155.装備製造計画と素材買取
「さて、これで素材を集める準備は揃ったわね」
『怪しい露天商』作戦が終わった後、談話室にて俺と柚月、ドワンにイリスは今回の売上金を分配していた。
なお、ユキについては用事を思い出したらしく今日はもうログアウトしている。
分配していたのだが……一番装備品が少なくて分配金が少なかった俺でも、30Mって言うのはおかしいだろうに。
「さすがに稼ぎ過ぎな気がするがな」
「別にいいじゃない。装備がほしかった人達の手元には装備が渡って、お金が欲しかった私達の手元にはお金が来た。win-winの関係って奴よ」
「……まあ、それについては何も言うまいよ。それで、これからどうするつもりじゃ?」
「マーケットボードから市場にアクセスして、手当たり次第良質な素材を買い占めていくわ」
「……相場が乱れそうじゃのう。わしらの流儀には反するがかまわんのか?」
「そこはそれ、これはこれよ。今回ばかりは流儀にこだわってる場合じゃないからね」
「……まあ、話はわかったよ。ドワン、悪いけど銃の銃身用素材の目利きは頼めるか?」
「任されよう。鉱石の鑑定ならばわしの分野じゃからな。代わりにトワには強化用魔石の鑑定を頼むぞい」
「私の分も魔石はお願いね」
「ボクもー」
「了解、魔石についてはほしい属性と特徴を教えてくれれば俺が選んで強化するよ」
今回は最高品質品をバンバン作ると言うことで【魔石強化】も椀飯振舞だ。
一般的な装備品の魔石による強化は、作成後アップグレードするときに使われるという認識が一般的だが、最初に作成するときにも利用できる。
その方が性能のいい装備を作りやすくなるが、代わりに製作難易度が上がって品質を上げにくくなる、というのが柚月の話。
俺達にとっては多少製作難易度が上がったところでたいした差はないんだけどな。
そのほかにも、一定以上の強さがある魔石を使って装備品を作ると、武器ならば攻撃属性、防具ならば属性耐性がつく。
これらは思いの外重要で、先に付けることが出来るのと、後から付けるのとでは重要性が段違いらしい。
そもそも装備品の強化には2種類あって、装備の性能や品質を上位の素材を使って上げる『アップグレード』と、特殊なアビリティつまり特殊効果がつく強化素材を使ってアビリティを付与する『アビリティ追加』がある。
俺の持っている各装備に『耐久値自動回復』を追加してもらったのも『アビリティ追加』の方だ。
『アビリティ追加』については運営の方から『個数の上限はない』という通知がきているが、同時に『装備の品質やグレードによって安全な個数が異なり、安全圏以上のアビリティを付けようとして失敗すると装備の最大耐久値減少やロストが発生する』とも言われている。
検証班が色々調べているらしいが余り成果が出ているとは言いいがたく、少なくとも1個付ける分には確実に安全、2つ目以降は装備の品質と素材のグレードに寄る、としか判明していない。
装備の属性についてこの『アビリティ追加』でも後付けで追加可能だが、後付けで追加するとアビリティ枠を1つ使ってしまう事になる。
そのため、特定の敵に対する特化型武器を作るのでもなければ、『アビリティ追加』で属性を付けるのは非推奨とされているのだ。
しかし、製造時に加えられた属性についてはアビリティ枠を使用しないという特性があるため、そちらで作成された属性武器というのは非常に貴重だったりする。
今回売れた武器の中にもそう言った初期状態から属性持ちの装備が何個か混じっており、それらの装備はめざといプレイヤーによって早々に売り切れていた。
そして、今回作る装備はというと……
「武器の属性は使い手の希望を聞いてからでいいじゃろう。インゴットの段階から属性付与出来れば、物理以外で3属性持ちの武器も不可能ではなかろうて」
「防具も属性山盛りが出来そうね。こっちも使う人に希望を確認してから作りましょう」
