165.最高品質への道程 1
今日も今日とて夜のログイン。
ログイン時間が少し遅くなってしまったが、明日は休みだし特に問題はないだろう。
いつもの日課をこなしに行こうとすると、談話室に柚月達3人が集まって休憩しているところだった。
「あら、トワ。今日はこれから日課? ずいぶん遅かったわね」
「ああ、ちょっと家の方で片付けなきゃいけない用事があってな。そっちはどうしたんだ?」
「わしらは自分達の修練が終わって一息ついているところじゃよ。そろそろ皆の装備を作り始めなければならんしのう」
「そうだねー。ボクは受け持ち分が少ないから、もう少し遅らせても大丈夫だけど、柚月とドワンはそろそろ始めないとねー」
「そうなのよね……悔しいけど、★12は諦めるしかなさそうね」
「そうじゃのう。何とか【気力操作】は覚える事が出来たのじゃが……」
「私も【気力操作】は覚えられたけどね。でも【魔力操作】は間に合わないだろうし、例え覚えられても練習する時間が足りないわ」
「ボクは【魔力操作】の方を覚えたよー。でも、【気力操作】はもう少しかかりそうかなー」
どうやら3人も順調にスキル修練の方は進んでいるらしい。
やっぱり、一度感覚をつかめばある程度は楽なのだろう。
「そう言えば、ユキはもう★12の料理を作れるようになったみたいね。このお茶も★12だし」
「うむ、β勢でもないのにわしらよりも先に行くとはやりおるわい」
「ユキは感覚的な事が得意だからな。その辺は個人差だろうな」
「β勢としては負けたくなかったんだけどねー。あの上達速度にはかなわなかったよ」
確かに、ユキの上達速度はここにいる4人の誰よりも早いからな。
「そう言えば、ユキは? ログインはしているみたいだけど……」
「ランサーギルドで納品クエストをこなしてくるって言って出かけていったわよ。何でも修行の次の段階に進むのに、もっとスキル修練が必要らしいわね」
「そうか……俺達もスキル取得が終わったら次の段階だよな」
「そうね。そこから先が待ち構えているとなるとかなりきついわね……」
「まあ、先の話を今してもしょうがあるまい。まずは目の前の課題を済ませねばな」
「そうだよねー。……さて、それじゃあボクは休憩終わりにして修練に戻るねー」
「わしもそうしようかの。柚月はどうするんじゃ?」
「私はお店の方の売上状況を確認してからにするわ。トワは日課でしょう? 気をつけてね」
「ああ。といっても、王都を少し歩き回るだけだからたいした問題も起きないだろうが」
「それもそうね。それじゃ、行ってらっしゃい」
柚月に見送られながら、日課の銃製造と練習素材の受け取りに向かう。
日課の作業についてはいつも通り1時間程度で終わってしまうが、大分マナカノン製造も慣れてきた感じだ。
試しにウェポンチェッカーを使って熟練度を確認してみると、マナカノンの値についても4割近くまで来ていた。
ちなみにライフルは8割程度、マギマグナムは前回調べたときと同じ100%である。
ここから先は実際にマナカノンを使うようにしないと厳しいだろうな。
ワグアーツ師匠の自宅で練習素材を受け取ってきた俺は、クランホームに戻ると自分の工房へと向かった。
工房では既に帰ってきていたらしいユキが何かを生産していた。
真剣に作っているため、いきなり話しかけるのはやめておいてユキの作業の様子を見ていることにした。
どうやら【魔力操作】と【気力操作】を同時に使って何かを作っているようだが……かなり真剣だな。
やがて作業が終わった様子なので声をかけることにする。
「ユキ、お疲れ。何を作ってたんだ?」
「あ、トワくん。えっと、料理修業で課題にされた料理を作ってたの」
「そうか。……それにしてもずいぶんと真剣な様子だったが」
「製作難易度が高い料理を★12で見せるって言うのが課題の内容だから……ちょっと真剣にやらないと厳しいかなって」
「なるほどな。それで、★12には出来たのか?」
「ううん、全然。★10までしか届かなかったよ」
そう言いながら見せてくれたのは海鮮スープだった。
……そう言えば、スキル修練で作っていたのもフカヒレスープだったし、王都では魚介類が手に入るのか?
