177.契約精霊

本編のみの計算で171話ぶりにあのものが登場!


**********


「契約精霊、ですか?」


 隣でユキがキョトンとしながら聞き返す。

 その問いかけはここにいる全員の疑問と一緒だろう。


「ええ、契約精霊ですね。……身に覚えがありませんか?」

「えっと……ゴメンナサイ、わからないです」

「そうですか。では、ハルさんはいかがです?」

「わたしもわからないかな?」

「ではリクさんは?」

「俺も!? ……いや、身に覚えはないな」


 ……ここまでの共通項目は『先ほど妖精の加護がもらえなかった』者だ。

 それはつまり『既に精霊の加護をもらっている』者の事で……


 あ、ひょっとして。


「では最後にトワさん、あなたはいかがですか?」

「……祝福をくれたあの精霊ですか?」

「ウフフ、正解です。よく出来ました」


 朗らかな笑顔を浮かべながら、パチパチと拍手をする妖精女王。

 ……つまり、これから行く場所はあの精霊のところと言うことか。

 確か名前は……


「エアリル、だったか」

「あ、そっかシャイナちゃんだ!」

「おー、アグニの事か」

「えーと、俺の場合は……ジーアだったっけ?」


 どうやら皆もなんの事を話しているかわかったらしい。

 もっとも、俺達の他の皆はなんの事を話しているのかわからないだろうが。


「そう、あなた方のチュートリアルを担当した精霊サポートAIが契約精霊ですよ。皆様が忘れていなくてよかったです」

「……ふむ、これは昔聞いた精霊の祝福についての話の続きであるかな?」

「ああ、そう言えば教授には話をしてたっけ。そう、俺のチュートリアルを担当したサポートAIが契約精霊らしいな」

「なるほど。トワ君達はチュートリアルで精霊から加護や祝福をもらっていたのであるな。妖精が精霊の進化前の姿であるならば、妖精の加護がもらえなくとも不思議はないのである」

「そんな事があったんだね。……正直、チュートリアルのサポートAIが精霊だったなんて思わなかったよ」

「この件はトワ君に口止めされていたのである。それから、我々のクランで何人か試しはしたのであるが、誰も加護をもらう事は出来なかったのである。それ故、未確定情報としてお蔵入りにした情報であるな」

「確かに口止めを頼んでいたっけ。……妖精女王、なんでサポートAIは口止めしてきたんですか?」

「そうですね、もう話してしまっても大丈夫か確認してみます…………確認が取れました。この情報を拡散しないのであれば公開可能だそうです。お話ししますか?」

「教授?」

「わかっているのである。もう録画は止めたのである。他の皆も今回の件は秘匿であるぞ?」

「わかりました」

「はいよ」

「了解です」

「せっかくの特ダネなんですがねぇ……仕方が無いですか」

「管理AI直々の依頼ですからね。拡散しようとしても止められるでしょうな」

「……という訳で、我々は聞く準備が出来たのである」

「わかった。他の皆も構わないな?」


『インデックス』以外のメンバーも異口同音に情報の秘匿について了承してくれた。

 やっぱり、他人には話せないとしても答えがあるなら聞きたいよな。


「確認は取れました。お願いします」

「はい、わかりました。まず、チュートリアルの担当ですが、皆様が最初にログインした時点で決定されています」

「うん? それってキャラクリの時って事?」


 柚月がそんな疑問を口にする。

 だが、妖精女王の答えはそのさらに先を行っていた。


「わかりやすく言ってしまえば、そのさらに前ですね。皆様のユーザーIDおよびアプリケーションコードに紐付いて決定しています」

「……まさかキャラクリ前から決定しているとはねぇ……」

「まあ、正確に形をなすのは皆様の初ログイン時、つまりチュートリアル開始直前ですが。ともかく、皆様それぞれの担当は姿形は異なれど同じユーザーには同じ精霊が担当していた事になります」

「……つまり、我々一人一人に対して一人のサポートAIが作られていたという訳であるか」

「はい、そうなりますね。現在のユーザー数は10万を超えています。その全てのユーザーに対して個別にサポートAIが用意されているのです。なかなかすごい話でしょう?」

「すごいというか、壮大過ぎて想像できませんね……」

「そうだね。それだけの容量を誇るシステムだとは思わなかったよ」

「あら、それは心外ですね? まあ、最初に用意されたサポートAIのうち現在も稼働状態にあるAI、つまり精霊は0.1%未満ですけど」

「うん、それはどういう意味であるか?」

「皆様のチュートリアルが終わり、契約に至れなかった精霊は初期化され休眠状態となります。これについても許可が出ているのでお話ししますが、今回皆様が手に入れた妖精が初期化済みのサポートAIという事になりますね」

