168.装備更新(ハルパーティ)

「おー! さすがドワンさん謹製の防具! 今までのに比べてずっと強い!」


 『ライブラリ』のクランホームにハルの歓声が響き渡った。

 正直うるさいよ、妹様。


「まあ、今までの装備がミスリル製の装備でしたからね。素材ランクが2ランクも上がれば性能は段違いですよ」

「そうそう。ボクの大斧だって攻撃力500オーバーとか訳のわからない数字になってるし」

「……攻撃力がおかしい値になってるのは私だけじゃなかったんですね」

「まあ、その辺は『ライブラリ』製の装備ということでしょう。私の杖も魔法攻撃力450ありますし……」

「私の錫杖は魔法攻撃力400かな。でも物理攻撃力も150ついてるけど」

「錫杖で魔法攻撃力400は十分にすごいのでは?」

「すごいよねー。どうやって作ったのか不思議だもの」


 そう、今日はハル達のパーティに装備を引き渡す日だった。

 先々週に請け負っていたライフル製造の引き渡しも先週のうちに終え、後はレイドメンバーの装備を作成するだけとなっていた。

 もっとも、俺は作る装備がなかったため、消耗品の補充や細々と錬金アクセサリーを作成していたのだが。


「このブレストプレート、物理防御が110に魔法防御が100もありますね……」

「そいつはアダマンタイトとミスリル金の合金製じゃ。盾受けしないとはいえ、タンクをやるならば高い防御力は必須じゃろう?」

「はい。正直、物理防御と魔法防御の両立は諦めていたので、この装備はありがたいです」

「お前さんのは全て同じ合金製じゃ。さすがに鉄鬼の防具には1枚劣るはずじゃが、物理と魔法両方を高い水準で両立させた装備の中では一級品であることは間違いないぞい」

「はい、ありがとうございます」


 ハルパーティのタンクであるサリーの装備品はアダマンタイトとミスリル金の合金製だ。

 アダマンタイトの欠点である魔法防御の弱さをミスリル金で、ミスリル金の欠点である物理防御の弱さをアダマンタイトで双方補っている形の合金だ。

 どちらにも特化しない形のバランス型の合金として作ったらしい。

 なお、装備の色は本人の希望で落ち着いた銀色に染め上げられている。

 それから武器の両手剣もアダマンタイト製にアップグレードされている。

 いざというときは盾代わりにも使える幅広の両手剣で、これよりも大きくすると『特大剣』という分類に変わるというギリギリのラインらしい。

 サリーがこの巨大な剣を振るうのもなかなか迫力がありそうだ。


「見て見て、お兄ちゃん! わたしの新しい装備! かわいいでしょう!」

「……かわいいというか、凜々しいだな」


 ハルの装備はメテオライトとミスリル金の合金製。

 こちらは重量を軽くするため、ミスリル金の比率を多くしたらしい。

 その結果、物理防御よりも魔法防御の方が高くなったらしいが、本人はそっちの方が気に入っているらしい。

 本人曰く、「わたしが被弾するのは物理攻撃よりも魔法攻撃の方が多いから!」らしい。


 後は盾を持てれば完璧だったのだが……


「……重量制限で盾が持てないのが厳しい……」

「今までの装備に比べると大分重いからな」


 全身完全に金属装備ではなく上半身と下半身、つまりプレートメイルにスカートアーマーだけ金属鎧で他は革装備というハルの装備構成だが、それでも装備重量の関係上、盾を持つ余裕がなくなっていた。

 今までの装備はミスリル装備だったため重量も余裕があったが、ここに来て一気にランクアップした結果、重量オーバーとなった訳だ。


「でも【重装行動】取りに行くんだろう?」

「うん、わたしとサリーとカリナちゃんの分、3つ取りに行く予定!」

「ならそれまで耐えれば大丈夫だろう」

「でも、その後のスキル上げもあるからなー」

「そこは頑張れ、としか言えないな」


 そう【重装行動】は重装備時のペナルティを少なくする効果がある。

 つまりは、装備重量による行動阻害効果を無視できるようになるのだ。

 そのため【重装行動】が高レベルになれば、例え全身金属鎧でも軽戦士並みに走ることも可能になる。

 もっとも、それに見合った敏捷性AGIがあればの話ではあるが。

 武闘大会の時の鉄鬼がいい例だろう。


 しかし【重装行動】3つ分となると、かなりの数のレアドロップを揃える必要があるのだが大丈夫なんだろうか?