「ボクは素材から直接削り出す形になるから2属性が限界かなー」
……やはり、今回は一切自重しないようだ。
なお、インゴットや布などの中間素材に魔石による強化を施すのは、完成品に魔石による強化を施すよりも難しいとだけは伝えておこう。
さて、そうなると今後の予定ではあるが……
「もう皆の装備を作り始めるのか?」
「うーん、それなんだけどね。2週間後から始めようと思う訳よ」
「わしもそうじゃの。今回の依頼についてはできるだけ遅らせたい」
「ボクもだねー。出来れば2週間後から作り始めて、その週のレイドに間に合わせる感じかなー」
「……ずいぶんゆっくりめのペース配分だが、何か考えでもあるのか?」
「【魔力操作】と【気力操作】ね。あれがそろそろ覚えられそうな気がするのよ」
「わしもじゃな。というより、1週間待っても覚えられなければ、普通に作るしかないと言うのが本音じゃが」
「ボクもだよー。トワはまだかかりそうなの?」
俺か…… 俺の進捗具合は……
「【魔力操作】だけならもうすぐ覚えられそうだな。【気力操作】はまだもう少し時間がかかりそうだけど」
「そこのところはさすがよね。あとは、ユキが覚えられるかどうかだけど……」
「ユキちゃんももう少しで覚えられそうな気がするってさっき言ってたよ-」
「それなら問題ないな。おそらくこの2つのスキルがあれば★12の装備も作れよう」
「そうだな。あとはそれが身に付くまでにどれくらいかかるかだが……」
「そんなのスキルを覚えた後は低ランク素材で練習しまくって、無理矢理身につけるに決まってるじゃない」
「そうじゃの。スキルとして覚えてしまえば後は数打ちするに限るのう」
「だねー」
「そうだろうとは思ったよ。俺もそうするつもりではあったけど」
結局、考えることは皆同じと言うことらしい。
「さて、今後の予定も大まかには決まったわけだし。素材の買い込みと行きましょう」
「そうじゃのう。普段は買わない値段の品まで買い込むわけじゃから念には念を入れて鑑定しなければのう」
「そうだねー。それじゃあ張り切って行こー」
各自マーケットボードまで移動して市場からアイテムを購入し始める。
やはり全員が特殊鑑定スキルの類いを持っているらしいな。
一番安い品から買い始めるわけではなく、値段とは関係なしの順序で買って行っている。
もっとも、それを行っているのはいわゆる中間素材、インゴットや布などの一回生産の手間が入ったものだけで、鉱石や糸などは安い物から買い占めて行っているようだ。
「そう言えばトワ。お主、ライフルの製造依頼を受けておったな。あれはどうするつもりじゃ?」
「ああ、あれか……そろそろ期日の半分ぐらいまで来てるし素材が揃っているなら作りたいところだな」
「わかった。それならばこの後、銃身を作っておこう。ダマスカスの銃身でよかったな?」
「それじゃあボクもグリップを作っておくねー。こっちは普通のトレントでいいの?」
「ああ、銃身はダマスカス、グリップはトレントで構わないよ。値段的にもそんなに高いわけじゃないし、そこまで高級品にする必要はないだろう」
「承知した。ダマスカスは既に揃っているので、市場の買取作業が済んだら早速取りかからせてもらおう」
「ボクもそうするねー。というか、ハンドガンとかマナカノン用も含めてグリップは量産しておくよー」
「わかった、そっちは任せたぞ」
俺の方もちょうどいい魔石を見繕わなきゃだな……
タイガーベアだと……平均値が90前後か。
今回の攻撃力目標は280から300だからタイガーベアだと製造クリティカルを出してもきついかな。
となると白銀魔狼になるわけだけど……こっちはちょうど平均値が100前後か。
ただ、白銀魔狼だと手元に魔石がそれなりに残ってるんだよな……
先にそっちを確認してみるか。
俺は手元にあった白銀魔狼の魔石を確認してみることにした。
