157.【気力操作】と【魔力操作】そしてライフル製造

「おう、帰ってきたのか、トワ」

「ドワンか、休憩中?」

「そんなところじゃわい」


 クランホームに戻ると談話室に今度はドワンがいた。

 どうやら休憩中らしい。


「どこに行ってたのじゃ?」

「『インデックス』に行ってきた。ちょっと買いたい情報があってね」

「トワの方から『インデックス』に出向くとは珍しいのう」

「そんな事は……あるか」


 よくよく考えたら『インデックス』のクランホームに足を運んだのって1ヶ月ぶりくらいじゃなかろうか。

 普段は教授の方からやってきて用件を済ませてしまうからな……


「それで、一体何をしてきたのじゃ?」

「錬金術でアクセサリーを作った場合、宝石でステータスが変わるらしいんだけどそれの一覧を買ってきた」

「なるほどのう。それを見せてもらっても?」

「構わないぞ。これだ」


 俺は『インデックス』で買い取ってきた宝石の一覧表をドワンに見せる。


「……なかなか頭がいたくなりそうな一覧じゃのう」

「だろう? 俺も作る前から嫌気がさしてる」

「それで、これをどう活用するのじゃ?」

「うーん、とりあえず全員分のアクセサリーを作るつもりだけど……腕輪は全員『幻狼の腕輪』で大丈夫だよな?」

「そうじゃのう……イリスが微妙なラインじゃが、基本的には腕輪は大丈夫じゃろう」

「そうなると、耳、首飾り、指輪だけど……」

「首飾りが無難なところじゃな」

「だよなぁ……今度、皆に確認を取ってみるか。アクセサリーの充実度って全員異なるだろうし」

「それがいい。……そうじゃ、依頼の品を作るための銃身とグリップ、既に完成しておるぞ」

「ん、わかった。それじゃあ、そっちをまず作ろうかな」

「それがいい。それじゃあ、わしはもうしばらくここで休んでいるからな」

「わかった。もしパーツが足りなくなったら、また声をかけるよ」

「出来れば失敗してほしくはないんじゃがな……まあ、ダメだったら声をかけてくれ」


 一応★10だから大丈夫だとは思うけど、気合いを入れすぎると★11になってしまうからな……

 今回の依頼の内容だと、★11はさすがに高性能すぎるからなぁ……


 自分の工房に戻ってみると、ユキが料理を作っていた。

 手順から察するにスキル修練のアイテム作りみたいだけど……なんだか雰囲気が違うな。

 邪魔するのも悪いから声はかけないでおくか……


「あ、トワくん、おかえり」


 と思ったらユキの方から声をかけてきた。


「ああ、ただいま。スキル修練だよな? 普段と雰囲気が違ったが……」

「あのね、遂に出来たの! 【気力操作】が!」

「本当か!? どうやってやるんだ?」

「うん、ちょっと待ってね。今からもう一度やってみせるから」


 そう言ってユキは生産設備の方に向き直る。

 最初の頃は普通に料理をしているように見えたが、途中から左手に黄色い光がともって加工している食品を包み込み始めた。

 スタミナポーションやスタミナゲージが黄色い色だけど、【気力操作】も同じ色なのかな?


 そうしてユキは全作業工程を進めてやがて完成。

 完成品は『劣化練習用フカヒレスープ』という名前だが品質は★9だった。

 練習用素材で作るアイテムは全て【気力操作】と【魔力操作】が揃っていないと『劣化』とつくが、その品質は★5がつけばいい方だった。

 それが★9までいったということは、かなり進んだという事なのだろう。


「トワくん、ちゃんと見てた? 参考になったかな?」

「参考になったかと聞かれると微妙だが……しっかり見させてもらったよ」

「あまり参考にならなかったかな?」

「うーん、こればっかりは感覚的なものだろうからな……見ただけじゃはっきりとはわからないな」

「そっかー残念…………あ、そうだ、なら直接、トワくんの体に気力を流してみれば何かわかるかも」

「え、ああ、そうだな……」


 そんな事出来るんだろうか?

