122.ユキの昇格試験
なんだかんだで大冒険になってしまった昼時間を過ぎログアウト。
夕食は遥華に任せていたので特に問題なく食べられた。
もっとも、普通に準備できる時間にキッチンに現れた俺を見て「別にお兄ちゃんが作っても良くない?」と言われたが……
夕食後は後片付けをして、いつもの寝る準備をしてからログインとなった。
少しやることが多かったため普段より少し遅いログインとなってしまった。
ログインをするとすぐに柚月からフレチャがかかってくる。
『はーい、トワ。今日の夜って特に予定無いわよね?』
「うん? 予定なら入ってないが、どうかしたのか?」
『ユキが何か相談があるみたいなのよ。という訳で談話室に集合ね。他の皆は揃ってるわ』
「了解、すぐに行くよ」
ユキから相談事とは珍しいな。
普段はあまりクラン内でも自己主張しない方なのに。
1階の談話室に着くと柚月の言葉通り、クランメンバーが全員揃っていた。
「お待たせ。それで相談事ってなんだ?」
「あ、こんばんは、トワくん。相談事はね、私の2次ジョブへの昇段試験についてのことなの」
「昇段試験? ……そう言えばメインの2次ジョブ以降は昇段試験必須だったな」
そう言えば、俺も昼間にガンナーギルドに行ったときに説明を受けていたんだった。
「それで、昇段試験の内容は?」
「うん、それが『古代の地下墳墓』のボス攻略なんだけど……」
「『古代の地下墳墓』……ああ、『墓地ダンジョン』か。2次ジョブでクリア目標指定があるのは珍しいな」
「そう言われてみればそうね。大抵は、『レベル40以上のダンジョンボス討伐』が条件なのに」
「私が就こうとしてるジョブ『
「ふむ、普通のジョブよりも難しい条件のう……墓地ダンジョンのレベルはいくつだったかの?」
「確か45ダンジョンだねー。入口付近は30後半のモンスターだけど、奥地に進むとレベル45まで上がるはずだよ」
「それにボスもレベル45のはずだな。……普通の2次ジョブの転職条件が『レベル40以上』なことを考えると、普通よりも5レベル高いダンジョン攻略を求められてるな」
「うん、それでどうしたらいいか皆に相談しようと思って……」
「まあ、そうじゃの。わしらではすぐに攻略というわけにはいかんじゃろうのう」
「そうね。レベル40の森ダンジョンとかなら、割と余裕があると思うんだけど……」
「さすがに45ダンジョンにいきなりはきついかなー。装備は更新されてるからいけないこともないと思うんだけどねー……」
「……やっぱりそうですよね。トワくん、『白夜』にお願いした方がいいかな?」
「『白夜』は『白夜』で今は忙しいからな。多分、レベル65レイドに挑んでる真っ最中だろう。頼んだとしてもどこまで協力してもらえるか……」
「うーん、やっぱりそうだよね……性能は落ちるけど、他のジョブを選ぼうかな……」
「ちなみに、どんなジョブなの? 聖戦巫女って。」
「えっと、詳細は
「ふむ、そうなるとユキにはぴったりなジョブね」
「たしかにの。嬢ちゃんには、ぴったりなジョブじゃの」
「聖属性や、光属性強化なのに墓地ダンジョンっていうことは、試験内容はお祓いみたいなものなのかなー?」
「えっと、クエスト受注したときにそんな事を言われました。バックストーリーもしっかりしてますよね、このゲーム」
「まあ、そんな事よりユキのクエストをどうするかよね。正直、今の私達では手が余るけどいつもの『白夜』頼りは難しい、というより戦闘関係を何でもかんでも『白夜』に頼むのもねぇ……」
「そう考えると、ここらで俺達の戦闘方面も上げていいんじゃないか?」
「その心は?」
「さすがにレベル45ダンジョンぐらい攻略できるようになっておかないと、そろそろきついだろ生産職だとしても。いい加減、自力で集めないといけない素材も増えてくるぞ?」
