131.オーダーメイドの依頼

「さて、何をしようか」


 ユキとダンジョンに行ってから、再度クランホームに戻っていつものスキル練習をした後、今日の予定を思い出そうとしたが……うん、特に何もないな。

 さすがに昨日まで3日間連続でダンジョンアタックをしていた反動か、それなりに疲れているしクランとしても個人としても特に優先すべき作業はない。

 店の在庫に関しても確認してみたが、特に急ぎで補充する必要もなさそうだ。

 そのほかにやることがあるとすればケットシーのオッドに対する指導だが……


「はいニャ。ほいニャ」


 今のところこちらから口出しするまでもなく、問題なしに修行できているようだ。

 実際、最初の頃に色々教えたあとは放置状態でも問題なく修行できているようだった。

 召喚して経験を積ませないとレベルが上がっていかないフェンリルとは違い、ケットシーはホームと生産設備さえあれば勝手に修行してレベルが上がっていくみたいだな。

 実際、召喚してレベル上げをしたことがないのにいつの間にか『見習い』から『一般』へと進化している。

 ステータス的にはやっぱり弱いのだが、生産品の品質は初期に比べてかなりよくなってきている。


「オッド、何かわからない事はないか?」

「大丈夫ですニャ。いつもご主人が調合や錬金をするところを見せてもらっていますニャ。基本はバッチリ教えてもらっているのであとは練習あるのみですニャ。わからない事があったらそのときに聞きますニャ」

「そうか。まあ無理しない程度にな」

「お心遣い感謝しますニャ。でも、修行にでている他の皆にも負けられないので頑張りますニャ」


 どうやら同じように修行、つまり他のプレイヤーの眷属になっているケットシー達とも連絡を取り合っているらしいな。

 他の皆のケットシーの修行具合はどの程度なのだろう?


「ちなみに、他のケットシー達はどの程度まで修行が進んでいるんだ?」

「そうですニャ……イリス様に弟子入りしているジンベエが一番修行が進んでいますニャ。あとは皆、一人前になったところと行ったところですニャ」

「へえ、イリスのところのケットシーがねぇ……」


 まあ、何となくわかる気がするな。

 イリスなら、時間があるときはケットシーに色々教え込んでいそうだ。

 ユキもなんだかんだ色々世話を焼いているが……こっちはプロキオンやシリウスと遊ぶ時間も長い。

 イリスのところが一番進んでいるのはその差だろう。

 ユキの場合、ログイン時間も短かったりするし。


『トワ、今クランホームにいるかしら?』


 これからどうしようか考えているとフレチャで柚月から連絡が来た。


「いるけど何かあったか?」

『何かあったから声をかけてるのよ。悪いけどお店の方に来てちょうだい』

「うん? わかった今行くよ」


 はて、何か問題でもあっただろうか?