 少々及び腰になりつつも拒否するわけにはいかないだろうな……


「ちょっと左手を貸してね。……大体こんな感じなんだけど……わかる?」

「うん? ……ああ、何となくだけどわかる気がする」


 ユキの左手から何か暖かいものが流れ込んでくる感じがする。

 おそらくこれが【気力操作】でコントロールされた『気力』なのだろう。

 ……かといって、これをそのまま再現するのは難しいだろうが。

 さて、この感覚を失わないうちに俺も練習をやった方がいいのだろうな。

 ……依頼の品を作り始めるのが遅れるけどまあ、仕方が無いだろう。


「とりあえずありがとう。何となくだけど、少しつかめた感じがするから試してみるよ」

「うん、わかった。それじゃあ私は残りの材料で【魔力操作】の方を練習してみるね」

「ああ、気をつけてな」


 さて、俺の方も練習を始めるか……

 ユキのやり方だと、左手から力をゆっくりと出していく感じなんだよな……

 ………………うん、出来ないな。

 少なくとも昨日までよりは比べものにならないくらいよくなってるけど、まだまだ覚えるところまで至れる気がしない。

 ……じゃあ、【魔力操作】に置き換えてやってみたらどうだろう?

 …………こう魔力をゆっくりと流し込む感じで……魔力の感覚は少し冷たい感じかな?


【気力操作】に関しては今日のところは早々に諦めて【魔力操作】の練習に戻ったが、その後数回練習したとき不意にシステムメッセージが表示された。


〈【魔力操作】を習得しました〉


 ……どうやら俺の方は魔力操作を先に覚えることに成功したらしい。

 練習用素材で作った劣化ハイポーションも★9まで品質が上がっている。

 ……うん、地味に嬉しいな!


「どう? トワくん出来た?」

「あー、俺は【魔力操作】の方が出来たみたいだな」

「本当!? おめでとうトワくん!!」

「ありがとう。そっちの方はどうなんだ?」

「私は【魔力操作】は覚えられなかったな……やっぱりこの辺って種族差とかもあるのかな?」

「それはありそうだが……さて、どうしたものか」

「出来ればトワくんに実践してもらいたいんだけど、そろそろ落ちなきゃいけない時間なんだよね……」

「なら、落ちた方がいいんじゃないのか? 実践してみせるのは明日以降でも出来るわけだし」

「そうだよね……それじゃあトワくん、また明日ね」

「ああ。おやすみ、ユキ」

「おやすみなさい、トワくん」


 ユキはログアウトしていった。

 ……さあ、気を取り直して依頼の品を作るとするか。

 依頼の品には半端に【魔力操作】を使ったりしないようにしないと……


 さて依頼の品、つまりはダマスカスライフルの製造だが、攻撃力300前後って事は魔力値300程度で製造クリティカルを出せば大丈夫だよな……

 魔力値300となるとやっぱり白銀魔狼の魔石が一番だな。

 まずは……320ぐらいで揃えて作って見るか。

 えーと、ステータスボーナスは1つ目がSTR、2つ目がDEXで作るときにはほどよく手を抜いてっと……よし、出来た。


 ―――――――――――――――――――――――


 ダマスカスライフル+(白銀魔狼) ★10


 ダマスカスの銃身と白銀魔狼の魔石からできたライフル銃

 精密な魔力操作によって製造され、

 素材の性能を最大限引き出した逸品

(製作者:トワ)


 装備ボーナスSTR+100

       DEX+40


 ATK+302 STR+100 DEX+40

 耐久値:200/200

 装弾数:4


 ―――――――――――――――――――――――


 うん、ちょうどいい感じに出来たな。

 やっぱり、魔力値300ジャスト付近だと攻撃力足りない感じか……

 これで勝手がわかったし、後は★11にならないように気をつけて作るだけだな。


 その後も同じペースでライフル製造は進み、攻撃力もいい感じに300ちょっとで揃った。

 これで依頼の品は文句が出ないだろう。


 残りの時間はどうしたものかな……

 …………セツに渡すライフルでも作成してみようか。


 とりあえずセツに連絡だな。

 えーと、フレンドリストからメールを作成してと……

 とりあえず現在の【銃】スキル習得状況と現在のSTRとDEXを聞いておけば問題ないだろう、送信っと。


 さて、これでメールの返事が返ってくるまで暇なわけだがどうしよう?

 まだ練習素材は残ってるし、【魔力操作】の練習をして、それでも時間が余ったらオッドに少し指導をするとしようか。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「ここの作業をやるときはもう少し薬草を細かくすりつぶした方がいいぞ」

「わかりましたですニャ。錬金の方はいかがですかニャ?」

「そっちはかなりいい感じで進んでると思う。このまま反復練習だな」

「わかりましたですニャ。ありがとうございますニャ」


 さて、オッドへの指導もこれぐらいでいいだろう。

 ……ああ、オッドに指導している間に返信が届いてたみたいだな。


 何々、スキルは既に【ライフル】を習得済み、STRは武器以外の補正値込みで250程度、DEXは300程度か……

 DEXって前線組でもこんな程度しかないんだろうか?

