175.レイドアタック 5~リザルト 3~

新しい眷属とその説明回。

自由度の高い管理側キャラって扱いやすいような扱いにくいような。


**********


「もうお話は終わりましたか、異邦人の皆様?」

「ええ、お待たせしてしまい申し訳ありません」

「いえいえ、これが役割ですから。多少待たされる程度、たいした問題ではありませんわ」


 白狼さんが代表してそのNPCに声をかける。

 住人と呼ばないのは、その雰囲気がどことなく街にいる住人の持っているそれとは違うからだ。


「それではこれからの流れを説明させていただきますが……その前に全ての方をこの場に集めていただけますか? 説明は1回で行った方がお互いに手間が省けていいでしょうから」

「ええ、わかりました。それでは皆を集めることにします」


 白狼さんがレイドチャットを使って全員に集まるようにお願いする。

 その言葉に従い、遠巻きに様子を窺っていたレイドメンバーが集まってきた。


「それでは全員集まったようですので説明をさせていただきますね。私の名前は精霊女王ティターニア、この世界に存在する精霊と妖精を束ねるものです。まあ、異邦人の皆様には管理AIの一人として認識していただいた方が早いと思いますが」

「……ずいぶんとはっちゃけた事を言うわね……」

「ええ、私にはそれを発言するだけの権限がございますので。……さて、私がここに来たのは皆様にこのレイドの最後の報酬をお渡しするためです」

「最後の報酬ですか? レイド報酬については既に配られたと思いますが」

「このレイドに関しては最後に別の報酬をお渡しすることになっているのですよ。……それでは、始めます。『我が眷属達よ、封印より解き放たれ、形をなせ』」


 精霊女王の言葉が終わると同時に妖精の繭が開き、中から光の玉が浮かび上がってきた。


「さて、これで準備は完了です。本来であれば加護を受けるプレイヤーを選んでいくことになっているのですが、今回はノーミスクリアですからね。全員分の加護があります。それでは、『我が眷属達よ、彼の者に加護を与えよ』」


 精霊女王の宣言によって光の玉がそれぞれのレイドメンバーの元へ向かい、その体に吸い込まれていく。


「……これは……妖精の加護?」

「ふむ、ここで妖精の加護であるか」

「これって一体?」


《とあるプレイヤーにより『妖精』が開放されました。詳しくは追加されたヘルプをご確認ください》


 全員に光の玉が吸い込まれた後にワールドアナウンスが流れる。

 この流れは、つまりそういうことだよな。


「……どうやら新しい眷属を解放したようだね」

「そのようであるな。『眷属・妖精』であるか。先ほどの称号はこれと関係するものであったようであるな。それに称号【妖精の導き手】であるか。これも今までの『導き手』系統の称号と同じで成長速度増加のようであるな」


 どうやら皆は新たな眷属、妖精を入手出来たようだ。

 だが、俺にはそれがない。

 なぜなら、俺の元まできていた光の玉はそのまま宙に浮いたままだったからだ。


「……あら、妖精の加護を得られない方がいるみたいね」

「これって一体どういうことです?」


 まさかここでバグなんてことはないだろうな?


「……あら、もう加護や祝福を持ってらっしゃるのね。それなら加護は得られないわね」


 うん、それって……


「ひょっとしてチュートリアルの?」

「そう言うことになるかしら。それではあなた方にはこれを差し上げましょう」


 精霊女王がそう言うと、光の玉が凝縮し始めやがて1個の透明な石になった。


「本来なら2回目のクリア以降に渡すアイテムなのですけれど、既に加護や祝福を受けているなら仕方がありませんものね。それを受け取ってください」

「……これは?」

「『フェアリーブレス』というアイテムになります。分類としては宝石となりますね。アクセサリーを作るときにしか使えませんが、非常に強力な宝石ですよ」

「……ずいぶんメタな発言のように聞こえるのですが?」

「だからこそ管理AIである私がここに来ているというのもあります。今回は初クリア者という事で特別ですよ。次に来る方以降は普通のNPC妖精が案内役を務めます」


 管理AIだからこそ『ゲームとしての』発言が許されるという訳か。

 とりあえずそう言うことなら受け取っておくか。


 フェアリーブレスを受け取ったのは、俺とユキ、それからハルとリクだ。

 全員チュートリアルで担当してた精霊から加護や祝福を受け取っていたメンバーだな。


「さて、これでひとまず私の役割は終了です。もし何か質問があるなら受け付けますよ?」

「それでは質問だけど、俺達のような加護や祝福を既に受けているプレイヤーはどうしたらいいんだ? 眷属が手に入らないというのはかなり大きな問題になることだと思うんだけど」

