133.妖精の輪《フェアリーサークル》

「うん?」


 ユキの視線の先を追うと確かに森の奥へと続く小道があった。

 ここは惑いの森、つまりダンジョンの最奥部だからここから先につながるエリアなんてない筈なんだが……


「イリス、そこに道が続いているようなんだがどこに続いているか知ってるか?」

「えー、ああ、あれねー。知ってはいるけど特に何もないらしいよ?」

「うん? どういう意味だ?」

「えーと、森の奥まで進むと花畑みたいな場所に出るんだって。でも、そこを調べても何も見つからなかったって言う話だよー」

「ふむ、なるほどなぁ」


 このゲームで何もない場所というのも珍しい気がするのだが……


「お花畑かぁ。ねえ、休憩がてら行ってみない?」

「……どうするイリス?」

「そうだねー。ボクもどんな場所か興味があるから行ってみたいかなー」

「それなら行ってみるか」


 俺達は休憩を終えて小道の方へと足を向ける。

 道幅は2人並んで歩くのがやっとと言ったところで、あまりきれいな道とは言えない。

 木々の隙間にできた獣道、と言うには少し立派程度の道だ。


「それで、その花畑まではどれくらいかかるんだ?」

「大体10分程度っていう話だよー」

「そうか。この道幅じゃ騎獣に乗ってって言うのも難しいしなぁ」

「こう言う道を散歩するのも楽しいよ?」

「モンスターもでる気配がないし、完全に散歩道だよなぁ……」


 これで道案内の標識や柵などがあれば完全に遊歩道なんだがな……


 念のため気配察知や魔力感知を使いながら歩くこと10分ほど。

 目的地である花畑に到着したようだ。


「うわぁ……綺麗だね」

「うんうん、わざわざ見に来たかいがあったよ-」


 森の中にできた広場とでも言うべき場所。

 そこに広がる花畑は確かに見応えがあった。

 だがしかし、こう言う場所であるからこそ何もないというのが逆に怪しかった。


「うーん、本当に何もないのかな……」

「トワも疑い深いねー。教授達も1ヶ月くらい前に調査に来て何も見つからなかったって言ってたし、きっと何もないよー」


 教授達が調査をねぇ……

 それならさすがに何もないか?


 俺も花畑に目をやるがどうにも違和感を感じる。

 違和感を感じるがその正体がよくわからないので、近づいたり遠のいたり、あるいは見る場所を変えてみたりして違和感の正体がわかった。

 この花畑、花の色が円周上で変わってるんだ。


 花畑の形状こそ円形にはなっていないが中央部から色とりどりの花々が円周上に配置されているんだ。

 円周上の全部が同じ色じゃないから最初は気がつかなかったけど、ぐるりと周囲を回ってみてようやく気がついた。


「なあイリス。この花畑、円周上に花が綺麗に並んで咲いているけど本当に何もなかったのか?」

「それは教授も気にしてたねー。でも、何もなかったって話だよ?」


 試しに気配察知と魔力感知を使ってみるが何も反応はない。

 さて、どうしたものか……


 手詰まり感を感じて辺りを見回してみると、俺と同じように花畑の周りを行ったり来たりしている者がいた。

 ケットシーのジンベエだ。


「ジンベエ、どうかしたのか?」

「うーん、これは……トワ様、すみませんがトワ様の同胞も呼んでいただけますかニャ? あとできればユキ様もお願いしますニャ」

「オッドをか? わかった」

「うん、私も構わないよ」

「ではお願いしますニャ」


 俺達はそれぞれ召喚していたフェンリルを送還して、ケットシーを召喚する。

 ケットシー達は一カ所に集まって何か打ち合わせをした後、それぞれ分かれて花畑を調べ始めた。

 ……やっぱり何かあるんだろうか?


 3匹で手分けしてあれこれ調べたあと、俺達の元に戻ってきたオッドは調査結果を告げてきた。


「ご主人様、ここは『妖精の輪フェアリーサークル』ですニャ」

「『妖精の輪フェアリーサークル』? なんだそれは」

「妖精や精霊達がこちらの世界に出入りするときに使う門の事ですニャ。僕達の隠れ里につながっている場所のようなものですニャ」

「つまりここから妖精達が暮らしている場所に行けると?」

「はいですニャ。本来であればここから『妖精郷フェアリーガーデン』へと行くことができますニャ。ただ……」

「ただ? 何かあったのか?」

「はいですニャ。この妖精の輪フェアリーサークルは外部からの干渉を受けて封じ込められていますニャ」

「封じ込められている? どういうことだ?」

「そこまでは僕達にもわかりませんニャ。ただ、不自然な魔力の流れを感知しましたのでそれを追いかける事はできますニャ」

「……さて、どうする2人とも」

「うーん、どう考えてもイベントだよねー。ここで帰るのはもったいないかなー」

「そうだね。このまま進んでみてダメだったらまた今度考えよう?」

「わかった。それじゃすまないけど、その不自然な魔力とやらを追ってもらえるか?」

「わかりましたですニャ。任せてくださいニャ」


 そう言ってオッドは森の一角へと向かっていく。

 どうやら森の奥の方に分け入っていく必要があるらしい。

 ……さて、これからは森歩きか、辛い行程にならなければいいのだけど……



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 『不自然な魔力の流れ』とやらを追いかけていく行程はやはり辛かった。

