140.レイドアタック 2 ~序盤戦~

「ゴメンナサイ……」


 状況を確認するため、ひとまずリーダー6人で集まって話をしようとしたときに1人落ち込んでいる人間がいた。

 我が妹様、ハルだ。


「まあ、レイドアタックだからね。失敗はつきものさ」

「そうですね。むしろ最初のボス戦でつまずかなかっただけ今回はよかった方ですよ」


 レイド経験が豊富な『白夜』の2人はハルを慰めている。


「しかし、ハル君達のパーティが失敗するとは思っていなかったのである」

「そうだな、ハル何があったんだよ?」


 教授とリクも失敗したのがハル達だというのに驚いていた。

 ……まあ、普通に考えてパーティ単位で一番弱いのは俺達『ライブラリ』だものな。


「それがね……」


 ハルがクエスト失敗した理由を訥々とつとつと語り始めた。


 小鬼の襲撃があったとき、ハル達はいつものように戦おうとした。

 ハル達の戦闘パターンは敵の前衛を押し戻し、中衛や後衛も巻き込んでの殲滅戦を得意としているらしい。


 だが今回の戦闘では勝手が違った。


 前衛を押し戻すことには成功したが、敵の弓小鬼や杖小鬼のターゲットを奪えなかったのだ。

 そのため、妖精の繭へのダメージが蓄積してしまい、第1波の段階で妖精の繭を既に1つ破壊され、そのほかの妖精の繭へも少なくないダメージが入ってしまった。


 また、敵の殲滅にも時間がかかってしまい、第2波が来るまでに第1波を処理しきれなかったらしい。

 そのため、小鬼の前衛が妖精の繭にたどり着くことは何とか防げたものの、後衛の弓と杖から放たれる攻撃が妖精の繭を直撃するようになり第3波が出現した頃に妖精の繭を全て破壊されてしまったようだ。


 ここに来てハルパーティの弱点が露骨に表に出た形となった。

 ハルのパーティははっきり言って遠距離攻撃手段が少ない。

 まともに遠距離攻撃職と言えるのは魔術士の椿のみで、柊は魔術士ではなく回復メインの神官だ。

 柊も一応攻撃魔法は覚えているが、ダメージを受ける前衛を回復することをメインとしなければならない


 他のメンバーはと言えば全員前衛職で、あえて言うならハル自身が魔法戦士型のため遠距離攻撃も可能、と言った程度だった。


 しかし今回の戦闘ではハルも前衛にまわっていたため、敵の後衛を処理しきれずに妖精の繭へのダメージを蓄積させる結果となってしまった。

 つまりは後衛を狙えるメンバーが少なく、じり貧になって負けたということらしい。


 他のパーティはと言えば、なんだかんだで長距離攻撃職が2人ずつは存在している。

 そのため、敵の編成が後衛3体にならない限りは問題なく対応できるし、3体になったとしてもそこまで苦労することはないだろう。


 だが、ハルパーティに関してのみいえば純粋な遠距離攻撃職が1人しかいないため、敵の後衛を排除するために時間がかかってしまうのである。


「……ふむ、話はわかったのである。であるが、そうなると対応が難しいのであるなぁ……」

「そうだね。いきなり後衛を増やすのは難しいだろうし、前衛職が敵の後衛を狙って走ることも出来なくはないだろうけど、敵の前衛に邪魔されないかは心配だね」

「まあ、6パーティのうち1パーティでも妖精の繭を全て破壊されたらレイド失敗になるということがわかっただけでも収穫はありましたが……さて、これからどうしますか?」

「出来る事なら、もう1戦ぐらいはしたいところだがな……」

「うむ。敵の出現パターンなども含めてもう少し調査を続行したいところである。であるが、ハル君のパーティの弱点を何とかしないと同じ結果になってしまうのは想像に難くないのであるからなぁ……」

