141.レイドアタック 2 ~中盤戦~
今回は視点が途中でトワからハルにスイッチします。
……さて、ハルパーティのかき分けができるかどうか……
**********
「さて、これで準備万端であるな」
封印鬼を撃退した後の魔法陣から転移した先の広場。
そこで俺たちは改めてアイテム分配を行った。
とは言っても主に食料アイテムを配っただけだが。
「まあ、この先は何が待ち構えているかわからないからな」
「レイドエリアという事を考えればいつまでも分断されているわけじゃないだろうけど、注意は必要だろうね」
「それから妖精の繭もできるだけ破壊されない方がいいでしょうね。単純に全て破壊されたらレイド失敗と言うだけのギミックとは思えませんから」
「そうであるな。何とかして被害を最小限に食い止めたいものであるな」
「そうだな。とはいえ、まだ2回目だし要領がつかめてないんだよな……」
「うん、ちょっと不安だよね……」
リクとハルはイマイチ自信がないようだな。
まあハルはさっき防衛に失敗してるし、リクも動き回っての戦闘は余り得意じゃないだろう。
重装甲なのに高機動戦闘ができる鉄鬼がおかしいんだよ。
「あー、こうなることなら【重装行動】買っておけばよかったな……」
「まあ、気持ちはわかりますがマーケットで【重装行動】を買おうとすると非常に高くつきますからね。なくても仕方が無いでしょう」
「そうなんだけどさ……やっぱりボス周回して【重装行動】取っておくべきかなぁ」
「まああるに越したことはないだろうな。あれの有無で全身金属装備だと移動速度が段違いになるから」
「だよなー。何とかして手に入れたいぜ……」
「リクさんはいいですよね。状況を打破できる目処がつくんですから。わたし達は正直、走り回って倒す以外の方法がないから厳しいですよ……」
「まあ、それは仕方がないのである。具体的にどうやって被害を抑えるかに関しては、また別の機会に話し合うのであるよ。今日のところはクエスト失敗を避けるようにして動くのを優先するのである」
「そうだね。今日のところはある程度の損害は出る物として次のステップに進むことを目標にしよう」
「わかりました……うー、緊張するなぁ……」
珍しくハルが緊張しているな。
少し緊張をほぐせないか試してみるか。
「ハルでも緊張するんだな、珍しい」
「お兄ちゃん、わたしだって緊張するときは緊張するよ!」
「そうか? 普段のお前さんからするとかなり珍しいんだが」
「うぅ……まあそうかも知れないけど。わたしだって緊張するの」
「まあ、緊張しすぎたところでたいして意味はないんだ。難しいことはとりあえず置いておいて、繭を1つでも多く残せるように頑張るんだな」
「はーい。こういうとき高機動長距離戦闘が得意なお兄ちゃんはいいよね」
「まあな。でもお前さんの【精霊剣】だって長射程のスキルがあるだろうに」
「あるにはあるけどさー……まあ、出来る限り頑張ってみるよ」
「そうか。まあ頑張れよ」
「うん。それじゃあ、そろそろ皆のところに戻るね」
「そうであるな。そろそろ出発するのである」
「そうしようか。それじゃあ皆頑張って」
「ええ、皆さんお気をつけて」
「それじゃまた後でな」
「ああ、皆よろしくな」
俺達はそれぞれ別れて自分達のパーティの元に戻る。
さて、ここからが本番だな……
―――――――――――――――――――――――――――――――
うーん、お兄ちゃんにはああ言ったもののやっぱり不安だなぁ。
【精霊剣】にも長射程スキルはあるんだけど、威力が微妙だからなぁ……
それじゃなくてもレベル制限のせいでかなり攻撃力落ちてるし、【精霊剣】スキル自体もかなり攻撃力が落ちてる気がする。
やっぱり超級スキルは45レベルじゃ覚えるのなんてほぼ無理だし、かなり制限されてるのかな……
「どうしたのハルちゃん。そんなに難しい顔をして」
サリーがわたしに話しかけてきた。
