138.レイドアタック ~序盤戦~
「それツインアロー!」
森林型ダンジョン――周りは森のようになっているが見えない壁があるせいで決められた道以外は通れない――にイリスの声が木霊する。
最初の大部屋でいきなり大量のモンスターに囲まれた俺達だったが、全リンクというわけではなく小集団がいくつもある形だったため、そこまで大きな消耗もなく切り抜けることができた。
そして唯一あった通路からモンスターを排除しながら先に進み続けているわけだが……
「うん、やっぱりここのモンスターは普通のダンジョンのモンスターと同レベルだね」
白狼さんがここまで戦ってきたモンスターの強さから推論を導き出す。
「単純に装備の力で上回っているだけでは?」
「それはさすがにないと思うよ。僕達の装備だって性能が低下しているんだ。『ライブラリ』の装備が性能低下していないはずがないよ」
確かに俺達の装備は現段階である程度入手可能な最高品質品を使った★10から11の装備品だ。
これらの装備の性能は『白夜』の第一パーティのそれを上回っている。
そう考えれば、装備品の性能が落ちている事は容易に想像できる。
それでも、一撃、または二撃で仕留められるんだから攻撃力的に考えて、ダンジョンモンスターと同等程度のモンスターと言うことなのだろう。
事前に聞いていた話によればレイドエリアのモンスターは複数パーティで対処することが前提になるため、普通のダンジョンモンスターに比べて大分強いはずらしい。
それが通常ダンジョンのモンスターレベルまでしか戦闘力がないって事が妙に気になるところだ。
「今回の敵は全滅したよー。次は教授達の番ねー」
「うむ、承知したのである」
モンスターの強さがダンジョンレベルであると確信してからは、各モンスターグループに対して1パーティで対処するようにしている。
これは過剰な戦力を投入して消耗を増やさないためと、レベルキャップが45まで低下していることを考えて低下したレベルに体を慣らすという意味がある。
低下したレベルでいきなりボス戦を行わなければならなくなったら、減少しているステータスやスキルレベルによって思わぬ苦戦を強いられる可能性があるためだ。
この辺の提案も白狼さん達『白夜』から出された提案である。
はっきり言って、レイド経験が豊富なメンバーというのはやっぱり心強いものだな。
「しかし、このレイドエリアはおかしいのである」
「うん? おかしいって何がおかしいんだ?」
「制限時間が4時間しかないこともおかしいのであるが、それ以上にザコモンスターに遭遇しすぎである。確かに一般ダンジョンに比べればレイドエリアでのエンカウント数は多いのであるがそれにしても多すぎるのである」
「そう言うものなのか?」
「うむ。我々もレベル50レイドならしばしば行くことがあったが、ここまで頻繁に通路で戦闘することはなかったのである。それに通路ばかりで小部屋や中ボスと呼べる存在がいないのも気がかりである」
「まあ、そう言われてみれば確かになぁ。もう進入してから1時間近くが経つのに、部屋らしい部屋は入口にあった大部屋だけ。それ以外はずっと一本道の通路だからな」
「惑いの森のようにループしているとかでなければいいのであるが……おっと次のモンスターの集団であるな。ちょっと行ってくるのである」
「はいよ。気をつけてな」
次のモンスターの一団が現れたため『インデックス』のパーティが掃討に向かう。
その間、俺達は増援のモンスターが来ないか周囲の警戒だ。
もっとも、今まで増援が来たこともないのであくまでも念のためという意味合いが強いのだが。
2~3分ほどで教授達の戦闘も終了し改めて奥地へと足を運ぶことになる。
森の木々で作られた順路を辿っていき、時折現れるモンスターを蹴散らしながら進む事しばらく。
残り時間が2時間半に近づいてきた頃、森の中に大きな門が見えてきた。
「うーん、これはどう考えても中ボスだね」
「でしょうね。ここまで立派な扉を森の中に配置しているって事は中を守っているものがいるって事でしょうからね」
「さて、そういう訳で中ボスなんだけど。ユキさん、バフがつく料理ってどれくらい持ってきてるかな?」
「全員分が3セット分ぐらいはあると思います。ただ、効果はバラバラですが……」
「まあ、今回は下見を兼ねた調査だからね本気で勝てるような準備はしてないくてもいいよ。それじゃあ、それぞれが料理バフをつけて中ボス戦に挑もうか」
ユキはそれぞれの役割に合わせた料理をインベントリから取りだして各自に渡していく。
前衛の戦士系にはHPとSTRが上がる料理、タンク役にはHPとVITが上がる料理、魔術士にはINTとMPが上がる料理などだ。
そして全員が料理を食べ終わりバフがついた事を確認すると白狼さんが扉に触れる。
すると俺達全員が扉の中へと転送されていた。
そこに待ち構えていたのは身長5メートルはあろうかという巨大な鬼。
これもやはりオーガのような鬼ではなく、東洋の鬼を模したものだった。
その鬼は東洋風の鎧を身にまとい、金棒を手にしていた。
敵の名前やレベルはと……『妖精郷の封印鬼 Lv40』?
