121.ユキのスキル構成とケットシーのスキル修練方法
「さて、トワ君にプラチナチケットのスキルデータも見せてもらえた事だし僕はクランに戻って次の支度をするとしよう」
「ええ、お気をつけて白狼さん。また、何かありましたらよろしく」
「ああ、そうだね。……何かで思い出した。まだ雷獣や氷鬼の魔石はいるかな?」
「ええと、あれば何かと使うのであればほしいですが……」
「いくつか持ってきてるから買い取ってもらえるかな? 正直、魔石は余っていてね……あまり市場にも流しにくいし」
「わかりました。買い取りますよ」
突発的ではあったが、雷獣と氷鬼の魔石をいくつか買い取る。
実際、市場を見ても雷獣や氷鬼の魔石はあまり気味だ。
ランクが高いせいで、まともに扱える者が少ないからだ。
魔石の使い道は色々あるのだが、リペアに使うには高価過ぎ、装備品の強化に使うには高ランクなため成功率ががた落ち、また、雷獣にせよ氷鬼にせよ属性が付いてしまうため、武器の強化には敬遠されがちだ。
武器に属性がついたところで、相手の防御属性と重ならなければたいした問題は無い。
だが相手の防御属性と重なった場合、1~2割程度のダメージが減ってしまう。
俺の場合は気にしていないので、属性がついてるマギマグナムをバンバン使っているが、普通のアタッカーにとっては属性付きの武器というのはどうしても扱いにくいのだ。
それこそ、同程度の攻撃力を持ったサブウェポンを用意していない限りは。
逆に防具に使った場合は防御属性が付くが、こちらはあまり気にしない。
防御属性が付いたからといって、弱点属性が出来るわけではないのだ。
こちらは単純に装備強化になるために属性が付く魔石による強化は好まれるのだが……さすがに最前線ボス素材は成功率が著しく低いらしい。
今では、雷獣や氷鬼を安定して狩れるパーティも増えてきているため、素材の流通も活発化しているのだが、魔石だけはだぶつき気味だ。
白狼さん達『白夜』にとってもその点は同じなのだろう。
魔石は一応レアドロップ扱いなのだが、1パーティで狩れば1個は落ちる程度のドロップ率なのだ。
装備を作ろうと思えば複数個必要なコモン素材とは違い、装備を作るときに混ぜるにしても1個あれば十分な魔石は本当に余る。
そういう微妙な立ち位置なのだ。
「……ありがとう、魔石はなかなか処分できなくてね。助かるよ」
「こちらこそ。たまに目玉品として強力な銃を作りたいときは、雷獣や氷鬼ならいじらずにすみますからね。重宝してますよ」
「そのランクの魔石を簡単に扱えるのはごく一部のトップ生産者ぐらいだけどね。それじゃあ、今度こそ失礼するよ」
「はい。またお越しください」
今度こそ白狼さんは帰っていった。
残されたのは、俺にユキ、そしてドワンだ。
「ドワン、最近の調子はどうだ?」
「調子か。いいはずがあるまい。まったくもって【魔力操作】と【気力操作】の修練が進んでいる気がせんわい」
「まあ、それもそうか。ユキの方はどうだ?」
「えーと、私の方は何となくつかめてきたかなーって感じかな」
「さすがにこの手のフィーリングが物を言う事は得意だな」
「うん、でもスキルとして覚えられるのはもう少し先になりそう」
「それでも、目処が立ってるだけすごいわい。他の者は目処すら立たんのだからな」
「えっと……ごめんなさい?」
「謝ることではないわい。……まあ、スキルとして覚える事ができたら実演して見せてくれ。何かわかるやもしれん」
「わかりました。そのときは皆の前で披露しますね」
スキルを覚えるのはユキが最初になりそうだ。
「そう言えば、ユキは何で白狼さんと一緒にいたんだ?」
「えっと、白狼さんが来てたからお茶を出して、そのまま色々と雑談かな? スキル周りやステータスの振り方とかを教えてもらってたの」
「ステータスの振り方か……BPの再振り分けでもするのか?」
「再振り分けというか、何パターンかBPの振り方を記録して使い分けできるシステムが導入されたよね? それを使おうと思って」
「別に今のステータスでも問題なかろうに」
「うーん、プロキオンがいるときって私の役目が曖昧になる時が多いから、アタッカーもできるようにしようかなって思って。そんなに高い課金要素じゃないし」
