142.レイドアタック 2 ~終盤戦~

今回は普通にトワ視点に戻ります。


**********


「ふう、これでラストっと!」


 最後に残っていた小鬼にチャージショットを叩きこみ全12回の攻撃全てを耐え抜いた。

 途中、第9波と第10波でミスがあり弓の処理が遅れて妖精の繭を1つ破壊されてしまったが、残りの5つは守り抜いた。


「これで終わりよね? その割には何も起こらないのだけど」

「そうじゃの。じゃが、クエスト表示は既に12分の12になっておる。他のパーティがまだ終わってないのかも知れぬし、もう少し待って見るのがよかろう」

「そうだねー。とりあえず待とうかー」


 始める前は及び腰だった柚月も、さすがにもう覚悟が決まったのか文句を言うことはない。

 ただ、さすがに途中から強化された小鬼達に対処するのはきつかったな。

 これはおそらくこっちのレベルやスキルが足りていないという事なんだろう。

 レベル45制限なのにレベル41から43で挑んでいるからな。

 ここまでクリアできているだけでもまだよしとしよう。


「……お、転移が始まるな。他も終わったのか?」


 俺達が終わってから少し経ったところで、転移が始まった。

 転移された移動先は、先ほどまでよりも広い広場の中央付近。

 そこに他の皆も転移されてきたようだった。


「ふむ、今回は全員耐え抜いたようであるな」

「そのようだね。もっとも僕達は妖精の繭を1つ破壊されてしまったけど」


 白狼さんのところでも全部を守り切ることはできなかったのか。


「私達も1つ破壊されましたね」


 次に十夜さん。

 こちらも繭を1つ破壊されたようだ。


「俺達のところも1つだな」


 俺も現在の状況を伝える。


「お兄ちゃん達すごいね……わたし達は4つ破壊されちゃったよ……」


 力なく答えるのは我が妹様、ハル。


「俺達は3つ破壊だな……」


 リクのところも半分破壊されたか。


「私達は2つ破壊であるな。現状の被害状況としては36個中12個を損失であるか。多いとみるか2回目にしては少ないとみるか……」


 教授のところも2つ破壊されたようだ。


 これで全体の被害状況が出そろい、全部で12個の妖精の繭が破壊された事になる。

 残った妖精の繭は、今は俺達の足下へと一緒に転送されてきている。


「まずは今回の襲撃の情報をすりあわせたいところであるが……余りのんびりしている時間はないようであるな」

「そのようだね。手短に情報交換をしてしまおう」


 視界の端には新たなクエスト表示と襲撃開始までの残り時間が表示されている。


 ―――――――――――――――――――――――


 防衛クエスト『妖精の繭を再度防衛せよ!』


 クエスト目標:

  妖精の繭の防衛 24/36

  小鬼部隊の撃退 0/18


  襲撃開始まで 4:12


 ―――――――――――――――――――――――


「どうやらここに転移されたときから5分後に次の襲撃が開始されるみたいだな」

「そのようだね。だが今回はレイドパーティ全員が揃った状態での襲撃だ。先程までの襲撃よりも大規模になるのは間違いないだろうね」

「そうであるな。できればこの襲撃まで乗り切って、少しでも先の情報が欲しいところであるが……」

「この先の情報もそうですが、まずは分断されていたときの襲撃情報を共有しませんか? この先忙しくなって曖昧になってしまう前に」

「十夜君の言う通りであるな。分断されていたときの襲撃であるが、第1波から第4波までは南開始の逆時計回り、第5波から第8波までは南開始の時計回り、第9波は南、第10波が東、第11波が西、第12波が北であったな」