 修行に精を出すオッドに一声かけてから店へと向かうことに。


 店の方に顔を出すと、柚月にドワンそれからイリスも揃っていた。

 そして、カウンターの対面には1人の男がいた。

 確か前にもあったことがあるような……


「ああ、来たわね。ちょっと話を聞いてもらえるかしら」

「構わないけど。なんの話だ?」

「うむ、どうもライフルのオーダーメイドを頼みたいらしくてのう」

「……ライフルか」

「はい、久しぶりです、トワさん!」

「大声出さなくても聞こえてるよ。確か……ロックンロールだったか?」

「はい。覚えていてもらえるとは思いませんでした」

「人のことをなんだと……、まあ、いいや。それで、ライフルのオーダーメイドがしたいんだって?」

「はい。一通り装備は揃えているんですが、武器だけはどうしても頭打ちになってしまって」

「まあそうだろうねー。一番強い銃を売ってるのが『ライブラリ』だもんねー。ここじゃあまり強くなりすぎた銃は普段売りに出さないからねー」


 そう、基本的に売りに出し装備の品質は★8までにとどめている。

 一週間に何個か★9を売りに出すことはあるがそこまでだ。

 ★9の装備だって製造クリティカルを出してる訳ではないのでそこまで強い装備ではない。

 ライフルやマナカノンは魔石の魔力値を揃えなければ確定クリティカルは出ないようだし、魔力値だってそこまで上げるわけではない。

 せっかく他にもライフルを販売しているプレイヤーがでてきたんだから市場を独占するような真似はしないのだ。


「ちなみに、今使っているライフルってどの程度なんだ?」

「あ、はい。これになります」


 見せてもらったのは『ライブラリうち』で取り扱っている一般的な★8のライフル。

 ★8品ではあるが攻撃力150は越えているし普通に扱う分には問題ないはずだが……


「普通に売っているライフルだとそれなりに強い範囲の装備だが……これでも不満なのか?」

「いえ、不満というか……今後に備えて装備を調えようと思ったんですが、防具はともかく武器だけは『ライブラリここ』じゃないと揃わなくて」

「……まあ、当然だろうな。これより強い装備を作れる錬金術士なんて、いてもどこかのクランのお抱えだろうし」

「そういう訳で、是非オーダーメイドを頼みたいのですが……」

「まあ、そういう訳よ。トワ、あなた手が空いてるでしょう? たまには馴染みの客以外からもオーダーメイドの受注をしたらどう?」

「……まあ、たまには受けても構わないんだけど。この武器じゃ不満なのか?」


 そう言ってクランの倉庫から取り出したのは★9のライフル。

 攻撃力で言えば190まで到達している銃だ。


「……確かに強いですができればもっと強い銃がほしいですね」

「……これ以上となると耐久力がなぁ……」


 そう、攻撃力200ちょっとが1つの壁なのだ。

 この壁を越えようと思うと魔鉄じゃ強度が足りなくなる。


「これよりも強い武器は難しいんですか?」

「難しいというか素材が問題になる。ダマスカス鉱石を自力入手することは可能か?」

「……いえ、さすがにそれは難しいです……」

「……ふむ、そうなってくると値段が跳ね上がってくるのう。最近ではダマスカス鉱石の値段が上がってきているのでな」

「ちなみに攻撃力の要望と予算はどれくらいだ?」

「攻撃力は高ければ高い方がいいですが……予算は1.5Mくらいです」

「1.5Mねぇ……ちょっと相談させてもらうわ」


 柚月がチャットモードをクランチャットに切り替えて話を続ける。


『それで、1.5Mで攻撃力が高くて実用性のあるライフルって可能なの?』

『可能不可能で言えば可能だけど……耐久性はかなり低くなるんじゃないかな』

『そうじゃのう。1.5Mの予算では使えるのは魔鉄とダマスカスの合金になるじゃろうし、そうなると耐久性が怪しいのう』

『んー、グリップをよくすれば耐久性は上がるのー?』

『グリップの品質や材質が上がれば多少は変わるな。ただ、耐久性のメインは銃身に使われる素材だな』

『それで、現実的にはどれくらいの装備になるのかしら?』

『攻撃力250前後、耐久力120前後、消耗率5発で耐久力1消費ってところかな。今までの経験で言うと』

『それだと普段使いには厳しそうね……もう少し品質を上げられないの?』

『銃身の材質がよくならない限りはどうにもならないな。せめて予算が2Mなら品質を上げることができるんだけど』

『予算ねぇ……ドワンもその見解であってるかしら?』

『そうじゃのう。予算が2Mまで上がればダマスカスの割合を増やすことができるじゃろう。攻撃力がどの程度ほしいのかによるが予算は2Mはほしいところじゃのう』

『ちなみに品質10って確定で大丈夫なわけ?』

『むしろ普段★8や★7に抑えるのに苦労してるからな。11を作れと言われるときついけど10だったら失敗しないはずだ』

『了解。それじゃ、その線で話を進めましょうか』


 とりあえずこちらの話し合いは終わったので、ここからは柚月の出番かな。


「話し合いはついたわ。予算を2Mまで上げることができればそれなりのライフルを用意できるけどどうかしら?」