「うう……」


 さすがの妹様もパーティ編成の根本的な問題には対応が難しいみたいだ。

 ……ここは一つ、妹様の力になってやるとしますか。


「根本的な対処にはならないが、限定的な対処なら何とかなるぞ」

「本当!?」

「ああ、もっとも本当に限定的な対処にしかならないがな」

「ふむ。どういう手段であるか?」


 全員の注目を浴びる中、俺がインベントリの中から取り出したのは1つのポーション。


「これは特殊ポーションの1つで『移動速度増加ポーション』って奴だ。敏捷性AGIに影響を与えない代わりに移動速度が効果時間中はそれなりに上昇する」

「それ本当!? 具体的にはどのくらい上がるの!?」

「俺が持ってる中で効果が高いのは効果時間15分、移動速度30%上昇、それに特殊ポーション瓶の効果でそれぞれの効果を30%増しにしたものだな」

「なんでお前そんなもの持ってるんだよ……」

「武闘大会前に特殊ポーションを色々作ったんだよ。これはそのときの余り、というか使わなかったポーションの1つだな」

「ああ、アンチマジックポーションとかを作ってたんだったね。それで移動速度増加ポーションも作っておいたと」

「そう言うこと。今にして思えば鉄鬼戦で使えばもっと楽に勝てただろうなとは思うんだけど、そのときはすっぱり頭から抜け落ちててな……」

「そう言うことは往々にしてあるものである。どうせトワ君の事であるからして他にも大量の特殊ポーションを仕込んでいたのであろうしな。それよりも、今はこのポーションでどれくらいの効果があるかを試してみることが重要である」

「そうだな。とりあえず12本はあるから今日の攻略分には足りるだろ」

「それじゃあ、ありがたくもらっておくね!」

「ひとまず対策はまとまったようであるな。では次に今回の戦闘における攻撃パターンであるが……」


 そこからは今回の襲撃パターンについての確認となった。

 わかったことは、少なくとも第3波までは全パーティが同じ攻撃パターンで攻撃を受けていたことと、敵の攻撃周期が30秒ごとだということぐらいだった。

 攻撃周期に関しては、教授のパーティと『白夜』の2パーティが計測していたらしいので間違いはないだろう。

 『白夜』のパーティについては、1回の襲撃につき15秒から20秒程度で戦闘が終わり、時間が余ってもすぐに次の襲撃がなかったという事なので、少なくとも序盤は30秒周期で襲ってくることは間違いないとのことだ。


 そのほかにもいくつか気になった点や気付いた点などの情報交換をした後、それぞれのパーティの元に戻り今回のレイド失敗の理由やその対処法、それから各種細かい情報を説明して次のアタックに備えることとなった。

