179.レイド報酬の清算

「はあ、やっと帰ってこれたわね」

「お疲れ様じゃのう」

「おつかれさまー」

「皆さん、お疲れ様でした」


『ライブラリ』のクランホームに帰還して、皆が一息つく。

 まあ、なんだかんだでレイドクエスト開始からは3時間以上経っているものな。

 特にラストのボス戦は1時間以上も戦っていたわけで、生産職がやるような戦闘じゃない。


「お疲れのところ悪いけど、来週の予定を決めても構わないかな?」

「そうであるな。まずはそこから決めるのである」


 この場には、俺達『ライブラリ』メンバーの他に、ハルとリクのパーティ全員、それから教授と白狼さんがいる。

 他の『インデックス』や『白夜』のパーティメンバーはそれぞれのクランホームに引き上げていったようだ。


「そうね……どちらにしても開始時間は同じぐらいでしょ? ならそっちはトワに任せるわ」

「そうじゃの。人数が多くてはまとまるものもまとまらないじゃろう」

「という訳だからそっちは任せるねー」

「えっと、私も参加した方がいいかな?」

「あー、こっちは俺がやっておくから、皆は適当に休んでてくれ」


 とりあえず『ライブラリ』からの参加者は俺だけでいいだろう。

 それから、ハルやリク達も参加するのはリーダーであるハルとリクだけにしたようだ。

 残りのメンバーは柚月達のところで戦利品の査定を受けている。


「さて、それじゃあ来週の予定を決めようか。……とは言っても、柚月さんに言われた通り時間ぐらいしか決めることはないんだけどね」

「うむ、そうであるな。そして、時間も今日と同じぐらいがちょうどいいであろう。スキルが強力になった分、時間短縮が望めると言っても限度があるであろうからな」

「そうだよね。さすがに30分短縮できるとかはありえないよね」

「時間短縮できそうなのは、2回のボス戦だけだからな。さすがに10分程度ならともかく30分は無理だろ」

「そうだな……まあ、来週は妖精郷にも行かずに済むし、今日と同じ時間で大丈夫でしょう」

「うん、それじゃあ時間は決まりだ。……それで、トワ君に相談なんだけど、例のカラーポーションの在庫をもう少し取っておいてくれないだろうか?」

「うん? 構いませんけど、そんなに使いますか?」

「あー、これは個人的、というかクランとしてのお願いなんだけど、他のレイドクエスト攻略にもカラーポーションを使いたくてね。買取はするから取り置きしてもらいたいんだ」

「そう言うことなら、同盟の販売リストにでも追加しておきますよ。値段は後で柚月と相談して決めておきます。ただし、まだまだ練習中ですから品質は安定しないと思ってくださいね?」

「そこは承知してるから大丈夫。……ちなみに、他の皆はカラーポーションを必要としていないのかな?」

「『インデックスわれわれ』は大丈夫である。性能さえわかれば構わないのである。それに検証するにも実物を作れるのがトワ君しかいない以上、検証にならないのであるよ」

「わたし達もそこまで必要じゃないですね。普通のミドルポーションやハイポーションで何とかなります」

「俺達も一緒だな。わざわざカラーポーションに頼る場面はなさそうだ」

「じゃあ、しばらくは『白夜』に専売で卸すという方針で。他には何かありますか?」

「……正直、あまり思いつかないのであるなぁ。今回の攻略でボスの行動パターンも大体読めてしまったのであるからして」

「レイドボスとしては簡単な部類だね。……繭を破壊されると単純な分、手に負えなくなるけど」

「うーん、あまり全体で決めなきゃいけない事ってないですよね?」

「事前に決めることか……そうだ、繭を破壊された場合のコレの配分を決めておかないか?」


 リクが取り出したのはフェアリーブレス。

 確かに同じメンバーが挑むなら、繭の数だけフェアリーブレスがもらえる事になるな。


「配分であるか。……単純にパーティ別で守り切ったときの繭の数を、各パーティにでいい気がするのである」

「そうだね。まずはその方法で配分することにして、全員が揃った後に万が一繭を破壊されたら……そのときは全パーティに均等に配分した上で、ダイスロールを行ってあまりの分配を決めようか」

