174.レイドアタック 5~リザルト 2~

 残された報酬はスキルブック。

 いまさら説明するまでもないが、スキルを覚えるために使用される消耗品だ。

 ただ、これはただのスキルブックじゃなかった。


 スキルブック『堅固なる防壁』

 スキルブック『剣閃乱舞』


 どちらもそれぞれ、【堅固なる防壁】と【剣閃乱舞】を覚えるためのスキルブックではある。

 あるのだが……普通のスキルブックとは違い、このスキルブックを使って覚えられるのはスキル名と同名の技1つのみだ。

 効果は……これか。


 ―――――――――――――――――――――――


【堅固なる防壁】

 スペリオルスキル『堅固なる防壁』を取得する


 堅固なる防壁:

 自身と自分の周囲5メートル内のレイドチームメンバーまたはパーティメンバーに効果。

 スキルレベル×2秒間の全状態異常・ノックバック無効を得ることが出来る。

 装備種別:タワーシールドを装備中のみ使用可能


 ―――――――――――――――――――――――


 ―――――――――――――――――――――――


【剣閃乱舞】

 スペリオルスキル『剣閃乱舞』を取得する


 剣閃乱舞:

 自身の前方扇状の範囲内の敵に効果。

 装備している武器の属性による連続攻撃を行う。

 攻撃回数はスキルレベルに依存。

 装備種別:剣を装備中のみ使用可能


 ―――――――――――――――――――――――


 ……うん、やっぱりどちらも『スペリオルスキル』のスキルブックだ。


『スペリオルスキル』とは、その名の通り上位スキルのことで、スキルブックから単一スキルのみ覚えられるものらしい。

 個人的に印象に残っているもののなかでは、鉄鬼が使ってきた『大山不動』がそれにあたるか。

 これらのスキルの特徴はスキルが成長してもスキル効果が変わらないものがあったり、スキルを覚えてもマスクデータとして存在してる基礎ステータスの上昇効果がなかったりと普通のスキルとは一風変わったスキルとなっている。


 さて、問題はこのスキルを覚えても使う人が『ライブラリ』にはいないことなんだが……


「トワくん、ちょっといいかな?」

「うん? どうかしましたか、白狼さん」


 スキルブックの処遇について悩んでいたら白狼さんに声をかけられた。

 と言うか、各パーティのリーダーが全員揃っているな。


「そろそろスキルチケットの分配は終わったと思うんだけど、どうだい?」

「スキルチケットについては終わりましたね。……それ以上の難題が残ってますが」

「スキルブックの事だよね。その話をしに来たんだよ」


 どうやら、スキルブックについては全体で話し合うようだ。

 ……まあ、この調子だとそれぞれのパーティ内で使用できないスキルブックが出てることが多いだろうからな。


「このレイドでスキルブックが出る可能性を考慮してなかったから、その対処を決めたいんだけど大丈夫かな?」

「一応、他の皆にも聞いてくるので少し待っててください」


 というわけで、他のメンバーに確認したが『俺に任せる』と言うことになってしまった。

 皆、戦闘用スキルを手に入れても仕方がないという事で非常に消極的である。


「……お待たせしました。スキルブックはこちらで自由に決めていいそうです」

「わかった。なんというか戦闘に興味のない『ライブラリ』らしいと言うか……ともかく、話し合いを始めよう」

「そうであるな。まず我々が手に入れたスキルブックであるが、【万槍招来】と【マジックブレイク】である。【万槍招来】はランサー専用、【マジックブレイク】は物理職汎用スキルであるな。効果はそれぞれ『自身の周囲に対する範囲物理攻撃』と『魔法スキルの破壊』である」