 ケットシー達は身軽な体を活かしてどんどん進めるが、俺達はそうは行かない。

 足下は木が根を張り巡らせたり自然の段差やら石やらがあって歩きづらい事この上ない。


 さらに奥に進めば進むほど木々の間隔が狭くなり、薄暗さを増していく。

 当然、足下も見にくくなる訳で……はっきり言って歩きづらさがどんどん増している。

 【夜目】スキルが反応してるって事はそれくらいの暗さには既になっているという事だ。


「オッド、まだ着かないのか?」

「申し訳ないのニャ。魔力を追いかける事は出来ますが距離はわからないのニャ……」

「そうか……それなら黙って歩くしかないか……」


 あとどれだけかの見当でもつけば少しは気が楽になったんだがなぁ……

 わからないなら仕方ないから歩くしかないか。


 それから歩き続けること30分あまり、先ほどの花畑からだと40分以上歩いたところで森の中に相応しくないものが見つかった。

 何もないところにそびえ立つ3メートルあまりの巨大な門とその脇に立つモノリス、そして転移用のポータル。

 これは間違いない、レイドエリアだ……



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 俺達3人はとりあえず転移ポータルを登録してから扉を調べてみる。

 するとここのレイドエリアの名称がわかった。

 レイドエリア【妖精郷の封印鬼】。

 これがここの名称らしい。

 レイドエリアである以上、レイドパーティーを組んでいないと入れないのはわかっている。

 だが、念のため扉を開けようとしてみると……


〈このレイドエリアは6パーティ専用レイドエリアです。6パーティレイドを組んでから入場してください〉


 案の定システムメッセージが表示されて入場出来なかった。

 ……入場出来ないのはいいが6パーティ専用か。

 それってフルレイドエリアじゃないか……


 中に入ることは今の段階ではどうにも出来ないので横にあるモノリスを調べてみる。

 白狼さんから聞いた話だと、このモノリスにはレイドエリアのルールやクリアパーティなどの情報が残されているらしい。

 モノリスを調べるとそこにはこんな情報が書かれていた。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 レイドエリア【妖精郷の封印鬼】


 ・レベル45制限

 ・6パーティ専用

 ・クリアチーム:なし



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 6パーティ専用というのは『進入するには6パーティでなければならない』という意味なのでまあわかる。

 しかし『レベル45制限』というのはどういう意味だろう?


 調べてみないとわかりそうもないので大人しくヘルプを確認する。

 レイドエリアについてのヘルプの中に『レベル制限ゾーン』についての説明があった。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ・レベル制限ゾーン


 進入時にレベル制限が課されるレイドエリア。

 種族レベルだけではなく、職業レベル・スキルレベルも相応のレベルまで制限される。

 ただし取得済みスキルは全て使用可能。

 装備品の性能も一定値まで制限される。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 どうやらこのレイドエリアは『レベル45相当』までの制限が課されるらしい。

 種族レベルについては『45』とわかりやすい指標があるが、それ以外の職業レベルやスキルレベル、装備品の制限については詳細はわからなかった。

 これについては実際にレイドエリアに入ってみてどの程度まで制限されているか確認するしかないだろう。


 しかし、クリアチームなしのレイドエリアか……

 これってつまり未発見のレイドエリアだよなぁ……

 教授に話したら喜んで食いついてきそうだ。


 ……うん、『ライブラリうち』の手に余る案件だし『インデックス』を巻き込んでしまおう。

 そう決めた俺はクランチャットで今回の発見に関して相談するが、やはり結論は『教授に投げる』だった。

 ……まあ、レイドエリアの攻略なんて大事は俺達の分野じゃないからな。


 話は決まったのでフレンドリストで教授がいることを確認してフレチャをつなぐ。


「もしもし教授、今暇?」

『暇と言えば話ができる程度には暇である。こんな時間にいきなり連絡とは何か新しい発見でもあったのであるか?』

「新しい発見というか、誰もクリアしていないおそらく未発見のレイドエリアを見つけたん……」

『何!? それは本当であるか!? 今どこにいるのである!? すぐに詳細を教えるのである!』


 うわぁ……やっぱり喜んで食いついてきたよ……


「今はまだ、そのレイドエリア前だ。転移ポータルがあるからこれからクランハウスに戻るとするよ」

『その前にレイドエリアの概要を教えるのである。レイドエリアに設置されているモノリスから調べられるはずである』

「そっちはもう調べたよ。レベル45制限・6パーティ専用レイドだ」

『むむ! 遂にレベル制限レイドエリアの発見であるか! しかも6パーティ専用というのも初めて聞くのである!』

「はいはい。わかったから戻ったら詳細について話す。うちのクランホームでいいか?」

『うむ、そちらに向かうのである。どうせなら白狼君にも立ち会ってもらった方がよいな。調査するとなれば『白夜』の力を借りねばならないのである!』

「わかったけど、白狼さんいるのか?」

『新発見のレイドエリアとなれば向こうも興味を持つはずである! 白狼君には私から連絡しておくのであるから、クランホームで待っていてほしいのである!』


 その言葉を最後にフレチャが切れてしまった。

 これは大事になりそうだなぁ……


「トワー、話はまとまったのー?」

「ああ、クランホームで話をすることになった」

「そっかー。じゃあそろそろ帰ろう」

「そうだな。あの様子だとすぐにも飛んできそうな気がするし、引き上げるとするか」


 こうして予想外の展開となった、素材集めは幕を閉じた。

 ……この先の教授との話し合いが大変そうだ……


**********


~あとがきのあとがき~


制限ダンジョンはFF14とかにあるIDの仕様と似たような物です。

あっちは制限されたレベルまでのスキルしか使えませんが、こっちはスキルの使用だけはできます。

威力は本来のものより大分落ちますが。

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