魚介類についての疑問はさておき、海鮮スープを確認すると……うん、確かに★10だった。
ただし、ステータスバフはMP・INT・MNDという3種類が上がるという代物だったが。
「……ステータスバフが3種類になったんだな」
「うん。今、練習している料理は全部3種類同時バフだよ。すごいよね」
「そうだな。今までの料理は多くても2種類しか上がらなかったからな……」
「素材自体は1日20個作れるだけ売ってもらえるけど、それなりに原価かかるんだよね……お店で販売できないか柚月さんに相談してみようかな?」
「そうした方がいいだろうな。……それじゃあ、俺も自分のスキル修練に入るから」
「うん、頑張ってね。多分、そろそろ【気力操作】も覚えられる頃だと思うからがんばってね」
「ああ、わかった。それじゃ頑張ろうかな」
ステータス3種類のバフ効果、それもMP+100、INT+80、MND+80というなかなかの爆弾を持ったユキは柚月のところに相談に行ったみたいだ。
今までの料理だとステータス2種、それもMPが上がる構成だと★11ですらMP+100、INT+70とかだったから、今回の料理がどれだけ効果が高いかっていうのがわかるものだ。
薬膳料理? あれは、HPとMPを上げることに特化した料理だから除外だよ。
さて、俺のスキル修練な訳だが……気力自体がどんなものなのかは大体つかめてるんだよな。
問題は、その気力調整がイマイチ安定しないことで……
ともかく、修練開始と行くか。
まずは【魔力操作】のおさらいから始める。
素材全体にじっくりと魔力をなじませながら調合作業を行い……うん、問題なく★9の劣化HPハイポーションが完成した。
この感覚を気力でも出来るようになれば良いんだよな……
さて、それじゃあ【気力操作】の練習に移ろうか。
素材の量はゲーム内2日分だから40回分、うち1回分は今し方使ってしまったので残り39回。
上手く覚える事が出来れば良いけど……
失敗、失敗、失敗、失敗、失敗…………
わかってはいたけど、失敗続きはなかなか精神に来るものがある。
失敗、失敗、失敗、失敗、失敗……
おや? 20個ほどやったところで★5まで品質が上がっていた。
後もう少しでスキル取得までいけるんじゃないか?
失敗、失敗、失敗、失敗、成功!
〈【気力操作】を習得しました〉
★7品が出来たタイミングでシステムログに【気力操作】の習得ログが表示された!
ステータスを見ても【気力操作】スキルが特殊スキル欄に表示されてるし、キチンと覚える事が出来たらしいな!
さて、後はこれらを同時使用して★11を作るだけだが……今までの感覚から言って、薬草類を下処理する段階からこれら2つのスキルを同時使用しないといけないだろうな。
さて残り14回分、気合いを入れて作らせてもらうとしよう!
―――――――――――――――――――――――――――――――
結局あの後、薬草の下処理から【魔力操作】と【気力操作】を使い始めたが、品質は安定せず★12になったのは2セットのみだった。
だが、その2セットのうち1つで★11の劣化HPハイポーションを作成することに成功した。
これで、修行段階も次のステップへと進めるだろう。
クエストクリアの条件を揃えた俺は、意気揚々とワグアーツ師匠の家へと向かった。
「ふむ、また来たのか。……その様子では劣化HPハイポーションの作成は上手く行ったようだな」
「ええ、★11の劣化HPハイポーションが完成しました。確認をお願いします」
「うむ、よかろう。……確かに、品質がよくなっているな。まだ安定して作る事は出来ないだろうが、ひとまずは及第点と言ったところか。それでは次のステップに進むとしよう。少し待っておれ」
それだけ言い残すとワグアーツ師匠は工房の奥へと消えていった。
少しして戻ってくると、その手の中にはいくつかのレシピが握られていた。
「まずはこのレシピを覚えてもらおうか。今までのレシピを覚える事が出来たのだから、これを覚える事は容易いだろう」
俺は半信半疑ながらもワグアーツ師匠の差し出したレシピを読んでみる。
……うん、確かにこれなら覚えられるな。
ワグアーツ師匠は堅物だから、実はまた言語学レベルが足りませんでした、とかありそうで恐かったのだが……って、このレシピは!