「僕達は第8波までは教授達と一緒で、第9波は北、第10波が南、第11波が西、第12波が東だったね」

「俺達も第8波までは一緒ですね。第9波以降は北、東、西、南の順でしたが」

「私達は第8波までは皆さんと一緒、それ以降は東、南、西、北でした」

「わたし達も第8ウェーブまでは一緒かな。それ以降は、えーと、東、西、北、南だったかな」

「俺達も第8波までは一緒だったぜ。それ以降が南、北、東、西だったけどな」

「うむ、話を聞く限り第8波までは襲撃順序が一緒であるな。そして第9波以降はランダムでいずれか一方向、ただし、同じ方向から2度来ることはない、と言ったところであるか」

「そう考えても良さそうだ。まあ、正確な襲撃パターンは回数を重ねていけばわかるだろうね」

「それじゃあ分断中の状況のまとめはひとまずここまでで大丈夫であるな。次はこの先の攻撃にどう備えるかであるが……」

「そうだな……レイドパーティ全員が揃ってるんだ。多方向からの同時攻撃もあり得ると考えて良さそうだろう」

「そうですね。となると同時攻撃があったときの組み分けを考えておいた方が良さそうですね……」


 確かに、連携を乱されるとそこから崩壊しかねないしな。

 どのグループで行動するかは十分に考えないと行けないか……


「ひとまず二方向から同時に来た場合、第1から第3パーティで一方向、第4から第6パーティで一方向でいいんじゃないかな」

「そうであるな。戦力の偏りはあるであろうが、まずは試してみるしかないのである」

「それじゃあ、その方針で行きましょう。三方向からの場合はどうします?」

「第1と第2、第3と第4、第5と第6でいいんじゃないかな。俺としては第1と第2が『ライブラリ』と『インデックス』って言うのが気がかりではあるけど」

「うむ。であるが、攻撃面だけ考えれば『ライブラリ』は他に引けを取っていないのである。我々で時間を稼いで、その後応援に来てもらう形でも大丈夫だと思うのであるよ」

「そうだね。もし四方向から同時に来たら、僕達『白夜』の2パーティで二方向を引き受けるよ。その間に残りの二方向を2パーティずつで倒してもらって応援に来てもらえると助かるかな」

「それではその方針で行くのである。全体の指揮は白狼君に頼んでも問題ないのであるな?」

「本来ならトワ君にお願いしたいところだけどね。さすがにレイド経験がないんじゃ無理だろうし構わないよ」

「さすがに俺でもやったことのないレイドの指揮なんてできませんよ……今回のレイドの間は全体の指揮はお願いします」

「そうだね。任されたよ」

「……さて、襲撃までの残り時間が1分を切りました。アイテムの補充等は大丈夫ですか?」

「わたし達は大丈夫かな」

「俺達も平気だぜ」

「僕達も大丈夫だよ」

「私達も平気である」

「……自分達も大丈夫ですので問題ないでしょうね。それではこのまま戦闘に移るとしましょうか」

「そうですね。用意しましょう」


 とりあえず一通りの準備は整った。

 後は襲撃開始まで待つだけだな。


 そして時間が過ぎ、襲撃までの残り時間表示が0になる。

 すると森の先から叫び声が聞こえてきた。

 どうやら襲撃が始まったようだ。

 今回の攻撃パターンは……北と南からの二方向か!


「北側は第1から第3で抑えてくれ! 南側は第4から第6で攻撃! 皆、行くぞ!」


 白狼さんの号令で全員が動き出す。

 北側の小鬼の数は全部で10体。

 剣と斧が3体ずつ、弓と杖が2体ずつだ。


「まずは定石通り杖小鬼から仕留めていく形であるな!」

「そうですね。杖と弓を先に片付けてから残りを片付けるとしましょう」

「それなら先制攻撃は任せてもらうぞ! チャージショット!」


 全員の中で一番射程距離の長い俺が先制して杖小鬼に攻撃を仕掛ける。

【看破】で確認した小鬼のレベルは45、今までの小鬼達よりもレベルが高くなっている。

 実際、チャージショットによるヘッドショットを決めてもHPは6割ほどしか減っていない。

 だが、6割減らした上でノックバックを取れれば十分に時間稼ぎができる!


