準備OKかな」
「俺の方もいつでも行けるぞ」
「じゃあボスエリアに進入っと」
ボスエリアに入ると同時に影が差し、そちらの方を見上げると1匹のワイバーンが飛んでいた。
色は……茶褐色?
「うーん、カースワイバーンか……めんどくさいのを引いたね」
「そうなのか?」
「攻撃に呪いデバフが付いてるんだよ。まあ、その分倒したときの実入りはおいしいけど」
「なるほどなあ。……ちなみにもう攻撃できるのか?」
「可能だけど……お兄ちゃんのライフルでも届かないと思うよ?」
「まあ、撃つだけ撃ってみるさ。なんか届きそうな気もするし」
「セツちゃんのライフルだと届かなかったんだけどなぁ……」
試しに空中を飛び回るワイバーンに向けて黒牙を構える。
飛ぶ速度はそんなに早くないし、空中を一定速度で旋回して様子を窺っているようだから狙いをつけるのは楽だな。
あとは、多少の誤差が生じても大丈夫なように……
「テンペストショット!」
俺は可能な限りの最大射程でテンペストショットを撃ちこんでみる。
弾丸は狙い通りワイバーンの鼻先ではじけて、破壊の嵐を巻き起こす。
するとワイバーンはテンペストショットに吸い込まれて……テンペストショットの効果が終わると同時に墜落してきた。
40メートル以上はあったであろう高さから叩きつけられたワイバーンは、落下ダメージも加算されて既にHPの4割以上を失っていた。
ちなみに、そのダメージ内訳はテンペストショット1割、落下ダメージ3割強だ。
「……セツちゃんのライフルだと届かなかったんだけどなぁ」
「俺は射程延長のスキルを持ってるからな。そんな事より、地面に叩きつけられて気絶してるみたいだが?」
「……うん、そうだね。翼はもう破壊されちゃってるから、尻尾の切断をしてしまって、あとはサクッと倒そう」
その後は特に山場もなくワイバーンを倒してしまった。
ハル曰く『翼のHPは低いけどそれを破壊するまでがとても面倒』らしいのだが、それが開始すぐに終わったことで大幅な時間短縮になったらしい。
今まで恩恵を感じたことはなかったが【ホークアイ】に感謝だな。
〈エリアボス『ワイバーン』を初めて撃破しました。ボーナスSP6ポイントが与えられます〉
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ワイバーンを倒した後は氷河地帯へと突入し、氷鬼のところまで一気に駆け抜ける。
氷鬼との戦闘は特に見所も苦戦もなかったので割愛。
何度も倒して戦い慣れてるハル達と、攻撃力はレベル以上に高い俺とユキがいることで想定よりも早く倒せたとのこと。
嬉しかったのはボス撃破ボーナスのSPが8ポイントに増えた事だな。
氷鬼を倒した後は転移ポータルを登録して王都に一度戻ることに。
次は王都を西に向かい、アースドラゴンと雷獣の撃破だ。
〈エリアボス『氷鬼』を初めて撃破しました。ボーナスSP8ポイントが与えられます〉
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王都から西に向かって走ること20分強、アースドラゴンのボスエリア前に到着した。
「うーん、お兄ちゃん達がいると想定以上に楽だなー。遠距離攻撃力が高いからポーションの消費が少なくて済むし、何より攻撃力がレベル以上に高いし。ユキ姉の神楽舞のバフ・デバフ効果もすごい強力だし」
「……その分、タンクをやる私はターゲット維持が大変なんですけどね。トワさんにターゲットが向いた時は焦りましたよ」
「あー、済まない。想定以上にボスが柔らかくてダメージを稼ぎすぎてしまったな」
「いえ、その分早く倒せるので構わないのですが……もう少しヘイトを稼げるようにならないとダメかな?」
「んー、そこは大丈夫じゃない? お兄ちゃんのDPSが高いのはわかりきってた事だし。それよりも土ドラもサクッと倒しちゃおうよ」
「そうですね。そうしましょうか」
「了解。ちなみにここの注意点は?」
「HPが高くてタフ。防御力自体は低くて地味な攻撃しかないけど、たまに毒のブレスを使ってくるからそれだけは注意。あとは……時々、岩を飛ばす攻撃をしてくるけどそれの攻撃範囲が広いから、回避するときに大げさなぐらい移動した方がいいってところかな。岩飛ばしは物理攻撃扱いだから、お兄ちゃんが直撃すると痛いでしょ?」
「確かに。ちなみにターゲットは?」
「完全にランダム。だから、狙われたら大きく避けるしかない。まあ、予備動作も含めて動作は大きいから避けるのも楽だよ」
「わかった。それじゃあ、行くか」
「おっけー。始めるよー」
ボスエリアへと入り、アースドラゴンとご対面。
登場が土の中から飛び出してきたので、なかなか驚かされた。
ただ飛び出してきた穴はすぐに塞がり、少なくとも足下に気を使う必要はなさそうである。
アースドラゴン戦は『HPが高くてタフ』の言葉通り、ダメージ自体は多めに通ってるのにHPバーはなかなか減って行かないという地道な作業となった。
だが、HPが高いだけのボスでしかないようで、特に苦戦することなく勝利することができた。
これで残りは雷獣1体だけだな。
〈エリアボス『アースドラゴン』を初めて撃破しました。ボーナスSP6ポイントが与えられます〉
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最後のボス、雷獣を倒すため荒野エリアを西へと駆け抜ける。
