127.ダンジョンアタック 4
「っと、ここで行き止まりのようだな」
地下9階に到着してからかなりの時間を探索に費やした。
オートマップの表示を見る限りだと、既に行っていない分岐は無いはずでマップを埋めた事になる。
この階は敵のレベルが37から39だった事もあり、既に探索開始前からレベルが2上がっている。
職業レベルの方も20に到達しており後は2次職をどの職業にするか選択して転職クエストを受けるだけだ。
「俺はレベル41まで上がったけど皆はどんな感じだ?」
「私は39ね。職業レベルは19になったから転職クエストはもう受けられるわ」
「ボクも同じかなー。何とか追いつけたようで良かったよー」
「わしは種族レベルが40で職業が19じゃの。職業レベルももうすぐ20になるじゃろう」
「私はトワくんと同じかな? 職業レベルも20でカンストしてるし」
どうやら今日の第一目標である「全員が転職クエストを受けられるようになる」はクリアできているようだ。
そうなると次の階をどう進むかだが……
「とりあえず転職クエストを受けるのは大丈夫なようだな。そうなると次の階をどうするかだけど……」
「この階と同じでサーチ&デストロイでいいんじゃないかしら? 経験値的においしい訳だしどうせなら転職条件を満たしたらすぐに転職出来るようにしておきましょう」
「まあ、それだけなら11階以降の探索でもいいんだけど……時間的には大丈夫そうだし、やれるところまではやるとするか」
「そうね。時間的に厳しくなりそうだったらさっさとボス部屋に行ってしまえば問題ないものね」
墓地ダンジョンは大体1階層全体を歩いても、30~40分程度で済むぐらいの広さしかない。
ボス部屋が階層の端にあり真逆の位置を最後に探索する、なんてことにならない限りは1時間も見ておけば十分に探索できるだろう。
「とりあえず地下10階への階段まで戻ろうか」
「それもそうね。行きましょう」
こうして地下9階の探索を終えた俺達は10階へと向かうことになった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「そう言えば10階のボスってなんなのかしら?」
地下10階の探索を始めてしばらく。
柚月からそんな質問を受ける。
ちょうどいいので休憩も兼ねて少し説明しておくか。
「この階のボスはジャイアントゾンビだな。……名前通りジャイアント族のゾンビ、つまりでっかいゾンビだな」
「それはまためんどくさそうな相手ね……」
「基本的な性質はゾンビ系と一緒。神聖属性や光属性が有効。ただしジャイアントの名にふさわしいタフネスの持ち手、つまりHPがやたらと多いのが特徴だな」
「本当に面倒そうな相手ね……」
「いや、実際に面倒な相手らしいぞ? HPバーが中ボスなのに3本あって1本砕くごとに特殊行動が追加、3本目の半分を切ったら攻撃力増加モード開始らしいからな」
「……それって初見で対処できる相手なのかしら?」
「いや、ちゃんと戦う前に説明する予定だったから。ゲージ1本目は単純にターゲットを持っている相手にひたすら攻撃を仕掛けるだけ。2本目になるとなぎ払い攻撃やストンプ攻撃のような範囲攻撃を使うようになって、3本目になると後衛狙いで石の槍を投げてくる攻撃が追加だな」
「石の槍ねぇ……それってどこから出てくるのかしら?」
「設定上は魔術士系統のジャイアントがゾンビ化した姿って事になっているらしいぞ」
「それって教授情報?」
「まあ、そういうこと。そう言うのを調べるのが好きな知人から聞いたそうだ」
「魔術士であってもジャイアントはジャイアントなのよねぇ……普通に出会ったときがめんどくさそうだわ」
「今の最前線付近には普通にいるらしいけどな、ジャイアントに属するオーガ族のモンスターが」
「そうなの?」
「氷河方面にいるらしいぞ。ボスの氷鬼がオーガ種の変異亜種って話だし」
「ふーん。まあ、私達がそっち方面に行くことはまだまだないでしょうね」
「適性レベルが50後半って話だからな。まあしばらくは行く機会なんてないだろ」
「それもそうね。さて、続きと行きましょうか」
「そうだな。そろそろ行こう」
小休止を終えた俺達は10階の探索を再開することにした。
「それにしてもなんというか手応えのないダンジョンじゃのう」
「それは仕方がないよー。特攻効果のある神聖属性持ちが2人もいて、しかも戦闘に入る前に数匹先制攻撃で倒せちゃうんだもの」
「まあ、確かにそうじゃがな。ここまで手応えがないとは思わなんだ」
「装備の質も高すぎるからな。俺達の装備のランクは最前線組に近いものがあるからなぁ。正直、この程度のダンジョンの中層じゃ過剰だろうな」
「まあ、楽なことはいいことか。……どうやら次の敵のお出ましのようじゃの」
