159.レイドアタック 3 ~ボス戦~

「ふむ、我々の繭の被害は1つであるか。上々であるな」

「僕達も1つだけだよ。さすがに全部守り切るのは難しいね」

「私達も1つですね。少々手間取ってしまいました」

「俺達も1つです。0に抑えるのは厳しいですね。地味に、一番ダメージを負っている繭を狙い撃ちしてきますし」

「わたし達は結局2つ破壊されちゃったよ。でも、先週に比べると進歩したよね!」

「俺達も2つだな……やっぱり、このステージが一番きついぜ」


 中盤戦であるパーティ毎の妖精の繭防衛戦を終えての被害状況の確認。

 俺達『ライブラリ』と『白夜』の2パーティ、それから『インデックス』のパーティはそれぞれ被害が1つに収まった。

 ハルやリク達も被害が2つずつで済んでいると言うことは、先週に比べると格段に進歩している。


「ふむ、やはり移動速度増加ポーションは偉大であるな。カバーが非常に楽だったのである」

「後は慣れていけば自然と被害も減っていくだろうね。それまでは通うしかない思うけど」

「それから、合流後は妖精の繭を移動できる事がわかったのも収穫であるな。これで、守りやすくなったのである」

「その分、範囲攻撃には注意が必要だけどな。……それはそれとして、移動速度増加ポーションは足りてる?」

「……そうだね。今回は移動速度増加ポーションではなくてステータス増加ポーションで挑んでみようか」

「そうですね。前回もこのステージで破壊された繭の数は0個でしたし、移動速度の増加よりも攻撃力の増加を取った方がいいでしょう」

「そうか? 移動速度増加ポーションのままでもいいと思うんだが……」

「まあまあ、リクさん。今回はステータス増加ポーションを使ってみて、ダメだったら次回からは移動速度増加ポーションを使えばいいじゃないですか」

「そう言うことだな。それじゃあ、そろそろ襲撃が始まる時間だ。準備をしましょうか」


 俺達はそれぞれの攻撃ステータスが上がるステータス増加ポーションを飲み、次の襲撃に備える。

 結果だけを言えば、このステージで破壊された繭は0個であった。


 やっぱり全パーティが合流してからの戦闘はかなり楽だな……



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 そして、最後のボスである妖精郷の封印鬼までやってきた。

 今回の作戦変更は、増援に対処するパーティの変更だ。

 通常の襲撃である60秒毎の襲撃については、俺達『ライブラリ』のパーティと十夜さんのパーティが当たることになった。

 そして、HPバーを一定値まで減らした時の対処はハルとリクのパーティが追加で対応する事にした。

 『インデックス』のパーティは教授が死滅魔術によるデバフが封印鬼に効果があるか試すため、今回は封印鬼の専属対応と言うことになった。


 やがて時間になり、森の奥から封印鬼が姿を現す。

 出現した方向は前回と同じ南側、レベルは破壊された繭の数と同じ8だけ上がってレベル48だった。


「……こうして増援を待つだけって言うのも暇ですよね」

「そうね、暇よね」

「まあまあ、それが私達の役割ですから……次の増援まで残り10秒ですよ」

「了解、それじゃあ準備しますか」


 正直、60秒毎の襲撃についてはまったく問題がなかった。

 俺が【ライフル】スキルの『ハイチャージバレット』を扱えるようになったというのもあるが、何より大きかったのはシリウスを召喚出来た事だ。

 封印鬼が出現するまでの待ち時間の間に、プロキオンとシリウスを入れ替えることができないか試してみることになったのだ。

 失敗するとパーティメンバーが1人減ってしまう恐れがあったのだが、実際に試してみると問題なく入れ替えることが出来た。

 普通はレイド途中でパーティメンバーを変更しようとすると、パーティから除外されたメンバーがレイドエリアから強制的に出されてしまうらしいのだが、眷属の場合はその場で召喚および帰還という形を取るため問題がないようだった。