最初のボスでいきなりレイドエリア名と同じボスが現れるのか?
他の【看破】スキルを持っている面々も同じように相手の名前とレベルに驚いているようだった。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「うん、あいつの名前が『妖精郷の封印鬼』だった事に驚いてな」
「レイドエリア名と同じ名前って事はもうラスボス? さすがに早すぎじゃない」
「そうは言われてもな……と言うかお前は【看破】持ってなかったのか?」
「持ってるけど弾かれた。あまりレベル上げてないんだよね、【看破】」
「なんだかんだで使用する機会が多いから上げておいた方がいいぞ」
「はーい、そろそろ動き出すみたいだね」
座り込んでいた封印鬼は立ち上がって金棒を構えつつこちらの様子を窺っている。
臨戦態勢は整ったと言うことだろう。
「色々腑に落ちないことはあるが、とりあえずボス戦だ。まずは各パーティで連携を取りつつ、包囲して攻撃だ! メインタンクの役割は僕達第六パーティが引き受ける!」
「了解、それじゃあ俺達は背後にまわって攻撃を仕掛けるよ」
「私達は側面にまわって攻撃するのである。デバフの付与は任せるのであるよ」
「では第三パーティは第六パーティの援護ですね。第四と第五はそれぞれ攻撃メインでお願いします」
「了解!」
「わかった! 行くぞ皆!」
こうして最初のボスとの戦闘は始まった。
レイドボスのHPバーは合計4本。
それなりの長期戦になりそうだな……
まずはメインタンクを引き受ける白狼さん達第六パーティから攻撃が始まった。
第六パーティのメインタンクが挑発系の技や攻撃スキルを連打して一気にヘイトを稼いでいる。
白狼さん達第六パーティのメンバーも攻撃に加わるが、さすがにレイドボスだけあってHPバーはなかなか減って行かない。
そしてメインタンクの人は巨大なタワーシールドを巧みに使って金棒による攻撃を受け止めている。
少し遅れて第三パーティも攻撃に加わるがそれでもダメージはあまり通っている様子はない。
そこにハルやリク達のパーティ、それから教授達のパーティも加わり集中砲火が開始される。
俺達も早く背後まで移動して攻撃に加わらないとな。
そして俺達のパーティもボスの背後側を取ることに成功したため攻撃に移ることになる。
俺の装備は相変わらず黒牙のままだ。
まずは黒牙でヘッドショットを一発決めるとしよう。
「食らえ、チャージショット!」
もう少し【ライフル】スキルが育てば『ハイチャージバレット』というさらに攻撃倍率の高いスキルを使えるようになるのだが……
無い物ねだりをしてもしょうがないので、今は普通のチャージショットで攻撃を仕掛ける。
チャージショットの銃撃は狙いを違わず封印鬼の頭部にヒットした。
さすがに身長5メートルはありそうなボスだ、頭部に当てることは難しくない。
だが、ヘッドショットが決まったにもかかわらず与えたダメージ量はそこまで多くはないようだった。
さすがはレイドボスと言ったところか、HPが全然違う。
そんな膠着状態とも言っていい戦闘を続けることしばし。
封印鬼が特殊攻撃に移った。
巨大な咆吼が辺りに木霊して全員にスタンを付与しようとする。
俺達第一パーティは全員効果がなかったが他のパーティではスタン状態になった人間が結構いるみたいだ。
そして封印鬼が空高く飛び上がり、その手に持った巨大な金棒を地面に叩きつけた。
地面を叩いた衝撃はそのまま衝撃波となり全員に襲いかかる。
このときスタン状態になっていた面々はどうやら転倒させられたようだった。
どうやら、咆吼による全員スタンと叩きつけによる全体攻撃らしい。
ただ、攻撃力はそれほど高くはなかったので俺達はすぐさま柚月のエリアヒールで回復する。
複数人が吹き飛ばされてしまった『インデックス』パーティとハルやリク達のパーティは立て直しに時間がかかっているため、俺とユキが援護に向かいエリアヒールでHPだけは回復させる。
「助かったのである、トワ君。しかし、このタイミングで特殊行動であるか」
「時間によるものなのかHP減少によるものなのかはっきりしないからな。気をつけてくれよ」
