Unlimited World ～生産職の戦いは9割が準備です～

178.精霊達の進化

　さて、手に入ったものを整理していくか。

　まずは風の下級精霊エアリル。

　これは、精霊を眷属にするイベントだったんだから問題ないよな。

　次はワールド単位の初精霊入手ボーナス称号【精霊の導き手】だ。

　これは他の『導き手』称号と一緒で成長速度が上昇するというもの。

　つまりは経験値が貯まりやすくレベルアップが早くなると言う代物だな。

　ただ気になるのは……

「あの、妖精女王。【妖精の導き手】と【精霊の導き手】の差は何？」

「何もありませんよ？　あえて言うなら、眷属が『妖精』の時は【妖精の導き手】、眷属が『精霊』へと昇華すれば称号も【精霊の導き手】に自然と変わります。単なるゲーム的な都合ですね」

「なるほど。わかりました」

　まあ、差はないと管理AIが言っているんだし、実際に差はないのだろう。

　次はいつものワールドアナウンス。

　まあ、精霊を手に入れたんだからしょうがないよな。

　そして最後のシステムメッセージだが……これはどういうことだ？

「あの、妖精女王さん。私のシャイナちゃんが既に進化可能ってなってますけど……」

「ユキ姉もか。俺のジーアも進化可能だ」

「アグニもだよ？　お兄ちゃんは？」

「俺のエアリルも進化可能だな」

　どうやら4人とも始めから進化可能だったらしい。

「ああ、その件ですか。皆様と精霊は、皆様がこの世界に降り立ったときから絆が紡がれていました。そのため、皆様の経験値の一部が精霊へと流れ込み続けており、今では進化可能なレベルに達していると言うことですね」

「……ここで眷属契約をするまで何もしていないのに、いきなり進化させていいんですか？」

「ええ、構いません。といますか、他にチュートリアルで加護を受けた者達の契約精霊にも経験値はたまってきております。この妖精郷を訪れる頃には、他の精霊達も進化可能になっていますよ。妖精から育てるプレイヤーに比べればかなりのアドバンテージになりますが、そこは時間で解決する問題ですので管理AIとしては問題ないと考えております」

「……そうですか。わかりました」

　これは何を言っても無駄な奴だろう。

　実際、俺としては得しかしていないわけだし、そう言うものだと割り切ってしまうか。

「ふむ、その精霊達はもう進化できるのであるな？」

「うん、そうらしい。それがどうかしたのか？」

「今、精霊のヘルプを読んでいたのである。精霊の一段階目の進化は今後の進化先へも影響を及ぼすものらしいのである」

「へえ、そうなのか」

「そうなのだよ！」

　エアリルが俺と教授の間に割り込んでくる。

「うわっ！？」

「これは元気な精霊であるな」

「精霊になってからの第一段階の進化は、今後なんの精霊として成長するかを決める大事な要素だから慎重に決めてね！」

「……そう言う事って精霊側から教えても問題ないのか？」

「うーん、平気かな？　ほらボクらって元々はシステムAIだった訳じゃない？　眷属契約するとサポートAIに格下げされるんだけど、それでもプレイヤーの疑問にはある程度答える裁量を与えられているよ！」

「ふむ、それは妖精も同じであるか？」

「うーん、同じとも言えるし違うとも言えるし……ボクからじゃ説明出来ない内容なんだよね。って訳でティターニア様、説明お願いします！」

「はい、任されました。妖精ですが、妖精のうちはまだまだ未熟なためコミュニケーションを取る事が難しいです。わかりやすく言ってしまうと質問の内容が上手く理解できないため、回答もあやふやなものになってしまいますね。精霊に昇華した後は、エアリル達並みの回答を返してくれますが」