 俺は続けてもう1体の方の杖小鬼へも銃撃を仕掛けてノックバックを取ることに成功する。

 そこへ他のパーティからの追撃が加わり杖小鬼2体は無事倒すことができた。


 周りの状況を確認すれば、前衛陣は既に剣と斧との交戦状態になっている。

 メインタンクを『白夜』パーティのタンクに任せ、他のメンバーが各個撃破していっているようだ。

 とりあえず、前衛陣の援護はまだ必要なさそうだな。


 次に弓小鬼の状況を確認すれば、こちらは少々押され気味か。

 やはり、攻撃を受けても反撃で立ち止まることなく進んでくることから、ノックバックでこちらに近づけないことを優先するしかないと言ったところか。

 俺達、杖小鬼を攻撃していたメンバーも弓小鬼に狙いを変えることで、弓小鬼も速やかに殲滅することができた。

 残りは前衛陣の剣と斧だけだが……あちらももうそろそろ勝負がつきそうだな。

 残り剣と斧が1体ずつまで数を減らしている。


 次の襲撃までの時間がわからないので、俺達後衛陣も加わり速やかに残りの敵を殲滅する。


「うむ、今回の襲撃は18秒で撃破できたようであるな」

「秒数を計っていたのかよ、教授」

「うむ。次の襲撃までの間隔も調べねばならないのであるからな。ちゃんと攻撃にも参加していたのでそこは大丈夫である」

「……それで、襲撃は何秒間隔だと思う?」

「このペースで行くとやはり30秒間隔であろうなぁ。速やかに中央部まで戻るのである」

「そうですね、それがいいでしょう。いったん戻りますよ皆さん」


 十夜さんの号令に従い中央部付近まで俺達は一旦戻る。

 どうやら南側の相手をしていたメンバーも無事対処できたようだな。


「どうやらそちらも上手く対処できたようだね」

「うむ。問題ないのである……が、早速次が来たようであるな」

「そのようだな……今度の襲撃は西と北か!」

「西は僕達が抑えるよ。北側を君達で頼む!」

「了解である。皆、行くのである!」


 こうして俺達は次の襲撃の対処へと向かうのだった。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「ふう、これで12回目の攻撃まではしのげたのであるな」

「だな……ところでもう30秒経っているはずだが、まだ次はこないのか」


 襲撃に対して迎撃を繰り返すこと12回。

 12波までの妖精の繭への被害は0に抑えることができた。


 何回か弓小鬼の攻撃を許す場面があったが、それでも破壊まではされていないので何とかセーフといったところか。


「まさか18回となっている襲撃数がこれで終わるとは考えにくいのであるが……」

「……どうやら次の襲撃が始まるようだぞ」


 遠くから再び叫び声が聞こえてくる。

 今度の襲撃方向は……北、南、西の三方向か!


「三方向同時だね。第1と第2は辛いかも知れないけどよろしく頼むよ!」

「うむ、任されたのである」

「俺達は西を担当させてもらうよ!」

「ああ、救援に向かうのが楽だしそれでいいよ! それじゃあ行こう!」


 俺達は教授達『インデックス』のパーティとともに西方面の防衛へと向かう。

 今度の小鬼は全部で8体、全ての武器種が2体ずつの構成のようだ。

 後は気になるのはレベルだが……


「レベル47であるか……数は減ったのであるが1体当たりは強くなったようであるな」

「そうだな……さて、どう対処する?」

「まずは基本通り遠距離武器持ちから倒していくのである。弓小鬼はノックバック狙いで進行を妨害。杖小鬼は向かって左側の方から集中攻撃して倒すのである!」

「了解。前衛陣はどうする?」

「我々とそちらで2体ずつ引き受ける形でどうであるか?」

「……悪くないね。できるかプロキオン?」

「ワフ!」

「うむ、大丈夫そうであるな……こちらも大丈夫であるか?」

「もちろんですよ!」

「それではそろそろ射程距離であるな……攻撃開始である」

「まずは先制! チャージショット!」


 今回も一番射程が長い俺から攻撃するが……


「やっぱりレベルが上がってHPと防御力が上がってるな! チャージショットでも半分削れないか!」


 先ほどまでは6割近く削れていた攻撃が今度はHPバーの半分に届かない程度までしかダメージを与えられない。

 さすがにレベル差が開いてきたことで火力不足が顕著になってきているな……


 だが、そんな杖小鬼に対して他のメンバーから追撃が入り難なくHPバーは砕け散る。

 やはり、『インデックス』の方が総合的な火力は上か……


「さて、もう1体も仕留めなくちゃな! チャージショット!」


 俺はもう1体の杖小鬼に対して今日何度目かわからなくなったチャージショットを叩きこむ。

 本当ならもっと高倍率のスキルを使いたいところなんだけど、まだチャージショットが単発遠距離攻撃の中では最高倍率なんだよなぁ……

 もう少し【ライフル】スキルのレベルが上がればチャージショットの強化版のスキルが使えるようになるんだけど……


 2体目の杖小鬼も俺の攻撃に続く追撃で倒された。

 後は弓小鬼を片付けて前衛陣の援護だな。

 さあ、急いで片付けようか。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 第13波からは三方向同時攻撃が続いたが、教授によれば襲撃間隔が60秒へと開いたらしい。

 そのため、レベルが上がった事によって倒すまで時間がかかるようになっても問題なく対処できていた。


「さて、いよいよ次がラストであるがどう来ると思うのであるか」

「ここの運営だからな。最後だからといって楽はさせてくれないだろう」

「そうであるな……さて、そろそろ次の襲撃の時間である」

「そうだね、来たようだ……ラストはどうやら全方向からの攻撃のようだね!」


 本当に期待を裏切らない運営だよな!


「それじゃ、最初に決めた通り『白夜』で二方向、北と南を引き受けるよ」

「はい、任せます。俺達は東に行くことにします」

「それじゃあ、わたし達は西だね!」

「ああ、これでラストだ。頑張っていこう!」


 白狼さんの号令に従い、それぞれの方向へと行動を始める。

 今度の襲撃数は2体減って6体、弓と杖が1体ずつに減っているな。

 あとレベルも45に戻ってるし、レベル通りの強さならそこまで苦労しないはずだが……


「まずは攻撃してみないと強さはわからないか! チャージショット!」


 狙いを寸分違わず杖小鬼の頭を撃ち抜く。

 HPバーの減り方は最初の頃と同じ6割程度だ。


「うむ、これならすぐに片付けて『白夜』の応援に行けそうであるな!」

「確かに。さっさと片付けてしまおう!」


 一番最後の襲撃にしては楽な方だと思うが気を緩めずに対処しよう。

 実際問題として、もう完全に慣れてしまっていて倒す速度がかなり上がっているけどね。


 前衛が衝突する前に杖と弓両方を倒してしまった俺達は、前衛の相手に対して2人だけ後衛陣を残すことにし、残りの後衛陣は『白夜』パーティの支援に向かうことにした。

 だが、さすがに『白夜』もトップクランなだけはあり、俺達が援護に駆けつけたときには剣と斧1体ずつしか残っていなかった。

 残りの方角からの襲撃も難なく片付き、こうして今回の襲撃は全て片付いたことになる。


 どうにか今回の襲撃では妖精の繭に被害を出さずに済んだようだ。


 こうして全襲撃を終えた俺達に対して新たなクエストが表示された。


 ―――――――――――――――――――――――


 討伐クエスト『妖精郷を開放せよ』


 クエスト目標:

  『妖精郷の封印鬼』の討伐 0/1


  戦闘開始まで 5:00


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