167.レイドアタック 4

「ふむ、複数のステータスを回復するポーションに蘇生薬のレシピが遂に判明したのであるか」

「ようやく、といったところだがな」


 土曜日、レイドアタックの日。

 レイド開始前に昨日完成したカラーポーションと蘇生薬の情報を共有する。


「それで、そのカラーポーションとやらはいくつあるのであるか?」

「クリアポーション以外がそれぞれ30ずつにクリアポーションが10個かな」


 今日の分のポーション作成は既に終了している。

 どうやら2日に1回という在庫補充はリアル時間、昼12時に更新らしい。

 使うかどうかわからないが、とりあえず今日作成した分に関しては持ってきた次第だ。


「回復量はミドルポーションと同じか少し多いぐらいだね。これならオレンジポーションはタンクの治療用に使えるかな」

「パープルとグリーンは微妙であるな。パープルについては回避不可能な全体攻撃後、魔術士系が回復するのに使えると思うのであるが、HPを回復しないグリーンポーションは使いどころが難しいのである」

「あ、それならわたしがグリーンポーションいくつかもらっていいですか? 魔法剣にはMPもSTも必要なので」

「……逆を言うと魔法戦士タイプでなければ使いどころが難しいポーションであるな。あとは、魔術士がダッシュなどを使ってST切れを起こしたとき用であるか」

「そうなるよなぁ……ただ、素材的に今回の組み合わせでないと素材が余るんだよなぁ……」

「レイド攻略としては使いどころが微妙ですが、それ以外で考えれば使いどころがあるのではないでしょうか? 例えば生産時の回復用など……」

「うーん、やっぱり戦闘用としては難しいか……」

「だよなあ。俺も難しいと思うぜ? MPとSTを同時に消費するスキルなんて魔法剣系統ぐらいしかないからな」

「ちなみに、全てクリアポーションにした場合は1日でどれだけ作れるのであるか?」

「リアル1日に70個だな。70個分のポーション素材をそれぞれのポーションに割り振ってるから」

「ふむ、増産する方法はないのであるかな?」

「少なくとも素材になる薬草が市場に出回ってないからな。……ちなみに薬草名はこれだけど、聞いたことがあるか?」


 俺はカラーポーション関係を作るための薬草類の名前を挙げていくが……


「うむ。聞いたことがないのであるな」

「すまない、僕達もないね」

「わたしもないよ」

「俺も知らないな」

「……やっぱり、採取関係だと未実装か相当奥地に行くかしないと無理か」


 『白夜』もハルやリク達も最前線付近で戦っているプレイヤーではある。

 だが採取関係まで手を伸ばしているかというとそんな事はなく、戦闘の合間に近くに採取ポイントがあったら採取する程度だ。

 そんな彼らが知らないとなると、根本的に採取による入手はまだ不可能であるか、それとも基本的にはレベル上げなどで近寄らないような僻地に存在しているかのどちらかだ。

 どちらにしても、素材が入手出来るかどうかというのは微妙であり、現状練習中の状態では安定供給も難しい。

 ……大人しく、ワグアーツ師匠から買える分だけでまかなうしかないだろうな。


「ああ、でも、蘇生薬を作るための素材なら少しだけどクラン倉庫にあるかな?」

「そうですね。レベル60以上のレイドで手に入るアイテムの中にその薬草が含まれていたはずです」

「『神薬草』なんて名前だからハイポーションを超えるポーション用の素材かと思っていたけど、蘇生薬の材料だったとはね」

「そちらでよろしければ、クラン倉庫にある分はお売りできますよ。何分、我々のクランで蘇生薬を作れるようになるのは大分先のようですしね」

「そうだね。今、ようやく第4段階の修行に入ったところだ。トワ君達で苦戦しているような修行内容だと言うことは『白夜』でこの薬草を使えるようになるのは少なく見ても1ヶ月は先の話だろうからね」

