132.惑いの森
「そーれ、パワースマッシュ!」
イリスが元気よく両手斧を振り回してトレントを
普段使っている弓ではなく、今日のイリスの装備は両手斧だ。
見た目はかなり重そうだが、少ないSTRでも十全に扱えるように軽量化されているらしい。
かくいう俺も片手に斧を装備してトレントに斬りかかっているし、同行してるユキも今は両手斧でトレントを攻撃している。
周囲の警戒はシリウスやプロキオン、それからイリスのケットシーのジンベエが担当している。
俺達がいる場所は通称森林ダンジョンとか森ダンジョンとか呼ばれる、惑いの森だ。
場所的には第4の街の北東部に当たる。
俺達がなぜこんな場所に来ているかというと、昨日受けたオーダーメイド依頼の関係で素材採取をするためだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「惑いの森? そんなところにわざわざ行ってどうするんだ?」
ロックンロール達が帰った後、イリスから出た提案に首をかしげる。
惑いの森は確かにトレント系の魔物が多く生息している上に、時間経過で再ポップするから素材集めには適した場所だが……
「せっかくレベルも上がったんだし素材集めも自力でやろうと思ってねー。それに木材を高品質で集めたければ特殊な倒し方をする必要もあるし、せっかくだから一緒に行こうよー」
「まあ、自力で素材を集めるのは悪くないけどね。特殊な倒し方ってなんだ?」
「それはねー、敵の本体部分を斧による攻撃だけで倒すんだよー。そうすればドロップする木材の量も増えるし、品質もよくなるんだー」
「ふむ、わしもそれは聞いたことがあるのう。この間イリスがわしに斧を依頼してきたのはそのためか」
「そう言うことー。せっかくだしこの機会にトレントウッドを大量にストックしようかと思ってねー」
「ふむ、悪い話ではないが……わしは明日は予定があるから無理じゃのう」
「悪いけど私も無理ね。そうなると戦力は大丈夫かしら?」
「んー、ボクとトワ、それからユキちゃんがいれば平気だと思うよー?」
「ユキの参加は確定なんだな」
「トワが来てくれれば二つ返事で参加してくれるんじゃない?」
「……まあ、それもそうだな。明日は特に用事も無いし惑いの森に付き合うか」
「やったー。それじゃあユキちゃんが帰ってきたら集合時間とかの打ち合わせねー」
「はいはい、了解」
「あ、それからドワン。トワとユキちゃん用にも斧がほしいなー」
「ユキの嬢ちゃんはともかくトワ用もか。嬢ちゃん用は既存の両手斧で十分だろうが、トワ用は新規で作成しないとダメじゃろうな」
「そうなの?」
「うむ。トワは狐獣人だからな。そのSTRの低さはグラスランナーと同じじゃ。まともな重量の斧だとろくに扱えまい。トワ、両手斧と片手斧どちらがいい?」
「俺も斧を使うことが前提なんだな……牽制用に片手は銃を持ちたいから片手斧がいいな」
「わかった。明日までには仕上げておこう」
「ただいま。……皆揃って何かの打ち合わせ?」
「あ、ユキちゃんおかえりー。あのねー……」
このようにしてユキも巻き込み、明日の惑いの森行きは確定したのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「ここが惑いの森ですか……」
「うん、そうだよー。入口付近に転移ポータルと外壁が無かったら普通の森と大差ないよねー」
明けて翌日、俺達は惑いの森へとやってきていた。
移動時間は騎獣を使って30分あまり、たいした距離じゃない。
惑いの森は入口以外を城塞の壁のように外壁が囲っている森林だ。
外壁の向こう側に木々が立ち並んでいるのが見える程度には木々の高さがある。
「ダンジョンなんですよね?」
「ダンジョンだよー。もっとも大体2キロ四方の森の中を歩き回る形のダンジョンだけどねー」
「通路とかがないオープンフィールド型のダンジョンだな。確か中には採取ポイントや伐採ポイントが多いんだっけ」