「まあ、それが無難でしょうね」

「わたしもそれで構わないですよ」

「それじゃあ決まりだな」

「その他に議題はあるのであるか?」

「……僕からは特にないかな?」

「俺からもないな」

「わたしからもないですよ」

「……じゃあ、これで解散か。皆、お疲れさま」

「うん、お疲れ様。それじゃあ、僕はこれで失礼するよ」

「はい。お疲れ様でした、白狼さん」


 白狼さんは席を立ち、ホームポータルから帰還していった。


「教授はまだ何か用事があるのか?」

「うむ。まずは妖精……ではないな。精霊のステータスを見せてもらいたいのであるよ」

「ステータスか……そう言えば、まだ俺も確認してなかったな」

「隠す必要がなければ教えてもらいたいのである。自分で育てても同じ結果になるであろうがな」

「うーん、とりあえず見てみて問題なさそうなら見せるよ」


 まずは自分で確認しないとな。

 というわけで、エアリルのステータスを確認と……


 ――――――――――――――――――――――――

 名前:エアリル 種族:雷鳴の中級精霊 種族Lv.1

 HP:546/546 MP:791/791 ST:191/191

 STR: 0 VIT: 23 DEX:108

 AGI:116 INT:145 MND:140

 スキル

 攻撃:

 なし

 魔法:

【風魔法Ⅵ】【雷魔法Ⅱ】

 補助:

【魔法攻撃上昇Ⅳ】【魔法防御上昇Ⅳ】

【詠唱速度上昇Ⅳ】

 特殊:

【ST-HP変換回復】【ST-MP変換回復】【魔法共鳴増幅・雷鳴】

 ――――――――――――――――――――――――


 ……いきなり、かなりステータスが高かった。

 そして、見慣れない特殊スキルがあった。

 詳細を確認すると【ST-HP変換回復】はSTを消費してHPを回復するというものらしい。

【ST-MP変換回復】はHPがMPに置き換わっただけだな。

 問題は最後の【魔法共鳴増幅・雷鳴】と言うものだ。

 効果としては『主人の雷属性の魔法攻撃スキルを増幅して放つ。増幅時にMPを消費する』とだけ書かれている。

 ……これは本人に聞いた方がいいな。


「送還、シリウス。召喚、エアリル」


 妖精郷から戻って来たときにはエアリルは姿を消していた。

 これは他の精霊達も一緒だったので、単純に召喚状態が解かれたためだろう。

 なので、召喚状態のままだったシリウスを送還して、エアリルを召喚する。


「ん~? トワ、何かあった?」

「ああ、お前さんのスキルについて聞きたいんだけど」

「ボクのスキルねぇ……変換系スキルはSTを2消費してHPかMPを1回復するスキルだよ」

「そっちじゃなく、【魔法共鳴増幅・雷鳴】だよ」

「そっちはスキルの説明通りなんだけどなぁ……ここじゃ試せないし、どこかで実践してみないとね。説明するより見てもらった方が早いし?」

「……それなら、今度試させてもらうよ」

「用事はそれだけ? なら一度送還してほしいな。他の皆と人間の街を見学してたんだから」

「……意外とアグレッシブだな?」

「だって、ずっと妖精郷に引きこもってた訳だし? やっぱり人間の街って気になるじゃない」

「……わかった、送還するから好きなだけ見てこい」

「やったね! さすがトワ、話がわかる!」


 俺はエアリルを送還した。

 ……なんだろうな、これだけで少し疲れたぞ?


「ふむ、その様子で行くと謎のスキルがあったようであるな」

「ああ。……まあ、見られても構わないか。ほら、これがエアリルのステータスだ」


 俺はステータスウィンドウを他のプレイヤーにも見える状態にして教授に示す。


「……ふむ、これはまた極端であるな。ヘルプにも『魔法専門』と書かれてはいたのであるがここまでとは」

「へー、エアリルのステータスってこんな感じなんだ。アグニよりもDEXとAGIが高いね。その分、INTは低いみたいだけど」

「ジーアに比べるとMNDとVITがかなり低いな。その分、他のステータスはジーアの方が劣ってるが」


 ハルとリクも自分達の精霊のステータスウィンドウを見せてくれるが、確かに本人達の申告した通りのステータスだった。

 ステータスから判断するに、アグニは一発の攻撃力特化、ジーアは魔法防御能力に優れていると言ったところか。


「なるほど、既にこの程度はステータス差があるのであるな。参考になったのである」

「それは何より。それで、他にも用事があるのか?」

「うむ、これはトワ君だけでなくハル君やリク君、ついでに言えばユキ君にもお願いなのであるが、フェアリーブレスを1つ売ってほしいのである。アクセサリーにつけた場合のステータス上昇を調べたいのであるよ」

