180.エピローグ 1 ~精霊のいる日常~

「たっだいまー! いやー楽しかった!」

「……堪能した」

「ああ、お帰りエアリル」

「シャイナちゃんもお帰りなさい」


 素材買取も終了して、全員が帰った後のクランホーム。

 俺達5人がまったりしてるとエアリルとシャイナが帰ってきたようだ。


「街の見学に行ってたんだよね? 楽しかった?」

「うん、楽しかった。見慣れないものがいっぱいあったし、人間も沢山いた」

「うんうん、楽しかったよねぇ。時々私達が姿を見せるとすごい驚いてたし!」

「……イタズラも構わないが程々にな?」

「わかってるって、その辺の加減は見誤らないよ?」


 本当にわかっているのか、怪しいものだ。

 まあとりあえずは、良しとしておこうか。

 さすがに、いつまでもはしゃいでいるわけじゃなかろうし。


「そう言えば、レイドボス素材ってどんなものが手に入ったんだ?」

「トワは詳細を確認してなかったのかしら?」

「ああ、とりあえず柚月達に任せておけばいいかと思って」

「あんたねぇ……まあ、いいわ。まず、私の素材からね。私用の素材は『封印鬼の皮』や『封印鬼の帷子かたびらの切れ端』ね。皮の方はハードレザー系の装備に、帷子の切れ端は布系素材になるわ」

「皮については氷鬼の件もあるしいいとして、帷子の切れ端って布系素材になるのか? 切れ端じゃたいした素材になりそうにないが……」

「あら、切れ端ってなってるけど結構な大きさよ? それに複数を縫い合わせることで『封印鬼の鎧布』って素材に変換されるわ」

「そんな事いつ試したんだ?」

「レイドエリアをでる前よ。切れ端が大量にでてたからね、試してみたら出来たのよ。素材特性はわからないけど、鎧布っていうぐらいだから、布素材としては物理防御が高くなるんじゃないかしら?」

