139.レイドアタック ~中盤戦~
「ここは……?」
封印鬼を退けた後に現れた魔法陣から転送された先は小さな広場だった。
辺りを見渡せば広場の中心部に石碑が1つと6方向へと通じている小道がある。
「ふむ、これはまた何もない広場であるな」
「情報源になりそうなのはあの石碑だけだね。とりあえず石碑を調べてみよう」
「そうですね。何かヒントが書かれていればいいけど……」
同じように辺りを見渡していた教授や白狼さんも、石碑ぐらいしかない広場で情報源になりそうな石碑をまず調べてみることにしたようだ。
俺達は石碑に近づきその石碑に書かれているの内容を調べてみる。
「……うーん、僕には読めないな。【言語学】を持っていないせいかな。2人はどうだい?」
「私は読めるのである」
「俺も普通に読めますね。どの程度の【言語学】スキルのレベルが必要になるのかは調べてみないとですが……」
「ちなみに2人の【言語学】のレベルは?」
「私は46である」
「俺は30かな」
「……2人ともかなり高いね」
「ケットシーイベントで【言語学】30必須ですからね。そのときに30まで上げたんですよ」
「ケットシーの協力がないとここまでたどり着けないことを考えると、【言語学】レベルが30要求されてもおかしくないのであるな」
「なるほどね。それで書かれている内容は?」
「少し待つのである……『この先は妖精を守りし繭のある地。妖精の加護を求めるものはこの先にある繭を守るべし。妖精の繭がある地へは6つの鍵を同時に開けねば進む事かなわず』である」
「『妖精の繭』に『妖精の加護』か……ここのレイドエリア名が『妖精郷の封印鬼』である事に関係してるんだろうね」
「問題は『鍵』とやらがどこにあるかですけど……」
「ひとまず今日は調査段階なんだ。1カ所に全員で行ってみよう」
「そうですね。そうしましょう」
白狼さんの提案に賛同し、俺達は6つある小道の1つへと全員で進んでいく。
数分ほど歩いたところで開けた場所に出て、そこにモンスターの一団がいた。
「なになに……『封印の小鬼』か。レベルは40、封印鬼と同じだな」
名前としては『小鬼』となっているがそれでも身長は2メートル近くありそうである。
あくまで封印鬼に対して小さいと言う意味なのだろう。
「レベル的には格下だけどとりあえず全員で相手をしてみよう」
「そうであるな。HPバーも1本しかないとはいえ油断は禁物である」
「そうだね。まずは本気で一当て行ってみよう」
「だな。それじゃあ先陣は俺達が行かせてもらうぜ!」
今回はリクのパーティが先陣を切ることになった。
リクの挑発技により小鬼達のヘイトが全てリクへと向かう。
リクのパーティメンバーは近づいてきている剣や斧を持った小鬼を優先して排除するようだ。
俺は魔法攻撃しようとしているであろう杖小鬼に対して黒牙の狙いを合わせて……
「チャージショット!」
妹様ではないがまずは1発弾丸を撃ちこんでみる。
寸分違わずヘッドショットが決まり、俺が狙いをつけていた小鬼はHPバーを全損して消えていった。
「ふむ。どうやらHPは見た目相応のようであるな」
「それなら僕達も参戦して手早く片付けてしまおう」
「そうであるな……まあ、もっとももう終わりそうであるが」
教授の言葉通り、リクに襲いかかっていた近接武器を持った小鬼は既に全て倒されており、残っていたのは弓小鬼の小鬼1体だけである。
その1体もリクパーティの遠距離攻撃を受けており……今仕留められたところだ。
「なんだよ、あっけなかったな」
「まあ、そう言うなって。様子見だったんだからよ」
「そうですよ。これで苦戦した方が問題だったんですからね」
リク達が今回の戦闘について口々に話ながら俺達の元まで戻ってきた。
「お疲れさん。それで、攻撃を受けてみてどうだった?」
「んー、普通にレベル40程度の敵の攻撃を受けてる感じだったな。特におかしなAIを持ってる感じでもなかったし、あれなら1パーティで戦っても楽勝だろ」
「そうであるな。どうやらこの小道はそれぞれ1パーティずつ攻略するように作られているもののようであるな」
「そのようだね。それで、イベントアイテムの類いは手に入っていないのかい?」
「……手に入ってないですね。他の皆は?」
他のメンバーにも確認を取っているが誰も手に入れていないみたいだ。
「あ、トワくん。あそこに宝箱があるよ?」
ユキが広場の中央付近を指さしており、そこを見ると確かに宝箱が現れていた。
「さっきまではなかった宝箱だよね?」
「確かになかったのである。おそらくは広場のモンスター全てを討伐することで出現する宝箱であろう」
「……とりあえず罠の類いはないみたいだ。俺が開けても構いませんか?」
「構わないのである。戦力的に一番低いのは『ライブラリ』パーティであるからな。ここで待つことになっても問題ないのである」
「そうだね。トワ君に開けてもらおうか」
「それじゃあ……うん、中に入っているのは鍵ですね、紛れもなく」
宝箱の中に入っていたのは紛れもなく鍵であった。
鑑定してみても『妖精の鍵 イベントアイテム』としか表示されない。
「鍵か……どう見てもあそこの扉に使う鍵だよね」
広場の一角には『鍵を使ってください』といわんばかりの門がそびえ立っている。
試しに門の鍵穴に鍵を差し込んでみる。