「……つまり、サポートAI自体は初期化されても我々と紐付いたままという事なのであるな?」

「そうなります。ある意味で妖精は全てのユーザーに対して与えられる最初の眷属、と言う言い方も出来ますね」

「……いやはや、本当に爆弾発言が飛び出してくるのであるな」

「はい、なのでこのことにつきましては外部に漏らさないようお願いいたします」

「わかっているのである。もっとも、他者に話したところで信じてもらえるような内容ではないであるがな……」

「そうだね。さすがにユーザーデータが作られた時点から眷属データも紐付いているなんて誰も信じないだろうね」

「ご理解いただければ幸いです。それでは話を戻します。チュートリアル時に晴れて加護や祝福を受け取ることが出来た場合、この妖精郷にて精霊サポートAIはその契約者を待つこととなります。ここまではよろしいでしょうか?」

「はい、さすがに話の大きさに驚いてはいますが理解はしました」

「それでは続きを。もし万が一、皆様がアバターデータを消去したとしてもサポートAIの情報は残ります。そのため、再作成したアバターが会うことになるのは同じサポートAIという事になりますね」

「ふむ、それで?」

「皆様には別の姿で会うこととなるかも知れませんが、サポートAIのデータとしては皆様と会うのは初めてではないことになります。そのため再作成したアバターで加護をもらおうとしても、サポートAIは過去のデータを参照いたしますので加護を与える条件を満たせないことになりますね」

「つまり、加護や祝福をもらうには一発勝負しかないと?」

「そう言うことになります。もちろん、皆様のように封印鬼を倒していただければ妖精を入手出来ますし、妖精を育てればやがて精霊へと至ります。そのときに【妖精の加護】は【精霊の加護】に上書きされます。なので、チュートリアルで手に入れることが出来なくても後から入手可能となります」

「……つまりあくまでも先行入手でしかないと?」

「そう言うことでしょうか。……ああ、『加護』を『祝福』に変える方法は教えられませんよ? さすがにそこまで教えてしまってはゲームの楽しみを奪ってしまいますからね」

「……そこまでは求めないのである。ともかく、キャラデリによる周回プレイでは加護の入手が出来ない事がわかれば十分である」

「そうですか。それで、加護を与えることが出来た精霊達は、契約精霊としてここで皆様を待つことになります」

「……という事は、俺達は最初から精霊の状態で眷属を入手出来ると?」

「それだけではありませんが、そう言うことになりますね。最初の時点でサポートAIの信頼を勝ち取れたプレイヤーに対するご褒美、とでも申しましょうか。……この先の話については本人達から聞いた方が早いでしょう。それではこちらにどうぞ」


 話したいことは話し終えたのか、俺達を先導するように歩き始める妖精女王。

 俺達はその後をついていくことにした。


「ちなみに、今どれくらいのプレイヤーが加護を受けているのかを聞いてもいいのであるか?」

「少々お待ちを……概数だけなら教えても構わないそうです。今現在の加護持ちプレイヤーは皆様を除いて60名あまりですね」

「……それは……ずいぶんと少ないのであるな」

「はい、少ないです。むしろ初日の時点で4名も加護を、それもそのうち2人は祝福を手に入れるというのは運営の予想外だったようですよ? チュートリアルログを何度も見直していたそうですから」

