164.古代神殿 2

「エントランスホールの制圧は終わったけど、これからどこに向かえばいいの?」


 ユキからそんな疑問が出てくる。

 確かにエントランスホールからは奥に続く扉の他、右手と左手側にも続くドアがある上に2階へと通じる階段もある。

 ぱっと見ではどこに向けば良いのかわからないだろう。

 俺は教授からここの編成について聞いているので、これからやることを説明する。


「このまままっすぐ奥に進むぞ。そうしたらそこに礼拝堂があるから、そこをクリアしたら一度脱出して入り直し。その繰り返しでエントランスホールと礼拝堂1階の敵だけでレベル上げするんだ」

「そうなの? 他の場所には行かないの?」

「右手側に行けば離れに出るけど、そこの敵のレベルは52以上だ。まだまだ俺達のレベルじゃ危険があるからね。それにあっちは狭いエリアに多数の敵がいて危ないし」

「それじゃあ左手側は?」

「そっちは地下に続いていて、敵のレベルも54以上になるらしい。離れよりも敵は強いかな」

「へえ、そうなのね。それじゃ2階は?」

「そっちはさらにレベルが高くて55以上だな。さっき話をした神殿の守護者なんかが出てくるのも2階のエリアだ」

「なるほどね。ずいぶん細かくレベル分けされてるのね」

「その分、実際に攻略しようと思うと色々大変なダンジョンなんだけどね。俺達みたいに低レベルのレベル上げをするのなら、決まったところを何度も行き来して敵を倒すしかないかな」

「そう、まあわかったわ。まずはその礼拝堂1階とやらに行きましょうか」

「それがよい。それで、トラップはどうなっているのじゃ?」

「離れや地下室にいかなければ存在しないそうだ。おかげでスキル上げも出来ないけどな」

「ふむ、それならばそれで仕方が無いのう。それでは先に進むぞい」


 ドワンが先頭に立ち、礼拝堂へと抜ける扉を開ける。

 その先には大量のモンスターが待ち構えていた。


「……これはまた、ずいぶんと大量ではあるのう」

「でもグループ毎のモンスターの数は少ないみたいだよー?」


 イリスの言葉通りモンスター自体は広い礼拝堂に無数に存在しているが、グループとして見てみると2体から4体の敵が1グループとして行動しているようだった。

 これも教授から伝えられた内容ではあるが……


「ここの敵はリンク数は少ないけど、索敵範囲がそれなりに広いんだ。だから、うかつに移動しながら戦闘すると一気に大量のモンスターに囲まれることになるぞ」

「へぇ……それも教授情報?」

「決まってるだろう。とにかく、ここで戦いたいなら入口付近から少しずつ敵を釣り出し、各個撃破していくのが一番楽、だそうだ」

「なるほどねぇ。確かにわたしらにとってはそれが一番楽よね」

「そうじゃのう。それではスマンがイリスよ、一番近くの敵を釣り出してもらえるかのう」

「まかせてー。じゃあ行くよー」


 イリスは近くにいた敵めがけて矢を放つ。

 放たれた矢は狙いを過たず、狙った敵の頭部を射貫いた。

 だがさすがに一撃で倒す事は出来なかったようで、撃ち抜かれた敵がいるグループ4体ほどがこちらに向かってくる。

 俺達は、射程距離に入ってきた敵に向けて攻撃を開始する。

 まずはイリスが撃ち抜いていた相手だ。


「ラーヴァショット!」

「二連弓!」

「ラピッドショット!」

「ホーリーランス!」


 俺達4人の総攻撃を受けた敵は抵抗できずに塵に帰り、残った敵3体はドワンの挑発スキルを受けてドワンへとターゲットを変更する。

 あとは、それぞれがターゲットをドワンから奪わないように気をつけながら倒していくだけだ。

 実際、残った敵3体の処理も2分ほどで片付いてしまう。


「……レベルが高い割にはあっけなく終わるのね?」

「基本的には物量で押してくるダンジョンらしいからな。こういう風にうかつに移動しないように気をつけて各個撃破すると、時間は少しかかるけど安全に狩れるそうだ」

「なるほどねぇ。ここは確かに私達にはおいしいわ。遠距離攻撃手段は豊富だし、接近戦になっても十分に戦えるものね」

「そういうことだ。さあ、次のグループに取りかかるぞ」

「わかったわ。じゃあイリス、お願いね」

「はーい。任せてよー」


 イリスが次のターゲットに向けて矢を放つ。

 俺の黒牙では威力が高すぎて一撃で敵を倒してしまうため、イリスの攻撃力が最適と判断されているのだろう。

 実際、俺も【ライフル】スキル以外のスキル上げをしたいから、今は建御雷と氷迅の組み合わせだ。

 さて、次の獲物が来たら歓迎してやるとするか。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「ふむ、これで全部かのう」