「ふむ、連れ歩けるヘルプAIと考えてよいのであるな？」

「そうなりますね。ただ、眷属にも好感度が設定されておりますので、好感度が低いと答えてくれないかも知れません。精霊にしろ妖精にしろ気まぐれな存在ですので」

「わかったのである。して、第一段階での進化が今後に与える影響とは一体何であるのかな？」

「それは実際にやってもらった方が早いでしょう。トワさんお願いしますね」

「……いや、構いませんが……」

「それじゃ早く進化先を選ぼう！」

　エアリルにまで急かされ、まずはエアリルのステータスを開く。

「ふーん、下級精霊はレベル20がカンストか」

「うん、そうだよ？　だからこそ、ここに来るまでのわずかな経験値量だけでもカンストしてしまうんだけどね」

「なるほどなあ。……それで進化先はっと」

『進化可能』アイコンをタップして進化先一覧を表示させるそこには以下の内容が表示されていた。

　―――――――――――――――――――――――

　嵐の中級精霊

　　風の下級精霊の正統進化

　　より強力な風属性の魔法を覚える

　雷鳴の中級精霊

　　風の下級精霊の派生進化

　　風属性の魔法はこれ以上覚えないが

　　雷鳴属性の魔法を覚えるようになる

　氷雪の中級精霊

　　風の下級精霊の派生進化

　　風属性の魔法はこれ以上覚えないが

　　氷雪属性の魔法を覚えるようになる

　―――――――――――――――――――――――

「あら、嵐に雷、氷もですか。全ての派生先がでていますね。おめでとうございます」

　妖精女王から祝福の言葉が贈られてきた。

　でも、なんだってまた、派生先が全部出てきたんだ？

「……ふむ、これが全てなのであるか？　派生先が増える条件は何であるかな？」

「少々お待ちください……ああ、答えてはいけない質問らしいです。そこは皆様で解き明かしてくださいね」

「ふむ、残念なのである。それで、トワ君、なにか気がついたかね？」

「そう言われてもな……他の皆はどうなんだ？」

　残りの3人の方を見てみると、それぞれ進化先を選んでいるようだった。

「トワくん、私はシャイナちゃんの進化先を『光輝の中級精霊』か『神聖の中級精霊』のどちらかから選ぶみたいなんだけど……」

「わたしは、『炎の中級精霊』、『溶岩の中級精霊』、『雷鳴の中級精霊』の3つだね」

「俺は『大地の中級精霊』しか選べねーな。この差は何だ？」

　ふむ……まあ、何となくだが想像はついたな。

「おそらく契約相手である俺達の魔法スキル習得状態によるものだろう。俺は『風』の上位である『嵐』に複合属性の『雷鳴』と『氷雪』の2つも覚えている。ユキは『光』から回復魔法との統合進化で『神聖』を覚えてる。ハルは……魔法剣士だしほとんどの属性を覚えてるだろ？」

「うん、基本四属性系統とその派生は全て覚えてるよ」

「つまりはそう言うことなんじゃないかな。リクは魔法スキル何を覚えてる？」

「あー、俺は回復と土しか覚えてねーや。つまり、進化先を増やしたければ複合属性も覚えろって話か」

「その可能性が高いだろうな。……どうです、妖精女王？」

「残念ですが、肯定も否定も出来ませんね。上位者より回答禁止と言われてますので」

「……まあ、それが答えのような気がするのであるな。リク君、サンプルとして他の属性を覚えてみる気はないのであるか？」

「わりーけど、新しい属性を覚えて複合属性を覚えてってするほどSPに余裕はないや。諦めてくれ」

「……仕方がないのである。『インデックス』の中で検証出来ないかどうか調べるのである」

「あら、それなら私が協力できるわよ？　私、『火妖精の加護』をもらったから火の妖精みたいだけど、風属性を育ててないから【雷鳴魔術】は覚えてないのよね。私の妖精が精霊になって、さらに進化するとき『炎』と『溶岩』だけだったら、主人の属性魔法習得状態っていう仮説は証明されるんじゃないかしら？」

「……ふむ、では柚月君に協力を頼むのであるか。出来れば今のうちに【風魔法】も覚えて【嵐魔術】を覚えられるようになっていてくれるともっと助かるのであるが」

「まあ、そこは出来たらやっておくわ。あまり期待しないでね？」

「うむ、そうするのである。……それで、トワくんはどの中級精霊に進化させるのであるか？」

「そうだな……エアリル、それぞれの進化先の説明ってお願いできるか？」

「いいよー。まずは『嵐の中級精霊』ね。これは単純に今の状態のまま上位進化って感じかな？　属性強化とかも変わらないよ。次に『雷鳴の中級精霊』だけど、まず祝福の効果による属性効果上昇と属性耐性が雷属性に置き換わる。それから複合元の火属性と風属性の効果上昇と属性耐性が少しだけど追加される。そして今は祝福でAGI上昇効果が付いてると思うけど、これがAGIとINTの2つの効果上昇に置き換わる。その代わり、上昇量は減るけどね。『氷雪の中級精霊』は雷鳴の中級精霊の雷属性だった部分が氷属性に変わるだけかな」

「なるほどな。得意属性が変わるのか……それで、エアリルのオススメはなんだ？」

「えー、それぐらい自分で考えようよー……と言いたいところだけど、相談してくれるのは高評価かな？　個人的には『雷鳴の中級精霊』がオススメだよ。トワって雷属性特化でしょ？　なら突き抜けてしまおうよ！」

