120.スキルチケットの行方

 ワグアーツ師匠の家に行き、練習用素材をもらってクランホームに帰還。


 ポータルを使い談話室へと帰還すると、そこにはユキともう1人、白狼さんの姿があった。

 ユキはともかく白狼さんは珍しいな。


「こんにちは、白狼さん。今日はどうしてここに?」

「ああ、トワ君か。例の盾のメンテナンスをドワンさんにお願いしに来たんだ」

「……やっぱり、あの盾はクラン内でのメンテナンスは難しいですか?」

「うん、ちょっときついね。リペアで直すにもかなりの魔力を消費するし、盾はかなり派手に使う装備だからね。耐久値の減り方も早い。定期的にこっちに通ってメンテナンスしてもらわないと厳しいね」

「装備の修理委託も行っていたはずですが?」

「そうなんだけど、委託に出している間は使えないだろう? できれば使えない時間は少ない方がいいんだよ。雷獣や氷鬼を相手にしているからね」

「……まだ、周回してるんですね」

「ああ、まだやっているよ。いい練習相手になるし、それに次のステップに進むための通過点でもある」

「次のステップ?」

「トワ君達なら話してもいいか。……実は、荒野エリアと氷河エリアにレベル65クラスのレイドエリアが見つかってね。今はそこのクリアに向けての準備、というか強化を行っているんだ」

「レベル65レイドですか……それはまたきつそうで」

「何回かお試しで入っては見たけど、さすがにレイドエリアだけあってザコでも手強かったよ」


 レイドエリア、それはレイドチームで攻略することを前提としたダンジョンの事だ。

 レイドチーム単位で進入することになるため、敵の強さも普通のダンジョンより割り増しされている。


「4パーティレイドだからね。とりあえず4軍までの装備品は整えておきたいのさ。……今現在、他のクランと一番乗り競争をしている最中だからね」

「なるほど。それで装備の消耗も激しくなると」

「そういうことだよ。雷獣素材や氷鬼素材が相応の高値で売れることを加味しても、あまり懐に優しいとは言えない状況かな」


 苦笑いを浮かべながら白狼さんはそう答えた。


 最近、市場に雷獣素材や氷鬼素材が多めに出回ってると思ったらそういう事情か。


「それで、ユキは白狼さんと何を話してたんだ?」

「ああ、うん。ケットシーのことについて話をしてたの」

「もっとも、どういう風に入手したのかは教授に聞いてたから実物がどんなものかを見てみたかっただけだけどね」

「それで、どう感じました?」

「思った以上に、人間くさい、とでも言えばいいのかな? ともかく、妖精っぽさは少なかったよ」

「ああ、そういえばそうですね。確かに『猫妖精』という割には『妖精』という雰囲気はないかも」


 実際、俺のオッドも今はひたすら生産修行中だからな。


「……そういえば、話はがらりと変わるけど、スキルチケットはもう使ったのかい?」

「スキルチケット?」

「武闘大会の賞品だよ。忘れたのかい?」


 ……ああ、今思い出した。

 そう言えば、そんなのももらってたな。


「すっかり忘れてました。武闘大会が終わったらすぐにテスト勉強に追われてゲームの時間は大分少なくしてたので」

「そうか。それならば仕方が無いか。ただ、早めに使うことをお勧めするよ。なかなか強力なスキルを入手できたからね」

「白狼さんは2位でしたよね? という事はゴールドチケットのはずですが」

「ああ、ゴールドチケットだったよ。それでも、レベル60ダンジョンボスからしか入手できないようなスキルがゴロゴロ出てきた。入手するものを絞り込むだけで1時間はかかったよ」


