117.ケットシーの修行とマナカノンの開放
「ここをこうすればできあがりだが、大丈夫そうか?」
「はいですニャ。頑張ってみますニャ」
俺はオッドに錬金の基本的なやり方を教えていた。
さすがに上級錬金セットだけあってかなり使いやすくなっている。
「それでは失礼して……ここをこうやって……ここで……ああ、失敗ですニャ……」
「うん、まあ基本的な作業内容には問題なさそうだな。あとは練習を重ねれば自然と錬金もできるようになるだろう」
「わかりましたニャ。しばらくここで練習させていただきますニャ」
オッドのやる気も十分なようだ。
……そう言えば練習用の素材ってどうしているんだろう?
「なあ、練習用の素材ってどうしているんだ? 必要なら簡単な錬金や調合用の素材を買い足しておくが」
「それには及びませんニャ。修行に必要な素材はボク達が用意してますのニャ。無くなったら里に取りに戻れば大丈夫ですのニャ」
「へぇ……それじゃあ、俺の作業を手伝ってもらうときはどうすればいいんだ?」
「そのときは申し訳ありませんが素材を用意してもらいたいですニャ。ボク達の里の素材はケットシー向けの素材に調整した素材なのでニンゲン族にはあまり向きませんニャ」
「そうか、わかった。まずは錬金を覚えて調合とセットでスキルを鍛えるところからだな」
「はいですニャ。かしこまりましたニャ」
そう言えば【細工】スキルも持ってたけど、これってどうなんだろうな?
「細工に関しては道具は必要ないのか?」
「細工道具でしたら里から持ってきていますニャ。大丈夫ですニャ」
「そうか……ちなみに頼めば宝石の研磨や加工とかもしてもらえるのか?」
「……申し訳ありませんが宝石加工は出来ませんニャ。誰かに教えてもらえれば出来ると思うのですがニャ……」
「なるほどな……出来るのかどうか確認したかっただけだから、あまり気にするな」
「わかりましたニャ。それでは早速ですが修行を始めたいと思いますニャ!」
さて、これでケットシーの方はしばらく自主練習で大丈夫だろう。
次は俺の練習だよな。
……まずはガンナーギルドに行って『魔砲銃』改め『マナカノン』の製造だな。
今日でちょうど十日目だし、これでクエストクリアになるはずだ。
「オッド、俺は出かけてくるけど自主練習は任せて大丈夫だよな?」
「お任せくださいニャ。きっと錬金をものにしてみせますニャ」
「まあ、あまり根を詰めすぎない程度にな。それじゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃいですニャ」
「トワくん、どこかに出かけるの?」
同じ部屋で自分のケットシーに指導していたユキの耳にも俺がでかけることが入ってきていたらしい。
「まずはガンナーギルドに行って武器の製造クエストの仕上げ、その後にワグアーツさんのところに行って修行用の素材をもらってくるだけだよ」
「ああ、修行用の素材か……私ももらってこなくちゃ。……ねえ、もう1人でも大丈夫だよね?」
「はいですニャ。私も1人で修行して待っていますニャ」
「うん、じゃあよろしくね」
どうやらユキも練習用素材を取りに行くことにしたらしい。
とりあえず、談話室までだが一緒に移動した。
談話室に入ってみると、柚月達3人も談話室で休憩していた。
「あら、トワにユキ。あなたたちも休憩?」
「いえ、私達は自分達の修行用の素材を受け取りに行こうと思って」
「ああ、そんなのもあったわね。今日は色々あったから忘れてたわ」
「確かにのう。だが、ここでわしらが修行をサボるわけにもいくまいて」
「そうだねー。思いがけない形にはなったけど弟子もできたしねー」
どうやら3人もそれぞれのケットシーと良好な関係を結べているようだ。
「それで、3人のケットシー達は?」
「それぞれの工房で絶賛練習中よ。今のところ手を出す必要も口を挟む必要もないから自分達だけでやらせているわ」
「うむ、それに素材は自分達で持ち込んでいるようじゃからのう。わしらの懐が痛むわけでもないし任せておるわ」