「ああ……見えない位置にウィスプかホラーゴーストがいるな。先制攻撃で倒せそうなのはレッドスケルトンだけだから注意していこう」
「うん、わかった。気をつけてね、プロちゃん」
「ワウ」
「それじゃあ始めるぞ」
俺のライフルでの攻撃を合図に次の敵との戦闘の幕が開けた。
敵の位置取りが悪く先制攻撃で倒せたのはレッドスケルトン2体だけだったが、その後は部屋の中に突入したプロキオンが上手く敵を誘導してくれた結果、スムーズに全ての敵を撃破できた。
……ドワンじゃないけど、確かに手応えがないよなぁ……
―――――――――――――――――――――――――――――――
予定通り40分ほどかけて地下10階の全域をまわった俺達はボス部屋の前で最後の休憩を取っていた。
「さて、ボスの特徴は途中で説明した通りだが他に確認したい事はある?」
「タンクはプロキオンに任せるとして、攻撃役であるわしらはどうすればいいかのぅ?」
「ドワンは近距離攻撃しか出来ないからなぁ……側面や背後から脚を殴ってもらうしかないだろう。ユキはMPやSTを考慮して物理攻撃と魔法攻撃を切り替える感じかな」
「うん、了解だよ」
「柚月は基本プロキオンの回復にまわってもらう事にして、イリスと俺は弱点狙いの攻撃かな」
「弱点? どこにあるのー?」
「一応、頭部と胸部に魔石があるからその周辺が弱点になるな。細かい位置は戦う度に変わるらしいから戦いながら狙いをつけるしかないらしい」
「りょうかーい。それじゃあボクは胸の方を狙おうかな」
「それじゃあ俺は頭部狙いだな。……さて、バフのかけ直しが終わったらボス戦だ。気合いを入れていくぞ」
「オッケー、それじゃあ行きましょうか」
「うむ。行くとしよう」
ボス部屋の扉を開けるとそこには虚ろな目をした4メートルほどの巨人が立っていた。
こいつがここのボス、ジャイアントゾンビだ。
「……うん、事前情報通り取り巻きはいないようだ。それじゃあ頼むぞ、プロキオン」
「オウン!」
プロキオンがターゲットを固定するために挑発スキルやウォークライ、咆吼スキルでヘイトを集める。
少し遅れて俺達アタッカー陣も攻撃を開始する。
だが、3本あるHPバーはなかなか削れていかなかった。
「これは聞いていたとは言えなかなかじゃな! HPが減っていかぬ!」
「そうですね……魔法の方が少し通りがいいですけど、それでも全然ダメージが通ってる気がしません」
「一応、ダメージそのものは通ってるけど、HPが高すぎるんだよ、このボスは! まったく、これじゃあ人気も出ないわけだ!」
「うーん、ブラストアローを使ってもHPがほとんど減らないよー。これ、神聖属性がないと倒すのにすごい時間がかかるんじゃないかなぁ?」
「おしゃべりはいいけど油断はしないようにね! ……この調子ならヒーラーとしての役目はしばらくなさそうね」
暢気に会話をしているように見えて攻撃の手は一切休めていない。
ジャイアントゾンビの攻撃は全てプロキオンに向かうが、その挙動の遅さ故にプロキオンを捕らえることができずほとんどの攻撃は空振りに終わる。
その隙を突いてドワンとユキは近接攻撃を、俺とイリスは遠距離攻撃を仕掛けているがHPの減り方はかなり遅い。
3分ほどかけて攻撃を続けてやっとHPバー1本目の半分を超えたと言ったところだ。
そんな中、イリスの放った矢の1本が、ジャイアントゾンビの胸に突き刺さった瞬間、ジャイアントゾンビが大きくのけぞった。
「うん? 今のってクリティカルヒットだよね? という事は魔石はあの近辺だね!」
「そのようだな。……こっちはなかなか当たらないな」
「それじゃあ、ボクはさっきの辺りを狙って攻撃を仕掛けるよー」
「頼んだぞ。……そろそろバフのかけ直しの時間かな。『ホーリーウェポン』、それじゃ頑張ってくれよ」
「うん、任せてー」
弱点である魔石の位置を捉えたイリスのダメージ量は見てわかるレベルで増している。
俺もイリスも生産者だけあってDEXの値は高い。
決まった部位を狙い撃ちするのは造作もないことだ。
相手も動いている以上、百発百中とはいかないが、3本に1本は弱点を射貫いている。
あとは俺の方も早いところ弱点部位を見つけて……っと、俺の攻撃でも大きくのけぞったな。
大体、右目と眉間の中間辺りか……
おおよその場所はわかったから、後はその付近を中心に攻撃を仕掛けていくだけだな。
その後の展開はかなり一方的になっていった。
弱点の位置さえわかれば、そこを中心に狙い撃ちしていくことで、なかなか減っていかなかったHPが、みるみる減るようになっていったからだ。
特に苦労することもなく1本目のHPバーを削りきった後、2本目に入ってからは範囲攻撃も使うようになる。