「そんなに【重装行動】集めるだけボス周回出来るのか?」

「んー、装備更新が終われば何とかなると思うよ? 今までだって倒せないわけじゃない、というか余裕を持って倒せてたボスなんだし」

「ちなみに、【重装行動】キーアイテムってなんだっけ?」

「『アースドラゴンの竜石』だね。これを5つで【重装行動】のスキルブック1つと交換可能」

「アースドラゴンって事は第7エリアのボスか……大丈夫か?」

「雷獣や氷鬼よりは弱いから平気だよ。毒とHPの高さにだけ気をつければよゆーよゆー」


 それでも、周回するには結構きつい相手だと思うんだがなぁ……


「あ、お兄ちゃん。そういうわけだから、STRとINTの特殊ポーションお願いね。あれがあるのとないのとじゃDPSが全然違うから」

「はいはい、それじゃあ後で渡すよ」


 DPSダメージ・パー・セカンドつまり、時間当たりのダメージ量だが特殊ポーションを飲んでいるとかなり上がるらしい。

 実数値で60上昇は伊達じゃないという事のようだ。


 俺達が話をしている間にもハル達のパーティに新しい装備が渡されていく。


 ドワーフのカリナには柚月が作った革鎧一式が渡されていた。

 この鎧は剛性の強い氷鬼の革をメインに雷獣の革を組み合わせて作った革鎧シリーズらしい。

 昨日の夜、柚月が散々苦労話をしていたので色々聞かされていた。

 というか、【魔石強化】で作成時のボーナス用に色々試すことになったので結構しんどかった作品でもある。

 元々の素材が耐性付きだったことに加えて、魔石での強化でさらに装備耐性が加わっているので属性相性次第ではタンク装備並みの硬さを出すだろう。

 もちろん、雷獣素材特有のAGIアップ効果も残っている。

 ……小柄な少女が身の丈サイズの大斧を持って走ってくるのってなかなかシュールな絵面ではなかろうか?

 アダマンタイト製の大斧だから攻撃力500超えてるらしいし。


 次はセツの装備品。

 こちらも革製ではあるが俺の空狐装備と同じく雷獣の革がメインとなっているため、革鎧ではなく服扱いの装備である。

 レザージャケットとレザーパンツに腕・脚・頭部装備の一式だが、俺の装備がAGI特化になっているのに比べ、セツの装備はSTR-DEX・AGIの構成になっているらしい。

 AGIについてはスキルの方でほとんどまかなえているため、アクセサリーや防具は攻撃力の上がるSTRとクリティカル率に関わるDEXをメインで上げるようにしているそうな。

 各所を氷鬼の革で補強しているため、俺の装備よりも物理防御力は増しているそうだ。

 まあ、柚月曰く「トワの装備は物理防御捨ててるからね」ということらしい。

 完全に魔術士向け装備を作る感覚で俺の装備を仕上げたそうな。

 それから、セツにはドワンからメインウェポンであるメテオライト製のダガーも渡されている。

 鉱石を製錬する段階から魔石による強化を施した逸品で、物理属性も含めると3属性持ちという貴重な武器だ。

 セツは装備を受け取る度に恐縮しっぱなしであったが……大丈夫だろうか?