〈『パープルポーション』のレシピを覚えました〉
〈『オレンジポーション』のレシピを覚えました〉
〈『グリーンポーション』のレシピを覚えました〉
〈『クリアポーション』のレシピを覚えました〉
〈『蘇生薬』のレシピを覚えました〉
……一気にいろいろなポーションのレシピを覚えたから焦ったけど、とりあえず落ち着いて整理してみよう。
まずは『パープルポーション』。
これはHPとMPを同時に回復するポーションだ。
教授曰く、検証スレで複数同時回復のポーションが作れないかの試行錯誤はずっと続けられてきたらしいが、完成したという報告はない。
このゲームでは『既存レシピに相当するアイテムはオリジナルレシピで再現不可』という縛りがあるアイテムが存在する。
広く知られているなかで有名なのはミスリル金の作成方法だが……どうやらこのポーションもそれに該当するらしいな。
製造方法は……ワグアーツ師匠のところに通い始めた頃にもらった錬金術用のレシピで下処理をした薬草類を魔力水で調合するのか……はっきり言って、作る前から難易度が高いレシピだとわかってしまうぞ。
次に『オレンジポーション』『グリーンポーション』『クリアポーション』だが、それぞれ『HPとST』『MPとST』『HP・MP・ST全て』の同時回復用ポーションだ。
作成のための行程も『パープルポーション』と一緒。
こっちも製作難易度は高そうである。
最後が『蘇生薬』である。
これについては王都の
だが、自作する方法はまったく見当もついていない状況がずっと続いていたのだが……ここに来てようやくレシピの発見か。
そして製作方法だが……これも錬金術で薬草類を下処理してから調合という手順だ。
はっきり言って、同時回復用ポーションもそうだが普通の調合士には作れない代物だな。
「無事、レシピを覚える事に成功したようだな。どれ、まずは手ほどきとしてそれぞれを作るところを見せてやろう。それぞれ一度ずつしか見せぬのでしっかり見ているように」
ワグアーツ師匠はその言葉通りにそれぞれのポーションを仕上げていく。
出来上がったポーションの品質を確認させてもらったが、どれも★12と最高品質だった。
「次の課題はこれらの混合ポーションと蘇生薬、それから……そうだな、ハイポーション類全てを最高品質で作成して持ってくるのだ。それだけのことが出来れば、さらに次の段階へと進めることだろう」
……これらのポーション全てにハイポーションって言うことは……全部で8種類のポーションを★12で仕上げてこいと言うことか。
確かに、錬金薬師はポーション作りに最適な職業だけど結構きついよな……
「そうそう、ポーション作成用の薬草類だがわしが懇意にしている業者から買い付けたものを譲ってやろう。これまでとは違い、タダでという訳にはいかぬのでな。相応の金額は支払ってもらうが、市井では手に入りにくい薬草も多く含まれている。……そうだな、2日に一度は仕入れておくので、その都度買いに来るといい」
ワグアーツ師匠に促されて販売リストを見てみたが、どの薬草も普通にマーケットで手に入れるより安く高品質だ。
購入制限も回復系ポーションの素材が合計100セット、蘇生薬の素材が30セットと練習用としては申し分ない数量だ。
……だが、数が多いという事はそれだけ費用もかさむと言うことで……うん、これ普通のプレイヤーだと破産するんじゃないかな?
俺はなんだかんだで小金持ちだから問題ないけど。
ひとまず、ワグアーツ師匠の勧めに従い薬草類を限界まで購入した俺はクランホームへと帰還するのだった。
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チェインクエスト『上級錬金薬士への道程』
クエスト目標:
下記のポーション類を★12以上で作成しワグアーツに見せる
HPハイポーション 0/1
MPハイポーション 0/1
STハイポーション 0/1
パープルポーション 0/1
オレンジポーション 0/1
グリーンポーション 0/1
クリアポーション 0/1
蘇生薬 0/1
クエスト報酬:
次段階へのクエスト進行
称号【上級錬金術士】【上級調合士】取得
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