「確かにのう。3枠分開放で1500円じゃったか。切り替えできた方が強い者は買っても損はないかも知れんな」
「ですよね。だから物理アタッカー仕様のスキル構成ってどうすればいいのか白狼さんに聞いてみたんです」
「確かに、俺達じゃ物理アタッカーの構成は詳しくないな」
「それで、物理アタッカーを目指すなら【薙刀】だけじゃなくて【両手槍】スキルを覚えた方がいいとか、後は【格闘】スキルだけは覚えて鍛えておいた方が便利だとか色々聞いてたの」
物理アタッカー、というか純粋なアタッカー仕様を求めるなら武器スキルは2種類程度の上位スキルはあった方がいい。
これは単純に手数を増やすだけでなく、マスクデータとしてのステータス増強につながるからだ。
【格闘】スキルがあった方がいいというのは、各種ステップ系スキルの存在だろう。
対人戦で真価を発揮するスキルではあるが、モンスター相手でも位置調整の役に立つ。
初期スキルの中でも覚えやすい方だし。
ただ、そうなるとSPの問題が出てくるが……ユキの場合は大丈夫だろう。
俺みたいに無節操に魔法を覚えてるわけじゃないし、生産系スキルも育ててるのは料理一本だ。
この先、何かスキルを強化する必要が出てきても俺よりSPは余らせているはずだ。
薙刀も装備分類としては両手槍と薙刀の2種類を持つ武器らしいし問題は無いだろう。
「それから、戦闘系も2次職に転職するときは職業ギルドに行って手続きしなきゃいけないって聞いたからこの後行こうと思って」
「そう言えば、ユキももうすぐというか後1レベルで2次職か」
「うん、そう。2次職については何も調べてなかったから。まずはそこからかな」
「そう言えばユキのランサーギルドランクっていくつなんだ?」
「10にはなったよ。でも、やっぱりあまり通って無いからあまり上がってないみたい」
「ちなみに、ドワンはファイターギルドだったよな? いくつだ?」
「……9じゃな。武器納品系依頼で貢献度を稼いでおる」
「他の皆も似たようなものかね。そうなると2次職になるための試験があるはずだが」
「わしはまだ36だからな。受けられんわい。あれは38以上からだからな」
「そうか。まあ、2次職になれるようになったら全員で助け合おうか。いざとなったら『白夜』に頼めばいいし」
「何でもかんでも『白夜』だよりは避けたいところじゃがのう……あちらとしてもわしらが躓いてると困るか」
まあ、その辺は持ちつ持たれつだ。
正当な対価の上でのやりとりなら問題にはならないだろう。
「それじゃあ、私はギルドに行ってくるね」
「ああ。付き添いは必要か?」
「ランサーギルド前にポータルがあるし平気だよ。それじゃ、またね」
ユキもポータルから出発していった。
最初の頃に比べれば、自分1人で出歩く機会も増えたしいいことだろう。
「さて、わしはもうひとがんばりするとしよう」
「ああ、俺も自分の工房に戻るとするか。それじゃまたな」
「おう。そっちも頑張れよ」
こうして俺達はそれぞれの工房に戻っていくのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
工房に戻った俺は、いつものように作業台へと向かいスキル修練を始める。
しかし、これまたいつも通りスキル習得できる気配すら感じられず半分の素材をゴミにした。
そんな中、横で作業を見ていたオッドが声をかけてきた。
「ご主人様、何をしているのですかニャ?」
「んー? 見てもわからないだろうが【魔力操作】と【気力操作】ってスキルの修練だな」
「どういうスキルなのですかニャ?」
「MPとSTをそれぞれ素材に流し込んでやって、素材の上質化を促すスキル、らしいぞ」
「なるほどですにゃ。それならば、ご主人様が失敗していた理由も納得できるというものですニャ」
「……うん? 何かわかったのか?」
「ボク達は猫妖精ですニャ。魔力や気力といった物には敏感ですニャ」
「ふむ、それで?」
「ご主人様から流れ出る魔力や気力の量がいきなり大量に流れ出ていますのニャ。あれでは素材の上質化どころか素材にダメージを与えてしまって当然ですニャ」