「まあ、正論ね。そして、私達の装備はトワが武闘大会に出たときの余剰素材で大幅に強化されてる。少なくとも45ダンジョンぐらいなら十分に通用するくらいにはね」
「確かにの。防具はトワの余りの白銀魔狼や氷鬼、雷獣素材で強化されておるからな。あとは、全員の武器じゃが……」
「トワに関してはまったく問題なしね。というよりどこにケンカ売るつもりって言うレベルの上級装備だし。ほとんど、現時点の最強装備じゃない? 服装備としては、だけど」
「重鎧装備では鉄鬼の方がはるかに上じゃからの。そういう意味では、強化せねばならないのは武器の方か……」
「木製武器ならいけるよ。イビルトレント素材だったら余裕があるからボクの弓と柚月の杖ぐらいだったらすぐに作れるねー」
「あとは、ドワンとユキの武器かしら……ドワン、余っている金属素材は?」
「上位素材はほとんど持ってないのう。あえて言えば、ミスリル金を作る素材は残っておるが……」
「ミスリル金だったら、金属製の杖を作るぐらいにしか使えないだろう。少なくとも前衛が殴り合うための武器に使うには微妙だな」
「まあ、そう言う事じゃ。作ろうと思うと買い集める必要があるな」
「『白夜』や『インデックス』も今は自分達の装備優先で集めてるから、こちらに流す余裕はないだろうからな」
「仕方が無いわね。それじゃあ、市場の方を見てみましょうか」
俺達はマーケットボードに移動して鉱石類の値段を調べてみる。
「……さすがにアダマンタイトクラスになると高止まりしてるわね」
「今は、最上級レイドの攻略合戦中だからな。最上位素材は高止まりするだろうさ」
「……そうなってくると狙い所はアダマンタイトではなくもう少し下級の鉱石かのう」
「そうなってくると、メテオライトやダマスカスか……うん? メテオライトが大分安くなってるな」
「メテオライトは武器に使うにはクセがあるからのう。魔力を通しやすいので魔法剣士向きではあるが、物理攻撃力は1枚劣るからの。それで、最近の状態では値段が安くなってしまっているのじゃろう」
「……まあ、魔法剣士自体が微妙なラインにいるからな。うちの妹みたいに馬鹿みたいに強いのもいれば、器用貧乏に留まるのもいるし」
「そう言う事じゃて。……しかし、魔法剣士向きなら、ユキ嬢ちゃんにはうってつけかもしれんな。刀身部分をメテオライトとミスリル金の合金、柄の部分を純ミスリル金にすれば物理攻撃力だけでなく魔法攻撃力も大分上がるじゃろう。これからなろうとしているジョブと合わせて考えればうってつけではないか?」
「……そうですね。それじゃあ、メテオライトを購入しますので、装備の作成お願いします。できれば聖霊武器にできるようなものを」
「おや? ユキ嬢ちゃんも聖霊武器を作るのかの?」
「はい、そのつもりです。実は聖霊の器は既にできています」
「ほう、それは手際がいいのう。そう言うことなら手は抜けんのう」
「あとは、純粋物理の薙刀も用意したいとこだが……さすがにこの値段じゃあなあ」
「うむ。買えないことはないじゃろうが、さすがに割に合わんじゃろう。急ぎでもないし、見送るのが正解じゃな」
「そうですね、物理武器はとりあえず何とかします」
武器については方向性が決まったため、ユキがメテオライトを購入してドワンに渡している。
これで、ユキの武器は問題ないだろう。
あとは、ドワンの武器装備だが……
「ドワン、自分の武器はどうするんだ?」
「わしも間に合わせになるかもしれんがメテオライトで作っておこうと思う。物理武器としては十分な攻撃力になるじゃろうからな」
ドワンの武器もメテオライト製に決まりのようだ。