すると、低い地響きのような音がして入ってきた通路がツタによって閉ざされてしまった。
この状態では先に進めそうにないので鍵を引き抜くと、通路を塞いでいたツタも消えてなくなった。
「ふむ、やはりこれはパーティごとに分かれてクリアするタイプのイベントのようであるな……」
「そのようだね。いざとなれば1人だけ残してっていう手も使えるだろうけど……」
「この扉の先で戦闘になった場合、普通に手詰まりになりそうであるな」
「そうだね。さて、この扉はトワ君達に任せるとして僕達は他の通路に行ってそれぞれ鍵を手に入れてみようか」
「そうであるな。それではトワ君達はここで待っていてほしいのである」
「それじゃ行ってくるね。お兄ちゃん」
「じゃあ、また後でな、トワ、姉ちゃん」
俺達のパーティを除いた他のメンバーは来た道を戻り、それぞれ別の通路を攻略しに行った。
俺達はやることがないので、ひとまず休憩ということになる。
「……ねえ、この先ってどうなると思う?」
「さあなあ。『繭を守るべし』って書かれてたって事は何か防衛系のイベントがあることは想像できるけど、詳細まではわからないよな」
「そうだねー。でもさっきの小鬼達の動きを見る限りだとそんなに難しくもない気がするけどねー」
「そうじゃの。もっとも、ここの運営のすることじゃ。何かひねくれた仕掛けを用意してあっても何らおかしくはないじゃろうて」
「そうですね。油断はしないように気をつけましょう」
そうして待つこと10分弱。
全ての小道の先でモンスターの掃討を終えて、鍵が揃ったことがレイドチャットで伝えられた。
『さて、この鍵の向こうは未知の領域だ。皆、油断しないようにね?』
『当然であるな。ここまでが順調であった分、余計油断は出来ないのである』
『はい、頑張りましょう!』
『さて、俺達は準備万端だぜ?』
『私達も準備完了です』
「俺達も準備できてる。扉を開けるとしようか」
1カ所の鍵を開けただけじゃ何も変わらないことはさっき判明している。
けれど、念のため鍵を開けるタイミングは同時にする事にした。
俺は鍵を改めて扉に差し込んでみる。
するとやはり入口の扉が閉ざされたが、今度は目の前の扉も鈍い音を立てながら開いていった。
だがそこには何もなく、渦を巻いたもやのようなものがあるだけだった。
『これは……どう見てもワープゲートであるな』
『だよね……ってことはここで完全に分断されるのかな?』
「そうだろうな。まあ、この先で合流って可能性もあるだろうけど……」
『望みは薄いだろうね。とにかく中に入ってみよう』
『おう。それじゃまた後でな』
俺達は扉の中へと入っていく。
すると、軽い浮遊感――つまりは転移反応を覚えた後、円形に広がった森の広場へとたどり着いていた。
「さて、ここはどこかしら?」
「さあな。だが問題は別のところにありそうだぞ」
「……問題?」
「レイドチャットが使えなくなってる。完全に分断された形だな」
「なるほどね。とりあえずこの場は各パーティごとで乗り切れって訳ね」
「そのようだ」
「……あ、広場の中心部に何かありますよ」
「本当じゃの。とりあえずそっちに行ってみるとするか」
「そうだねー」
広場の中央には全部でバスケットボール……いや、上下に細長い形をしているからラグビーボールか? ともかくそんな形をした物体が6つ立っていた。
鑑定して見るとこれが『妖精の繭』らしい。
「これが繭ねぇ……一体これをどうすればいいのかしら」
「持ち運ぶことは……できませんね。どうしましょうか?」
「どうするも何も情報不足……うん、クエスト通知じゃと?」
「えっとー、『妖精の繭を小鬼達から防衛せよ』?」
「つまりこれを守り通せって訳だな」
クエストの詳細はこれだ。
―――――――――――――――――――――――
防衛クエスト『妖精の繭を小鬼達から防衛せよ!』
クエスト目標:
妖精の繭の防衛 6/6
小鬼部隊の撃退 0/12
―――――――――――――――――――――――
クエスト内容を見る限り、小鬼は全部で12回襲ってくるようだな。
俺達はそれぞれの武器を用意して襲撃に備える。
少し経ってマップを見る限り南側の方から物音がして、森の中から小鬼達が飛び出してきた。
小鬼達の編成は、剣が2、斧が2、弓が1、杖が1の6体の構成だ。
「とりあえず俺は杖小鬼を先に狙って落とす。イリスは弓小鬼を、他の皆は残りの小鬼を対処してくれ!」
「了解! さあ、やるわよ!」
「任せてよー。弓同士の戦いなら負けないよー」
「それでは行くとするかのう!」
「うん、わかった! プロちゃん盾はお願いね!」
「ウォン!!」
俺達はいつもの布陣で戦闘を仕掛ける。
敵のレベルは……42か、さっきよりも上がっているな。
とにかくまずは一撃当ててみるか……
「チャージショット!」
敵の杖小鬼に対してチャージショットのヘッドショットを加えるが一撃では仕留めきれなかった。
だが、HPを8割程度削っていたので2発目は通常攻撃のヘッドショットで確実に仕留める。
とりあえず杖小鬼は始末できたので、ハンドガンにウェポンチェンジして前衛の4体の援護に加わろうとしたが……
「くっ!? こいつボクを狙わないよー!?」
イリスが相手をしていた弓小鬼がイリスを狙わずに妖精の繭を直接攻撃していた。
1発のダメージは……大体繭のHPの5分の1程度と行った所だが狙われ続けるのはまずい!