うーん、そんなに難しい顔をしてるんだろうか……
「ちょっとね……超級スキルの威力がかなり落ちてる気がしてね……」
「ああ、ハルちゃんもやっぱりそう思う?」
「確かに超級スキルの威力はかなり制限されてる気がするよね。レベル45制限ってところに引っ掛かってるのかな?」
「わたしはそう思ってるんだけど……皆はどう思う?」
わたし1人で悩んでいても結論が出そうにないので皆にも聞いてみる事にした。
「そうだね、私のスキルはかなり威力が落ちてる気がするよ」
「同じく超級スキルはかなり制限されてると思うな!」
「そうですね……超級スキルだけではなく上級スキルも後半のスキルは制限されているかと」
「そうなると使う魔法も考えて使わないとMPの無駄遣いになりそうね……」
「今回は『ライブラリ』のご厚意で強力な回復ポーションが揃っているとは言え無駄遣いは避けたいですからね」
うん、やっぱり皆ほとんど同じ意見らしい。
そうなれば話は早いかな。
「よし、このレイド中はスキル回しから超級スキルや上級スキルの後半のスキルはなるべく使わないようにしよう!」
「それがいいでしょうね。私も上位の支援魔法はなるべく温存するようにします」
「そうね、それしかないわね」
今後の戦闘方針を話し合いながら歩くこと数分。
次のエリアに続く門がある広場にたどり着いた。
広場には前回と同じく6体の小鬼がそれぞれのんびりとくつろいでいる。
……こっちは悩んでるのにモンスターがくつろいでいるなんて何となくやな感じ!
「それで、作戦はどうしますか?」
こういうときでもサリーは真面目だね。
まあ、こいつらを相手に作戦なんて必要ないんだけど……
「とりあえず試したいことがあるから、わたしが一気に突っこんで杖を相手にするね」
「わかりました。それでは弓は私が魔法で相手をしましょう」
「それじゃ残りはサリーが集めてボクとセツで倒すね。柊、支援魔法お願い!」
「わかりました。アタックアップ、ガードアップ、スピードアップ、マジックアップ!」
柊ちゃんがわたし達全員にバフをかけてくれた。
さて、バフも乗ったし一気に駆け抜けますか!
「それじゃ行ってくるね! ダッシュ!」
スタミナ消費が多くなる代わりに一時的に走る速さが上昇するスキル【ダッシュ】を使い一気に杖持ちの小鬼に肉薄する。
今回試したいことは【精霊剣】がどの程度まで威力が下がっているかの実験だ。
剣持ちや斧持ちもわたしに反応して襲いかかろうとしているけど、そっちはサリーを信頼して無視することにする。
なにせ、ダッシュの効果時間中だったらそんな簡単に追いつかれることはないからね!
そして目標の杖持ち小鬼の前にたどり着いたわたしは【精霊剣】スキルを開放する。
「フレイムウェポン! からのエレメントブレイク!」
『フレイムウェポン』は剣に炎を付与する【魔法剣】スキル、そして『エレメントブレイク』は剣に宿ってる魔法の力を炸裂させて相手にぶつける【精霊剣】スキルだ。
『エレメントブレイク』は事前に【魔法剣】スキルを使って剣に魔法を宿していないと発動させられないし、1回使うと【魔法剣】の効果が消えてしまうと言う欠点がある。
でも、その欠点を補って余りあるぐらいの瞬間火力を生み出せるスキル……のはずなんだ。
「グギャギャ!」
しかし、その『エレメントブレイク』を受けた小鬼はHPの8割ほどを喪失しながらも普通に生きていた。
やっぱり超級スキルの攻撃力はかなり落ちてるみたいだね!
「フレイムエッジ!」
残り2割程度しかないHPなら最下級の【魔法剣】スキルでも倒せるはず!
と言うか、普通に倒せたし!
「さて、こっち終わったし試したいことも試せた! あとはサリー達の援護だね!」
周囲の状況を確認すれば弓も既に倒されていて、残りは剣1に斧1の2体だけだった。
うん、こんなところでもたついてられないし早く倒してしまおう!