「そう言えば、柚月。お前さんの杖は木製のままでいいのか? 今ならミスリル金の金属製ロッドの方が魔法攻撃力出そうな気がするが……」
「私の杖は木製って決めてるのよ。今のところはね。ユキみたいに聖霊武器を作るときは考えるけど、今はイリスの木製杖でいいわ」
これなら、話は決まったな。
後は、具体的にどういう攻略をしていくかだが……
「それで、トワ。戦力増強を考えるのにわざわざ墓地ダンジョンを選んだんだから何か考えがあるんでしょうね?」
「ああ、あそこの敵は全部聖属性弱点があるからな。俺とユキの2人で全員の武器にホーリーウェポンをかければ、武器攻撃は常時特攻を得られる」
「私は神聖魔術を覚えていないけど?」
「光輝魔術は覚えているだろう? ならそっちでも大丈夫だ。神聖魔術ほどではないが光属性もかなりよく効くからな」
「なるほどね、属性的な有利をフル活用するって訳ね」
「そういうことだ。ドロップ品はうまみのないダンジョンだが、単一属性でザコからボスまで全部押し通せるから経験値稼ぎには持ってこいだからな、あのダンジョンは」
「まあ、見た目的な問題であまり好まれていないけどね。……そういえば、ユキってゾンビとかスケルトンって大丈夫なの? あのダンジョンってそれ系ばっかり出るけど」
「はい、大丈夫だと思います。それに、ダメだったら、プロキオンに盾は任せて私は遠距離攻撃に徹するので……」
「ああ、そう言う事ね。了解、それなら大丈夫そうね。それで、武器の作成にはどれくらいかかるかしら」
「ボクの方は明日には完成させるよー」
「わしも明日には完成させよう。きちんと★11までは仕上げるから心配せんでもいいぞい」
「はいお願いしますね、ドワンさん」
どうやら、明日の夜には装備は揃うらしい。
となると……
「それじゃあ、ダンジョン攻略は明日からで大丈夫だな?」
「そうね、それでいいかもしれないわね。ちなみに、墓地ダンジョンの具体的な構造は知ってるの?」
「全15フロア、5フロアごとに中継地点あり。中継地点前には中ボス、中継地点から再開した場合はそのフロアの中ボス戦はなし。それぐらいかな」
「おおよその概要ぐらいって事ね。具体的にはどうするの?」
「最初は3階ぐらいまででモンスターを狩って柚月達のレベルを上げようと思う。それで、いけそうなら5階の中ボスまでは1日目で片付けたいかな。その後は、柚月達の昇格クエストが出るまでレベル上げをして、全員が昇格クエストを受けた状態になったら本格的な行動開始かな」
「確かに、全員分の昇格クエストを一括で終わらせた方が早かろう」
「そうだねー。ボク達は汎用ジョブの範囲でジョブチェンジする予定だから一般的な課題しか出ないはずだし、そっちの方が楽だよね」
「そういうことだ。ユキの方も特に問題は無いな?」
「うん、大丈夫だよ。ジョブチェンジだってそんなに急いでいるわけじゃないし、、時間がかかっても大丈夫だよ」
「そう、それじゃその予定で行きましょう。それじゃあ、この話はこれで大丈夫ね?」
「ああ、問題ないだろう。……俺も昇格クエスト受けてこないといけないしな」
「私達はまだ受けられる段階にも来てないけどね。ともかくこの話し合いはこれで終了。他に何か議題はある?」
「特にないかのう」
「ボクも特にないねー」
「俺からも思いつくことはないな」
「わたしもこれだけです」
「それじゃあ、今日はこれで解散。明日、準備ができたら墓地ダンジョンにアタックね」
こうして俺達のレベル上げも兼ねた昇格試験対応は決まった。
でも、とりあえずは、いつものスキル修練と販売品の作成だな……
予定が決まったところで、普段の日課はこなしておかないと後が恐いからな……
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