「【マジックブレイク】は面白そうなスキルだね。僕等が手に入れたのは【テンペストショット】と【剣閃乱舞】だね。それぞれガンナーと剣士用の連撃系スキルだね」


 その後も各パーティが手に入れたスキルについてスキル名と概要が説明される。


「さて、それでここからが提案なんだけど。もうしばらくこのレイドクエストを皆で周回しないかな? 正直、素材系はかなりまとまった数を集めておきたいし、換金アイテムも手に入るみたいだから、赤字にもなりにくい。そして極めつけはスペリオルスキルが手に入ることだ。スキル内容は軽く読んだだけだけど、かなり強力なスキルだよこれは」

「そうですね。使いどころが難しいものもありますが、基本的には強力なスキルばかりですね」

「そうだね。だから、出来ればこのメンバーでもうしばらく周回出来ないかなと思ってね。このメンバーなら次回はもっと上手くやれるだろうし、ボスのギミックも大体わかったから、必要なタイミングで無効化スキルを叩きこめば、今日よりも楽にクリアできそうだし、どうかな?」

「我々は参加するのである。もう少しボスデータを集めた方が情報提供時に詳しいデータを出せるのである」

「わたし達も構いません。というより、『ライブラリ』に借金を返さないとなので、出来ればこちらからもしばらく周回をお願いしたいです」

「俺達もだな。さすがに借金は早いうちに返したいぜ」


『インデックス』にハルとリクのパーティは参加か。

 俺達はどうするかな……


「俺達は少し待ってください。今からクランチャットで確認しますので」

「うん、お願いするよ」


 白狼さんに一言断ってからチャットモードをクランチャットに切り替える。


『白狼さんから、これからもこのレイドを周回しないかって提案が出てるけどどうする?』

『ボクはさんせー。ボク用の素材は少なかったけど上質だしまとまった数がほしいなー』

『わしも賛成じゃわい。素材はあればあるだけ使うからな』

『私としてはどちらでもいいのだけど……皆が行くなら行かないわけにはいかないわね』

『ええと、私も参加したいです。新しく手に入れたスキルの事もあるので』

『それじゃ、参加と言うことで白狼さんに伝えておくよ』


 結果は出たので白狼さんに報告だ。


「俺達も参加で大丈夫みたいです。皆、素材はほしいみたいで」

「あ、それならわたし達の素材も買ってよ、お兄ちゃん」

「俺達も売りたいな。後で査定頼むぜ」

「それは柚月やドワンの管轄だからそっちでな」

「とりあえず『ライブラリ』も参加だね。正直助かるよ。レイド中に修理が出来るメンバーがいるのは非常にありがたいからね」

「そういう需要もあるんですね」

「鉄鬼君が2軍パーティにいるのは単純に戦力としての役割以外にもボス戦後の装備修理役もやってることが大きいからね。さて、それじゃあ本題のスキルブックについてだが……まずは、戦力的に分配する方針でいいかな? 周回するなら有効に使えるメンバーがスキルを持った方がいいからね」

「俺達はそれで構いませんが……他の皆は?」

「我々もそれで構わないのである。ただ、スキルのデータは取らせて貰いたいのである」

「わたし達も構わないよ!」

「俺達もそれでいいぜ。この先も周回するならスキルを手に入れる機会もあるだろうからな」

「そうか、それはよかった。それじゃあ、まずはそれぞれのパーティでほしいスキルをあげていこうか」


 まずはそれぞれのパーティにあわせてほしいスキルを選んでいくことに。

 俺の手に入れた【堅固なる防壁】は元よりタンク、それもタワーシールドを装備中のみという事で使える対象者はゼオンさんしかいなく、白狼さん達の元に行くことになった。

 逆に【剣閃乱舞】は剣スキルという事もあり希望者が多かった訳だが……他のパーティでもでていたこともあり、ハルと教授のところが持っていくことになった。

 それ以外のスキルも、それぞれ適性のあるメンバーがいるパーティに割り振られる。

 そして俺達の手元に来ることになったスキルだが……


「本当に3つも貰っていいんですか?」

「ああ、構わないよ。と言うよりも、他のパーティで余ってしまったものでもあるわけだけどね」

「銃スキルなんてお兄ちゃんかセツちゃんしか使えないしね。それならお兄ちゃんが使った方がいいよ」

「そうであるな。今後も周回することを考れば『ライブラリ』が強くなることはプラスであるな」

「そうそう。……まあ、半分他のパーティじゃ持て余し気味ってのもあるけどな」


 俺達の手元に来ることになったスキルは3つ。


 1つ目は【テンペストショット】、これは銃スキルのため俺が使うことになるだろう。

 効果は……『狙った場所を中心に5メートル内に効果。効果範囲内の敵に対し中心点への吸引効果のある連続攻撃を行う。総攻撃回数はスキルレベルに依存。弾丸を5発消費』か。