「2Mですか……ちなみにその場合ってどれくらいの装備になるんですか?」

「そうだな、品質10で攻撃力280から300前後、耐久力150前後、消耗率10発で1消費ぐらいってところかな」

「ちなみに1.5Mだと?」

「品質9の攻撃力250、耐久力120、消耗率5発で1程度だな」

「……ちなみに複数頼んだ場合って値引きとかしてもらえます?」

「……どうしたものかしら。トワ、ドワン、その辺はどうなの?」

「自分達でライフルの製造もしているじゃろうから知っていると思うが、銃身の作成は1度に5つできるからのう。5丁まとめてという事ならば値引き出来んこともない」

「技術料をまける気はないからそこまで変わらないけどな」

「そうなると……そうね、5丁まとめて依頼してくれるなら1丁当たり1.8Mまで値引きしてあげるけどどうする?」

「ええと、ちょっと待ってもらえますか?」


 ロックンロールはチャットモードを切り替えて話をしているようだ。

 おそらくクランチャットで他に頼みたい人間がいないか聞いているのだろう。

 今のうちにこちらも話を詰めておくか。


『依頼を受けたとして素材はどうするんだ?』

『正直、手元にダマスカスは残っておらんからな。『白夜』に依頼することになるじゃろう』

『★10狙いって事はグリップもトレントウッド以上だよねー? トレントウッドも今は在庫をちょうど切らしてるよー』

『という事は手持ちの素材ってまったくないのかしら?』

『魔石だけはあるな。タイガーベアか白銀魔狼ぐらいのボス魔石で製造クリティカルを狙えばちょうどいいくらいの攻撃力になるだろう』

『そうなると納期も心配よね……特にダマスカスの納期が』

『そこはあまり心配しなくても大丈夫じゃ。ダマスカスの在庫がないことは数日前に伝えてある。数日以内にはそれなりの数を納品してもらえるじゃろう』

『となるとあとは木材の方よね……イリス、そっちはどうなの?』

『それは考えてることがあるから平気だよー』

『それなら大丈夫そうね。納期の提示は10日程度で大丈夫かしら?』

『まあ、ダマスカスの納期が遅れたとしてもそれぐらいあれば問題ないじゃろう』

『そうだな。それぐらいで大丈夫だ』

『おっけー』


 さて、こっちの話し合いは終わったがあっちは……まだ続いているようだな。

 まあそんなに実力者が集まっている訳でもないクランだろうし、いきなり1.8M出せと言われても困るだろう。

 ……っとどうやら話し合いが終わったようだな。


「話はまとまりました。とりあえず5丁お願いできますか?」

「とりあえず?」

「はい。クランで話をしたんですが、今ログインしてる人間だけでもほしいって人数が多くって……ひとまず5人だけは決まったのでそれ以上の分については実際にできたライフルを見てから決めようって話になって……」

「それが賢明でしょうね。ただ素材の持ち込みがないオーダーメイド依頼は時価になるから、次の依頼のときも同じ値段とは限らないわよ?」

「はい、それはわかってます。なのでひとまず5丁という事でお願いできますか?」

「オーケー、それじゃ商談成立ね。前金は基本的に値段の半額だけど大丈夫かしら? それから、他に頼む人達も呼んでもらえる?」

「わかりました。集合は今かけてますからじきに来ると思います。それから、これは俺の分の前金です」

「……確かに受け取ったわ。それじゃ、実際作るものの詳細についてはトワの方と話してもらえるかしら」

「じゃあ、あとは俺が引き継ごう。納品するライフルは★10になるがボーナスはどうする?」

「ええと……多分STRが足りないと思うので俺の分は1つ目をSTRで、2つ目をDEXに割り振ってもらえますか? 他の皆の分はそれぞれ来たときに聞いてください」

「まあ、そのつもりだが。……よし、メールを送っておいたから間違いが無いか確認してくれ」

「……はい、間違いないです。それで完成はいつぐらいになりますか?」

「ダマスカスの納品待ちだから10日程度だな。完成したらメールを送るからそれまで待ってくれ」

「わかりました。よろしくお願いします」


 その後、ロックンロールのクランメンバーもやってきたのでロックンロールに話したことと同じ内容を全員に確認を取ってメールを送っておく。

 あとから確認できる手段というのは大事だからな。

 全員の注文を取り終わってロックンロール達が帰った後、イリスに1つ確認しなきゃならないことがあるんだよな。


「イリス。トレントウッドだけどどうするつもりだ?」

「うん、それなんだけどねー。トレントウッドは色々と使うから上位のイビルトレント材も含めて数がほしいんだー」

「ふむ。まあそれはわかるが」

「そういうわけだからトワ、明日トレント狩りに付き合ってー」


 いきなりだが、まあ悪い提案じゃないだろう。

 俺達も全員戦闘系2次職に就いた関係でかなり戦力がアップしている。

 トレント狩りなら問題なく行けるだろう。


「という訳で、明日は森林ダンジョン、惑いの森にいこー」

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