「……それはどこ情報であるかな?」

「私の上位にあたる管理AIからの情報です。かなりの高難易度に設定していたチュートリアルでの加護取得を4名も突破されて戦々恐々としていたらしいですよ?」

「……それは俺達の知った事じゃないなぁ……」


 さすがにそこまで責任を取ることは出来ない。

 祝福をもらえたものはもらえたんだから、俺の責任じゃない。


「あと、他の加護持ちが来た場合でも妖精女王が対応するのであるかな?」

「その予定ですね。私の数少ないお仕事の1つです。……ああ、他の皆様にもこのような情報を開示するかはわかりませんが」

「……ここまでベラベラと裏事情を話す管理AIがいることに不安があるのであるなぁ……」


 教授、俺もそう思うぞ。


「さて、着きました。ここで少々お待ちください。あとはあちらからやってくるはずですので」


 案内されたのは小高い丘のようになっている場所。

 他の場所より一段高い以外は特に違いはない。

 いや、違いがあるとすれば周囲を飛んでいた妖精達がいなくなっていることがあるか。


「他の妖精や精霊がいないことが気になりますか?」

「え? ええ、まあ。先ほどまではあんなに居ましたからね」

「建前上は契約精霊の邪魔をしないため。実際は演出の一環ですね」

「……そうですか」


 この妖精女王ひとと話すの疲れてきたな……


 そんな事を考えていると周囲の様子に変化が訪れた。


 俺の周囲で風が渦巻きやがて小さなつむじ風となり周囲の花びらを巻き込んで渦をなす。

 ユキの目の前には光の柱がそびえ立ち、ハルの前には火柱が、リクの前では土が盛り上がり柱となっていた。


「じゃーん!! あたし、参上!! 『また』会えたね、トワ!!」


 花びらの渦の中からやたら明るい声が響いたかと思えば花びらの渦が吹き飛び、渦の中から緑色の髪にこれぞ妖精という感じの服を着た精霊、エアリルが現れた。


「……ユキ、会いたかった」


 同じく光の柱の中からは輝く金髪に白い服をまとった精霊が、


「ふむ、ようやく来たか」


 火柱の中からは燃えるような赤い髪をした精霊が、


「また会えましたね、人の子よ」


 土の柱からは焦げ茶色の髪をした精霊がそれぞれ現れた。


「ずいぶん派手な登場だな、エアリル」

「だって暇だったからね! 再会したときにどんな演出をしようか考えていたのさ!」

「そうか、まあなかなかよかったんじゃないか?」

「そうかそうか! いやー、頑張った甲斐があるね!」


「久しぶり、シャイナちゃん」

「久しぶり、ユキ。元気だった?」

「うん、私は元気だよ。 シャイナちゃんは?」

「私も元気」


「おー、派手な登場だねアグニ?」

「うむ。エアリルも含め他の精霊に負けるわけにはいかなかったからな」

「でも、派手さなら花びらを舞上げながら登場したエアリルの方が派手だったかな?」

「うぬ……これでも地面や花々を傷つけないように色々と工夫をあれこれしてだな……」


「久しぶりだな、ジーア」

「そうですね、人の子、いえ『リク』とお呼びしましょうか」

「おお! 遂に名前呼びか!」

「ええ、これから先、眷属としてあなたとともに行動することになるのですからね。いつまでも『人の子』では大変でしょう?」


 俺以外の面々も久しぶりの再会に喜んでいる様子が窺える。


「ふむ、その様子であると、そのもの達がトワ君達の契約精霊になるのであるかな?」

「そういうことだな。……一応、挨拶をしておくか?」

「それは是非聞いてみたいね。今後僕達の精霊がどのように進化していくかが気になるからね」


 教授も白狼さんも興味津々と言ったところか。

 教授はいつものことだが、白狼さんは珍しいな。


「だってさ。頼むぞ、エアリル」


 俺はエアリルに話を振る。

 ……ちゃんと普通の自己紹介をするのかが心配ではあるが。


「まっかせてよ! ボクの名前はエアリル、風の下級精霊さ」

「シャイナ……光の下級精霊」

「アグニだ。火の下級精霊だ」

「ジーアと申します。土の下級精霊ですね。は」


 おお、意外とまともだ。

 何か気になることを言っていたが、ともかく自己紹介はちゃんと出来たな。


「それにしても、ティターニア様。連れてくるのが遅いよ?」

「そうですか? 皆様の質問に答えていたとは言え、それなりに急いだつもりだったのですが」

「ティターニア様の『急いだ』は他の皆の『遅い』なんだよ。いい加減、気がついてよ?」

「あら、そうだったのですか? これでもキビキビしている方だと思っていたのですが」

「ティターニア様は話が長いから遅くなるんだよ。もっと大事なことだけを伝えればいいのにさ」

「せっかく異邦人プレイヤーの方とお話が出来る機会なんですもの。少しでも長くおしゃべりしたいではありませんか」

「はあ……もう、わかったよ。……気を取り直して、トワ! 早速だけど眷属契約だ!!」


 精霊達あちら側の話は終わったらしい。

 エアリルは早く眷属契約を済ませたいらしいな。


「そんなに慌てても仕方がありませんよ。……さて、それでは4名分の眷属契約を済ませてしまいますね」

「わかりました」

「はい」

「わかったよ」

「いつでも来い!」

「そんなに堅くならなくても大丈夫ですよ。……それでは始めます。『古き盟約に従い、契約精霊よ眷属となりたまえ』」


 俺とエアリルの足下には緑色の魔法陣が現れて光があふれ出す。

 同じように、ユキやハル、リク、それに精霊達の足下にもそれぞれ白・赤・茶の魔法陣が現れて光を放ち始めた。

 魔法陣の光だが精霊側の光はやがて収束を始めて光の玉となり、俺の胸元から体の中へと入り込んだ。


〈眷属『風の下級精霊』を入手しました。最初の精霊入手者のため称号【精霊の導き手】を入手しました〉

《とあるプレイヤーにより『精霊』が開放されました。詳しくは追加されたヘルプをご確認ください》

〈眷属『エアリル』が進化可能な段階に達しています。進化先が分岐可能です。進化先を選択してください〉


 うん、またいっぱい来たな、これは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る