「……それもそうだな。ちなみに、さらに上の精霊に進化はできないのか？」

「うーん、中級精霊になった後にある程度以上の経験を積めば上位精霊になれるけど……その時に属性変化を出来る事は極めて稀だよ？　ボクは多分出来ないと思うし気にしない方がいいんじゃないかな？」

「……そうか、なら『雷鳴の中級精霊』で決まりだな」

「オッケー！　じゃあ、早速やっちゃってよ！！」

　俺はステータス画面から『雷鳴の中級精霊』を選択、確認のメッセージが出たため『確認』ボタンを押して決定した。

〈風の下級精霊エアリルが雷鳴の中級精霊に進化します〉

「おお、力がみなぎってくる！！」

　目の前にいたエアリルの体が輝きだし、光の玉に変化する。

　やがて、光の玉が放電し始め、だんだん収束していく。

　そして残されたのは緑色だった髪が紫色に変化し、髪の長さもショートカットからロングヘアーに変化したエアリルだった。

〈エアリルの進化が完了しました。属性変更に伴い【風精霊の祝福】は【雷精霊の祝福】に変化します〉

〈祝福の変化に伴い、効果が書き換わります。【AGI上昇効果・中】【風属性効果上昇・中】【風属性耐性・中】を失い、【AGI上昇効果・小】【INT上昇効果・小】【雷属性効果上昇・中】【風属性効果上昇・微】【火属性効果上昇・微】【雷属性耐性・中】【風属性耐性・微】【火属性耐性・微】を取得します〉

　……どうやら俺のステータスも色々と書き換わったようだ。

「おお、髪の長さや色が変わってる！？　服装は……変化なしか、ちょっと残念」

「まあ、そんなものなんじゃないか。……他の皆も進化先を決めたようだな」

　ユキの精霊、シャイナは金髪だった髪がプラチナブロンドに変化していた。

　ハルの精霊、アグニは……髪が燃えさかる炎のようになっているな。

　リクの精霊、ジーアはというと、見た目はあまり変わっていないが……少し大きくなったかな？

「皆は何を選んだんだ？」

「私は『神聖の中級精霊』を選びました。シャイナちゃんのお薦めらしいので」

「わたしは『炎の中級精霊』だよ。『雷鳴の中級精霊』にしようとしたら『エアリルの奴はこれを選ぶはずだ。故に他のものを所望する』とか言われちゃったからねー。まあ、得意属性の火属性がさらに強くなるみたいだし結果オーライかな？」

「俺は最初から選択肢が1つしかなかったからな。ジーアにも確認したが、無理に別の属性を入れなくてもいいそうだ」

　さて、これで進化も終わった事だし他に何かあるのかな？

「さて、皆様の精霊進化も見届けましたし、私はこれで失礼させていただきます。この先も、私の仲間である妖精や精霊をよろしくお願いしますね」

「ええ、わかりました。色々とありがとうございました」

「いえ、こちらこそ直接異邦人（プレイヤー）とふれあえる数少ないイベントですからね。色々貴重な経験をさせていただきました。受けた質問はこの先に訪れる異邦人（プレイヤー）向けのサポートAIにフィードバックさせていただきますね」

「……まあ、教授から受けた質問をフィードバックするのは程々の方がいいと思いますが……それでは」

「ええ、またいずれ何かの機会にあう事もあるでしょう。おかえりの際は、あちらにある門からお帰りください。転移ポータルになっていますので、好きな場所に戻ることが可能です。それでは失礼いたします」

「またねー、ティターニア様！」

「……また」

「いずれまた会おう！」

「案内役お疲れ様でした」

　妖精女王の体が光に包まれると、そのまま光の中へと消えていった。

　これで、イベントは本当に終わりなのだろう。

「……さて、帰るとしますか」

「そうだね。そうしよう」

「うむ、撤収であるな」

「それじゃあ、僕は『ライブラリ』に寄っていっていいかな？　来週のレイドクエストの予定について少し話しておきたいから」

「ふむ、ならば私も同席するのである」

「あ、わたし達も『ライブラリ』に寄っていってもいい？　素材とか買い取ってほしいから」

「ああ、俺達もそうだな。構わないか？」

「むしろ、素材の買取はこちらからお願いしたいくらいね。構わないわよね、トワ？」

「ああ、それじゃあ、引き上げようか」

　こうして俺達の初のレイドクエストクリアは幕を閉じたのであった。

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～あとがきのあとがき～

これでレイドアタックも終了です。

ネタが大分たまっている掲示板ですが、エピローグ終了後にまとめて公開します。

エピローグの間にもネタが増えるため、エピローグ終了後でないとテンポが悪くなってしまいますからね。