「まあ、懐が痛むと言っても、低級素材じゃほとんど変わらないんだけどねー。それよりも市場の素材を買いあさることで相場を崩さないかの方が心配だったよ」
「確かにね。私達が戦闘で呼び出したりしない限りは練習出来るって言ってたからね。もし私達が練習用素材まで用意しなければならないとなると、相当数の素材を買いあさらなくちゃいけないところだったわね。ログアウト中も生産修行はやっていられるって言うし」
「さすがにその辺は考慮されていたということだろう。クエスト手順的に言っても、準備に非常に時間がかかるが、仲間にするのは簡単なほうだ。下手すりゃ何十人単位でケットシーが街にあふれかえる事になる。そんな数の練習用素材なんてとてもじゃないが集められないだろうよ、俺達の手じゃな」
「まあ、こういうところはゲームよね。そのかわり、ケットシーの持ち込んだ素材でできたものは基本的に私達はもらえないみたいだけど」
「そうなのか? そう言えばその辺は聞いてなかったな」
「何でも里にいる仲間達に渡すそうよ。代わりに里の仲間達が練習用素材を集めてくれているらしいわ」
「ふーん、きちんとギブアンドテイクが成り立っているんだな。まあ、いいことだ」
「そうね。私達のところの子達が頑張れば、それだけ里にいるケットシー達の装備や技術が上がっていくらしいわよ?」
「へぇ、それじゃあ後の方からケットシーを入手した場合は、最初からスキルレベルが高いケットシーが手に入ることもあるのか?」
「あの子の話を聞く限りそうらしいわね。私達のところにいない間は里の仲間達にスキルを教えているらしいから。もっとも、しばらくはこっちで基本を身につけるんだって息巻いてたけど」
「……それっていつ寝てるんだ?」
「ケットシーって妖精らしいのよ。だから睡眠は必要じゃないんだって。まあ、まったく寝ないと集中力が落ちるらしいから、寝るときは寝るらしいけどね」
「なんだろうな、ファンタジー特有の謎生態というか……」
「それを言い出すとキリがないわよ?」
「そうじゃのう。元々の伝承によればケットシーは王制を敷いていたはずじゃからのう」
「そう言えば『隠れ里』だけどお城とかはなかったよねー」
「その辺りは族長に今度聞けばわかる気もするけどな……」
「それもそうね。ああ、あと時々でいいからマタタビ酒がほしいそうよ。仕事が終わった後に飲みたいんですって」
「なんだか仕事上がりのサラリーマンみたいな発想だな……」
「なんでもケットシーにとってはマタタビ酒はお酒と言うより魔力の回復アイテムらしいわ。飲み過ぎると酩酊状態になるけど、多少飲む分にはまったく影響が出ないみたい」
「俺達にとってのMPポーションと似たようなものか……それなら数本買ってきておいて渡しておくか」
「それがいいんじゃないかしら。……さて、私達も修行先に顔を出して練習素材をもらってこなきゃね」
「そうじゃのう」
「十分休んだしいこうか」
休憩を終えた柚月達も含め、俺達5人はそれぞれの目的地へと転移していった。
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ガンナーギルドに着いた俺は、受付にてマナカノン作成の依頼を受注する。
そうすれば、いつものように作業部屋へと案内してもらえた。
ちなみに今の進捗率はこうだ。
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Wクエスト『マナカノンの製造』
クエスト目標:
王都のガンナーギルドにてマナカノンの製造を行う 9/10
クエスト報酬:
SP10
マナカノンの流通再開
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もう、ここに来るのも10回目ともなるとある意味慣れ親しんだ部屋になる。
とりあえず、今日でノルマの10回目だが、おそらくこの先も製造クエストはあるだろうから、時間があれば受けておこう。
材料の持ちだしなしで銃の製造練習ができるのは大きいからな。