「そうそう。だからレベル的に足りていれば生産職にとってはそこそこおいしいダンジョンだよー」
「そういえば、最近はめっきり採取も伐採もしていませんね」
「それを言ったら採掘だって
「まあ、トワ達なら自分で取りに行くより市場で買った方が早いからねー。ボクの場合は自力で取りに行ける場所は自力で行ってたけど」
「木材は品質の上下が激しいからな。高ランクの【伐採】持ちかどうかでかなり品質が変わっただろう」
「まあ、そう言うことー。それじゃあ、ポータル登録したら中に入ろー」
「まあ、ここで話をしててもしょうがないな。入るとするか」
「そうだね。中に入ろう」
俺達はポータル登録を済ませてダンジョン内へと入る。
ダンジョンに一歩踏み込めば濃厚な木々の匂いが立ちこめていた。
「あれ? 入口はあるのに壁はなくなっているよ?」
ユキが周囲を見渡して森の周囲を取り囲んでいたはずの壁がないことに驚いている。
「ダンジョン内は壁がなくてループするようになっているからねー。ループと言ってもダンジョンの反対側にいきなり出るわけじゃないけど」
「確か、決まった位置に飛ばされるんだったか……どちらにしても面倒な作りではあるよな」
「そのループの仕組みを逆利用して10分ほどでボスまで辿りつくルートも確立されてるけどねー。ボク達はトレントも倒しながらだからそのルートは使わないけど。あ、これトワとユキちゃん用の斧ねー」
そう言って手渡してきたのはドワン製の片手斧と両手斧。
どちらも★9の品でSTRボーナス付きだ。
「えっと、【斧】スキル持ってないけど大丈夫かな?」
「大丈夫だよー。【伐採】スキルあればそれでもダメージボーナスでるからねー。それに使ってればそのうち覚えるから気にしなくてもだいじょーぶ」
「別に【斧】スキルを覚えたい訳じゃないけどな……まあ、あるに越したことはないし受け取っておくか。……それで、今日の予定とフォーメーションは?」
「トワとユキちゃんもトレント
「まあ、大体のところはわかった。とにかく、トレントだけ気をつければ問題ない感じだな」
「そんなところー。あと、途中で伐採ポイントや採取ポイントがあったらそっちも拾っていこー」
「了解。それじゃあ行きますか」
俺は受け取った片手斧をウェポンチェンジの変更パターンの中に組み込み、行動を開始することにした。
いちいちインベントリから斧を取り出すのも面倒だからな。
あと、メインウェポンはハンドガン。
理由は射線が通らない森の中ではライフルの射程を生かせないし、既に格下相手になるこのダンジョンではマギマグナムの成長はあまり望めないからな。
成長の余地があるハンドガンでバンバン撃ち抜いていこう。
―――――――――――――――――――――――――――――――
そして場面は冒頭に戻り、俺達3人はトレントを見つけ次第、斧で攻撃することを繰り返していた。
惑いの森はトレント系モンスターのポップ率がかなり高いので既にかなりの量のトレントウッドを入手している。
トレントウッドの他にも通常の採取ポイントや伐採ポイントで入手できる薬草類や木材もかなりの量を入手していた。
俺とユキも無事、と言えばいいのかはわからないが【斧】スキルを習得し、現在進行形でぐんぐん成長している。
ちなみに、イリスがユキの斧を両手斧にした理由は、薙刀は両手武器だから持ち替えたらどちらにしても片手が空くから、らしい。
「よーし、これでとどめー」
どうやら15匹目のトレントの伐採が完了したらしい。
ドロップは……『
本来なら『上質なトレントウッド』はレアドロップでなかなかでないのだが、この方法を使うとかなりの確率で落ちるらしい。
実際、普通のトレントウッドよりも上質なトレントウッドの方が入手数が多いからな。
「今回は上質ウッドが4つかー。皆はー?」
「私は上質なトレントウッドが3つですね」