「へぇ……それは面白いかもな。じゃあドワンは?」

「わしは『封印鬼の金棒の残骸』じゃな。鋳つぶして分解すればアダマンタイトやメテオライト、ダマスカスが手に入るらしいぞい」

「それはまた豪華な素材だな」

「うむ。これがあれば上位素材を使った装備もかなり作りやすくなるだろう」

「それはよかった。イリスは何かあったのか?」

「ボクの場合は『封印鬼の鎧の残骸』かな? あの鎧、木製だったみたいなんだよねー」

「鎧の残骸ね……さすがに残骸だと木材に出来ないんじゃないか?」

「そこはトワの出番だよー。集めて錬金術で合成すれば『封印鬼の木材』に変わるんだって」

「そう言うことか。それなら今度合成してみるか?」

「うん、お願いだよー」

「あと、ちなみにだけど、錬金素材というか調薬素材も手に入ったわ。神薬草よ。確か蘇生薬の素材よね?」

「ああ、蘇生薬の素材だな。蘇生薬はそれと高純度魔力水だけで出来るから、それがあれば蘇生薬が作れるな」

「そう、よかったわ。神薬草も買い取っておいたから後で使って頂戴」

「わかった。それで代金は?」

「換金アイテムの財宝があるでしょ? あれを換金した後、神薬草の代金を差し引いて渡すわ。さすがに2M程じゃないもの」

「……ちなみに単価いくらでいくつ買い取ったんだ?」

「単価2,500で合計30本よ。蘇生薬を作るのに神薬草っていくつ必要なのかしら?」

「1本で1つだな。蘇生薬の単価が5,000なのを考えればちょうどいい額か」

「のようね。少なくともあの2パーティは今後も売ってくれるそうよ。錬金術や調合のスキル上げにも役立つでしょ?」

「ああ、助かる。品質も上がってくれると助かるんだがな……」

「まあ、そこは個人の腕の見せ所でしょ? 私らだってこれから素材のクセを調べるために色々やらなきゃいけないんだから」

「そうじゃの。もっとも、【魔力操作】と【気力操作】が安定せんことにはこれらの素材をまともに扱える気はせんがな」

「まずはそっちの練習だよねー」


 とりあえずお互いに大変そうである。

 ちなみに、ユキはもうすでに【魔力操作】と【気力操作】に慣れ始めているらしく、後はスキルレベルが上がれば大丈夫そう、らしい。


「それで、そっちはどうするわけ?」

「そっちって?」

「聞いたわよ。フェアリーブレスを買い取ったんでしょう?」

「ああ、それか。そうだな、錬金アクセサリーを作る練習をしてから作ろうと思ってるけど……柚月、★10以上の錬金アクセサリーって売れると思うか?」

「……値段とステータス次第でしょうね。正直、比較対象になる通常のアクセサリーが市場に出回ってないから一概には言えないわ。作るなら特化型がいいでしょうね」

「やっぱりそうなるよな……まあ、その辺は後で市場を眺めながら考えてみるよ」

「そうするといいわ。なんなら受注生産してもいいわけだしね」

「それも1つの手か。面倒だけど参考にするよ」

「さすがにあなたはもう少し受注生産をしなさいな。ガンナーの需要をほぼ一手に引き受けてる状態なんだから、受注生産の強装備をもう少し世間に出してもいいと思うわよ?」

「うーん、まあ、デザインにこだわらないならいいか。デザインまでこだわるとかになったら手伝ってくれよ?」

「デザイン画を起こすぐらいなら手伝うわ。……さて、共有しておいた方がいい情報はこれくらいかしら。それじゃあ、私は今日のところは休ませてもらうわね」

「ボクも今日は落ちるよー」

「わしも落ちさせてもらうとしようかのう。さすがに疲れたわい」

「了解、皆、お疲れ様」

「お疲れ様でした、皆さん」

「お、皆帰るの? まったねー」

「また」

「ええ、それじゃあ、お疲れ様」

「また明日ねー」

「お疲れじゃわい」


 柚月達はそれぞれ談話室を出て行った。

 おそらくは自室でログアウトするのだろう。


「さってと、それじゃあトワのホームを案内してもらおうかな?」

「今日は俺も疲れているんだがなぁ……」

「まあ、少しぐらいは付き合ってよ。ほらほら、行くよー」

「はあ、仕方が無いか。ユキはどうする?」

「私はシャイナちゃんともう少しお話ししたら落ちることにするね」

「そうか、それじゃあ、これで今日は終わりだな。お疲れ様、ユキ」

「うん、お疲れ様、トワくん。また明日ね」


 俺はユキに別れを告げ、ひとまず談話室を出る。

 エアリルの好奇心を満たすため、俺は廊下を歩きながらエアリルに聞いてみる。


「それで、どこを案内してほしいんだ?」

「んー、どこでもいいよ? とりあえずホームの中を知りたかっただけだし」

「……それなら、工房と俺の自室を案内すればいいか」

「それで構わないよ。さあ、早く行こう!」

「わかってる。ちなみに、ここが俺の工房だが?」


 先に飛んでいこうとするエアリルに対して、俺は工房前の扉から声をかける。


「そう言うことは早く言ってよ。それじゃあ、工房を見学だ!」

「はいはい。……どうやら、オッドしかいないようだな」

「オッド? 誰それ?」

「ああ、俺の眷属のケットシーだ」

「へえ、そうなんだ。フェンリルがいるのは知ってたけど、ケットシーまでいるんだね」

「まあ、そうなるな。……オッド、調子はどうだ?」

「おや、ご主人様、お帰りですニャ。調子は上々ですニャ。……それで、そちらの方はどなたですかニャ?」

「ああ、これは……」

「トワの契約精霊のエアリルだよ! よろしくね、オッド君!」

「おや、精霊様でしたかニャ。さすがはご主人様、精霊とも契約出来たのですニャ」

「そうだな。結構苦労したけど、何とかなったよ」