普通に歩くとかなり辛そうな距離ではあるが……騎獣のある今なら、さほど苦労せずにボスエリアまで到達できた。
雷獣のボスエリア前には見知った人物がいた。
「おや、トワ君。君達も羅針盤を取りに来たのかな?」
「白狼さん。『君達も』ってことは白狼さん達もですか?」
「そうなるね。もっとも、今は生産職のメンバーのために魔核を狙って周回中だけど」
「魔核ですか? お兄ちゃん、どういうこと?」
「うん? ああ、説明してなかったな。生産職向けの『技の羅針盤』を入手するためのクエストが、今まで倒してきたボスの魔核を集めることだったんだよ」
「そうだったんだ。その様子だとお兄ちゃん達は既にクリア済み?」
「そうなるな。……魔核を売るつもりならこのタイミングかも知れないぞ?」
「うーん、魔核もたまってるし市場の様子を見て少し売りに出そうかな?」
「それがいい。人数が少ないからと思って自分達の羅針盤クエストついでにボス周回をすることにしたんだけど、いざ魔核が欲しいとなるとなかなかドロップしてくれなくて。……いやあ、物欲センサーって恐いね」
「あはは……白狼さん、なんならわたし達から買います?」
「いや、後1つで終わりだから大丈夫だよ。……その1個がなかなか遠いんだけどね」
「わかりました。これからわたし達もボス戦なので気が変わったら言ってください」
「ああ、その時はお願いするよ。それじゃ、僕達もボス戦に向かうから」
「はい、それではまた」
「お気をつけて」
白狼さん達がボスエリアに消えた後、俺達は雷獣戦に向けたミーティングだ。
「雷獣だけど、攻撃全てに魔法属性が付いてくるから注意してね。地味に面倒なのは感電だけど……」
「レジストショックポーションなら持ってるぞ? ★11だから100%回避できるし」
「それならサリーの分だけ欲しいかな。他はもし感電したらそのタイミングで回復すると言うことで」
「わかった。俺は感電無効の装備だから、誰かが感電したら回復させよう」
「お願いね。あと、雷獣は雷属性攻撃を吸収するから攻撃属性には気をつけてね」
「わかった。エアリルもいないし大丈夫だろう」
「……そう言えばエアリルちゃんは?」
「今日はログインしたときから見てないな。大方、どこかに遊びに出かけてるんだろう」
「妖精や精霊って結構気まぐれだからね。……さて、それじゃあボス戦を始めよう」
「そうだな。……これ、レジストショックポーションな」
「はい。ありがたく使わせてもらいます」
そして始まった雷獣戦。
雷獣は広範囲攻撃が多く、俺がヒーラーに回ることが多かったため時間がかかったが、それ以外は特に問題なくクリアできた。
HP自体は氷鬼よりも少ないが範囲攻撃が多い分、氷鬼よりもダメージを食らう機会が多かったのが時間がかかった原因かな。
なお、ボス戦後、結局魔核がドロップしなかった白狼さんにハルが魔核を売っていた。
ちなみに俺達のドロップはと言うと、俺がワイバーンの魔核、ユキが氷鬼とアースドラゴンの魔核をそれぞれドロップしている。
ボス巡りに同行させてもらったし、ハル達に渡そうかと思ったがそれは固辞された。
俺達としては別に魔核を必要としてないので渡してもよかったのだが、それは個人のドロップという事で各自の手元に残す、という事にしているようだ。
まあ、そう言うことなら手元に残しておくか。
〈エリアボス『雷獣』を初めて撃破しました。ボーナスSP8ポイントが与えられます〉
―――――――――――――――――――――――――――――――
「さて、これでクエスト完了だね」
雷獣まで倒し終わって再び王都の転移門広場に戻ってきた。
「ああ、俺達だけじゃ倒すのに手間取っただろうからな。助かった」
「ありがとうね、ハルちゃん。皆も」
「そこはお互い様ですよ。私達もヒーラーの柊抜きじゃ厳しかったですし」
「そうだね。という訳でここはお互い様という事でね」
「了解だ。それじゃあ、これで解散か?」
「そうだね。ああ、後で『ライブラリ』にポーション買いに行くけど在庫はあるよね?」
「普通に売ってる分ならあるが、俺から直接買うか?」
「んー、今回は一般品が欲しいんだよね。わたし達が使うためじゃないから」
「そうか。それならお店から買ってもらうよりないな」
「うん、そうする。自分達用はお兄ちゃんから直接買ってる分で足りてるしね」
「それじゃあ、今日はこれでお別れだな」
「そうだね。今週の土曜日のレイド討伐もよろしくね」
「ああ、こちらこそよろしく頼むぞ。それじゃあ、またな」
「またね、皆」
「またねー」
ハル達のパーティと別れ、俺とユキはそれぞれのギルドへと向かう。
ガンナーギルドでは問題なく『力の羅針盤』を受け取れた。
力の羅針盤を登録する際にアリシアさんが直接対応してくれたが、ガンナーギルドには登録できる受付嬢がいないらしい。
なお、力の羅針盤の使い方は技の羅針盤と一緒だった。
その後は、いつもの銃製造依頼をクリアして薬草を仕入れてクランホームに帰還。
クランホームに着いたら早速職業を切り替えてポーション作成などを行ってしまう。
その際に魔法錬金術士のレベルが4ほど上がったが、かなり職業レベルが上がりやすくなっているようだ。
手早くカンストしてくれるとありがたいんだけど……流石にそこまで楽ではないか。
ポーション作成などが終わったら、夕飯の支度があるため一旦ログアウトすることに。
さて、今日の夕飯は何にするか……
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