 効果だけ聞くとかなり強そうではあるが、クセも強いんだろうな。


 2つ目は【テンペストアロー】、テンペストショットの弓版である。

 これはイリス用として渡された。


 3つ目は【支援者の心得】、これはユキがバッファーを目指していると告げたら渡された。

 実際、現在のレイドチームで専門のバッファーはいないから、ある意味では余り物である。

 効果は『バフ・デバフ系スキルに効果。バフスキルの上昇値と継続時間を上昇、デバフスキルの減少値と継続時間を上昇させる。上昇率はスキルレベルに依存』だ。

 これはスペリオルスキルではないが、効果的には他のスペリオルスキルと同程度のものだと言うことである。


 他にも魔術士用のスキルだとか斧スキルだとかを渡そうとしてきたが、そちらは優先した方がいい人物が別にいるので辞退した。

 特に魔術士用スキルなんて使う人間が沢山いるわけだし、優先すべきは俺達じゃないだろう。


「さて、スキル分配も終わったね。このスキルでレイド周回が楽になってくれるといいんだけど」

「そういうものなんですか?」

「そういうものが多いかな。特攻効果というわけじゃないけど、レイドでスペリオルスキルがでる場合はそのレイドのどこかで特に効果の高いスキルである事が多いんだ」


 なるほどねえ。

 ……とりあえずテンペストショットは覚えてしまおうか。


「あ、お兄ちゃん、もうスキル覚えたの?」

「他に覚える人間もいないわけだしな。それがどうかしたのか?」

「どうせなら使ったところを見てみたいと思って。教授も気になるよね?」

「確かに気になるのであるな。吸引効果というのと攻撃回数は気になるのである」

「お、そういうことなら俺が的役になってやるよ。PvP申請を送るからよろしくな」


 的役を買って出てくれたリクの言葉に甘えてPvP申請を受託、勝敗条件はHP80%未満にしてるから事故死もない。

 リクがある程度離れたので、俺は早速テンペストショットを使用してみることに。


「それじゃあ行くぞ、テンペストショット!」

「おう来い! って、なんだ!? 吸い込まれる!?」


 テンペストショットは上空に向けて打ち出す動作だったため、そのままスキルアシストに従い上空に発射。

 0.5秒ほどで狙った場所――今回はリクの背後3メートル辺り――に着弾し、効果を発動させる。

 着弾した弾丸は黒い渦と化し、周囲のものを引きずり込みながら攻撃エフェクトを発生させる。


「おお、これは!? って痛い痛い!!」


 今回試し撃ちに使ったのは雷迅。

 攻撃発生は魔法攻撃扱いだから、物理防御装備のリクにはダメージがよく通るらしいな。

 耐久力消費は……1回の消費で2減ってる。

 あまり過度な連射は出来ないか。


 黒い渦は着弾からキッチリ5秒で消滅した。

 ちなみにPvPは俺の勝利で既に終了している。

 つまりはそれだけの威力があったと言うことだ。


「いくら魔法攻撃力に優れる雷迅を使ったとはいえ、PvPを終わらせるだけの威力はでる訳か」

「そうらしいな。……ちなみに攻撃回数はわかんねーぞ? ダメージを受ける間隔が短くて数えられなかったからな」

「ふむ、それにしても重装備であるリク君であっても引きずり込めるだけの吸引効果はあるわけであるな。これは足止め用スキルとしても効果がありそうである」

「そうだね。見ていた限り威力も高そうだし……使ってみた感想はどうだい?」

「まずは耐久力消費ですかね。1回の攻撃で2ポイント耐久力を消費しています。あとは……ちょっともう一度試し撃ちをしてみます」


 俺はもう一度試し撃ちを行う。

 狙いは適当に誰もいない場所だ。

 攻撃自体は先ほどと同じモーションで発生するが……


