128.ダンジョンアタック 5
『墓地ダンジョン』の攻略を始めて3日目。
できれば今日中にクリアを目指したい。
今日も昨日と同じように生産活動を行ってからダンジョンに行くことになっている。
その間に2次職への転職クエストも受注しておかなければならない。
俺もガンナーギルドに行った際にクエストを受注しておいた。
転職先は『エンシェントガンナー』だ。
転職先を選ぶときにジョブツリーを再確認したが、新しい2次職は開放されてなかった。
1次職ならいくつか開放されていたが、前提条件となるジョブ経験値が足りないか、スキルレベルが足りないと言うことだろう。
そうなると必然的に前確認した『ハイマギガンナー』か『エンシェントガンナー』の二択になるわけだが、俺の場合魔法戦闘をする機会の方が多いので『エンシェントガンナー』を選択することにする。
3次職で超級職を選ぼうと思えば必然的に他の2次職も選択しなきゃいけないだろうし。
クランホームに戻って店の商品在庫を補充した後、談話室に行くとユキ以外の3人は揃っていた。
「こんばんは。トワも準備できたかしら?」
「こんばんは。ああ、今店の在庫補充も完了したところだ。ところでユキは?」
「さっき2次職転職用のクエストを受けに行くって言って出て行ったわ。そろそろ……戻ってきたわね」
「すみません、お待たせしましたか?」
「大丈夫よ。4人揃ったのはちょっと前だし。クエストの方は問題なく受けられた?」
「はい。ただ、討伐対象のボス名が『カースドスペクター』になっているんですよね。地下墳墓の最終ボスは『レッサーデュラハン』のはずなんですが……」
「ああ、それなら大丈夫だと思うぞ。特定クエストを受けてるときだけボスが替わるって言うダンジョンはそれなりにあるから」
「そうなんだ……全然知らなかったよ」
「まあ、とにかくボスまで行ってみればわかるでしょう。私達も転職クエストは受注済みだし、早速墓地ダンジョンに向かうわよ!」
「了解、それじゃパーティを組んで向かうとしますか」
柚月の号令の元、3日目のダンジョンアタックは開始された。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「ここが地下11階ね……出てくるモンスターってどうなるのかしら?」
「基本的には今までのモンスターの強化版だな。メタルスケルトンやポイズンゾンビ、ワイト辺りがメインか」
「それじゃあ、戦法は基本的に変更なしでも大丈夫なのね?」
「基本的には同じで大丈夫だろうな。ただここからは通路の曲がり角に隠れていたり、通路を巡回していたりと部屋の中に固定でいるだけじゃないから注意が必要かな」
「そうなると隊列はどうしましょうか」
「前列にプロキオンとドワン。中衛に柚月とイリス。後衛に俺とユキでいいだろう。基本的にこのパターンなら後から不意打ちされても対応できる」
「了解。それじゃそのフォーメーションで行きましょう。それからマップは全部まわって歩くのかしら?」
「うーん、そこは悩みどころだな。経験値を考えればまわって歩く方がいいし、転職クエストの条件は満たしているから積極的にレベルを上げる必要は無いし、ってところで」
「じゃあ、とりあえず今日は進行優先で階段を見つけ次第、次の階へ向かいましょうか。それでボスに勝てなかったらレベル上げも兼ねながら下りて再チャレンジという事で。
「まあ、それが無難か。それで行こう」
地下11階からのダンジョン攻略が開始されたが、特段問題になるような事は無かった。
昨日までの2日間でこのダンジョンのモンスターの行動パターンは大体覚えていたし、敵はその強化バージョンでしかない。
安全マージンを十分に取って攻略していけば、危うげなく攻略は進んでいった。
唯一危険だったのはダンジョンの曲がり角にモンスターが隠れているパターンであったが、こちらもプロキオンが先行して相手を釣り出すことによって安定した戦いができた。
そういう訳で、各階層を順調に攻略して2時間経たないうちに15階のボス部屋前まで到着した。
ボス部屋の前で最後の確認をすると言うことで、この近辺の部屋や通路上などの巡回などは入念に潰してある。
レベル的にも昨日よりも2上がって43まで上がっている。
昨日は2階層分を全て敵を倒しながら進んでの結果だったので、今日の実入りは昨日よりもさらに効率が良かったという事だろう。
実際、【ライフル】のスキルレベルがかなり上がってるし。