 へえ、それはまた椀飯振る舞いだな。

 となると、俺のプラチナチケットはもっとすごいのか。


「確かトワ君はプラチナチケットをもらってたよね。何だったら今使ってみないか? 取得スキルを選ばなければチケットは消費しないからね」

「つまり白狼さんもプラチナチケットのスキルには興味があると?」

「それはもちろん。ゴールドであれだったんだ。プラチナならどこまで行くのか興味津々さ」


 ここまであからさまに興味を示されては嫌な気分はしないな。

 それじゃあ、使ってみますか。


 俺はインベントリからプラチナチケットを取り出して使用。

 取得可能スキル一覧を他人にも見えるように設定して確認してみた。


 するとそこには山のようなスキルが表示されていた。


「……さすがにこんな大量のスキルから興味のあるスキルを探すのは……」

「ああ、それなら絞り込み機能があるから使ってみるといい。絞り込み条件もスキル名から職業別、スキルのグレード別まで条件が分かれているからかなり楽になるはずだ」

「そうなんですか、じゃあまずはゴールド以上に絞り込みを……」


 取得可能グレードが『ゴールドチケット以上』の条件で絞り込みをかけてみる。

 すると山のようにあったスキルのほとんどが消えていた。


 ……それでも3桁はありそうな気がするが。


「……ゴールド以上でもこれだけですか」

「ああ、すごいよね。このゲームのスキル数は。まさにUnlimitedむげんだいだ」

「でも、さすがにこの量から選ぶのは……」

「さらに職業別に絞り込みができるから試してみるといい」


 白狼さんに促されるまま、職業として『ガンナー』と『錬金術士』を選択する

 すると表示されるスキル数は一気に減って十数個まで減った。


「……さすがにここまで絞り込むと少ないですね」

「汎用系のスキルも表示から除外されるからね。絞り込み条件で汎用スキルも選べばこの2倍以上は表示されるよ」

「……こうしてみると超級スキルが見つかりませんね。ひょっとしてシルバーでも選べるんですか?」

「いや、超級スキルはシルバーでも選べないよ。ひょっとしたらプラチナなら選べるんじゃないかと期待してたんだが……」

「大人しくスキルレベルを上げて覚えろって事ですね」

「そう言うことらしい。……さて、ここまでで気になったスキルはあるかい?」


 ……そうだな、気になったスキルはいくつかある。

 例えば【錬金術の極意】だ。


 これは『錬金術による生産品の品質・成功率・生産個数に上昇補正大』という代物だ。


「例えばこれですかね」

「何々、『錬金術の極意』か……君らしいと言えば君らしいが、おそらくこれはプラチナで選ぶスキルじゃないな」

「え? どういう意味です?」

「おそらく、このスキルかこれの下位互換がゴールドチケットにあるはずだ。先にそちらを確認してみるといい」


 白狼さんの勧めに従い、生産用ゴールドスキルチケットを取り出す。

 プラチナチケットの一覧を一度消し、生産用ゴールドスキルチケットを使用する。


 同じように『ゴールドチケット以上』『錬金術士』で絞り込みをかけると、そこには【錬金術の極意】があった。


 試しに『ゴールドチケット以上』の条件を外してみると、同じようなスキルとして【錬金術の基礎】や【錬金術の奥義】という物があった。


 スキル効果も上昇補正が『小』だったり『中』だったりと完全な下位互換だった。

 ひょっとすると、『基礎』から『奥義』、『極意』へと進化していくタイプのスキルなのかも知れない。

 確かにこのスキルをプラチナチケットで入手するのはもったいないだろう。


「確かに下位互換のスキルがいくつか並んでますね」

「やっぱりそうか。僕もゴールドチケットを使った後、念のためシルバーチケットを使用してみて気がついたんだが、シルバーチケットの上位互換スキルがいくつかゴールドチケットに混ざっていたからね。そう言ったスキルは、一度除外してもいいだろう」

「そうなると、どれを選べばいいか……」

「まあ、この数だし悩ましいよね」


 その後、ユキも一緒になって錬金術士と調合士用のスキルを調べっていったが、なかなかこれといったスキルは見つからなかった。

 むしろ、生産職系統専用である生産用チケットでは互換性のあるスキル以外はほとんど見当たらなかったと言ってもいいだろう。

「……いやはや、この結果は僕も意外だったよ」

「ゴールドチケットでしか選べない上で、ゴールドチケット特有のスキルがここまで少ないとは……」

「それに特有のスキルってなんだか使いにくそう……」


 そうなのだ、何がまずいかというと特有のスキルがピーキー過ぎるのだ。


 例えばこれ、【錬金術士の高度な技術】。

 効果は『品質★8以上の生産品の性能を高めるが、品質★7以下の生産品の性能が下がる』だ。


 他にも似たような感じで、特定の条件で性能や完成品の個数が増えるが、条件を満たせないと性能が落ちたり作成失敗になったりとプラスとマイナスが極端になっているものがほとんどだった。