「そうは言われてもな……おーい、柚月。ちょっと相談があるんだけど」


 離れた場所で封印鬼素材の買取をしていた柚月に声をかけることにした。

 理由は簡単で、フェアリーブレスにいくらの値段をつけるかが自分では決められなかったからだ。

 こういうときは柚月に頼んだ方がいい、と言うのがこれまでの経験則だ。


「どうかしたのトワ? 私はあっちで買取に忙しいんだけど」

「教授がフェアリーブレスを買いたいそうなんだが、いくらで売ればいいと思う?」

「……そうね、正直、値段のつけようがないわね。効果もわからないし、品質16とか聞いたことがないし」

「……だってさ。どうするよ教授? 来週もクリアできればそのときに手に入る訳だぞ?」

「ううむ……仕方がないのである。今週は諦めるのである」

「それがいいんじゃない? どうせ私達ぐらいしか手に入れられないアイテムな訳だし。それじゃあ、私は戻るわ」

「ああ、ありがと、柚月」


 柚月は買取をやっている机へと戻って行った。


「ふむ、フェアリーブレスは残念であるが、来週に期待であるな。それでは私もこれで失礼するのである」

「ああ、お疲れ様、教授」

「うむ、失礼するのであるよ」


 教授もホームポータルから帰っていった。

 後は柚月達の素材買取が終われば、とりあえず解散だろう。


「さて、教授からの申し出は断った訳だけど。お兄ちゃん、フェアリーブレス買わない?」

「ああ、そうだな。もしよければ買い取ってくれないか?」

「……ずいぶんと変わり身が早いな。何か理由でも?」

「だって、お兄ちゃんならアクセサリーを作れるわけじゃない? それなら、お兄ちゃんに売ってもいいかなって」

「そうだな。それにお前に売って効果がわかれば自分の分を作ってもらうかどうかの指標になるしな」

「……わかったよ、ただ値段は適当になるぞ」

「構わないよ。と言うか2Mもあればいいよ?」

「そうだな。それぐらいで構わないな」

「……なら、即金で支払うが。安すぎないか?」

「そこは身内価格と言うことで。その代わり、作ったアクセサリーの性能は教えてね?」

「だな。性能は俺達も知りたいからな」

「わかったよ。それじゃあ作ったら教えるよ」

「うん? すぐには作らないの?」

「まだ錬金アクセサリーを作るのは慣れてないからな。もう少し慣れてから作成だ」


 これは半分事実である。

 本当は、【魔力操作】と【気力操作】に慣れていないだけであるが……似たようなものだろう。


「まあいいか。それじゃあ、それでよろしく」

「それじゃ、作ったら教えてくれよな」

「ああ、わかったよ」


 それぞれに2Mずつ渡してフェアリーブレスを受け取る。

 これで俺の手元には3つのフェアリーブレスがあるわけで……アクセサリーにするにはちょうどいい数だ。

 ……明日からはアクセサリー作りの練習もするか。


「それじゃあ、私達も素材買取の様子を見てくるね」

「そうだな。買取額で返済できる借金の量も決まるわけだしな」

「ああ、それじゃあ2人ともお疲れ様だ」


 素材買取の輪に加わる2人を見送って、俺は近くの椅子に座る。

 なんだかんだで俺も色々疲れたな……


「トワくん、お疲れ様」

「ああ、ユキか。お疲れ。……ユキはあっちに加わる理由ないものな」

「うん。食材の類いはなかったし、欲しいものもなかったからね」

「そうか。……そう言えば、ユキはフェアリーブレスをどうするつもりだ?」

「えっと、トワくんが使うなら譲るよ?」

「んー、ハルとリクから買い取ったから必要はないかな」

「それなら、私が自分用のアクセサリー作るときまで取っておくよ。……きっと来週だけじゃないよね、レイドクエストを周回するのって」

「白狼さんの様子だと数週間は回りそうだな。後は、俺達が参加するかどうかだが……」

「あの様子ならしばらくは参加だよね?」

「そうだな。参加だろうな」


 素材買取の輪はなかなかに盛り上がっている。

 柚月達も相応の値段を提示しているのだろう。

 ハルやリクのパーティも、装備の更新代は借金扱いになっているので高く買い取ってもらえる分には嬉しいのだろう。


「とりあえず、お疲れ様でした、トワくん」

「ああ、お疲れ様、ユキ」


 素材買取の方も終了となったようで、全員ホクホク顔だ。

 来週以降も似たような光景が広げられるのだろう、そんな事を考えひとまずの休息を堪能するのだった。



**********




~あとがきのあとがき~



これにて第5章本編は終了、残りはエピローグとなります。

……とは言ってもエピローグも長くなる訳なのですが。


おかしいな、第4章と分割したはずなのに第3章並みに長くなったぞ……

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