「それはよかったですニャ。……それではエアリル様、ケットシーのオッドですニャ。よろしくですニャ」

「様付けなんていらないよ。これからトワと一緒にいるんだから疲れちゃうでしょ?」

「そうですかニャ? それではエアリルさんと呼ばせていただきますニャ。よろしくお願いしますにゃ」

「まだ堅いんだけど、仕方が無いか。よろしく、オッド君」


 とりあえず、眷属同士の仲は問題なさそうだ。

 後は……シリウスにも挨拶させておくか。


「召喚、シリウス。……知ってるとは思うが、俺のフェンリルのシリウスだ。こっちともよろしくな」

「うん、そうだね。よろしく、シリウス君」

「オン!」


 こっちも問題なさそうだな。

 じゃあ、とりあえずこっちはもういいか。


「そう言えば、トワって錬金もするんだっけ。それじゃ、はい、これあげる」

「うん、なんだ?」


 渡されたものを確認すると『妖精の粉』と出た。

 錬金術素材に混ぜ込むと品質が上がりやすくなるらしい。


「あげるかどうかはボクの気まぐれだけど、たまにはあげるよ。有効に使ってね」

「ああ、ありがたくもらっておくよ。それじゃあ、後は俺の自室だな。オッド、あまり無理をしない程度にな」

「ありがとうございますニャ。ご主人様もエアリルさんもシリウス様もまたですニャ」

「またねー」

「ウォン」


 俺はシリウスを召喚したまま、クランホーム3階の自室へと戻る。

 ログインするときぐらいしか使わない部屋なので、あるのは俺とユキのベッド、それから簡素なテーブルと椅子ぐらいである。


「なんというか殺風景な部屋だねー。もう少し飾り付けしようよ」

「ほっとけ。滅多に使わないからこれでいいんだよ」

「うーん、面白くないなぁ。まあ、トワがいいというのなら仕方が無いけど」


 立ったまま話を続けるのもあれなので、自分のベッドに腰掛ける。

 シリウスは俺の足下に寝そべり、エアリルは俺の横に座った。


「それで、いくつか聞きたいんだが」

「何々、聞くだけならタダだし聞いてみてよ。ああ、もうシステムAIじゃないから答えられる質問と答えられない質問があるけどね」

「……その事実の方が驚きだが。俺が行くまでずっと妖精郷で過ごしてたのか?」

「うん、そうだよ。……まあ、ずっと過ごしていたというのは語弊があるけど」

「うん? どういうことだ?」

「うーん、簡単に言うと冬眠に近い状態で寝たり起きたりを繰り返してたってところかな。ボク達契約精霊はその契約者が妖精郷に来るまで、そうやって過ごすしかないからね」

「そうか。それは悪い事をしたな」

「んー、気にしなくてもいいよ? そもそも妖精郷が開放されたのだって最近だし?」

「……そうなのか?」

「そうだよ。今頃、運営の人達は慌ててるだろうねー」


 やっぱり精霊というのはどこか普通の住人NPCとは感覚が違うらしい。

 この世界がゲームだと理解した上で俺達と向き合ってくる。


「まあ、クリアできたものは仕方が無いんだけどね。それで、他には聞きたいことがないの? 例えば『自由行動』のこととかさ」

「……そういえばそんな文言もあったな。あれってなんだ?」

「説明しよう! 自由行動とは、その名前の通り精霊が自分の判断で行動することなのさ! 普段、ボク達は召喚されていないときでも一緒に行動することになる。でも、セーフティエリア外では基本的に実体化していない。セーフティエリア外で召喚中以外に戦闘に手を貸したり、適当にその辺の採取ポイントからアイテムを集めてきたりするのが『自由行動』さ」

「なるほどな。……まあ、そんなに期待しないでいることにするよ」

「それがいい。召喚中以外に力を使うのは結構疲れるからね。あまり頻繁には力を貸せないんだ。もちろん、魔法共鳴増幅なんてもってのほかだ」

「……そういえば、魔法共鳴増幅も検証してみないとだな」

「そうだね。ぶっつけ本番は恐いだろうから、どこかで適当に試してみるといい。今回契約出来た4人のうちもっとも相性がいいのはトワのはずだからね」

「なるほど。じゃあそっちは期待させてもらおうか」

「ああ、期待してくれたまえよ。そっちはかなり強いはずだからね。ああ、出来れば【雷鳴魔術】はさらに上位の魔術に進化させてくれると嬉しいな」

「……まあ、そっちは時間がかかりそうだが。SPに余裕があるなら試してみるよ」

「そこはSPに余裕を作ってでも覚えてほしいところだけどね。ボクの真価はそこにあるんだから」

「はいはい、まあSPには余裕が出来そうだから前向きに考えておくよ」

「うむ、是非そうしてくれたまえ。……さて、それじゃあ、ボクはもう少し街の中を探索してこようかな。ホームポータルを使えばこの街以外も行けるし」

「……精霊もホームポータル使えるのか……」

「まあね。トワが行ける場所にならどこでも行けるよ?」

「そうか、だがイタズラは程々にな?」

「わかってるって。それじゃ、またねー」


 それだけ言い残すとエアリルの姿は消え去った。

 厄介事を引き起こさないといいんだが……


 ともかくこれで俺の仲間はもう1人増えることとなった。

 元風の精霊、現雷鳴の精霊エアリル。

 なんとも賑やかな精霊が仲間になったものである。


 なお、後日、魔法共鳴増幅を試してみたが、こちらはとんでもない威力となった。

 マギマグナムで魔法威力を増幅していたとは言え、とんでもない瞬間火力技を覚えてしまったなぁ……

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