166.最高品質への道程 2
さて、クランホームへと戻ってきた訳だが。
ユキは既にログアウトしているようだった。
まあ、今日は俺のログイン時間も遅かったしすれ違いになることもあるだろう。
……ユキの修行段階について聞きたかったが、それについてはあまり俺から口出しすることでもないし仕方があるまい。
戻ってきた後にマーケットボードから市場にアクセスしてハイポーション系の素材を手頃な価格帯のものは買い占める。
さすがに今日一日では消費しきれないだろうが、今後の修練を考えれば大量にあって困るものでもない。
その後、工房に戻り錬金術による下処理と調合によるポーション作成を行うわけだが……これがなかなか難しい。
今までやってきた作業手順とは異なり、【魔力操作】と【気力操作】ありきの手順になるため、品質がなかなか安定しない。
下処理段階での中間生産物の時点で、合計60セットの品質が★4から★7とかなりばらけてしまった。
ハイポーション類の中間生産物の時点でこれだと言うことは、混合ポーション……なんだか語呂がよくないので『カラーポーション』とするが、そっちの作成ではさらに難しい可能性もあるわけで……
うんまあ、先のことは先で考えるとして調合でハイポーションを作成してしまおう。
ハイポーション類の作成は30分ほどで終わったわけだが、品質のばらつきがヒドイ。
一番下は、今までと同じ★4、最高だと★10とあまりにもばらけすぎていた。
今までだと、なんだかんだ言っても品質は一定に保てていた訳で……これはスキルに慣れるまで、品質が安定しないのが確定だな。
次にカラーポーションだが……これも想像通りというか、想定以上というか、品質のばらつきが酷かった。
下処理の段階で★4から★6までしか作れなかったので、まともな結果にならないだろうと予測はしていた。
だが、完成品の結果が★3から★6までの間でばらけているというのは納得できる値ではなかった。
ちなみに、クリアポーション以外はそれぞれ30個ずつ作って★4から★6、クリアポーションが10作って★3と★4だった。
……難しいのは想定通りであったが、ここまで難しいとは思ってもみなかった。
さすがにこの結果はへこむなぁ……
そして最後が蘇生薬だが……うん、これも難しい。
下処理の時点で★2から★4しか作れないというのは、想定通り最高難易度と言うことなのだろう。
これは【魔力操作】と【気力操作】を覚えていなければ、根本的に作れない物だろうな。
出来た完成品だが……30個作って★2から★5までしか作れなかった。
30個のうち13個が★2、★5になったのは2個だけだった。
さて、問題はこれらをどうするかだが……うん、売り物系で困ったときは柚月に相談だな。
柚月はまだログインしているみたいだし、いるとしたら工房かな?
俺は広げていたポーション類を片付けると、柚月の工房へと向かった。
「柚月、いるか?」
「トワ? どうかしたの?」
「ちょっと相談事。入っても大丈夫か?」
「あー、相談なら談話室で聞くわ。すぐに行くから先に行ってて頂戴」
「ああ、わかった」
柚月も素材と格闘中だからな、工房はあまり見られたくない状況なのだろう。
相談場所が柚月の工房から談話室に変わることになったため、談話室に移動。
談話室で適当に飲み物を飲みながら待っていると、柚月がやってきた。
「トワ、相談事って何かしら? あなたも新しいアイテム作ったの?」
「あなた『も』……ああ、ユキの作った料理のことか?」
「ええ、そうよ。3種類のステータス増加効果のある料理なんて今まで聞いたことがなかったからね。それも★8から★10で」
「ああ、なるほどな。それなら俺も見せてもらったよ」
「それをいくらで売ればいいかって聞かれてね……原価もそこそこかかってるみたいだからあまり安くは出来ないし、それじゃなくてもステータス3種類増加効果のある料理なんて今までなかったわけだから値付けに難儀してね……」
「なるほどな。ちなみに値段は決まったのか?」
「一応ね。とりあえず今までの料理の1.5倍ぐらいから売り始めてみて、すぐ売り切れるようなら値上げ、大量に売れ残るようだったら値下げっていう方針で決まったわ。もっとも、売り始めるのは来週のレイドが終わってからという事になったけどね」
ユキの料理基準で1.5倍っていうことは結構な値段ではある。
だが、それでも買う人は買うだろうな……
なにせ、今までの料理にさらにステータス上昇が増えたわけだから。
「それで、トワは何を作ってきたのかしら?」
「んー、複数ステータスの回復ポーションと蘇生薬かな」
「……今まで散々出来なかったアイテムが遂に出来たのね」
「ああ、どうやら対応レシピを持ってないと作れないパターンのアイテムだったらしいな。もっとも、作るためのアイテムも錬金術で下処理したりしなきゃいけないから、今まで試されてない組み合わせである事は間違いないけど」
「……また頭の痛くなるアイテムを……どれ、とりあえず見せてみなさい」
「はいよ。とりあえずはこれだな」
俺は商品見本代わりに各カラーポーションと蘇生薬のうち、品質が低いものと高いものを1セットずつ取り出す。
取り出されたポーション類を柚月は鑑定して効果を確かめている。
「ふむ……この色のついたポーションの回復量はミドルポーションと同じか少し高いぐらいかしら。そして、蘇生薬だけど……これも市販品よりも回復効果が高くなってるわね。★2でなければ」