「……やっぱり、スキルの使用から効果の発動中は一歩も動けませんね。6秒近く足を止めることになるので、使うタイミングを間違えると袋だたきにされそうです」

「ふむ、そうなると次は射程の問題であるが……ライフルで試して貰って構わないであるか?」

「ああ、わかった。……普通にライフルの最大射程で狙いをつけることが出来るな。30メートル先までなら着弾地点に指定出来そうだ」

「超長距離からの足止めも可能であるか。本当に強力なスキルであるな」

「これはテンペストアローも同じ仕様と考えても大丈夫かな? ……もしそうなら、小鬼からの繭防衛戦で猛威を振るいそうなんだけど。ちなみにMPやSTの消費、それからリキャストタイムはどれくらいなんだい?」

「えーと、MPが30、STが50、リキャストタイムが20秒ですね」

「……威力を勘案すると十二分に効率的なスキルであるな。これは強力なのである」

「これなら他のスキルも期待できそうだね。それじゃあ他のスキルも試してみようか」


 白狼さんの提案によって、それぞれのスキルを覚えて全員がその効果を試してみることに。

 イリスに確認をしたが、テンペストアローの効果はテンペストショットとまったく同じであった。

 【支援者の心得】は……さすがに戦闘中でないと効果の程がわからないし、そもそもこの手の増幅系スキルは低レベルの間はほとんど誤差にしかならないらしいのでお試しは見送ることに。


 それ以外のスキルについても、試せるものは全て試してみた。

 攻撃スキルは範囲攻撃または連撃系スキルばかりだった。

 防御系スキルは……【堅固なる防壁】しかでていないため、試しと言うことでチャージショットを受け止めて貰ったが、確かにノックバックを受けなかったみたいだ。


 という事でスキル分配も無事に終わりを告げた。

 野良パーティではスキルブックだった場合、ここで揉めることが多いらしい。

 滅多に挑めないレイド報酬で有効なスキルがでたら誰でも欲しいものな。

 そのときは、ダイス機能を使って所有者を決めるのが一般的らしいが……それでも難癖をつける人間はいるらしい。


 さて、それでは最後だが……全員が目を背けていたことに目を向けるとするか。


「白狼さん、こういうことってよくあるんですか?」

「うーん、僕が知る限りではないかな? 教授はどうだい?」

「私も知らないのである」


 俺達が守り切った妖精の繭、それらが淡い輝きを放っているのだ。

 そして、その繭のところには背中に蝶の羽を持った女性NPCが現れていて……どう見てもこれは何かのイベントだよな?


**********




~あとがきのあとがき~



今回初めて登場したスキル種別、スペリオルスキルですが既出のスキルの中にもスペリオルスキルと同様なスキルはあります。

【ダッシュ】とか【ハイジャンプ】も単一スキルという意味では似たようなものです。

ただ、あちらは基礎ステータスに補正がある事がわかっているためスペリオルスキル扱いではありません。


なお、スペリオルスキルという呼称はプレイヤーが名付けたものであり運営開発陣では別の呼び方でしたが、プレイヤーがスペリオルスキルと呼び出したためそちらを正式名称にした経緯があったりとか。


それからこのゲーム内において30メートルという距離は『超長距離』に分類されます。

魔法での攻撃で長射程のものが10メートル程度しか効果範囲がないため、一般的に『長距離』というと10メートル程度です。

ファンタジーゲームですので射程距離なんてそんなものです。

ファンタジーで2,000メートルとか狙い撃ち出来てもバランスブレイカーなだけですからね()

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る