 よく考えてみれば、インスタンスダンジョンでも途中で召喚したり帰還させたり出来たのでそれと一緒なのだろう。

 ともかく、シリウスを召喚出来た事で攻撃力が高まり、またシリウスに乗っての機動戦闘が可能となったため、増援の殲滅速度が飛躍的に向上した。

 具体的には、俺と柚月が移動砲台と化したため遠距離タイプの小鬼達を殲滅する速度が上昇したのだ。

 遠距離タイプの小鬼達さえ倒してしまえば、後はゆっくり処理しても構わないのだから。


 そうこうしている間に1本目のHPバーが50%を切り、二方向からの同時攻撃が始まる。

 今回は時間調節を行い、三方向同時にならないように次の襲撃までの時間に余裕が出来るようにしてから50%の増援を誘い出した。

 この戦略は見事に的中して、妖精の繭への被害を一切出さずに乗り切ることが出来た。

 もっとも、俺達妖精の繭の防衛組は忙しい思いをすることになったのだが……まあ、それはたいした問題ではないだろう。

 そして、1本目のHPバーを破壊したときの増援も同じように対処し、問題なく処理を終える。

 だが、次の問題はこのタイミングでやってきた。


「うん!? もう敵の増援か!? まだ、1分経ってないぞ!?」

「……どうやら、2本目からは増援のタイミングが変わってくるようです! 今回の増援は、前回の増援の45秒後に来ています!」

「まあ、やることは変わりませんけどね! それじゃあ行ってきます!」


 増援間隔が短くなっているようだが特に問題はない。

 これまで通りのパターンで処理して事なきを得る。

 そして次の増援を待ってみたが、やはりHPバー2本目からは45秒間隔に増援のタイミングが変わっているようだった。


「増援の間隔が短くなりましたか……ここまでは順調に処理できていますが……」

「そうですね。問題はHPバーを削っていったときに追加増援が来るかどうかですか」

「そうなりますね。タイミングがかなりシビアになります。場合によってはシリウスに乗れる2人だけで足止めを頼む可能性もありますね」

「わかりました。そのときは、なるべく早めに増援をお願いしますね。シリウスでは近接タイプ8体の足止めはかなり厳しいですから」

「……眷属召喚でそのタイミングだけプロキオンと入れ替えることが出来れば最善なのですが……」

「タイミング的に難しいでしょうね。っと、そろそろ次の増援の時間ですね」

「そのようです。まずは本隊が封印鬼のHPを削り取るまで頑張って耐えましょう」


 その後も増援に関しては問題なく処理を続ける事に成功し、問題の封印鬼のHPバー2本目50%が近づいてきた。

 増援が来る可能性という懸念は既にレイドチャットで共有済みなので、封印鬼のダメージ調整は行ってもらっている。

 そして、定期間隔の増援の処理が終わったタイミングで総攻撃を仕掛けてもらう。

 すると……やはり二方向からの同時襲撃が発生したか!