「まあ、市販品は★2だからな。……それで、売り物になりそうか?」
「……商売っ気のないトワがそう言うことを聞いてくると言うことは、これもそれなりに元手がかかってるって言う事ね」
「そうだな。数日分程度なら問題ないが、さすがにこれがしばらく続くとなると結構痛手になるかな」
「……それで、これ1つの原価はどれくらいなの?」
「パープル、オレンジ、グリーンが1つ1000、クリアが1500、蘇生薬が2500だな」
「なるほどねぇ。蘇生薬は
「了解、それじゃあ『ライブラリ』銘を入れたら時期を見て販売することにするよ」
「そうして頂戴。……そう言えばそれらのポーションってどんな味がするの?」
「……そう言えば飲んだことはなかったな……」
【魔力操作】と【気力操作】を使った製作にはかなりのMPとSTを消費する。
だが、俺の場合はMPだけは潤沢にあるためSTだけをこまめに回復していれば、MPの枯渇は起こさなかったのだ。
そのためこれらのポーションの試飲は行っていない。
……なお、普通のポーションはなんというかそれぞれシロップのような味がして慣れるまで飲みにくかった。
「とりあえず、それぞれのポーションを1つずつ試飲してみましょうか」
「それもそうだな。それじゃあ、品質が低いのを出すとしよう」
俺は高品質品をインベントリに戻して、代わりに低品質品を出す。
そしてまず始めにパープルポーションを飲んでみたのだが……
「……グレープジュースね、これは」
「ああ、そうだな。グレープ味だな」
普通のポーションとは違い、ジュースのような味になっていて飲みやすかった。
そしてその後、オレンジポーション、グリーンポーションと飲んでみたが、それぞれオレンジ味とメロン味だった。
……これ、普通にジュース代わりにも出来るよな……
「さて、最後はこのクリアポーションなわけだけど……」
「完全に無色透明だからな。これの味は予想できないな……」
「まあ、尻込みしていても始まらないわ。早いところ飲んでしまいましょう」
「そうだな……って、これサイダー味だな」
「そうね、サイダーね。……こうして飲んでみると温い事だけが問題で冷やして飲めばジュース代わりになるわよね」
「ああ、それは俺も思った。温いジュースとなると飲みにくいからな」
「贅沢な発想ではあるけどその通りよね。……冷蔵庫みたいなアイテムって何かなかったかしら?」
「インベントリに入れておけば食材も傷まないからな。そう考えると住人のインテリアショップにいけばあるかも知れないな」
「家電店みたいなものはないでしょうからね。とにかく、味の問題がないことはわかったわけだし、値付けして売りに出しなさい。あと、それらのポーションってレイドには持ち込まないの?」
「うーん、とりあえず今週は持ち込まないで話だけしてみることにする。それで、使えそうってなったら来週のレイドには用意して持っていこう」
「それもそうね。前衛向けにオレンジポーションは役に立ちそうだけど……それ以外のポーションは微妙なラインよね。ハルみたいな魔法剣士タイプのプレイヤーならパープルポーションを欲しがるかしら?」
「その辺のことも未知数だからな。まあ、原価割れしない程度に売れてくれればもうけものと思って売ることにするよ」
「そう、わかったわ。……ところで、それってやっぱり【魔力操作】と【気力操作】で作るアイテムよね?」
「ああ、そのとおりだ。遂に気力操作も覚えることができたからな」
「なるほどね。……っていうことは、私達も2つのスキルを覚えたら何かの作成クエストが発生するって訳ね」
「そうだろうな。ちなみに俺のクエスト名は『上級錬金薬士への道程』ってなってるぞ」
「ユキのクエスト名が『上級料理人への道程』らしいから間違いないわね……ふう、さすがにこれはしんどいわ」
「まあ、頑張れ。それで、そっちは出来そうなのか?」
「うーん、何となく感覚はつかめてきてるわね。後は回数をこなすだけでいけると思うけど……その回数をこなす時間がもう残ってないからね……」
「ああ、そう言われてみればそうだよな。来週中には装備を完成させなきゃいけないんだから、月曜には作り始めないとあの人数分はきついか」
「そう言う事ね。ドワンもイリスもタイムアップだって事で諦めてるわ。……トワの作品を見る限り、スキルを覚えた後も練習しないと品質が安定しそうにないしね」
「その通りだな。練習しないと品質が安定しそうにはないな」
「久しぶりよね、品質が安定しない感じって言うのは」
「俺達はβ時代の間に普通に作る分には品質安定するようになっていたからな」
「……まあ、それが上級職への道だって言うなら仕方が無いわよね。さて、私は戻って練習の続きを始めることにするわ。またね、トワ」
「ああ、助かったよ。またな」
自分の練習へ戻っていく柚月を見送った俺は、新作ポーションをインベントリに仕舞い販売用の各ポーションに値段を設定して販売を始める。
販売用のポーションも多めに補充したけど、あとはどれだけ売れるかだよな。
流石に販売用のポーションは普段通りの品質だし、そんなに多くは売れないと思うけど。
さて、これ以上はやることもないし今日のところは落ちるとしますか。
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