 救いはそう言ったスキルは全てアクティブスキルで、スキルを使用しなければ効果を発揮しない、と言ったところか。


 今の俺の腕前なら低品質のものができる可能性は少ないが、逆を言えばわざと品質を抑えたものを作るときに難儀してしまう。

 せっかくのスキルチケットなのだ。

 使い勝手のいいスキルを選びたい。


 ピーキーなスキルの方が入手経路が困難な可能性があるが、そういうスキルはわざわざとる必要も無いだろう。

 しかしそうなると、また最初の問題に戻ってしまう。


 下位互換があるスキルと言うことは、最低レベルのスキルを覚えるためのスキルブックは用意されているはずなのだ。

 それを育てていけば、やがて最上位のスキルへと至るはずなのだ。


 SPをどう捻出するかという難題はあるが、地道に鍛え上げればそれですむ可能性は十分にある。


 問題は、そのスキルブックがどこで手に入るのかという事だが……


「なんじゃ、3人揃ってなにを悩んでおる?」

「ああ、ドワンか」

「どうしたのじゃ、一体」


 どうやら白狼さんの盾の修理を終えたらしい、ドワンが談話室へとやってきた。


「とりあえず、盾の修理は終わったぞい。……それで、これは何の集まりじゃ?」

「ああ、実は……」


 ドワンにこれまでのいきさつを説明する。


「ふむ、スキルチケットか。それは確かに悩ましかろうの」

「ああ、だからこそ困っているんだよ」

「ならば、こう考えるのはどうじゃ? レアなスキルを選ぶより実用性重視で選ぶのじゃ」

「実用性重視ねぇ……」

「まずピーキーな戦闘用スキルなぞ、お主はいらんじゃろう」

「うん、まあ、確かに」

「それならばそう言ったスキルは捨てて、もっと役に立つスキルから選べば良い」

「役に立つスキルか……」

「例えばじゃな……これなんぞどうじゃ?」


 ドワンが指し示したのは生産系全般に影響を及ぼす汎用スキル【生産製造数増加】。

 効果は『スキル所持者が生産した品物の生産個数が増える』だ。


 わかりやすく言ってしまえば、本来10個できるはずのものが11個できるようになるという代物だ。


「これならば、数を生産する錬金や調合と相性が良かろう。その上で、もう1枚のチケットの方ではどちらかの極意を選べばいい。そうすれば無駄なくスキルを使いこなせるはずじゃ。ましてや、お主は錬金と調合の2種類のスキルを修めておる。SPに余裕はほぼなかろうて」

「うん、まあ、それは確かにないな」

「ならば、生産については決まりで良かろう」

「他に気になるスキルや個数増加のようなわかりやすいスキルもなさそうだし、僕もこれでいいと思うよ」

「そうだね、これ以上悩んでもいいスキルは見つからないんじゃないかな?」

「そうだな、そうするか」


 俺は生産用ゴールドスキルチケットを使い、【生産製造数増加】と【調合の極意】を取得した。

【調合の極意】を優先したのは個数増加の重ねがけでポーション作成を上乗せしようと思ったからだ。


 そうなると今度はプラチナチケットの問題に戻る。


 プラチナチケットを再度使い、今度はプラチナ以上かつガンナー・錬金術士の一覧を出す。

 だが錬金術士用のスキルは存在しなかったので除外した。

 生産職が戦闘職のスキルを選ぶというのもどうしたものかと思うが、こればかりは仕方が無い。


 ガンナー用スキルはといえば、全ての銃による攻撃力が増す【オールガンズマスタリー】、銃を使うときの手ぶれや反動を完全に押さえ込む【リコイルゼロ】、全ての銃スキルに確率で防御力ダウンのデバフをつける効果を持たせる【アーマーブレイカー】など多彩なスキルがあった。


 特に【リコイルゼロ】は効果時間中のみとはいえ、ライフルの反動さえ消してしまえるかなり有用なスキルだ。

 はっきり言って、あんなバカみたいな攻撃力のライフルを使わなければいいのだが、防御力が高い相手には使うしかない。


 そんな中、俺の目にとまったスキルがあった。


【ホークアイ】、超級職に就くための条件にあったスキルだ。


「どうしたんだい? 選ぶ手を止めたようだが?」

「ええ、このスキルなんですけど……」


 俺は【ホークアイ】について説明する。


「……なるほど、超級職用の前提スキルか。……すまないが剣士系のスキルを表示してくれないか?」

「ええ、構いませんよ」


 俺は白狼さんに言われたとおり、剣士系のスキルを表示した。


「……あった。【マスターオブソード】に【ダークソードマスタリー】そして【ホーリーソードマスタリー】。実はこれらのスキルも超級職の前提スキルなんだ」

「……白狼さんもジョブツリーの件は知ってたんですか?」

「こう見えて職業ギルドには足繁く通って貢献度を貯めていてね。先日12になった際に確認させてもらった。そうしたら超級職を5つ確認できてね。そのうちの4つが条件の確認ができてね。それらの前提条件がこの3種類のどれかだったんだ」

「なるほど……」

「トワ君が超級職を目指すのかはわからないが、超級職の前提スキルというなら覚えておいても損はしないはずだ。なにせ、これらのスキルを覚えるためのスキルブックはまだ未発見だからね」

「……そうですね、それならこれにしますか」


 俺は白狼さんの勧めに従い【ホークアイ】を取得した。

【ホークアイ】自体もレベルが上がれば強力なスキルで、銃の有効射程増加とクリティカルダメージ上昇という2つの効果を持っている。


 なお、【ホークアイ】はガンナー専用というわけではなく、アーチャーとの共用スキルのようだ。


 ともかく、これで超級職に就くためのスキルは手に入ったのだ。

 あまり真剣に考えてはいなかったが、超級職を目指してみるのもありだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る