「出来れば作った分の蘇生薬を卸してもらえれば助かりますが……いかがでしょう?」


 うん、悪い話ではないかな。

 どうせ蘇生薬を一般に流通させる意味はあまりない。

 しばらくは作る量はともかく品質は安定しないだろうから『白夜』に流すとするか。


「それじゃあ、しばらくは『白夜』に卸す事にしますね。値段は後で相談と言うことで」

「うん、了解だ。……他に何か情報はあるかな?」

「情報と言うほどでもないですが……錬金アクセサリーを作れるようになりましたよ?」

「ああ、あれか……性能的に微妙なラインだと聞いてるけどどうなんだい?」

「正直、微妙ですね。★10になってもステータス上昇が30とかしかないですから。その代わり、幅広いステータス上昇は望めますが」

「やっぱり広く浅くか……『白夜』の錬金術士もそれで悩んでたね。1つのステータスに特化しても同ランクの細工アクセサリーとほぼ同等の性能しかなく、逆に特化しないとステータス上昇が少ないって」

「俺達としては、細工士が身内にいないので★10アクセサリーで更新しましたが……」

「うーん、僕達は大丈夫かな。★9だけど細工士に作ってもらったアクセサリーがあるから」

「我々も大丈夫であるな。別の伝手からアクセサリーは揃えることが出来ているのである」

「お兄ちゃん、わたし達は興味あるかも。まだアクセサリーは★7とか★8だから」

「俺達も同じだな。終わったら錬金アクセサリーってのを見せてくれ」

「わかった。それじゃ、この話は終わった後にだな」


 とりあえず開始前に必要な情報共有は済ませた。

 後は準備してレイドに挑むだけだ。

 今週は俺達もレベルが上がってることだし、妖精の繭の被害を出来る限り少なくしたいところだな。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「さて、ここまでの結果はかなり上々であるな」