「援護する! チャージショット!」
「ありがとートワ!」
イリスによってHPを削られていた弓小鬼小鬼は、チャージショット1発で仕留めることができた。
後は残りの前衛4体だが……
「これで最後じゃ! パワーブレイク!」
どうやらそちらは援護せずとも終わったみたいだ。
「お疲れ。そっちはどうだったかしら?」
「杖小鬼は問題なく倒せたけど弓がな……」
「攻撃をいくら当ててもボクを狙わすに繭を狙うんだよー」
「ふむ、前衛系の4体は普通にヘイトを集めていたプロキオンを狙っていたがのう」
「おそらくは後衛系の敵だけが、繭優先のAIを積んでいるんだろう。とりあえず繭に回復魔法ってできるか?」
「……ううん、ダメみたい。でも少しずつ自然回復してるよ」
「目に見える程度の早さでは自然回復してくれるか……なら、次は杖小鬼に一度攻撃させて行動パターンを把握するか」
「そうね。倒すだけなら簡単に終わるしそうしましょ……ってもう次が来るわけ!?」
打ち合わせをしている間に次の襲撃が始まったようだ。
今度は東側からの攻撃になる。
俺達は急いで東側へと移動して迎撃態勢を整える。
今回は先ほどとは違い杖小鬼にも1回だけ攻撃させる。
「イリス、俺が弓小鬼を仕留めるからイリスは杖小鬼を攻撃してくれ。最低でも1回は攻撃するように手加減してくれよ」
「りょうかーい。任せてよ」
「他はさっきと同じように対応だ。それじゃあ、散開!」
俺はターゲットを杖小鬼から弓小鬼へと変更する。
どうやら、弓の方が杖よりも射程が長いようで既に攻撃態勢に入ろうとしていた。
「させるかよ! チャージショット!」
俺はすぐさま弓小鬼に狙いを定めてチャージショットを撃ちこむ。
さすがにヘッドショットを狙う時間はなかったので、命中したのは胴体部だったがそれでもHPの4割程度は削ることができた。
チャージショットで吹き飛ばされた弓小鬼は立ち上り、再度こちらに狙いを定めようとするが俺の方が早い。
今度は頭部にチャージショットをたたき込み、HPを全損させることに成功した。
どうやら弓小鬼のHPも杖小鬼のHPと余り差はないようだが、弓小鬼の方が若干HPが高いようだ。
ひとまず弓小鬼の対処が終わったためイリスの援護をしようと杖小鬼に狙いを向けようとしたとき、背後で爆発音が響いた。
「トワ! 杖小鬼の攻撃は範囲指定のボム系魔法だよ! 繭全部のHPが削られてる!!」
「わかってる! ひとまず奴を倒すぞ!」
「うん、わかったよ!」
被害状況の確認より先に次の攻撃をさせない方が優先だ。
俺とイリスの2人から攻撃を受けた杖小鬼はあっけなく倒された。
だが、これで倒す優先順位ははっきりしたな。
「繭の被害状態は……大体HPの8分の1ってところか……」
「これ、杖小鬼は急いで倒さないと被害が酷いことになるよー」
「そうだな、とりあえず残りの敵の始末からだ」
「うん、そうだねー」
そこからは俺達2人も前衛4体の掃討に加わり、速攻で倒す事ができた。
「とりあえず、遠距離攻撃してくる杖小鬼と弓小鬼が危険っていうのは確定ね……」
「そうだな。俺達は遠距離攻撃手段が豊富だからどうにかなるが……」
「問題は遠距離攻撃手段が少ないパーティよね……他の皆も頑張ってくれてるといいんだけど」
「そうですね……こうしてると落ち着かないですね」
「……その心配はないようじゃぞ。敵の増援じゃ!」
「今度は北側からか! 出現パターンが一定なら楽でいいんだけどな!」
「そんな話は後よ! 早いところ移動して対処しないと……」
と、このタイミングで転移反応があり、俺達はレイドエリアの開始地点まで戻された。
システムメッセージには『クエスト失敗』の文字が表示されていた……
**********
~あとがきのあとがき~
レイドアタック中盤戦にして1敗目。
ご都合主義とはいえ、さすがに1回で最後の方まで行けるほど甘い設定にはしていないですよ?
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