「なるほどな。大体、俺の予想とあってはいるが……具体的にそれに対する対処方法ってあるのか?」
「ケットシー族では魔力と気力を同時に扱う際でも修練を積む段階では別々にやっていますのニャ。そして修練がある程度の段階まで来たら同時に扱う練習を始めますのニャ。ご主人様はまず片方だけの修練からやった方がいいと思いますのニャ」
「片方だけか……考えたことはあったが修練回数の回数から試してはいなかったな……とりあえず片方ずつでやってみるか」
「はいですニャ。きっとそれが近道になると思いますニャ」
「うん、ありがとう。試してみるよ」
俺は改めて作業台の前に立ち、各種素材を並べる。
今日の修練は……何となく感覚をつかみかけている【魔力操作】からやってみるか。
【魔石強化】スキルで魔力の扱いにはそれなりになれているので、【魔力操作】だけなら割とスムーズに魔力を注ぐことができた。
そして、最終的に出来上がったのがこれだ。
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劣化HPハイポーション ★2
回復量の少ないハイポーション
『劣化』と名前がついてはいるが
素材はまったく異なるため実際には別物である
作成手順が足りていないため品質は低い
HP回復50
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何とかゴミにならずに作成することができた。
『作成手順が足りていない』というのは【気力操作】を使っていないためだろう。
ともかく、【魔力操作】の最低限度の感覚はつかめた気がする。
今日は残りの素材を全て【魔力操作】の練習に充てるとしよう。
こうして【魔力操作】に練習を集中させた結果、【魔力操作】のコツは大分つかめてきた。
あとは試行回数を増やせば、ひとまず【魔力操作】は覚えられるだろう。
「ご主人様、どうでしたかニャ?」
「ああ、大分コツはつかめたよ」
「それは良かったですニャ」
「しかし、どうしてお前さんはそんな事を知っていたんだ?」
「ボク達はまず最初に魔力や気力の扱い方を習うのですニャ。それから護身術として、武器の扱い方や魔法の扱い方を習うのですニャ。こうすることで少ない魔力や気力でも大きな効果を得られるようになりますニャ」
「なるほどね。まず最初の出だしが違うのか……」
これは盲点だったな。
まさか、ケットシー族がこのようなスキルを持っていたとは。
「練習用の素材がなくなったようですが、ご主人様はどうするのですかニャ?」
「うん、とりあえずは商品用のポーション作成かな」
「わかりましたニャ。ボクはもうしばらく練習させていただきますニャ」
「わかった、あまり無理はしないようにな」
「はいですニャ。この家に来てから、魔力や気力がどんどん湧いてくる気がしますニャ。これならもうしばらく頑張っても大丈夫そうですニャ」
ああ、『拠点内回復速度上昇』の効果がケットシーにも出てるんだな。
そう言えば、あれって、クランメンバーの他に、パーティを組んでいればそのパーティメンバーにも効果が出るんだっけ。
ケットシーは俺の眷属だから、眷属召喚中以外でも俺のパーティメンバーと同様の扱いになるのかな?
「まあ、とにかく無茶はしないことだ。……ああ、それからお土産にマタタビ酒を何本か買ってきてたんだった。今のうちに渡しておくから、休憩のときにでも適当に飲んでくれ」
「お心遣いありがとうございますニャ!! これで3日は頑張れますニャ!!」
「3日も頑張らなくていいから適度に休め。それじゃ、俺は自分の作業に当たらせてもらうぞ」
「はいですニャ。修行頑張りますニャ」
オッドにマタタビ酒を与えた俺は、ポーションの調合を始める。
やっぱり慣れた手順でできる作業はサクサクできて気持ちがいいな。
ポーションを作っているとユキも戻ってきて料理を始めた。
ユキのケットシーも一緒に料理の練習をしている。
俺達は時折雑談を交えながらのんびりと午後の時間を生産活動にあてるのだった。
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