『やはり同時襲撃が来ました! 敵のレベルは44、剣と斧が4ずつ、弓と杖が1ずつです!』

『了解した! ハル君達とリク君達は迎撃に向かってくれ』

『了解です!』

『わかった!』


 今回の襲撃は北側と西側の二方向。

 北側は俺と十夜さん達が担当し、西側をハルとリク達が担当することに。

 こちらの迎撃は上手くいっていたが、やはりレベルが上がっていることもあってすぐに倒す事は出来ない。

 そうこうしているうちに定期間隔の襲撃の時間となり……


「こちらはもう大丈夫です! 『ライブラリ』のパーティは東側から来た増援の対処をお願いします!」

「わかりました! 柚月、シリウスに乗れ!」

「オーケー! それじゃあ、一足先に行ってくるわね!」

「はい、お気を付けて!」


 普段通り俺と柚月がシリウスに乗って先行し、残りのメンバーは後から追いかけることに。

 シリウスにも弓小鬼の迎撃を頼み、俺は杖小鬼の迎撃に専念する。


「ハイチャージバレット!」

「グギャギャ!?」


【ライフル】スキルのハイチャージバレットであれば杖小鬼も弓小鬼も一撃で倒す事が出来る。

 問題は、ハイチャージバレットのリキャストタイムが20秒と少し長めなことだ。

 こればかりはどうしようもないので、間にチャージショットを挟み遠距離タイプの小鬼は全て片付ける。

 その間に近接タイプの小鬼には接近されてしまったので、まずはシリウスにターゲットをとってもらいこれ以上近づけるのは阻止する。

 あとはシリウスの回復を優先しながら皆の到着を待ち、近接タイプの小鬼を処理するだけだ。



「……ふう、何とか今回の襲撃も被害0に食い止めることが出来たな」

「結構ギリギリだったよね……」

「仕方が無いじゃろう。それよりも中央部に戻るぞい」

「わかった。急いで戻ろうか」


 ハルやリク達は既に迎撃を終えて封印鬼の攻撃に戻っている。

 俺達も急いで中央部に戻り、十夜さんのパーティと合流した。


「その様子ですと、かなりギリギリだったようですね」

「ええ、ギリギリでした。正直、次の襲撃で同じ事があれば間に合わないでしょうね」

「そうですね……そこについて話をしておきましょうか」


 その後、レイドチャットで白狼さんと増援のことについて話あったが、今回はまだ様子見と言うことでひとまずこのままの対応を続けることとなった。

 封印鬼のHPは順調に削れて行き、やがて2本目のHPバーが破壊される瞬間がやってきた。

 今回も増援のタイミングを見計らっての破壊となり、今回も二方向からの襲撃があった。


『今回の襲撃は北と西からです! 構成は前と一緒ですがレベルが45まで上昇しています!』

『了解した! それでは打ち合わせ通りに頼むよ!』


 事前に決めていた通り、俺達は行動を始める。

 だが、さすがにレベル45になった小鬼はなかなかしぶとい。

 ハイチャージバレットなら一撃で沈むが、チャージバレットだと2発が必要となる。

 そんな強化された増援に手間取っている間に、次の増援がやってくることとなった。


「そんな!? まだ、それほど時間が経ってないのに!?」

「話は後です! 『ライブラリ』の皆さんは新しい増援の対応をお願いします!」

「了解、行くぞ皆!」


 定期で現れる増援のレベルは40のままのようだが、進行速度が速くなっている気がする。

 俺達が攻撃可能な位置に到達する前に、小鬼の遠距離タイプが妖精の繭へと攻撃を始めてしまった。


「さすがに間に合わなかったか!」

「とにかく早く倒すわよ!」


 妖精の繭をひとかたまりにして置いていたため、杖小鬼の攻撃はほぼ全ての繭にダメージを与えてしまう。

 この状態で弓小鬼のアローレインまで使われたら最悪だ!

 俺達は攻撃可能距離になると同時に遠距離タイプの小鬼に攻撃を仕掛ける。

 そして程なく、遠距離タイプは仕留めることが出来たが……妖精の繭をいくつか破壊されてしまった。

 アローレインまで使われずに済んだのは幸運だったか?


「どうやらそちらも終わったようですね……妖精の繭の被害はいくつですか?」

「全部で6個破壊されましたね……って、もう次の襲撃!?」


 十夜さん達が戻ってきて被害状況の確認をしている間に次の襲撃が始まっていた。


「……どうやら、HPバー3本目では30秒間隔で攻撃が来るようですね!」

「……本当に楽にはクリアさせてくれないですね!」

「そうですね。ともかく増援を倒しましょう!」


 増援自体レベルが上がってないため、そんなに時間をかけずに撃破可能である。

 だが、封印鬼と戦っているパーティの消耗は激しいようで……


『トワ君、済まないがこの辺りで今回は撤退しよう。こちらの被害が少々大きくなってきている』

「わかりました。レイドクエストを放棄します」


 こうして俺達の3回目のレイドアタックは終了した。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――


 そして、レイドエリアからクランホームに戻っての反省会。

 参加者は前回と一緒である。


「さて今回の反省会であるが、ボスまでについては問題ないのであるな」

「確かに。パーティ毎に分断されているときの動きはそれぞれで最適化してもらうしかないからね」

「問題はボス戦ですね。特にHPバー2本目に入ってからの増援がなかなか厳しいことになっていました」

「正直、封印鬼のHPを一定まで削ったときの対応は、今回の方法じゃギリギリだな……」

「それについては考えがある。HPバー2本目で一定値まで削ったときの対応は、予備として『インデックス』のパーティにも増援対応に当たってもらう事にしたい」

「ふむ。どちらにしても増援対応が出来なければ、封印鬼に攻撃することもままならないのであるからな。承知したのである」

「ハル君とリク君達については今日と同じ戦法で大丈夫だと思うけどいけるかな?」

「はい、大丈夫です!」

「こっちも問題ないぜ。あとは、HPバー3本目の時の対応だな……」

「定期間隔の襲撃に関しては問題ありません。30秒毎になっていますが問題なく対処できています」

「まあ、問題があったら移動速度増加ポーションを使えばいいだけだけどね」

「それじゃその方針で行こうか。後は装備の更新がいつになるかだけど……」

「それは柚月達に聞かないとわからないな。素材は大分集まったみたいだけど、まだ少し足りていないみたいだし……」

「そうか。それじゃ、予定通り来週の挑戦もボスの様子見と行こうか。本格的に攻略を目指すのは再来週からだね」

「それでは今回の反省会はここまでであるな。お疲れ様である」


 今日の反省会は非常に短い時間で終わった。

 というか、そんなに話すこともなかったしな。

 後は、柚月達の進捗状況を確認してこの日は終了となった。

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