「それで、カースドスペクターについての情報はない訳ね?」
「ああ、、少なくとも俺は聞いたことがないな」
「すみません、私が先に確認しておけば良かったんですが……」
「別に気にしなくても大丈夫よ。……とはいえ、事前情報も無いボスにいきなり挑むのも結構厳しいわよね……」
「そうじゃのぅ。せめて特徴ぐらいはわかっていると対処が楽なのじゃが」
「スペクターだからな、霊体系モンスターというのは確定だろう。そうなると無属性物理攻撃の効きは非常に悪くなる。ホーリーウェポンは必須になるだろうな」
「あとはスペクターって事は精神系状態異常にも注意だよねー。となるとMND上げておかないと危険かな?」
「そうね。出てくるのはスペクターのボス版でしょうからそっちに注意を払った方が良さそうね。
「それじゃあ、料理バフはMNDとMP上昇がいいですよね。今準備しますから少し待って下さい」
「よろしく頼むわね。その間に私達は装備のメンテナンスをしておくわ」
こうして
俺も各自のポーション消耗状況を確認してポーションの再配布を行う。
そして、ユキの料理の準備が整ったらそれを食べて料理バフをつけ、俺たちはボス部屋の扉を開けた。
そこに待ち受けていたのは、大量の取り巻きを引き連れた巨大なゴースト――カースドスペクターだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
ボス部屋にいたカースドスペクターのレベルは43。
本来のボスであるレッサーデュラハンが45である事を考えればレベルは低いという事だろう。
HPバーも2本しかないことを考えるとジャイアントゾンビよりもHPは少なそうだ。
ただ、レッサーデュラハンよりも取り巻きの数が多い事には注意しないとな……
「……さて、まだあちらは警戒態勢にもなってないけど、攻撃を仕掛けたら確実に殺到してくるわよね」
「ざっと見た限りでも30匹は取り巻きがいるな。どうやらカースドスペクター戦は取り巻きをどうやって処理するかが勝負の分かれ目になりそうだ」
「さて、動き出す前に行動指針の確認じゃのぅ。さすがにあの集団に囲まれれば無事では済むまい」
「そうだねー。ボク達には範囲攻撃の手段は限られてるものねー」
まずはボスであるカースドスペクターとその取り巻きを分断したいところだが……
「ユキ。取り巻きはプロキオンに任せて、カースドスペクターを引っぱって他の取り巻きから引き離すことは可能か?」
「うーん、自信はないけどやってみるね」
「ああ、死なないように立ち回ってくれれば問題ない。プロキオンはカースドスペクター以外の取り巻きをかき集めてきてくれ」
「ワフ!」
「柚月はプロキオンとユキのHP管理を頼む。攻撃はあまり考えなくて構わない」
「オーケー。任せて」
「残る俺達で取り巻きの殲滅だ。ドワンはスケルトン系を、イリスはゾンビ系を優先して狙ってくれ。俺はゴースト系を優先して対処する」
「うむ。妥当な線じゃの。任せておけ」
「りょうかーい。こっちが先に終わったらボクもゴースト系を狙うね。数が多そうだし」
「それじゃあ、全員の装備にホーリーウェポンをエンチャントして……作戦開始だ!」
ホーリーウェポンの配布が終わった後、柚月が幼体化を解いたプロキオンと併走して動き出す。
当然、モンスター達もその動きに気付き対処しようとするが、プロキオンがウォークライで全ての敵のヘイトを一気にかき集める。
このままではカースドスペクターもプロキオンの方に向かってしまうため、ユキがすれ違いざまに攻撃を仕掛け、さらに挑発技を使うことでカースドスペクターのターゲットを奪った。
その間にも、俺は厄介そうなレイスやスペクターと言った霊体系のモンスターをライフルで撃ち抜き、ドワンやイリスもそれぞれ優先目標に対して攻撃を仕掛けている。
柚月はユキとプロキオンの両方を回復出来るような位置取りに立ち、消耗の激しいプロキオンを優先して回復している。
ドワンやイリスは範囲攻撃で敵をまとめて攻撃出来るよう、プロキオンが上手くモンスターをまとめる。
これで近接攻撃タイプのモンスターはかなり処理速度が上がった。
あとは、遠距離攻撃を仕掛けてくる霊体系モンスターの処理だが……
「いちいちライフルで撃ち抜いてても始まらないか! ウェポンチェンジ・双華!」
どうしても単体処理にしかならないライフルに見切りをつけてハンドガンに装備を切り替える。
ホーリーウェポンの効果はまだ有効なので、ハンドガンでも十分に一撃で倒せるはずだ。