 時間が遅ければ解散の予定だったが、まだそこまで遅い時間でもないという事でもう1戦挑むという話になったのだ。


「なるほどね。やっぱりあの繭を全て破壊されたらレイド失敗になるのね」

「しかしハルの嬢ちゃん達にはかなり面倒な条件じゃの。後衛火力職が足りないというのは今回の条件では厳しいだろうに」

「そこはとりあえず渡したポーションで何とかしてもらうしかないな。ダメだったらその時にまた別の手段を考えるしかないさ」

「そうじゃのう。だが、ポーションではあくまでも一時しのぎにしかならんぞ?」

「そこのところはハルも理解してるから大丈夫だろ。他に確認したい事はあるか?」

「私からは特にないわね」

「わしもじゃ」

「ボクもないかなー」

「私もないよ」

「そうか、それじゃあ2回目のアタックに向けて準備だな」

「準備とは言っても私達はほぼ消耗してないから問題ないのだけどね……」

「それに他のパーティもじゃが、装備品の修理も完了しておる。修理していないのは話し合いをしていたリーダー達と言うことになるが……」

「少なくとも俺は修理の必要はないな。他の皆にも声をかけてきてはどうだ?」

「うむそうさせてもらうとするか」

「それじゃ、一回りしてくるわね」

「ああ、よろしく頼む」


 柚月達による装備のメンテナンスもすぐに終了し、全員の出発準備が整った。


「さて、本日2度目のレイドアタックだね。気合いを入れていこうか」

「そうであるな。少なくとも1回目よりは先に進みたいのである」

「うん、私達も今回は妖精の繭を守り切れるように頑張るよ!」

「その意気なら大丈夫そうだな。それじゃあ行きますか!」

「ああ、それじゃあ攻略開始だ」


 俺達はレイドエリア入口の門を開け再びレイド攻略を開始した。

 序盤戦については何の問題もなく淡々と進んでいくことができた。

 なにせ、罠は存在せずかつモンスターもパーティ単位で対応できるものばかりなのだ。

 そこをレイドチームで対応しているのだから問題など起こるはずもない。


 2回目と言うことで大分慎重に進んでいた1回目に比べてかなり速いスピードで中ボス戦、妖精郷の封印鬼の前まで到達することができた。


「さて、これから封印鬼戦の訳であるが。作戦はどうするのかね?」

「とりあえず1戦交えてわかったことは、封印鬼が持っている遠距離攻撃が今のところ全体攻撃の衝撃波だけという事だね。あの攻撃って物理攻撃扱いなのかな?」

「おそらくは物理攻撃ですね。俺のダメージ量がかなり高かったですから」

「そうか。それならその前の咆吼スタンも含めて対策をしたいところだが……」

「現状では難しいでしょうね。咆吼の効果は距離を離せば弱くなるような気がしますが、前衛にいきなり距離を離せとも言えないですし」

「事前動作がわかれば『バックステップ』で距離を離せるんじゃないかとも思うんだ。まあ、それには人数が集まって攻撃している分、高度な連携が必要になるんだけどね」

「その辺りは今後の課題とするのである。問題は衝撃波攻撃よりも威力の高い金棒の振り回し攻撃である」

「あれはモーションがわかりやすいから躱しやすいですけどね。普段よりも腕を高く掲げたら前方のみのなぎ払い、腕を背中の方まで回すように構えたら全周囲のなぎ払いですよ」

「……白狼君はよく1戦でそこまで見抜けるのであるなぁ」

「その辺は経験の差と言うことで。それで戦法なんですが、タンク役を務めるパーティ以外はすべて封印鬼の後方からの攻撃に切り替えてみるのがいいかと思うよ」

「その理由は?」

「敵の攻撃範囲が前方に集中してるからね。背後に回っていた方が攻撃を受ける頻度が少なくなると思う。まあ、新しい攻撃パターンを誘うかも知れないけれどそれも含めて調査って言うことでね」

「……確かに。悪くない提案であるな。それでタンクパーティは白狼君のパーティのままで大丈夫であるか?」

「ええ、問題ありませんよ。それじゃあ早速始めましょう」

「わかったのである。行くのであるよ」


 作戦会議も終了し、封印鬼との2回目の戦闘が開始された。

 今回はタンクパーティ以外は全員が後方に回り込んだため、かなりスムーズに戦闘が運んでいった。

 要注意だった咆吼からの衝撃波攻撃も天に向かって叫ぶ仕草をするという予備動作がわかったため、何とか全員距離を取ることに成功してダメージも最低限で済んだ。

 また、警戒していた新しい攻撃パターンだが、背後からの攻撃人数を増やすと背後にいる前衛をランダムターゲットにした振り返り金棒攻撃があることがわかった。

 ただ、誰を狙うかは肩越しに振り返ってくる封印鬼の視線から推測できるし、何より振りかぶるモーションが大きいから躱しやすいんだよなぁ……

 1戦目に比べて前方のなぎ払い攻撃の回数が減った分、全周囲なぎ払い攻撃の頻度が上がったが、こちらもモーションが大きいので回避しやすい攻撃ではある。

 少なくとも、第1戦目で出てくる封印鬼については攻撃のモーションがいちいち大きいから余り脅威ではないな。


 考察を交えながら攻撃をしているうちに、封印鬼のHPバー1本目が砕けた。

 すると封印鬼は1戦目と同じように戦線を離脱して森の奥へと消えていった。


 やはり、1戦目の勝利条件はHPバー1本目を削りきることなんだな。

 戦闘時間も1戦目より短くなったしここまでは順調だ。

 次は問題の妖精の繭防衛戦なんだよな……


 そっちはまだまだ情報不足だからより慎重にいかないとな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る