「そのようだな」

「皆、おつかれさまー」

「ふう、終わったわね」

「お疲れ様でした」


 30分強で礼拝堂にいたモンスター全てを片付け終わった。

 この30分で種族レベルが1上がり、それに付随するように職業レベルもそれなりに上がっている。

 それにこのダンジョンとしてみた場合、かなり低レベルだったシリウスの成長具合は激しく、既にレベル13まで上がっている。

 他の皆もそれぞれレベルが上がっているようだ。


「エントランスも含めて大体1周45分ぐらいかしら。45分でレベルが2も上がったと考えればかなりおいしいわよね」

「ほう、柚月は2も上がったか。わしは1だったのう」

「ボクも1だけだったなー。45になったよー」

「あら、私だって2上がって45よ。ドワンは?」

「わしも45じゃのう。トワ達はどうなんじゃ?」

「俺も45に上がったところだな。もっとも上がったのは結構前だけど……」

「私も45になりました。全員のレベルが揃ったことになりますね」


 どうやらそう言うことらしい。

 一応はこれで最低限のノルマは果たしたことになるが……


「そうなってくると、次はプロキオンやシリウスのレベル上げを考えなくちゃいけないのよね……」

「そうじゃのう。フェンリル達もわしらにとっては貴重な戦力じゃからな」

「そうなるとやっぱりパーティ分けした方が早いよねー」

「……ああ、途中3人だけで戦っていたのはそのためか」

「そう言う事よ。まあ、そっちとパーティ分けしたら私達は私達でケットシーを喚ぶんだけどね」

「そうじゃの。ケットシー達にハンドガンを持たせてみたが、なかなかの戦力になったわい」

「さすがにトワの攻撃力には及ばないけどねー。3人でも4体のグループを倒せたから2パーティに分かれても何とかなると思うんだー」

「そうだな……それじゃあ、一度脱出してからパーティを再編するか」

「それがよい。それでは脱出するとしようかのう」


 礼拝堂もエントランスホールも敵は全て倒してあるので、脱出するのに妨げになるものは何もいない。

 エントランスまで戻った俺達は出入り口を開けてダンジョン外へと脱出する。


「さて、問題なく脱出出来たわけじゃが。予定通り、わしと柚月、イリスの3人と、トワとユキの嬢ちゃんの2人の2パーティに分かれると言うことで構わんかの?」

「ああ、大丈夫だ。こっちも攻撃方法に制限をかけなければ2人と2匹で何とかなるだろう」

「うむ、それではわしらはパーティを抜けるぞ」

「それじゃあ、そっちも頑張ってねー」

「全滅しないように気をつけなさいよ」


 柚月、ドワン、イリスの3人がパーティを抜けていった。

 そしてあちらはあちらでパーティを組み直してケットシーを呼び出し、またダンジョンの中へと潜っていった。

 こちらのパーティもユキがプロキオンを召喚して合計4人パーティになる。


「こっちの準備は大丈夫だよ、トワくん」

「了解。それじゃあ俺達もダンジョンに入るとしようか」


 ユキとフェンリル達を伴い、ダンジョンへと再度進入する。

 エントランスホールの敵は当然だが復活している。


「まずは様子見だね」

「そうだな……黒牙で1体を撃ち抜いて1体だけを釣り出すとするか」


 俺は近くにいる2体グループの敵に向けてハイチャージバレットを叩きこむ。

 やはり、ハイチャージバレットに耐えられるほど敵のHPは高くなく、一撃の下に塵となる。

 残った1体がこちらに向かってくるが、その攻撃もプロキオンによってシャットアウトされる。

 こうなれば後はプロキオンのHPに気をつけながら残った敵を倒すだけである。

 今回は1体だけと言うこともあり、俺とユキ、シリウスの総攻撃ですぐに倒してしまった。


「うん、この調子なら大丈夫そうだね」

「そうだな、下手にリンクさせて大量の敵に囲まれなければ大丈夫だろう」

「それじゃあ次の敵だね。よろしくねトワくん」

「ああ、それじゃあ釣り出しますか」


 こうして敵を少数ずつ釣り出すことで俺達は安全にエントランスホールと礼拝堂を再度制圧することに成功した。

 レベルもまた1上がったし、スキルレベルも色々上がってとても美味しい狩り場だ。


「プロちゃんはレベル22まで上がったみたい。シリウスちゃんは?」

「んー、こっちはスタートが低かったからな。まだ17だ」

「そっか……ところで礼拝堂の周りにも小部屋があるみたいだけど、あそこって何があるの?」

「んー、あの中はこの礼拝堂の先を攻略したい場合に入る部屋だな。礼拝堂の先に続く扉の鍵がどこかの小部屋に隠されてるんだよ」

「礼拝堂の先ってどうなってるの?」

「少し進んだところでボスエリアになるらしい。だから、そこの小部屋に隠されてるのは礼拝堂の鍵とボス部屋の鍵の2つだな」

「そうなんだ……ちなみにボスってどんな敵なの?」

「そこまで聞いてこなかったな……確か、礼拝堂エリアにいるボスはレベル55だって言う話だけど」

「私達じゃ厳しいよね?」

「小部屋にいる敵も厳しいと思うぞ。レベル50台の敵が6匹ぐらい同時に襲ってくるはずだからな」

「そうなんだね。それじゃあ、一度ダンジョンを出てもう一周かな?」

「そうだな……時間にも余裕があるし、もう一周行っておくか」

「うん、そうしよう」


 こうしてこの日は都合3周してダンジョン攻略を終了することになった。

 シリウスのレベルは20まで上がり、俺の種族レベルも47まで上がったし順調だったな。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「ああ、トワ達も戻ってきたのね」


 古代神殿の周回を終えてクランホームに戻ってくると、柚月達が談話室で休憩しているところだった。


「ずいぶん遅かったけど、何周してきたの?」

「私達は別れた後に2周してきました。そちらはどうでしたか?」

「私達は1周だけで引き上げてきたわ。さすがに1周に80分ぐらいかかると連戦はきついわね」

「やっぱり神聖属性がないのはきついか?」

「正直に言ってきついわね。もう少しは楽かと思ったけどそんな事はなかったわ」

「そうじゃのう。じゃが、3人でも周回することが出来るのはわかったのでな。明日以降も周回する予定じゃよ」

「といっても、1日2周が限度だけどねー。3周はちょっときついよー」

「そうか……なら、明日からは特殊ポーションも持って行ってみるか?」

「そうさせてもらおうかしら。それなら多少は楽になるでしょう」

「そうじゃのう。厚意に甘えるとするか」

「そうだねー。……そう言えば属性効果を付与するポーションとか錬金アイテムってないの?」

「そう言ったアイテムは聞いたことがないな。俺が知らないだけなのか実装されていないのか……」

「ともかくすぐに手に入るわけじゃないのね。わかったわ、こっちはこっちで何とかするから大丈夫よ」

「そうか、それじゃよろしく」


 この日はダンジョン攻略についてはこれで終了となった。

 ダンジョン攻略はこの後も2日続き、結果として俺の種族レベルが49、シリウスのレベルが25まで上げることが出来た。

 とりあえず、レイドに向けてのレベル上げはこれで十分だろう。

 あとは……装備を更新出来るかどうかだな。

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