126.ダンジョンアタック 3

 火曜日のログイン。


 まずは課金アイテムの経験値増加チケットの購入と使用からだ。

 前回はテスト前という事もあって7日間のチケットだったが、今回購入するのは30日分のチケットを種族・職業・スキルの3種全部購入である。

 今日からの攻略範囲は大体自分と同等クラスの敵が相手になる。

 経験値増加チケットを使っておけば相応に経験値取得量が増えるだろう。


 チケットの使用が終わったら、在庫補充や修練などの日課となっている作業。

 今日は生産系の活動を先に終わらせてからダンジョンに向かうことになっている。

 ワグアーツ師匠のところに行き練習用素材を確保、ガンナーギルドへ向かいマナカノンの製造クエストを処理、【魔力操作】と【気力操作】の練習を終えたら減っている店の在庫を補充。

 補充する在庫の中には少量のマナカノンと高品質ライフルも混ぜておく。

 メッセージボードに『高品質ライフルの販売は続けてほしい』という要望がそれなりに多かったため★7~★8程度に収まる範囲でライフルを生産して販売している。

 ……もっとも『失敗』して★9や★10になってしまう物もそれなりにあり、それらは不良在庫(というか滅多なことじゃ売りに出せない代物)と化しているが……


 とりあえず自分の準備は終わったので談話室に移動して少々スキル構成を見直してみる。

 昨日の戦闘で思ったのは、パーティ戦だと意外とライフルを使う機会が多いと言うことだ。

 ソロだと先制攻撃程度にしかまともに扱えなかったが、反動による吹き飛びを抑えることができるようになった今はパーティ戦なら援護射撃としてかなり使う機会がある。

 そうなると派生技能【ライフル】を覚えておかないのはもったいないわけで……

 そして、そう考えていくと俺の場合はハンドガンやマギマグナム、おそらく今後はマナカノンも使う機会があるだろう。

 結局、全ての銃種を使うことになりそうなのだ。


「そうなると、派生技能も全て覚えておいた方が便利なんだがなぁ……」


 問題はSP消費だ。

 1つの基本スキルから覚えられる派生技能は、1つ目はSP3で覚えられるが2つ目以降はSP8が必要になる。

 新たに3種類のスキルを覚えようとするとSP24が必要だ。

 今後、超級スキルや生産系上級スキルも覚えていくことになると思うとSPは余裕を持って残しておかないと行き詰まる可能性もある。

 だが、2次職を複数育てられる可能性があるという事はSPもその分多くもらえるはずで……


「いいや、迷ったのなら取ってしまおう!」


 という訳で銃の派生スキルを全て覚える事にした。

 これで【マギマグナム】を含めて【ハンドガン】【ライフル】【マナカノン】4種類全ての派生が揃ったことになる。

 後は使い分けだが……墓地ダンジョンに潜っている間は神聖属性攻撃が有効な以上、長距離ではライフル、近距離ではハンドガンだろうな。

 ウェポンチェンジのセット内容もそれにあわせて変更しておこう。


「お待たせー、って何やってるのよトワ?」

「うん? 派生スキルを覚えたのとそれにあわせてスキルセットをいじってた」

「派生スキルねぇ……SPは大丈夫なの?」

「うーん、戦闘系2次職を頑張ってあげれば何とかなるかなと思ってる」

「相変わらずあなたは生産と戦闘の二足のわらじを履いていくのねぇ……」

「まあ何とかなると思うよ」

「あなたの楽しみ方だからあまり注文はつけないけど、程々にしなさいよ?」

「わかってるって……準備ができたのは俺と柚月だけか?」

「残りの3人ももうすぐ終わるそうよ。……なんで一番生産分野が多いあなたが、一番最初に準備が終わってたのかしらね?」

「今日は早めにログインできたからじゃないかな?」


 柚月と話をしていると残りの3人も談話室へと集合した。


「よし、全員揃ったわね」

「うむ。それでは行くとしようかのぅ」

「おっけー。準備は万端だよー」

「はい。行きましょう」

「ああ、行くとしよう」


 俺達はホームポータルから墓地ダンジョンへ、そして墓地ダンジョンの地下5階へと移動したのだった。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「今日の目標の再確認よ。今日の目標は私達全員が2次職転職クエストを受けられるようになること、具体的には全員の戦闘職職業レベルを18まで上げることね」

「私はもう20になってますから大丈夫ですね」

「俺も昨日の間に20になっていたな。あとは柚月達が1~2程度上がれば終わりか?」

「そうじゃの。わしと柚月がLv17、イリスがLv16じゃな」

「とりあえず今日の目標は全員Lv20到達ね。そうすれば後は全員が転職クエストを受けて、このダンジョンを攻略すれば終わりだから」

「まあ、そこまで行かなくてもイリスが18になるまでは上げるという方針でいいだろ。地下6階からはレベル的に同等程度の相手を倒してまわるんだからすぐに上がるだろうし」

「そうだねー。それに経験値チケットも使ってるからすぐだと思うよー」

「チケットも使ってたのか……それなら地下8階ぐらいまでは倒しながら階段を探して進んで、地下9階と10階を全滅させる方針で行けばいけるんじゃないかな。で、ついでに地下10階のボスも倒してしまえば一石二鳥だし」