 ともかく『了解、今度の土曜日には新しいライフルを届けるから期待しておいてくれ』っと。

 さて、返信もしておいたし製作に取りかかるか。


 STR250もあるって事はライフルに付けるボーナスはDEX-STRで大丈夫だろう。

 さて、元となる材料だが……予定通り、銃身はアダマンタイトを使うとして、グリップは……イビルエント材で作ったのが倉庫に入ってるな。

 イリスが気を利かせて作ってくれたんだろう。

 せっかくだし、これを使おうか。

 さて、後は魔石だが……これも余ってる氷鬼のものを使おう。

 魔力値460近くで揃えられる組み合わせが残ってたはずだ。

 後は添加剤として、強化を施した白銀魔狼の魔石を追加してと……


 さてさて、どんなのが出来るかな……



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 うん、完成した。

 出来たものはこんな感じだ。


 ―――――――――――――――――――――――


 アダマンタイトライフル+(氷鬼) ★11


 アダマンタイトの銃身と氷鬼の魔石からできたライフル銃

 精密な魔力操作によって製造され、

 素材の性能を最大限まで引き出した逸品

(製作者:トワ)


 攻撃属性:物理・無

 装備ボーナスDEX+140

       STR+65


 ATK+454 STR+65 DEX+140

 耐久値:240/240

 装弾数:5


 ―――――――――――――――――――――――


 俺の装備と攻撃力だけが違う感じだが、品質も一緒だしほぼ同じになると言えば当然か。

 あと、グリップの素材が1ランク下のイビルエントだからか少々ボーナスが少ないか?

 それから、攻撃属性に無属性が追加されてる。

 これで攻撃時の衝撃が増してヒットストップ力が上がっているはずだ。

 ともかく、装備は完成したな。

 銃身が黒一色って言うのもなんだし、白に染めてしまうか。


 あ、セツから返信が来てる。

 どれどれ……『あまり無理しない程度のものに抑えてください。扱いこなせる自信がありませんから』か……

 うむ、もう完成してるし諦めてもらうとしよう。

 とりあえず返信っと、『もう完成してるので諦めてください。あと、名前を変えられるので名前も考えておいてください』と。

 あとは完成品の外観と性能のSSスクリーンショットを添付して送ってと……


 さて、今日のところはこれぐらいで問題ないだろう。

 それじゃ、ログアウトして休むとするか。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 一方その頃。


「ふぇ!?」

「どうしたのセツちゃん?」

「あの、ハルさん。ハルさんのお兄さんからライフルの性能が送られてきたんですが……」

「うん、どれどれ……あーお兄ちゃん、無駄に本気を出してきたね」

「普段、本気装備を作れない反動からじゃないでしょうか?」

「それで、それどうするの?」

「こんなすごい装備いただけません!」

「んー、でもセツちゃんが使わないと誰も使わない装備になると思うよ? お兄ちゃんのライフルの1周り下って感じの装備だし……」

「ですが……」

「まあ、お兄ちゃんの事だからあまり深いこと考えずに作ったものだろうし、大人しく受け取っておけばいいよ。このタイミングで完成したって事は、素材は余り物メインで作ったんだろうし」

「攻撃力454を作れる余り物かぁ……本当に魔境なんだね『ライブラリ』って」

「うぅ…………今からでも返品できないでしょうか?」

「完成してるし無理なんじゃない? 大人しく受け取って代金として2Mぐらい払っておけば文句は出ないでしょ」

「普通はこの性能の装備を2Mでなんて買えません!」

「そこは在庫処分扱いだからいいんじゃない? あまり気にしない方がいいよ。それより名前決めようよ名前!」

「そうだよね! これだけすごい装備なんだから名前もしっかり決めないとね!」

「うぅ……誰か助けて下さい……」



**********



~あとがきのあとがき~



トワの暴走に巻き込まれるセツが可哀想()


なお、セツのDEXですが普通に装備抜きの値でも500はある設定です。

このゲームのプレイヤー全体に共通する事象ですが、スキル補正によるステータス上昇を少し低く見積もっています。

なので、どのレベルのプレイヤーでも大体1割から2割程度ステータスを過小評価しています。


マスクデータの補正値が大きすぎるのが原因なんじゃよ……

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