「俺の方は2つだな。かなり順調なんじゃないか?」
「うんうん。順調に集まっているようで何よりだよー。そう言えばトワ達のスキルってまだ進化しないの?」
「【伐採】のレベルは元々低かったからな……それでもここに来てから大分上がって42まで上がったぞ」
「私は40ですね」
「それじゃあもう2~3匹トレント伐採すれば進化できるかな? 進化できるようになったら進化しておいてね、入手量が上がりやすくなるから」
「わかったよ。それじゃあ次行くぞ」
そして寄り道を重ねながら森の中を歩き続けること1時間あまり、遂にボス部屋前に到着した。
なお、予定通り俺とユキの【伐採】スキルはカンストしたため【伐採Ⅱ】に進化している。
「うーん、1周でトレント遭遇数21匹かー。ちょっと少なかったかな?」
「そうか? 十分に多かったような気もするが……」
「聞いた話だと25匹ぐらいは遭遇するらしいんだよねー」
「それぐらいなら誤差の範囲じゃないか? それよりももう1周した方が早いだろ」
「それもそうだね。ボスはイビルトレントかイビルエントだから本体にはなるべく斧で攻撃してね」
「了解。どっちも邪属性の魔法を使ってくるんだったか……ユキは基本後衛でヒーラーだな」
「うん、わかったよ。それじゃあ私の武器は薙刀に戻しておくね」
「それじゃあ準備もすんだしボス戦へゴー!」
イリスがボス部屋の扉を開けるとそこにいたのはイビルエントだった。
「うん、これはラッキーかな! イビルエントウッドの方が材質はいいし上手く倒せば大量ゲットできる!」
「はいはい、そういうのは無事倒してからにするぞ。相手は同格なんだからな」
「はーい。でもこの戦力なら楽勝だと思うけどね!」
イビルエントのレベルは41、ほぼこちらと同等である。
まずは接近して邪魔な枝をハンドガンで撃ち抜いて部位破壊を行う。
時間経過で復活してしまうが、その前に倒してしまえば問題ない。
時折、取り巻きのウォーキングツリーが出現するが、そちらはシリウスとジンベエにお任せだ。
本来ならウォーキングツリーからもトレントウッドがドロップするので斧で倒したいのだろうが……さすがにそちらにまで手を回す余力は無い。
イビルエントとの戦闘はレベル差が少ないことを考えればあっけないほど簡単に終了した。
最初に攻撃の起点になる枝を全て撃ち落としたのが大きかったようだ。
何せ、枝からの攻撃がないから時々飛んでくる魔法と地面からの根による攻撃にだけ注意してればいいんだものなぁ。
戦闘内容としては盛り上がりに欠けたが代わりにドロップはおいしかった。
俺が6、ユキが10、イリスが7の合計23個もの上質なイビルトレントウッドが手に入ったのだからな。
ボス討伐報酬の宝箱からはしょっぱいアイテムしか手に入らなかったが、元々の目的は木材を始めとした素材集めなので問題ない。
これに気をよくしたイリスに付き合うこと合計3周、しばらく補充しなくても済むぐらいの大量の木材を手に入れたイリスはホクホク顔である。
俺の【斧】スキルもカンストしたため【片手斧】スキルを取得している。
ユキも【両手斧】スキルを取得したらしい。
あまり使う機会はないだろうけど、STRにボーナスが入るはずだからもっておいても損はないだろう。
そんなイリスを横目に俺とユキはボス部屋奥のセーフティーエリアで休憩をしていた。
「はー、さすがに疲れたね、トワくん」
「まあなぁ。さすがに3周するとは思わなかった」
「でも、イリスちゃんも喜んでるし別にいいのかな?」
「トレント材の在庫をしばらく気にしなくていいのは十分にもうけものだな。木材は何かと消耗するから」
「そうだね……あれ?」
辺りを見回していたユキが何かを発見したらしい。
「どうかしたのか?」
「奥につながっていそうな小道があるけどあれってなにかな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます