143.レイドアタック 2 ~ボス戦 1 ~

レイドアタック2回目にしてボスまで到着。

さてどうなることやら。


**********


「ふむ、『妖精郷の封印鬼』の討伐であるか。これはラストバトルと考えて良さそうであるな」

「そうだね。名前からいってもこれがラスボスなのは間違いないだろうし……ただ、ラストバトルにしては速すぎる気がしなくもないかな?」

「そんな事はないと思いますよ、白狼。もうすでにレイドの残り制限時間は2時間半を切っています。封印鬼にどれだけ時間を取られるかわかりませんから妥当なラインかと思います」

「そう言うものですか?」

「そう言うものです。我々『白夜』が今攻略している65レイドのボスなどは1体倒すのに30分から1時間戦う事もありますからね」

「うへぇ……そいつは辛そうだ」

「そういう意味でも銀月クエは役立っていますよ。30分間持久戦を行うというのはなかなか神経をすり減らすものですからね」

「なるほど……つまり今回の封印鬼戦でも30分超える可能性があると」

「そうですね。我々はここまでかなり早いペースで進んでいます。それを考えれば大ボスも30分から1時間と言ったところでしょう」

「ふむ……ちなみにレイドボス戦で気をつけなきゃいけない事って何がありますか?」

「そうですね、やはり戦闘中に料理バフが消えると言うことでしょうか。料理バフの効果時間は基本30分ですからね。余裕があるボス戦でしたら交代で料理バフをかけ直すという事も出来るのですが……」

「さすがに初見のボスじゃ無理だろうね。それで、済まないがユキさん。全員分の薬膳料理ってあるかい? 初見ボスじゃ耐える戦法になってしまうからバランスのいい薬膳料理が最高なんだけど」

「はい、大丈夫です。今から出しますのでどうぞお召し上がりください」

「済まないね。薬膳料理の研究は僕達も行ってるんだけど、なかなか★7を越えられなくてね……」


 この時点で残り時間は約3分。

 食べるのにそんなに時間がかからない料理を出してくれたのはわかるが、急いで食べないといけないな。


「ふむ、皆、食べながらでいいので話を聞いてもらいたいのである」


 教授から何か話があるらしい。


「今回のクエスト目標はボスの『妖精郷の封印鬼』討伐のみである。だが、妖精の繭については一切触れられていない。ここをどう解釈するかである」

「普通にもう守らなくてもいいって事じゃないのか?」

「それは私も考えたのであるが余りにも安直過ぎるのである。絶対に何か罠が仕掛けられているのである」

「……確かに教授の判断には一理あるね。とりあえず、妖精の繭には封印鬼を近づけないようにタンクが誘導するようにしよう」

「それがいいと思うのである。それではよろしく頼むのである」


 俺達は急いで残りの食事を済ませる。

 これによってHPとMPに大きなバフがつくことになるが、効果時間は30分だ。

 初見だから30分持たせることができるかは非常に怪しいが、それでも本番では途中で効果時間切れになるだろう。

 そのときにどうするのかは考えておかないといけないかな……


 そして戦闘開始まで残り30秒といったところで食事も終わりバフ効果がついた。

 武器も準備したし、後は封印鬼が登場するのを待つばかりだ。

 ……うん、柄にもなく緊張してきたな。

 とはいえ戦闘開始まで後数秒だ、余計な事を考えている時間はないか。


 そして、クエスト表示の残り時間が0:00になったとき、南側の森から一際大きな叫び声が轟き、森の中から大きな影が飛び出してきた。

 最初のボス戦でも戦った相手、『妖精郷の封印鬼』である。

 最初に戦った時と変わらず、身長は5メートルほどで人間サイズに比べるとやはり巨漢である。

 見た目的な最大の違いは、その両手に握りしめられた金棒だろう。

 最初に戦った時は金棒は1本しかなかったのに、今度は両手に1本ずつの2本を持ってきている。

 純粋に攻撃力が2倍と言うことはないだろうが、攻撃回数は2倍になるだろう。

 HPバーは3本のまま。

 4本に回復はしていないようだ。


 そしてもう1つ決定的に違うものがあった。

 それは封印鬼のレベルだ。

 最初に戦った時のレベルはレベル40だったが、今は52になっている。

 ……さすがにレベル45制限でそんな低いレベルのボスのままの訳がないか。


「まずは第6パーティが仕掛けてターゲットを取る! その後、南側に封印鬼を引っぱるから援護を頼む!」

「了解しました。第1から第5は一時待機してください。第6が十分に引き離した後に攻撃開始です」


 白狼さんと十夜さんの指示に従い、俺達はまず封印鬼が南側へと誘導されるのを待つことに。

 白狼さんのパーティの誘い出しはさすが手慣れているというか、非常に上手で20秒ほどで妖精の繭がある中心部からは大分距離が離されていた。


「これだけ離れていれば大丈夫でしょう。全員攻撃開始です」

「待っていたのである。デバフを蒔くのである! アビスストレングス、アビスバイタリティ、アビスインテリジェンス、アビスマインド!」


 教授による【死滅魔術】によって物理攻撃・物理防御・魔法攻撃・魔法防御の各ダウンデバフが付与された。

 デバフが効きにくいという話の【死滅魔術】だが、基本魔法のアビス系はそれなり以上の確率で付与に成功するんだな。

 あと、【死滅魔術】って射程が長いんだな。

 ライフルによる射撃と同じぐらいの射程距離があるぞ。


 そんな事を考えている間にもユキからの【付与魔術】でバフ効果がかかる。

 さて、いい加減射程距離だし攻撃と行きますか。


「食らえ、いつものチャージショット!」


 俺は封印鬼の頭部にチャージショットを叩きこむ。

 チャージショットのノックバック効果で一瞬ひるむものの、何事もなかったかのように封印鬼は攻撃を再開した。

 ……わかってはいたけどさすがレイドボス、HPの高さもノックバック耐性の高さも段違いだ。


「トワ君、一番攻撃力が高いのはやはりライフルでチャージショットを連発することであるか?」

「さて、DPSを計ったことがないからわからないけど、対応能力ならライフル連発、純粋に火力だけを求めるなら聖霊武器とマギマグナムを持って近接戦闘した方が効率は良さそうだが」

「それならば近接戦闘に移ってほしいのである。後方からの支援は私達に任せるのであるよ」

「そう言うことならそうさせてもらおうか。ウェポンチェンジ・双雷!」


 おれは走って封印鬼に接近しながらウェポンチェンジして双雷――建御雷と雷迅――を取り出す。

 マギマグナムの有効射程まで近づくと、さすが30人近い人数で取り囲むようにして攻撃してるだけあり、非常に迫力があった。

 さて、俺ものんびり見ているわけにはいかないな!


「まずは様子見から! マギチャージ・サンダーボルト、マギグレネード!」


 マギチャージで今のところ雷属性でもっとも威力の高いサンダーボルトを封じ込め、マギグレネードで封印鬼の後頭部めがけて攻撃を放つ。

 二丁拳銃状態なので両方の銃にサンダーボルトがセットされており、マギグレネードも都合2発同時発射される。

 ちょうど2本の金棒を高く振り上げて特殊攻撃をしようとしていたのか、隙だらけの封印鬼の後頭部にマギグレネードが着弾し大きな爆発が起こり、さらに追撃として2本の稲妻が封印鬼に突き刺さる。


「グガァァァ!!」


 これにはさすがの封印鬼も耐えられなかったのか体勢を崩し、モーションキャンセルとなったようだ。

 ……ひょっとして余計な事をしてしまったかな?


「トワ君、今のスキルは?」


 俺の側に白狼さんが駆け寄ってきて俺のスキルの確認をしてくる。


「マギマグナムの攻撃スキルですね。ここまでヒットストップ能力が高いとは思いませんでしたが。ひょっとして妨害してしまいましたか?」

「いや、さっきのモーションは金棒2本を同時に地面に叩きつけて衝撃波起こす前方範囲攻撃だ。もうモーションはわかってたから問題ないよ。それよりもさっきの攻撃は連射できるのかい?」

「マギグレネードのリキャストタイムが60秒なので連射はできませんね。間はチャージショットかフルバースト辺りで埋めますが」

「そうしてもらえると助かるよ。レベルが上がっている分、攻撃の通りも悪くなっていてね。かなり苦戦していたところなんだ」

「それじゃあ、最大火力でぶん回しますか。マギチャージ・ライトニングジャベリン、フルバースト!」


 今度は連射型の攻撃を撃ちこむ。

 こっちの攻撃のダメージは……余り高くないな。

 魔法防御力も結構高めなんだろうか?


 白狼さんは前衛に戻りしっかりと攻撃を再開していた。


 そんな事を考えていると、封印鬼の頭部にある2本の角の間に黒い電撃のようなものが迸り、それが周囲をなぎ払った!

 さすがにいきなりの攻撃だったため避けることが間に合わず、周囲を取り囲んでいたメンバー全員に直撃してしまう。

 ダメージ量は……俺のHPで3割に届かない程度か。

 他の皆のダメージ量と比較しても特別少ない訳じゃない。

 おそらく雷属性じゃなく別属性の攻撃だったんだろう。


 ダメージ量的には大したことがないが、全周囲攻撃で回避する余裕がないというのはなかなか問題だな。

 とりあえず、俺もヒーラーの手伝いをしてエリアヒールで回復してまわろう。

 エリアヒールで前衛陣を回復してまわっている俺のところに再び白狼さんがやってくる。


「トワ君今の攻撃なんだが……」

「少なくとも雷属性の攻撃ではありませんでしたね」

「やっぱりそうか。僕もこの雷耐性がある盾で防いだのにダメージ量が多めだったから不思議だったんだ。それで、今の攻撃をどう見る?」

「んー、雷属性の攻撃を与えすぎると攻撃してくるのか、それともランダムや時間経過によるものなのか……判断がつきませんね」

「そうか。わかった。とりあえず雷属性の攻撃は避けてみてくれないか? それでさっきの攻撃がまた来たら別の理由だろうから」

「わかりました。ひとまず風と氷に切り替えますね」


 建御雷と雷迅をインベントリに仕舞い、代わりに氷迅を取り出す。

 そして氷迅による攻撃を開始しようとした矢先にそれは起こった。


「敵襲! 北側から小鬼達による襲撃である!」

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