「……まあ、時間的にも大丈夫そうね。オーケー、それで行きましょう」

「まあ、時間的に危うくなったら『帰還の羽根』を持ってきてるから大丈夫だろ」

「トワくん、『帰還の羽根』って何?」

「ダンジョン内で直前に立ち寄ったセーフティーエリアまで帰還することができる便利アイテム。まあ、要するにここに帰ってくることが出来るアイテムだな」

「そういうわけだから時間の心配はしなくても大丈夫よ。それじゃあ行きましょう」


 柚月の号令に従って俺達は地下6階へと足を踏み入れる。

 タンクは昨日と同じくプロキオンに任せた形になった。

 道中の敵はスケルトンがレッドスケルトン、ゾンビがグール、ゴーストがホラーゴーストなど一段階上の敵に置き換わっているが、レベル的には同等程度という事もあり一撃の下に倒されていく。

 やはり、神聖属性特攻は墓地ダンジョンでは無双状態になってしまうようだ。


 そんなわけで順調に地下8階までをクリアして地下9階へとたどり着いた。

 地下9階からはスケルトンドッグという、その名の通り骨でできた犬型のモンスターも追加になる。

 こいつはすばしっこくて遠距離攻撃を当てるのは難しいため、先制攻撃で数を減らした後は前衛に任せることになっている。

 俺やイリスの後衛が対処しなければいけない相手としてはウィスプという人魂型のモンスターが追加になる。

 こいつは長距離から魔法を撃ってくるので、発見し次第対処する必要がある。

 ……もっとも薄暗いダンジョンで光を放っているため、先制攻撃はやりやすいのだが。


 階段を下りて最初の小部屋にはレッドスケルトンが3体、ウィスプ2体、スケルトンドッグ2体という編成で敵が待ち構えていた。

 まだ、敵の索敵範囲に入っていないため戦闘にはなっていないが先制攻撃をするならそろそろ攻撃を仕掛ける距離だ。


「編成的にウィスプが邪魔かしら……」

「そうだな……柚月とイリスはウィスプを倒してくれ。俺はスケルトンドッグを片方倒してその後はレッドスケルトンを狙う」

「了解。それじゃあ初撃は任せたわね」

「ああ、任された」


 魔法や弓も含めて一番射程があるのは俺のライフルだ。

 ライフルなら通路から狙い撃ちにできるので1匹は確実に仕留められる。

 慎重に狙いをつけて……発射!


 発射された弾丸は狙い通りスケルトンドッグの片方を撃ち抜いて倒す事に成功した。

 それにより部屋の中全ての敵が警戒態勢に入るが、まだこちらに向かってくる様子はない。

 残ったスケルトンドッグも足を止めていたため、2発目の狙撃で打ち抜いた。


 2匹目のスケルトンドッグを倒したことでこちらの位置を把握したらしい敵は通路へと殺到してくるが、部屋の入口付近でプロキオンに足止めされてしまい通路側まで来ることはできない。

 その隙に、魔法の詠唱を終えていた柚月と狙いを定めていたイリスがウィスプ2体をそれぞれ倒して残るはレッドスケルトン3体……

 と思ったところで、部屋の死角からグールがプロキオンに襲いかかってきた!


 どうやら、俺の気配察知や魔力感知から逃れていたグールがいたらしい。

 元よりアンデッド系のモンスターは気配察知にはほとんど反応せず、魔力感知で探すことになる。

 だが、ゾンビ系は動かなければ魔力感知でも捕らえきることが難しく、今回のように死角がある場合は見逃しがある事が多々ある。

 実際、墓地ダンジョンは罠の数は少ないが気配を消したモンスターが天然のトラップのように配置されていることが多い。


 不意打ちを受けることになったプロキオンだが、特に慌てた様子はなくグールの一撃を躱して爪で反撃を加えている。

 その間に間合いを詰めたユキが薙刀でグールを切り捨てて倒す。

 今度こそ残りはレッドスケルトン3体になり、間合いを詰めてプロキオンに襲いかかろうとしていた1体はドワンの斧で叩き砕かれた。

 残りの2体は弓で攻撃しようとしていたので、俺と柚月がそれぞれ1体ずつに攻撃を仕掛けて倒していた。


「あー、最初の部屋からいきなり不意打ちとはねぇ……」

「ゾンビ系が動きを止めて待ち伏せしてるのは【罠感知】でも【気配察知】でも【魔力感知】でも発見できないからな」

「そうだけど、こうなると近接しかいないパーティだとこのダンジョンってきつそうよねぇ……」

「実際、近接だけだとかなりきついダンジョンだからな。実入りの少なさも加えて不人気な要因になっているよ」

「でしょうねぇ……それにしてもプロキオンはよく不意打ちを躱せたわね」

「その辺は狼としての勘とか嗅覚とかそう言うのじゃないか? まあ、このダンジョンに関してはプロキオンにタンクを任せた方が良さそうだ」

「そのようね。頼りにしてるわよ、プロキオン」

「オン!」


 こうして地下9階からの戦闘……サーチ&デストロイを開始するのだった。

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