わたしと椿ちゃんが加わった事で残りの2体も速やかに倒されて消えることになった。
そして部屋の中央部には宝箱が出現していたので、わたしはその中から鍵を取る。
他の皆はまだ戦闘中かなぁ……
『こっちは終わったぞ。他の皆はどうだ?』
レイドチャットからお兄ちゃんの声が聞こえてきた。
どうやらお兄ちゃん達はもう倒し終えたらしい。
『ライブラリ』ってわたし達の中じゃ唯一制限レベルに達していないのに早いなぁ……
「わたし達も終わってるよ。他はどう?」
『僕達も終わったところだよ』
『私達も今終わったところである』
『私達も終了しています』
『げっ、俺達が一番最後かよ……今終わった!』
どうやら全員が鍵を手に入れたみたい。
これでようやくリベンジマッチができるよ!
うーん、また緊張してきた!
『それじゃあ、準備ができたら鍵を開けてくれ』
お兄ちゃんの声が聞こえてきたちょっと後に遠くで重たいものが動くような音が聞こえた。
もうお兄ちゃん達は準備万端と言うことなんだろうな。
それに続くようにズズズと重たいものが動く音がいくつか聞こえてくる。
皆、準備が早いなぁ……
「それじゃわたし達も鍵を開けるよ! 準備はいい?」
「うん、大丈夫だよ」
「オッケー、さあリベンジだ!」
「いつでも行けます」
「私も大丈夫です」
「こちらも準備できてます」
「よし、それじゃあ鍵を開けるね!」
わたしも手に入れた鍵を目の前の扉の鍵穴に差し込む。
すると扉が開いて次の部屋? フロア? とにかく次につながるワープポイントが目の前に現れた。
……ひょっとしてわたし達が一番最後だったのかな?
まあ、とにかく次に進まないとね。
妖精の繭防衛戦の舞台にたどり着いたわたし達は、お兄ちゃんから渡されていた移動速度増加ポーションを飲み干す。
うーん、味は柑橘系? そんな味だった。
軽く周りを走ってみたけど、確かにいつもよりも速く走れる感じがした。
他の皆もそれぞれ調子を確かめている。
「これならさっきよりは戦いやすそうだね!」
「そうですね。足の遅い私でも十分について行けます」
「元のAGIが高いほど効果の幅も高いようですね……」
「まあ、30%上昇って言ってたしね」
「さあ、そろそろ襲撃が始まる頃だよ、準備はいい?」
「オッケー! まずは南からで次が東側、その次が北側だったよね?」
「先ほどと同じでしたらそうなりますね……ただ、最初から決めてかかるのも危険だと思います」
「とりあえず目標は25秒毎に全敵を撃破! そして残りの5秒で中央付近まで戻って次のウェーブに備える事だね!」
「それがいいですね」
「……さて、来たみたいだよ。やっぱり最初は南からだ」
「それじゃわたしはさっきと同じで杖に突撃を仕掛けるから援護よろしく!」
「そうですね。戦闘スタイルは先ほどと同じでいいでしょう」
「それじゃあ私が引きつけ役ですね。上手く立ち回らないと……」
「さあ、来たよ! それじゃ、わたしが一番乗りだ! ダッシュ!」
さあ、リベンジマッチの始まりだ!
敵の先行している剣や斧の小鬼の横を通り過ぎるけど今度は何も反応しない。
どうやらヘイトを稼ぐ行動をしない限り襲ってこないみたいだね。
ダッシュで駆け寄ってはいるけど、まだ目標までは距離がある。
でも、【魔法剣】スキルなら届く攻撃もあるしまずは先制攻撃だ!
「ファイアバード!」
わたしが剣を振り抜くと同時に、剣先から炎の鳥が飛び出して杖小鬼に飛びかかっていく。
『ファイアバード』は【魔法剣】スキルの中でも比較的初歩の技に入る遠距離攻撃技だ。
なので威力減衰は起こってないだろうけど……与えられたダメージは2割に届かないくらいか……
さっきの小鬼達よりもレベルが高いはずだし仕方が無いよね?
杖小鬼に攻撃したけど他の小鬼は相変わらずわたしには反応していない。
剣小鬼や斧小鬼はサリーがまとめてヘイトを引き受けたみたいだけど、こいつらってリンクしてないのかな?
ともかくわたしは杖小鬼に剣が届く間合いまで駆け寄ることができた。
後はコイツを倒すだけ!
「行くよ! スターブレイカー!」
―――――――――――――――――――――――――――――――
「これで第8ウェーブまで攻略完了ですね……」
わたし達は8回目の襲撃まで耐えることができた。
レイドチャットが使えないから他のパーティの状態はわからないけど、まだ入口に戻されないって事はどのパーティも防衛に成功しているって事だろう。
そういえば、フレチャだったら他のパーティの状況を確認できるのかな?