空狐装備の優れたAGIも活かして、戦場を駆け巡りながらハンドガンでモンスターを撃ち抜いていく。
ダッシュ状態で打ち続けているため、スキルを使っていないのにスタミナがどんどん減っていくが、それ以上に処理速度は速くなっていた。
程なくして、全ての取り巻きモンスターの処理が終わり、俺達アタッカー3人とプロキオンはカースドスペクターに狙いをかえて攻撃を始めた。
カースドスペクターはあまりHPの高いボスではないようで、既に2本あるHPバーの1本目が半分削られていた。
「ユキ。あまり火力技は出していないよな?」
「うん。このボス、あまりHPないみたいだよ。神聖属性が有効なのは見て取れるけど、それを考慮してもHPの減り方が早いもん」
「そう言うことなら一気にたたみかけるぞい」
「うん。早く倒しちゃおー」
確かに。
事前情報が無いから油断はできないが、HPが少ないなら一気に倒してしまった方が早いだろう。
俺も両手の拳銃をボスに向けて連射する。
スペクター系はわかりやすい弱点がないため、確定クリティカルを狙うことはできないがそれでもスキルも使った総攻撃で一気にダメージを積み重ねてHPバーの1本目を破壊する。
すると、カースドスペクターが浮き上がって呪文を詠唱するような動作に入った。
「何か大技が来るぞ! 全員散開!」
元より遠距離攻撃を行っていた俺とイリスは余裕で距離を開けられたが、近接攻撃を行っていたユキやドワン、プロキオンは回避が間に合わなかった。
カースドスペクターを中心に、黒い闇色の爆風と表現するしかないようなエフェクトが広がり、前衛3人がそれに飲み込まれた。
爆風が晴れた後にはカースドスペクターの姿はなく、大ダメージを受けた3人だけが取り残されていた。
「今回復するわね。エリアヒール! ……って回復量が少ない!? これ、呪いのバステ!?」
「チッ、どうやらさっきの爆風は大ダメージと呪いのバステ付与だったようだな。……アンチカーズ!」
「呪いのバッドステータスは初めてだけど気持ちいいものじゃないね……アンチカーズ」
「アンチカーズ! ……これで回復量も戻ったでしょう、エリアヒール!」
呪いのバステはあまり使ってくる敵は少ない、その代わりに効果はいろいろな方面にわたる。
全ステータスの減少、倦怠感から来る祖行動阻害、そして回復魔法などによる回復量の低下だ。
回復魔法には呪いを解除する『アンチカーズ』のスキルもちゃんと用意されているが、すぐに回復出来ないと即壊滅につながりかねない危険なバッドステータスだ。
そして、姿を消したカースドスペクターを探していると、部屋の中央上空に浮かんでいるのが見て取れた。
そこで先ほどの範囲攻撃とは違うモーションをしている。
……今度は全体攻撃か?
追撃を警戒しているとカースドスペクターから黒い波動が広がり、周囲に何か重いものが落ちるような音がした。
辺りを見回してみるとそこにはメタルスケルトンがその身を起こそうとしていた。
「ここに来て取り巻き追加か!」
「じゃがスケルトンだけならば問題あるまい! 問題はカースドスペクターがいつ戦線復帰するかじゃ!」
「すぐに戻る気配はないな……とりあえず近場のヤツから処理していこう!」
メタルスケルトンの配置はランダムだったのかかなりばらついている。
範囲攻撃で巻き込めるような配置ではないので、自分から接近して一体ずつ処理した方が早そうだ。
まずは接近戦の対処が苦手な柚月の側に落ちてきたヤツから始末しないと……
柚月の方に駆け寄りながら近場のメタルスケルトンを撃ち抜いて倒す。
増援のメタルスケルトンのレベルもそれなりではあるが、神聖属性が付与された攻撃の前では銃弾2~3発で倒せてしまえるような相手だ。
柚月の方もこちらの意図に気付いているらしく、こちら側へと駆け寄ってきている。
柚月付近のメタルスケルトンも射程範囲に捉えたため、順次撃ち抜いていく。
そこに、
「トワ! 避けて!」
「え?」
柚月の叫び声と同時に背中に強い衝撃を受ける。
炸裂したような衝撃は魔法によるものだったらしく、受けた衝撃に比べるとダメージ量は少なかった。
だが……
「これにも呪い付与の効果付きか! アンチカーズ、ミドルヒール!」
後ろを振り返ってみると、黒いもやに包まれたカースドスペクターから時折漆黒の弾丸が発射されているのが見て取れた。
どうやらランダムターゲットの呪い属性付き魔法攻撃らしい。
「大丈夫!?」