とりあえず、部品類を使いやすい位置に集めておき、マナカノンの製造を始める。
全部で50丁の長丁場ではあるが慣れたもので、1丁1分程度で作れてしまう。
やはり、この辺は慣れと部品を定位置に並べて魔力を流すという錬金の楽さによるものだろう。
こうして全50丁を1時間かけずに作り終えた俺はクエスト報告をするために受付へと向かった。
すると受付ではなくギルドマスターに直接報告してほしいとのことだったので、ギルドマスターの部屋へと案内された。
ギルドマスターの部屋に入ってアリシアさんの向かいへと座る。
「まずは、マナカノンの製造ありがとう。これでお得意様以外にもマナカノンを販売できる体制が整ったわ」
「うん? その内容ですと、いままでもお得意様にはマナカノンを卸していたという事ですか?」
「お得意様と言っても国軍よ。軍のガンナーには状況によって銃を使い分ける必要があるからね。王都で生産されていたマナカノンはほとんど全てが国軍に納められていたわ」
「それを民間に流しても問題ないんですか?」
「むしろ民間に流せていなかったこれまでが問題ね。国を守る必要がある国軍のためとは言え、作った物全てを納品しなきゃいけないのはガンナーギルドとしても悩みだったのよ」
「つまり今回の一件でその状況は改善できそうだと?」
「ええ。できるわね。これでしばらくは在庫を持てるし、在庫がある間に錬金術ギルドと提携してマナカノンの増産体制を進めるわ。これで万事解決よ」
「錬金術ギルドとは話が進んでいるんですか?」
「もちろん。王都所属の錬金術士を何人か回してもらえる事になっているわ。錬金術士にとってもマナカノンの製造はいい修行になるからね。……その分、錬金術ギルドにはしっかりと身分証明をしてもらわなきゃいけないのだけど」
前にも出ていた、錬金術士の推薦の話だろう。
ともかくこれでマナカノンも普通に住人の武器屋で買えるようになるはずだ。
「ともかく、これで依頼は完遂ね。報酬を渡すわ」
〈Wクエスト『マナカノンの製造』をクリアしました。報酬としてSP10を手に入れました〉
《とあるプレイヤーが条件を満たしました。これより装備『マナカノン』の流通が再開されます。なお、街により販売開始までの日数が異なります》
うん、いつものワールドアナウンスも流れたしこれで大丈夫だろう。
「さて、報酬は渡したけど次はギルドランクの査定ね。今までは11だったけど、今回のクエスト達成で13まで上がるわ」
「12を飛ばしてますけど大丈夫ですか?」
「ええ、問題ないわ。元々、あと少しでランク12だったのよ。それが今回のクエスト分で一気に13まで上がっただけよ。仕事に対する正当な評価だわ」
「それなら構いませんが。やっぱり銃製造の貢献度って高いんですね」
「当然でしょう。止まっていた流通を何とかしているのよ。これで貢献度が低かったらそちらの方が問題よ」
「それはまあ、確かに」
そう言われてしまうと納得するしかない。
ただ、流れで全部の銃種の流通再開クエストを一人でクリアしてしまったが問題は無いだろうか。
「あとはマギマグナムをどう扱うかね……これについても考えがまとまったらお願いするかも知れないわ。そのときはよろしくね」
「ええ、都合がつけばですがそのときは引き受けましょう。……もっともそのときには他にも作れる人がいるかも知れませんが」
「それならそれで構わないわ。……こちらとしては高品質な品を大量に納品してくれるあなたにお願いしたいのだけどね」
「まあ、それは方針が決まってからと言うことで。今日はこれで失礼します」
今日のところはこんなところだろう。
俺は席を立ち、ギルドマスターの部屋を去ろうとした。
「ああ、もう少し待ってもらえるかしら。あなたにギルドランクが上がった特典を説明しなくちゃならないから」
どうやら、あちらの用件はまだ終わっていなかったらしい。
俺は改めて席に座り直すのだった。
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