「わかっているのである。咆吼は依存ステータスが不明のスキルである故に、今までかけていなかったステータス減少系のスキルも重ねがけするのである」
「まあ、頼んだ。俺は自分のパーティのところに戻るからな」
「わかったのである」
再び金棒による叩きつけ攻撃に戻った封印鬼を視界の端に捉えるようにしながら俺は自分のパーティの元へと戻っていた。
ユキもあちらのパーティの立て直しに成功したようで、こちらの方に戻ってこようとしている。
そんな中、封印鬼はまた新たなモーションを取った。
金棒を高く掲げて前方をなぎ払うように横スイングで振り抜いたのだ。
これはどうやら側面から前方にかけての範囲攻撃になるらしく、俺達第一パーティ以外の前衛がそれなりのダメージを受けることとなった。
しかし今回はそれぞれのパーティのヒーラーが健在のため、受けたダメージについてはすぐに回復していた。
そのほかに金棒を下からすくい上げるようにして土砂を巻き込んで前方に叩きつける攻撃や、金棒を振り回して全周囲攻撃をするなどの特殊攻撃を繰り出してきた封印鬼ではあったが、さすがにレベル40でこちらよりも格下と言うこともあり、20分ほど時間はかかってしまったがHPバーの1本目を削りきることに成功した。
HPバーの1本目を削られるとすぐに封印鬼はジャンプして俺達から距離を取り、そのまま森の中へと逃げて言ってしまった。
「こら! まてー!!」
「おい、ハル! 深追いはするな!」
ハルが森の奥へと消えていった封印鬼を追いかけようとするが……
「わぶっ!?」
森に入ろうとした瞬間に壁のようなものに阻まれてそれはかなわなかった。
「どうやら1戦目はHPバーを1本削り切ることでこちらの勝利のようだね……」
「そのようであるな。特殊攻撃が増えたのが時間経過によるものなのか、HP減少によるものなのかは考察の余地があるのであるが……」
「それはまた次の機会だね。少なくとも最初のボス戦を乗り越えられてよかったよ」
「そうですね。とはいえ、レベル的には制限を受けている私達より格下であるはずのボスにこれだけ苦戦したのは痛手ですが……」
「まあ、初見だからね。無理もないさ」
少し離れたところでは白狼さんや教授、十夜さんが今の戦闘について簡単な確認を行っている。
「白狼さん達の消耗は大丈夫でしたか?」
「うん、僕達は大丈夫かな。ただ、メインタンクの彼がかなり盾を消耗させたからね。今、ドワンさんに頼んで修理してもらっているよ」
白狼さんの視線を追えば確かにドワンが盾の修理作業をしていた。
「盾の修理に数分かかると言うことだから今のうちに各自の消耗と治療を行った方がいいね。制限時間も残り半分近くになってしまっているし」
「確かにそうですね。あとどの程度かわからないですし今できることは早めにやっておいた方がいいか……」
「そう言うこと。それじゃあ、僕達は自分のパーティのところに戻るよ」
「私もそうするのである」
「それじゃ、俺も戻るとしますか」
自分のパーティのところに戻るとちょうどプロキオンの治療が済んだところだった。
「ただいま。こっちの消耗具合は大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ。ダメージが酷かったのはプロキオンぐらいだしそっちの治療はもう済んだわ。トワは大丈夫?」
「ああ。ダメージもそんなになかったから自分で回復してしまったし、装備の耐久度も万全だな」
「それはよかったわ。あとはドワンの修理完了を待てば私達は準備完了ね」
「そうだな……っと、ドワンも戻ってきたようだ」
「今戻ったぞい。いや、さすがにあの金棒での攻撃を受け続けるのは耐久力がガリガリ削られるようじゃの」
「となると鍛冶士がいないと予備の盾をいくつか用意しないとダメか……」
「まあ、予備の盾は元より用意しているようじゃがの。それで、この次はどこに進むんじゃ?」
「決まってるだろ。広場の中央へこれ見よがしに現れた魔法陣の先だよ」
そう言って指さした先には最初は存在していなかった魔法陣が浮かび上がっているのだった。
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