「自力回復出来る程度には平気! それよりも他の皆は!?」
「他の皆は躱してるわ。あなたは完全に背後からの攻撃になったから躱せなかったんでしょうね」
「のようだな!」
俺に向かって次の弾丸が発射されたが速度はたいしたものではなく追尾性もなかったため余裕で躱せた。
「初見のボスなんだからあまり油断しないでよね!」
「次は注意するよ。それよりもスケルトンの処理が終わったところに移動よろしく!」
「わかってるわよ! それじゃ処理お願い!」
メタルスケルトンのいなくなった範囲に移動する柚月とスイッチするようにして場所を入れ替わり、残ったメタルスケルトンを処理していく。
散発的に魔法攻撃も飛んでくるが種がわかっていれば、常に視界内にカースドスペクターを捉えておくのはさほど難しい作業ではないので全て余裕を持って躱す。
やがて増援として出現したメタルスケルトンをほとんど処理した頃、カースドスペクターのもやが晴れて再び地上付近に降りてきた。
「増援を全部倒し終わった訳じゃないし時間で下りてくるのかな?」
「はいはい、考察もいいけど攻撃の手は緩めないでね」
「わかってるって。それじゃあ残りも片付けてボス攻めに戻るとしますか」
倒し切れていなかった残り数体のメタルスケルトンを手早く処理し、カースドスペクターへの攻撃に戻る。
カースドスペクターは第二段階とでも言うべき状態になっていて、通常攻撃にも呪い付与効果が付いたようだ。
もっとも、回復役の柚月が多少忙しくなった以外は特に変わりは無かったが。
順調にHPを削っていき、残り半分まで削ったところで再び範囲攻撃のモーションを取ったため全員回避。
今回はきちんと全員が回避できた。
そして、再び天井付近まで浮かび上がったカースドスペクターが取り巻きを再召喚、今度はスペクターが多数だった。
とはいえ、取り巻きが増えたところでたいした問題でも無く、召喚されたスペクターを駆け回りながら倒していく。
今度はカースドスペクターが地上に降りてくる前に増援のスペクターは全て倒しきることができた。
三度地上に降りてきたカースドスペクターだが、範囲攻撃が攻撃パターンに加わったぐらいで特に厄介な攻撃パターンの追加は無かった。
そのため、最後の処理はかなり手早く済ませることができ、カースドスペクターを討伐することができたのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「最後の方はかなりあっけないボスだったわね」
「まあ、相性が良かったせいだろうな。攻撃が常時神聖属性なのが大きかったんだろう」
「そうじゃの。……しかし、ドロップはしょっぱいのぅ……」
「カースドスペクターの魔石しかドロップしないなんてねー」
「まあ、その分取り巻きでわいたザコのドロップは多かったが。とはいえ、アンデッドのドロップだから魔石以外はほぼ無価値だが……」
「ちなみに通常のレッサーデュラハンだったら何かレアドロップするの?」
「……『レッサーデュラハンの大剣』がドロップするが……俺達には無用のアイテムだよなぁ」
「まあ、楽できて良かったと思いましょう。それで、転職クエストの方はクリアになってるわよね?」
「はい、私はクリアになってます」
「ボクもー」
「わしもじゃ」
「俺もクリアになってるな」
「オッケー、それじゃあボス討伐報酬の宝箱を開けてショートカット用ポータルから帰還しましょう」
ボス報酬の宝箱の中身はいわゆる換金アイテムの類いとスキルブックがいくつかだった。
特に俺達にとって有用なアイテムはなかったので柚月に頼んで適当に市場で処理してもらうことになった。
「あれ? トワくん、この奥にも行けるようだけどどこにつながっているの?」
「あー古代神殿だか古代霊廟だったか、そんな名前のダンジョンだな。単純にここの強化版と言ったダンジョンにつながっているはずだ」
「そうなんだ……ダンジョンからダンジョンにつながっているって珍しいね」
「まあな。機会があれば訪れることもあるだろう。とりあえず今日は帰還するぞ」
「うん、そうだね。それじゃあ帰ろうか」
ポータルから無事クランホームまで帰還した俺達はその場で解散となった。
転職クエストの報告は明日以降でも構わないし、皆慣れないダンジョンアタックで疲れている様子だ。
俺も今日は店の在庫の状態だけ確認してクエスト報告は明日にしよう……
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