136.レイドアタック ~事前準備~

 明けて土曜日。

 今日は休みなので日中もログインできる。


 午前中に用事を済ませてしまい、昼食をとったら店の在庫状況とレイドに持ち込む消耗品の在庫を確認するためにログイン。


 クランホームに着くとせわしなく動き回っている柚月がいた。


「柚月、何をしてるんだ?」

「ああ、トワ。あなたもログインしてきたのね。何をと言われても装備の確認とか在庫の確認とか色々よ」

「柚月の受け持ち分の在庫はそんなに急に変わらないだろう? 装備品の売れ行きなんて大体こちらの予想通りなんだから」

「まあ、そうではあるんだけど……レイド攻略なんて慣れないことをやると思うと落ち着かないのよ」

「そんなものかね。普段のダンジョン攻略の上位版みたいな物でしかないと思うんだけど」

「普段のダンジョン攻略と言われてもね。そもそも私はダンジョンなんて普段から行かないわよ」

「……そう言えば柚月がダンジョンに行ってる事なんて見かけないな。ドワンやイリスは時々素材を取りに行っているみたいだけど」

「私の素材はダンジョンで手に入る物はそんなに多くないからね。どちらかと言えば市場で全部買いそろえてしまうもの」

「まあ、そうだろうけどな。たまにはダンジョンとかも行っておいた方がいいんじゃないか? 戦闘勘が鈍るぞ?」

「鈍るも何も私は生産者よ。別に戦闘することは仕事じゃないわ」

「まあなあ……」


 確かに生産職が戦闘経験不足でもそこまで問題にはならないだろうな……

 実地で集めなきゃ行けない物がある場合を除いて。


「それにダンジョンには行かなくてもフィールドで戦闘ぐらいはしてるわよ。シルクの材料を集めに森に行ったりとか」

「ああ、蜘蛛の巣から繭玉を取ってきたりか」

「……ええ、そうよ。微妙にリアルで昔は本当に苦労させられたわ……」

「でも、今はもう慣れたんだろう? はっきり言ってそれと一緒だぞ」

「そうは言われてもね……身内だけで行くダンジョンと他のメンバーも含めていくレイドはプレッシャーが違うのよ」

「柚月がプレッシャーねぇ……そういう話も珍しいけど、そんなに気にしなくても大丈夫だろ? 今日は情報収集のためのお試しみたいな物だし」

「……そうでしょうけど……まあいいわ。今日行ってダメそうだったら、次からは抜けさせてもらうからね?」

「了解。そのときはシリウスとプロキオンで何とかするよ」

「できれば今日もそれで何とかしてもらいたいけどね」

「今日のところは諦めておけ」

「……はいはい。それじゃあ、私は工房で適当に何か作ってるわ。それじゃあまた夜にでもね」

「ああ。それじゃあまた後で」


 柚月は自分の工房に入っていった。

 ……そう言えば柚月は戦闘が苦手だから生産をメインにするようになったんだったかな?

 確かメインの理由は自分で好きなように服をデザインして作れるからだったからのような気がするけど。


 まあ、いいか。

 とりあえず自分の分の作業をしよう。


 店の在庫を確認すると予想よりも多く売れていたため、まずはそちらの補充をすることに。

 持ち込むアイテムは……36人分だからな、多いに越したことはないだろう。

 とりあえず全員に10個ずつは配布できるようにしておこうかな。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 補充も終わり夜のログイン。

 遥華は先にログインしてるはずなので問題ないだろう。


 準備を整えて集合場所の談話室に向かうと他のメンバーは全員集まっていた。


「ゴメン、遅くなったか?」

「いや、まだ待ち合わせ時間前じゃ。単に全員早く揃ってしまっただけじゃのう」

「レイド攻略なんて初めてだからねー。昨日から楽しみで仕方が無かったよー」

「……イリスはいいわね。私なんて今でも胃が痛いわ……」

「えっと、大丈夫ですか?」

「大丈夫よ……とりあえず今日は諦めてるから」

「諦めてるって……そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、多分」

「ユキもなんだかんだで戦える方だからそう言えるのよ。私は戦闘は苦手なのよ……」

「まあ、諦めもついてるんだったら早いところ移動しよう。待たせても悪いからな」

「……そうね、そうしましょうか」

「まあ、移動してしまえば諦めも何もなくなるじゃろうて。では行くぞい」

「おー! 皆頑張ろうね!」

「はい、頑張りましょう」

「そうだな。行けるところまで行ってやろう」


 こうして俺達は1名を除いて意気揚々とレイドエリア前へと転移していくのだった。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「おや、『ライブラリ』も早かったね。これで後はリク君のパーティだけだ」


 レイドエリア前に移動すると既に『白夜』と『インデックス』、それからハル達のパーティが待機していた。


「皆早いですね。まだ、集合時間の30分以上前なのに」

「僕達は花畑の周りの森を抜ける必要があったからね。少し早めに来てたんだよ」

「昨日も移動しましたが、かなり時間がかかりますからね。遅れるよりは早めに来て準備をしておいた方が問題ないと思い早めに集合しました」

「多少遅れたところで問題ないと思うんですがね」

「こう言う事は最初が肝心ですからね。レイドともなれば全員の意識を合わせていく必要があります。第一印象が悪いと連携も難しくなりますから」

「そう言うものですか?」

「まあ、十夜は難しく考えすぎているところはあるかな? でも第一印象が悪いと知らず知らずのうちに連携が悪くなるなんて事はザラにあるからね。第一印象が大事なのは事実かな」