―――――――――――――――――――――――
白銀魔狼の魔石 ★4
白銀魔狼の体より取り出された魔石
属性:無属性
魔力値:101
―――――――――――――――――――――――
お、魔力値もちょうどいいぐらいだ。
そして、属性が無属性か……魔力値が高くて無属性の品は珍しいらしいから覚えておこう。
手元にはなんだかんだと白銀魔狼の魔石が20個ちょっとあったので、これを活用して納品用ライフルは作るか。
あとは……ハルのパーティメンバー、セツに渡すライフルだけどどうした物かな……
ダマスカスなら第6エリアのボス、ワイバーン系の魔石まで耐えてくれそうな気がするんだよ。
ただなあ……せっかくハルのパーティメンバーに渡すわけだし半端な物は作りたくないよなぁ……
よし、決めた。
武闘大会の残り物のアダマンタイトとエルダートレント素材を利用して最高の装備を作り上げよう。
そうと決まれば魔石の選別だけど……これも残り物の氷鬼か雷獣素材で構わないよな。
そして武器には無属性を付けられるよう、白銀魔狼の魔石を製造時に添加物として混ぜよう。
今、手元に残ってる魔石で一番強く出来そうなのは……雷獣の160のセットか、これを使おう。
さて、それじゃあ早速製造……と言いたいところだけど、さすがに普段やらない工程が増える以上は練習しないとだな。
どちらにしても、今日これからやるには少々時間が遅すぎるか……
残念だけど、今日のところは材料の準備だけしてもうログアウトすることにするか……
「ドワン、イリス、俺は今日そろそろ落ちようと思うけど、銃の素材っていつ頃になりそうだ?」
「わしの方はすぐに出来るぞ。特に手間をかける物でもないからのう。明日の夜には作れるようにしておこう」
「ボクも明日の夜には作れるようにしておくよー。さすがにそこまで多くの数は用意できないけど」
「とりあえず依頼の分を作れるだけあれば、後は急がなくても構わないさ。それじゃあ、俺は先に落ちさせてもらうな」
「はーい、おやすみートワー」
「うむ、お疲れ様じゃ」
「あら、もう落ちるの? ちょっとだけ待ってもらえるかしら」
「うん? 何かあったか?」
「ええ、今日色々露店をしてた時に聞いたんだけど、錬金術でもアクセサリー装備を作れるらしいのよ。何か知らない?」
「……錬金術でアクセサリーか……聞いたことがないな。今度、錬金術ギルドに行って確認してみるよ」
「そうして頂戴。私達の最大の弱点はアクセサリー装備が他の装備よりも弱いことだからね」
「それは重々承知しているよ。それじゃ、おやすみ」
錬金術でアクセサリー装備か、まったく考えたことがなかったな。
ともかくその可能性があるなら当たってみないと。
明日の予定に錬金術ギルド訪問も入れておこう。
**********
~あとがきのあとがき~
第3章でトワが自分の装備に作成時の属性付与をしていない件について。
あの時点ではまだスキルレベルが怪しかったのと、本気装備用の素材が少なかったため属性付与は見送りました。
……というか、ぶっちゃけ特化装備を作るわけでもなければ、武器に属性っていらないんですよね。
ダメージ軽減してくれる防具はともかく。
防具に関してはしれっと雷耐性が付与されています。
雷獣の魔石に余裕があったため、空狐装備・天狐装備ともに雷獣の魔石で強化されて作られています。
天狐装備の雷耐性が高かったのは、元の素材が雷耐性付き+雷属性の魔石による属性耐性強化という次第です。
サークレットについては当時のドワンのスキルレベルでは魔石による属性耐性付与は難しかった模様。
なお、鉱石をインゴットにする段階から魔石による属性付与を行えば、夢の4属性武器とか言うロマン武器を作る事も可能です。
なお、製作難易度は高すぎてドワンでも手に余る模様。
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