「ここまでに破壊された繭の数が5つというのはありがたいね」

「これで、封印鬼のレベルは45です。私達と一緒である以上、先週よりもかなり楽になるでしょう」


 各パーティに分かれての妖精の繭防衛戦、その結果は今出た話の通り全パーティで5つだけとこれまでで最小数となった。

 内訳は、俺達のパーティが1、『インデックス』が1、ハル達が1、リク達が2である。

『白夜』のパーティは遂に被害0を達成することが出来た。

 ちなみに被害を出さないコツを聞いてみると、


「被害を出さないコツは、逆に引きつけて一気に倒す事かな」

「遠距離タイプだけは早めに倒して近接タイプは引きつけてから倒した方がいいでしょう」


 とのことだった。

 言うは易しという奴だな。


 その後の全パーティ集合後の防衛戦はいつも通り被害0で切り抜けることに成功し、遂に封印鬼との戦闘を迎える。


 封印鬼との戦闘は、これまで通り封印鬼は繭の南側に引き寄せ、『ライブラリ』と『白夜』第2パーティが繭の防衛にあたる。

 HPバーを削ったときの特殊増援の時のみ『インデックス』パーティも増援の対処に向かう事にする。

 このとき教授だけはパーティと別行動をとり、封印鬼に張り付いたままになる。

 教授は魔法アタッカーだが【死滅魔術】によるデバッファーも兼ねている。

 教授のデバフにより戦線を安定させている部分もあるため、教授だけは残ってデバフを更新し続けているのだ。

 もっとも、今回はデバフを安定させずとも封印鬼のレベルが低いためかなり安定した戦いが出来ているのだが。


 そんな戦闘を続けること数十分、遂に2本目のHPバーも破壊されて残りHPバー1本となった。

 残りHPバーが1本になったときの増援に対しては『インデックス』だけではなくハルのパーティも加わって増援を片付ける事になっていた。

 今回の増援はレベルが高いため、早めに対処出来るよう封印鬼から2パーティが離れて対応することになったのだ。

 それによって増援を倒す速度が増し、何とか定期的な増援が来るまでの間に片付ける事が出来た。


 あとは、このまま封印鬼のHPを削っていくだけなのだが……さすがにこのままでは終わらないだろう。


「……妙ですね。レイドボスにしては攻撃パターンの増加が少なすぎる」


 俺達と一緒に繭の防衛にあたっていた十夜さんがそんな事をつぶやいた。


「やっぱり、レイドボスとしては行動がおかしいんですか?」

「そうですね……普通のレイドボスならここまで追い詰められれば、攻撃パターンの1つか2つは追加されるものです。ですが、封印鬼は増援の間隔が短くなる以外に攻撃パターンの変化は見受けられません。レベルが低いレイドとはいえ、ここまでのギミックを考えれば難易度はレベル60レイドにも相当します。それなのにボスの行動パターンが変化しないというのは……嫌な予感がしますね」

「……何か不測の事態があった時に備えておいた方がいいと?」

「そうですね。何か起こるとすれば、HPバーが残り半分になったときでしょう。そのときに備えておくのは大事かと思います」

「わかりました。……そろそろ次の増援の時間ですね」

「そのようです。ひとまずは増援から繭を守り切ることに専念しましょうか」


 敵の増援が来たため、ひとまずそちらの対処をすることに。

 そして、俺達は30秒毎に襲ってくる小鬼達を退けながら封印鬼の戦いを見守ることしばらく。

 遂に残りHPが半分になる時が来た。


「さて、ここが問題ですね。どう来るのか……」

「全方向から同時に攻め込んでくる、とかですかね?」

「それならまだ対処のしようもありますが……ともかく、油断だけはしないようにしましょう」


『そろそろHPバーが半分を割る。準備はいいかい?』


 レイドチャットから白狼さんの確認の声がかかる。


「こちら十夜。問題ありません」

「同じく問題なし。いつでも大丈夫ですよ」

『わかった。それじゃあ皆、総攻撃だ!』


 封印鬼側の攻撃エフェクトが先ほどよりも勢いを増している。

 このままいけば残り数秒でHPバーが半分を割るだろう。

 増援が来るまで15秒ほど残っていることを考えれば、十分に間に合うダメージ量だ。


 そしてHPバーが半分を割ったとき、遂に封印鬼が動き出した!


「グワァァァァァッ!!」

「くっ!」


 封印鬼がすさまじい雄叫びをあげる。

 効果は……中距離のノックバック効果か!