「ああ、これはうっかりしてました。既に加護や祝福を受けている皆様はこの後『妖精郷』までお越しください。そこで説明いたしましょう」

「つまりイベントは終了していないと?」

「そう言うことになりますね。お手数をおかけしますがルールですのでご了承ください」

「わかりました。それで、『妖精郷』にはどうやったらいけるんですか?」

「それは最後に説明させていただきます。途中で説明してうっかり忘れられでもしたら大変ですし」

「……わかりました。それじゃあ、この質問についてはまた後でという事で」

「ええ、よろしくお願いしますね」


 うーん、普通の住人NPCとのやりとり以上に感情豊かだな。

 管理AIを名乗るだけのことはあるか。


「では次は私からの質問である。トワ君達は『精霊の』祝福や加護を受けていたはずである。妖精の加護との違いは何であるか?」

「この世界においては精霊は妖精から昇華した存在になります。わかりやすく言えば眷属として研鑽を積み、成長すれば妖精は精霊に進化すると言うことです」

「ふむ、つまり進化前が『妖精』で進化後が『精霊』という訳であるか」

「一番単純にゲーム的な説明をするとそうなりますね」

「では、次の質問である。『加護』と『祝福』の違いは何であるのかな?」

「それについては……少々お待ちくださいね…………申し訳ありませんが私の権限では答えられない質問のようですね。その答えは皆様で見つけてくださいませ」

「ふむ、そうであるか。ならば仕方がないのである。それでは次であるが、『フェアリーブレス』は2回目以降の報酬になるのであるな?」

「はい。既に加護をお持ちの方は新たな加護を得られないため『フェアリーブレス』をお渡しすることになります。……ああ、これについては加護を持っていない方が優先となります。なので、繭を破壊されてしまい全員分に足りない場合は加護を持っていない方に加護を与えた後、残った分を『フェアリーブレス』という形でお渡しすることになりますね」

「ふむ、宝石優先とは行かないのであるな。では、次である。私は『闇妖精の加護』を貰ったわけであるが、貰う加護の種類は選べないのであるか?」

「ええ、選べません。基本的には各プレイヤーにもっともあった加護がAIの方から選択されて与えられることになりますので。それから、妖精が精霊になりさらに研鑽を積めば中級精霊や上級精霊になれます。その際、進化先の分岐として複合属性の進化先が現れる方もいます。全員に現れるわけではありませんのでご了承ください」

「そうであるか。では次に、【妖精郷の解放者】の称号効果に『自発行動率の増加』とあるがこれはどういう意味であるか?」

「それはヘルプにも記載されているのですが、妖精や精霊は眷属召喚されていない状態でも皆様の側に顕現していない状態、つまりは姿を見せていない状態で存在しています。『自発行動』とはそのような眷属召喚中以外に妖精や精霊が何か行動を起こすことを指します。まあ、行動の内容はまちまちで支援攻撃であったりバフをかけてくれるものであったり、あるいはあまり意味のない行動であったりもします。基本的に妖精や精霊は気まぐれな存在ですからね。眷属召喚で召喚中以外はあまり言うことを聞かないと思っておいてください。まあ、個体差はありますが」

「ふむ、その辺りはヘルプを後で読ませてもらうのである。では、チュートリアルで加護や祝福をもらえたプレイヤーともらえなかったプレイヤーの差は何であるかな?」

「それも答えられない質問となりますね。ただ1つだけ答えるなら、一度取り損ねた方は二度目以降でも手に入らないとだけ答えておきましょう」

「わかったのである。私からは最後の質問であるが、『フェアリーブレス』はアクセサリー以外には使えないのであるか? それから効果の程はどの程度であるか?」

「まず『フェアリーブレス』をアクセサリー以外に使うことは出来ません。使おうとしてもなんの効果も発揮せずに消費してしまうだけなのでご注意ください。そしてどの程度効果があるかは皆様でお試しください。さすがにそこまで教えては『ゲームとして』面白くないでしょう?」

「なるほど、それも道理である。私からの質問は以上である。……ああ、ちなみに、妖精の召喚はこのカウントダウンが終了後に呼べるようになると言うことであっているのであるか?」

「ええ、フェンリルと同じようにカウントダウン終了後から召喚出来るようになりますね。大事に育ててあげてください」


 教授の質問は終わったようだ。

 さて、他に質問者はいるかな?


「それじゃあ、僕からも質問させてもらうよ。ヘルプを読んだけど『魔法特化型』とあるけど物理的な能力はあるのかな?」

「そちらについては召喚出来るようになってから試されても大丈夫かと思いますが……基本的に皆無ですね。STRに至ってはどれだけ成長しても0のままです。VITも低いので物理攻撃が直撃するとかなり危険ですね。……ああ、HPに関しては妖精または精霊専用の計算式で計算されますのでVITが低いからと言ってHPも低いわけではありませんのでご安心を。代わりに魔法防御はかなり高めですのでそちらは安心してください」

「そうなんだね。それじゃあ、装備とかも身につけられないのかな?」

「それについては『フェアリーブレス』を使ったアクセサリーのみ1つだけ装備可能です。一度身につけた装備はその妖精または精霊の専用装備になりますので気をつけてくださいね」

「そうか、わかったよ。それじゃあ、アクセサリーを取り替えたい場合はどうすればいいのかな?」

「新しいアクセサリーを渡せばそれを装備いたします。古いアクセサリーは消滅しますのでご注意を。それから、アクセサリー装備によるステータスの上昇は元の装備の時とは多少異なりますので、ご注意ください」