 そして、椿と柊の魔術士ペアの装備品。

 椿は正統派攻撃魔術士で、柊は治癒術士という事らしいが防具に関しては基本的に一緒である。

 メイン素材をマギスパイダーシルクで作り、ローブは雷獣の革で作成して雷耐性と物理防御を強化、そのほか腕装備や頭装備はミスリル金装備を使うことで魔法防御力と魔法攻撃力の両方を底上げしている。

 2人の装備は素材こそ一緒だがデザインは本人達の希望が反映されているため大分異なる。

 そしてもっとも異なるのは武器装備で、椿は一般的な長杖であるのに対して柊は錫杖を選択している。

 2人の装備はどちらも木材はエルダートレント、装飾の金属はミスリル金という構成だが、やはり武器種の差は性能に影響が出ており椿の杖が魔法攻撃力450オーバーなのに対して、柊の錫杖は400ちょっとという性能だ。

 もっとも、錫杖にはバフの効果を高める効果があるらしいので、支援回復をメインとする治癒術士にはそちらの方が便利だとか。


 アクセサリーについては用意できないので各自で用意してもらう事になっている訳だが……


「それで、本当に代金はあるとき払いでいいんですか?」

「ええ、構わないわよ。今回の装備品については材料費は不良在庫処分で捻出したからね」


 そう、あの『怪しい露天商』計画の時の売上の一部がこの装備に化けたのだ。

 実際、どの程度の額を出したのかは知らないけど、あの露店の時の売上はすごかったからな……


「良い装備をもらって、代金は後払いでいいというのは気が引けます……」

「そうですね、身の丈にあっているかどうか……」

「サリーもセツも心配性だなぁ。新しい装備が出来たんだからどーんと大物を狩りに行くぐらいの心構えで行こうよ!」

「そうね。あまり心配ばかりしても仕方が無いですものね」

「そうですねー。せっかく新調したわけですし予定通り土ドラマラソンに行きましょー」

「ちょっと、皆! 新しい装備を試したいのはわかるけど1つ忘れてるよ!」


 うん? 装備も行き渡ったし問題ないんじゃないかな?


「ああ、そうでした。トワさん、済みませんが全員分の装備を聖霊武器化してもらえますか?」


 ……なるほど、そうきたか。


「構わないけど……全員新調した武器で構わないのか? 使い勝手を試してみてからの方がいいと思うんだが……」

「んー、どうせ試しても同じだと思うから今でもいいと思うんだけどな?」

「ですが、お兄さんのいうことも一理ありますよ。とりあえず今日一日は様子を見ましょう」

「まあ、明日には全員分の聖霊武器を作る事になると思うけどねー」

「そのときはそのときでちゃんと受け付けるよ。ともかく今日は慣らしで行ってこい。細かい修正が必要かも知れないんだからな」

「はーい。それじゃあ、土ドラマラソンに出発!」


 妹様の号令に続いてハルのパーティはホームポータルから出て行った。

 何でも第6エリアや第7エリアではボスの近くに転移ポータルが設置されているため、マラソン、つまりはボス周回が簡単だそうだ。

 楽な分はいいことだろうし後はあっちで頑張ってもらう事にしよう。


「とりあえず1件目の納品は完了ね」

「そうだねー。喜んでもらえてよかったよー」

「そうじゃのう。まあ、この後にも2件控えているわけじゃが」

「そっちも完成してる訳だし、気楽に行きましょう」

「そうじゃのう」


 こっちはこっちで一仕事終わった事で安堵した様子である。

 ……まあ、この後、俺が聖霊武器作成で苦労するのは決まってるのだがな……


**********



~あとがきのあとがき~



装備詳細を書いたのってトワの装備以来じゃなかろうか。

そしてライブラリメンバーの装備イメージを書いた記憶もない()

さて、どうしたものか(


あと、今回の装備については細かい値は出しません。

さすがに全員の装備の値を作るのは時間的に厳しいので。

普通に装備性能が倍ぐらいになったんだな、程度に思っておいてください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る