 全員のステータスを確認するがHPはほとんど変わってないように見える。

 だが、封印鬼側にいたメンバー全員が吹き飛ばされていた。


 そして封印鬼はと言えば……雄叫びを上げた直後に飛び上がり、その位置を繭の北東側に変えていた。


「ッ! これはまずいですね!! 僕達で封印鬼の足止めに向かいますよ!!」

「わかりました!」


 俺と十夜さんのパーティは急いで封印鬼の足止めへと向かう事にする。

 どうやらデバフの類いは全て解除され、封印鬼自体から黒い霧が立ち上っている。

 そして、移動速度もかなり速くなっており、全速力で繭を破壊にかかってきているようだ。


「行きますよ! せい!」


 まずはタンクである十夜さんが封印鬼を攻撃して足止めを計る。

 その目論見は成功し、封印鬼は足を止めて十夜さんと戦うことになる。

 これで、足止めが成功せずにまっすぐ繭の方まで走られていたら大変な事になっていた。

 だが問題はその攻撃力が今までに比べて段違いに上がっていたことだった。


「くっ、ハイヒール!」


 十夜さんのパーティのヒーラーからすぐに回復が飛ぶが、回復速度とダメージ量の釣り合いは取れていない。


「ユキと柚月も回復支援にあたってくれ! 残りは総攻撃!」

「わかった!」

「オーケー!」

「うむ!」

「行くよー!」

「ワフ!!」


 俺達も加わり総攻撃が開始される。

 そのダメージ量だが……2パーティ分の攻撃力なのにHPバーの減り方は今までよりもずっと早い。

 どうやら最終形態は攻撃力増加・防御力減少というよくあるパターンのようだな。


「済まない、遅くなった!」

「さあ、行くのである」

「お待たせお兄ちゃん!」

「さあ、行くぜ!」


 先ほど吹き飛ばされていた残りのパーティも合流し、全員で総攻撃を加える。


 既に最後の増援から1分以上経っているのに増援が来ていないところを見ると、最終形態に入った後は増援が来ないみたいだな。

 そして全パーティが揃った事で攻撃速度も増した中、一気にHPを削っていくが……


「ガァァァァッ!!」

「ッ!! またか!?」


 再びの雄叫びで、今度は全員が弾き飛ばされる。

 封印鬼はというと、こちらも再び飛び上がり、今度は南西側に降り立った。

 そして俺達の体制が整う前に繭の元までたどり着き、一気に繭に攻撃を始める。

 繭を一カ所にまとめていたことも災いして、繭は次々に破壊されていき、それに伴って封印鬼のレベルは上昇していく。


「この、止まれ! ウォークライ!!」


 ようやく体勢を立て直した俺達が封印鬼に再攻撃を仕掛けるが、その時には既に封印鬼のレベルは60まで達しており……


「くおっ!?」


『白夜』第1パーティのタンクが一撃で倒される程の攻撃力を持ってしまっていた。

 封印鬼のHPは残り2割強だが……


「うん、これはもう無理だね。トワ君、クエストの放棄を」

「……わかりました。クエストを放棄します」


 さすがに一番耐久力のあるタンクが一撃死する状況では戦闘継続は望めない。

 やむなくクエストを放棄してレイドを終了させるのだった。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「……さて、反省会であるが……見事に初見殺しに嵌まってしまったのであるな」

「そうだね。あれは行動パターンを知っていないと対処出来ないと思うよ」

「普通は最終形態まで行けば全員で総攻撃しますからね。まさか、その状態で全員を行動不能にするような攻撃をしてくるとは思いませんでした」


 いつもの反省会ではあるが、今回については希望がある。

 なにせ、敵の行動パターンはほぼ割り出せたのだ。

 後はそれに対処出来るようにするだけである。


「時に白狼君。『白夜』第1パーティのメンバーだけで、最終形態の封印鬼を足止めできるかね?」

「さすがに1パーティで足止めするのは厳しいですね。せめてヒーラーを増員してもらえれば何とか」

「ふむ、それでは最終形態に移行した後は、最初の足止めを『白夜』第2パーティと『ライブラリ』で。その間、『白夜』第1パーティと『インデックス』のヒーラーは封印鬼より離れ、次の移動に備えて待機である」

「それがいいだろうね。時間による移動なのか、それとも残りHPによる移動なのかはわからないけど足止めできるパーティが残っていれば問題なく対処出来るだろう」

「うむ、これで討伐までの展望は見えてきたのであるな。後は、ドワン君達に頼んでいる装備であるが……」

「ああ、それならば大丈夫じゃ。もう素材は仕入れてある。来週水曜日までには全員分完成させよう」

「では頼むのである。……今日はこれで解散であるかな」

「そうだね。来週は討伐できるように頑張ろう」


 こうして反省会も終わり、それぞれ帰路についた。

 ハルやリク達に錬金アクセサリーについて説明をしたが、装備の更新分のお金でも手一杯なのに宝石を用意するだけの資金はないという事で作成は見送られることになった。

 別に貸しにしといてもよかったんだがなぁ……

 それから、ユキの新作料理と俺の新作ポーションについては、しばらくの間販売せずにレイド用の在庫としてストックすることになった。

 金銭的には余裕があるし、それならそれで構わないし貯めておくのもいいだろう。

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