「ありがとう。僕からは以上かな」


 その後もこの機会とばかりにいくつか質問が出てきた。

 さすが管理AIという事で的確な答えを返してくる。

 ……もっともそこまで知ってしまってもいいのかという疑問はあるが。


「さて、質問は以上でよろしいでしょうか?」

「……ああ、もう質問がある人間はいないみたいだな」

「わかりました。皆様からいただいた質問を元に次回以降に設置される案内役が説明する内容を設定させていただきますね」


 ……どうやらAIの学習に利用されていたらしい。

 まあ、それに見合った情報は得られたしいいか。


「それではお別れの時間ですね。最後に、妖精郷の行き方ですがこのレイドエリアに来る途中にあった花畑より行くことが出来ます。既に加護や祝福をお持ちの方はそこで待っている者がいます。なのでできるだけ早く訪れてあげてくださいね? それから、妖精郷に入ることが出来るのはこのレイドクエストをクリアしたプレイヤーだけですのでご注意ください。それでは皆様の旅路に幸多からん事を」


 最後に妖精郷への行き方を説明して精霊女王は姿を消した。

 代わりに現れたのは魔法陣。

 おそらくレイドエリアからの脱出用だろう。


「……さて、なかなか濃密な時間であったが、これで終わりのようであるな」

「そうだね。色々教えてもらえたし初クリアボーナスとして考えてもなかなか破格だったね」

「そう言えば、皆はどの属性の加護をもらえたのであるかな? 私は先ほども述べたとおり闇妖精であるが」

「僕は光妖精だね。効果は『光属性効果上昇・微』と『光属性耐性・微』だけど」

「私の効果も似たようなものであるな。トワ君達の称号ではステータス上昇効果もあったはずであるな?」

「ああ、俺の『風精霊の祝福』は『AGI上昇効果・中』がついてるな」

「ふむ……そこが妖精と精霊の差であるか?」

「うーん、そうじゃないかな。わたし『火精霊の加護』を持ってるけど『STR上昇効果・小』があるから」


 そう言えばハルは『火精霊の加護』を持っているんだったか。


「ふむ、そうであるか。『インデックス』に精霊の加護を目指して何回かキャラデリをした者がいたのであるが、結局、加護は取れずじまいだったのでそこはわからなかったのである」

「そうなんだ。わたしは普通にチュートリアルクリアしたら加護をもらえたけどな?」

「先ほどの話から察するに、キャラデリを繰り返しても加護や祝福はもらえないようであるな。おそらくはユーザーIDで過去にチュートリアルを受けたことがあるか判定して、初回だった場合のみもらえる事があると言うシステムであるな」

「キャラデリマラソン禁止って事かー。手に入ってよかったよ」

「まあその辺はここの運営である。そこまで甘い作りにはなっていないようであるな。それでトワ君、よければフェアリーブレスを見せてほしいのである」

「うん? ああ、わかった」


 俺は教授にフェアリーブレスを見せる。

 ちなみにフェアリーブレスの鑑定結果はこうだ。


 ―――――――――――――――――――――――


 フェアリーブレス ★16


 妖精の祝福が込められた宝石

 アクセサリーに組み込むことでその力を発揮する

 武器や防具ではその力を発揮することは出来ない



 ―――――――――――――――――――――――


 品質はまさかの★16、今まで誰も見たことのない値だ。

 そしてフレーバーテキストの中でしっかりとアクセサリー専用と主張している。


「ふむ、品質16であるか。見たことも聞いたこともないのであるな」

「教授でもか。そうなると、これが現状実装されている最高品質かな?」

「そうであろうな。であるが、上級生産セットの上限は12と予測されているのである。となると、それ以上の生産セットがあるという事になるのであるが……そんな話は聞いたことがないのであるなあ」

「その辺は実装待ちとかそう言うオチじゃないのか?」

「まあ、そんなところであろうな。……さて、それではここにいる理由もなくなったわけであるし、脱出するとするのであるか」

「そうだね。……さて、皆、臨時インベントリの中の物は全て回収したかな?」

「あ、わたし達、財宝を取り出してなかった!」

「レイドクエストでよくある失敗だね。スキルばかりに目がいって換金アイテムを忘れるのは」

「よかったー。ありがとう白狼さん」

「どういたしまして。他の皆は大丈夫かな?」


 俺は念のため臨時インベントリを確認してみるが何も入ってないな。

 素材類と一緒に柚月が回収してくれたんだろう。


「この様子だと大丈夫そうだね。それじゃあ脱出しようか」

「そうですね。妖精郷にも行かなきゃいけないみたいだしでましょうか」


 こうして俺達の初レイドクリアは完了したのだった。



**********



~あとがきのあとがき~



管理AIにここぞとばかりに質問を投げかける教授。

書いていて質問内容が思いつく度に書き足し書き足ししていったらあの長さになりました()


作中でも触れましたが管理AIが出てくるのは初クリアボーナスの1つであって、次回からは普通のAIを持った妖精が案内役を務めます。

そっちもある程度は質問に答えてくれますが、ここまで深い内容は答えてくれません。


それから妖精女王のセリフが異様に長い場面がありますが、そう言うキャラ設定です。

読みにくいと思いますがご容赦を。

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