「そういうものですか。さすがにレイドの経験はないのであまり感覚がわからないですね」

「まあね。戦闘系クランでもない限りレイドなんて滅多に行かないだろうね。まだ野良でレイド募集がかかるほどレイドが一般的になってるわけじゃないしね、このゲームでは」

「そう言うことは『白夜』はそれなりにレイドを経験してるんですね」

「そうなるかな。最近は2週間に1回はレイドに行ってるよ」

「逆を言うと2週に1度しかいけないと言う事でもありますが。消耗品の補充がさすがに追いつかないんですよね。『ライブラリそちら』から購入してる分と自分達で作成してる分をあわせても」

「なるほど。今日のところはそれなりの数を用意してきたので大丈夫だと思いますが、足りなかったら次回以降で調整ですね」

「ちなみにどれくらい用意してくれたんだい?」

「ポーション全種を600個ずつは持ってきました。さすがにこれ以上は材料を調達するのも難しかったので諦めましたが……」

「……うん、初回の持ち込み量としては十分過ぎるかな。初回は中ボスがどの程度の強さなのかとそこまでの道程を調べることが目的だから、そこまで用意しなくても大丈夫なんだけどね」

「そうですね。最初のボスまで行って消耗品の在庫が足りなければ負け覚悟で一戦交える、その程度で済ませるのが普段の『白夜』のやり方ですから。初回の持ち込み量はその半分程度でも大丈夫かと」

「まあ、持ってきたんだし配布はしますよ。持ち帰る必要もありませんしね」

「じゃあ、ありがたくいただいておこうか。可能だったら2~3体のボスは倒してみたいところだね」

「やっぱりレイドエリアってボスがそんなにいるものですか」

「うん、レベル50レイドでも4体から5体はボスがいたね。今攻略してる65レイドは4体目のボスで詰まってる感じかな」

「……やっぱり上位レイドは大変そうですね」

「まあそれなりにね……おや、リク君のパーティも来たようだ。これで全員集合だね」


 まだ、予定時刻の30分前だが全員揃ったらしい。

 遅刻するぐらいなら待ちぼうけした方がいいと考えるのは国民性なのかねぇ……


「わりぃ、遅れたか?」

「集合時間には30分以上余裕があるから大丈夫だぞ」

「そっか。姉ちゃんから催促のメールが来たから急いで来たんだよな」

「……まあ、リク達以外は全員揃ってたからな」

「皆早いよな」

「そうだな」

「おや、トワ君、こんなところにいたのであるか」


 リクとたわいもないやりとりを交わしていると教授が小走りにやってきた。


「教授、何か用事?」

「用事も何も全員揃ったのである。始まりの挨拶をするのであるよ」

「……俺がか?」

「最初にここを見つけたのはトワ君達なのだから当たり前である。今日の主催は『ライブラリ』であるよ」

「……わかったよ。それじゃあ簡単に挨拶しますか……」


 こう言うの苦手なんだけどなぁ……

 とりあえずどんなことを話そうかと考えているうちに全員が集まっていた。

 ……まあ、覚悟を決めて挨拶するとしますか。


「あー、集まっていただきありがとうございます。『ライブラリ』のマスタートワです。お互いの自己紹介はこの後するとして、今回は未発見と思われるレイドエリア攻略になります。とりあえずバックアップとして消耗品の類いはそれなりに用意させてもらいました。後でパーティ単位で配りますのでよろしくお願いします。」


 まずは当たり障りのない事から初めて、自分の役割も含めた自己紹介か……


「それじゃあ、まずは『ライブラリ』のメンバーから自己紹介させてもらいますね。俺はガンナーのアタッカーがメインですが神聖魔法も扱えるのでサブヒーラーも兼任できます。それじゃあ次は……サブマスって事で柚月で」

「私!? まあ、いいわ。私は柚月、『ライブラリ』のメンバーで組むときはヒーラー兼魔法アタッカーね……」


 こうして『ライブラリ』から始まった自己紹介は『インデックス』、ハルとリクのパーティ、そしてに『白夜』と続き、最後は白狼さんだった。


「『白夜』の白狼です。パーティ内では物理アタッカー兼場合によってサブタンクかな。今日は完全未開のエリア攻略になる。普通に考えてボスを1体か2体倒せれば上出来と言ったところだろう。レイド初心者も多いだろうし、気にするなと言うのも難しいかも知れないけれどレイド攻略って言うのは失敗の積み重ねの上で成り立つものだからそう言うものだと理解してほしい。それじゃあ今日は頑張ろう!」


 さすが白狼さん、こう言う舞台も慣れてるな。

 さて、それじゃあレイドチームを組んでレイド攻略開始と行きますか!

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