そう思ってフレンドリストを開いたんだけど、フレチャを使うことはできなかったよ……
あと色々なスキルを使って実験してみた結果、スキルの威力が余り落ちてない境界線は上級スキルのレベル30までだった。
【魔法剣】だと『スタースラッシュ』までかな?
超級スキルの方が威力は高いけどコスパに問題があるからなるべく使わないようにしてる。
「第8ウェーブまでの出現順序が第4ウェーブまでが南から始まって逆時計回りで一巡、そして第5ウェーブからは今度は南から始まって時計回りに一巡ですか……この先はどういう順序で来るんでしょうね?」
「うーん、ちょっと想像できないかな……」
とりあえず10秒程度の余裕を持って対処できたわたし達は、これまでの状況を整理しながらポーションで回復していた。
ここまでは出現順序が予測できてたから楽だったけど、次からはどうなるのかな……
やっぱり南スタートの時計回りか逆時計回りなんだろうか?
「次来ます! 方角は東側!」
辺りを警戒していたセツちゃんから指示が飛ぶ。
わたしの予想は外れたか……
ともかくわたしはダッシュも使い全速力で移動して杖小鬼を攻撃する。
が、先制のファイアバードで減らせたHPは15%ぐらいだ。
こいつら少しだけだけどさっきまでよりも強くなってる!
「出し惜しみはしていられないね! 縮地!」
わたしは今まで温存していた移動スキルも使って杖小鬼の懐に飛び込む。
そこから【魔法剣】スキルを連続で叩きこんで杖小鬼を一気に倒す事に成功した。
周りの状況を確認してみると、まだ弓小鬼も倒し切れていないし、剣小鬼や斧小鬼も3体残っている。
弓小鬼は既に妖精の繭へ攻撃を始めてるし一刻も早く倒さないと!
ダッシュの効果時間は切れてしまってクールタイム中だから高速移動はできないけど、とにかく急いで弓小鬼に接近してスタースラッシュでとどめを刺す。
「ハルありがとうございます!」
「大丈夫! それよりもこいつら、さっきまでよりも少し強くなってるから気をつけて!」
「わかっています!」
そこからはわたしと椿ちゃんも残りの小鬼討伐に参加して何とか30秒以内には倒す事ができた。
でも、そこから先はそんな簡単にはいかなかったのだ。
「次、来ます! 方角は西側から! 移動急いで!」
意地が悪い事に反対側の方角から次の小鬼達が現れた。
ホント、時々殺意が高いよね、ここの運営は!
―――――――――――――――――――――――――――――――
「はあ、何とか全部の繭を破壊されるのだけは防げましたね……」
サリーの言葉通り、全ての繭を破壊されることだけは何とか防げた。
ただ、残りの繭の数は2個だけ、それも繭のHPは結構ギリギリだ。
東、西と来た襲撃は続いて北、南の順番で襲いかかってきた。
第8ウェーブまでは順序よく来てたからかなり楽に対処できてたけどそこから先は本当にギリギリだった。
そして全12回の攻撃を
さすがにこれで終わりじゃないはずだものね。
なにせ大ボスと思わしき『妖精郷の封印鬼』はまだ倒せていない。
HPバーを3本も残して逃げ出しているんだからこの後、あるいはもっと先でわたし達を待ち受けているはずだ。
気を抜かずに戦闘準備をしておかないと……
そんな事を考えてると、体がふわりと浮き上がるような感覚を覚える。
これはいつもの転移反応だ。
どうやらここでの戦闘はもう終わりらしい。
転送された先ではお兄ちゃん達他の皆も同じ広場に転送されてきていた。
そしてわたし達の足下にはわたし達が守っていたものと思われる妖精の繭が2つ置いてあるのだった。
**********
~あとがきのあとがき~
うーん、ハルPTのメンバーが上手く書き分けられない(
話し方にそれぞれの特徴があまりないのが原因なんだけど難しいな……
普段のメンバーだとそれぞれ特徴があるから書き分けも楽なんだけど、普段書かないキャラをメインにするのは難しいですね……
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