だが、予備動作がいちいち大きいためユキならば余裕を持って躱せるし、ドワンは躱す余裕がない場合は盾で受け止める。
多少前衛にダメージが入っても柚月が余裕を持って回復してくれるため、前衛陣が崩れることはない。
2本目のHPバーも順調に削りきり3本目に突入したとき、ジャイアントゾンビが動きを止めて腕を掲げるモーションを取る。
「槍が来るぞ! 気をつけろ!」
3本目以降の攻撃モーションである後衛狙いの槍投げ攻撃だ。
ジャイアントゾンビの手の中に岩の槍……というか柱が形成されてそれを投げつけて来る。
狙いは俺だったため、バックステップを使い回避する。
基本的に追尾性能は無いため、投げられた後に回避すれば被害は出ないのだが……
「ちょっと! 今のが『槍』なわけ!? ほとんど『柱』じゃない!」
「俺に文句を言われても困る! とりあえず投げられた後に回避すれば間に合うからそれで回避するか、防御するか選んでくれ! あと、ダメージは魔法属性じゃなくて物理属性らしいから注意してくれよ!」
「それって基本回避一択よね!? まったく、本当に面倒な相手よね!」
3本目に入った以上、あとは一気に削りきるだけだ。
途中何度か槍投げ攻撃があり、俺とイリスは危なげなく回避することができたが柚月は回避に失敗して攻撃を受けることがあった。
まあ、当たったと言っても直撃ではないので即死するような威力ではなく、すぐに回復魔法で回復していたのだが。
そして3本目も半分ほど削りきったところでボスの挙動が変化する。
今までは素手で殴りかかっていたが、魔法で作り出した柱をつかんで攻撃するようになってきたのだ。
「最終攻撃形態に入ったな! 一気に攻めきるぞ!」
柱でたたきつけるような攻撃方法になったジャイアントゾンビは、攻撃力こそ増したが攻撃スピードはさほど変わらない。
柱の攻撃に巻き込まれないように位置取りに注意しておけば、今までよりも対応しやすいくらいだ。
槍投げ攻撃も収まったので柚月なんか安堵の表情を浮かべている。
頭部と胸部の魔石についてもダメージの蓄積が原因か、完全に露出している。
扱いとしては部位破壊と言ったところか。
ドワンとユキも相手の足下を上手く移動しながら攻撃を続けてダメージを与えているし、プロキオンも攻撃を回避しながら隙を見て反撃を加えている。
俺とイリスもそれぞれ魔石に向かい絶え間なく攻撃を加え、最終攻撃形態に入って3分ほどでHPバーを削りきることができた。
全てのHPバーを失ったジャイアントゾンビは膝から崩れ落ち、光の粒子となって消えていった。
「何とか倒せたわね……まったく、私はあまり回避とかは得意じゃないのよ……」
「それなら【体術】スキルを覚えたらどうだ? ステップ系だけでも使えるようになっておけば、回避はかなり楽になるぞ」
「はあ、考えておくわ。それよりもまずはボスドロップの確認ね……」
ジャイアントゾンビのドロップは1人当たり2つ手に入る。
俺は……ジャイアントゾンビの魔石と骨か……ハズレだな。
他の皆もそれぞれドロップを確認しているが……表情を見る限り渋そうだな。
「うーん、【土魔法】のスキルブックねぇ……私はもう持ってるし今更よねぇ」
「魔術士系のゾンビって設定だからな。レアドロップ枠に魔法スキルのスキルブックが存在してるんだよ」
「でもここまできて【土魔法】はないわよね。……ちなみに一番のレアドロップってなんなのかしら?」
「ああ、それは……」
「ねえ、トワくん。【呪魔法】のスキルブックが出たんだけど……」
「……ああ、ジャイアントゾンビの一番のレアドロップだな」
「相変わらずの引きの良さよね、ユキは」
「えっと、これ、どうしたらいいのかな?」
「【呪魔法】はデバフ系統の魔法だからな。使うんだったら覚えてしまえばいいし、使わないんだったら……どうしたものかな」
「うーん、覚えても特に問題は無いんだよね?」
「ああ、問題は無いぞ。神聖魔術と反発するとかもないし、その気になれば闇魔法と統合させて死滅魔術を同時に覚える事も出来るからな」
「うーん、それならとりあえず覚えようかな。何かの役に立つかも知れないし」
「そうじゃのぅ。ユキの嬢ちゃんが手に入れたものじゃし自分で使うのが一番じゃろう」
「そうですね……よし、覚えたよ」
このようにユキが相変わらずの幸運を発揮したが、それ以外には特別レアなドロップはなかった。
その後はショートカットを開通してクランホームまで帰還してその日は解散となった。
明日はいよいよラスボス攻略の予定となる。
特に問題になりそうな事は無いはずだが、油断せずに気をつけて挑まないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます