114.ケットシーとの邂逅 ~ケットシーとの交渉 2 ~

 ウルスの先導に従って森の中を歩くことしばらく、俺達は森の中にある小さな広場のような場所に出た。


「この森にこんな場所があったとは驚きである」

「普段はニンゲン族では近づけませんニャ。妖精族に伝わる結界で守られていますのニャ」

「なるほどのぅ。手の込んだ守りじゃの」

「この技術も元はニンゲン族からまニャんだ技術を元にしていると聞いたことがありますニャ」

「へえ、人間がねぇ……」

「昔はニンゲン族と妖精族はニャかが良かったですニャ。……さて、ケットシー族の里へと向かいますのでその円のニャかに入ってほしいですのニャ」

「円てこの草むらに書かれている……というかそういう模様みたいになっている部分か?」

「はいですニャ。詳しい説明は里に着いてから行いますニャ」


 俺達は促されるままに草むらの円の中に入っていく。

 円の大きさは直径10メートルほどもあり、全員が入っても余裕があった。


「全員入りましたかニャ。それでは行きますニャ!」


 ウルスが気合いを入れて何かをかざすと草むらに書かれていた円形の模様が光り始めた。

 よく見ると円形の模様の内側にも細かい模様が刻まれていた。


 円からあふれ出す光はだんだん強さを増していき、やがて俺達は転移の際に感じる浮遊感に包まれていった。


〈シークレットクエスト『ケットシーとの邂逅』をクリアしました。チェインクエスト『ケットシーの頼み事』が発生します〉


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 チェインクエスト『ケットシーの頼み事』


 クエスト目標:

  ケットシー族の頼み事を聞く

   

 クエスト報酬:

  眷属:ケットシー


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「ここは……?」


 光が収まったときには目の前の光景は森の中ではなかった。

 人間が暮らすには小さな家が建ち並ぶ集落のような場所に出ていた。


「ここがケットシー族の里ですニャ」


 ウルスがそう告げる。


「もうすぐ長老がここに来ますのニャ。それまで少し待っていてほしいのニャ」

「それなら待たせてもらいますか。勝手に部外者が出歩くのも問題だろうし」

「そう言ってもらえると助かりますニャ」


 ウルス達ケットシーと雑談をしながら待つこと数分。

 他のケットシーより少し豪華な衣装を身にまとったケットシーが歩いてきた。


「あの方が長老ですニャ」

「あれが長老さんねぇ。ずいぶんと若く見えるのだけど?」

「ケットシーも妖精ですニャ。生まれたばかりは子供ですが、おとニャにニャると成長が止まりますニャ」

「なるほどね。不思議生物みたいなものね」

「ニンゲン族からするとそうニャりますかニャ」


 ウルスは気を悪くしたわけでもなさそうに柚月の質問に答えていた。


「ようこそ、ニンゲン族の皆様方。私はこのケットシー族の長老ですニャ」

「初めまして、長老さん。俺は異邦人のトワです」

「同じく異邦人の教授である。よろしくお願いするのである」

「こちらこそよろしくお願いしますニャ。まずは同胞の危機を救っていただいたこと感謝いたしますニャ」

「別に大したことじゃないですよ。こちらとしてもケットシー族とはコンタクトがとりたくてあそこに行っていた訳ですし」

「そういう事である。助ける形になったのは偶然の産物である」

「それでもお礼をしないわけにはいかないですニャ」

「……ねえ、ちょっと疑問なんだけど、長老さんは『な』を『ニャ』って言わないのね?」

「その辺りは日々の努力の賜物ですニャ。……お聞きの通り語尾にはつけてしまいますがニャ」

「いえいえ、気にしてないわ。話の途中でごめんなさい」

「お構いなくですニャ。……さて、皆様をお招きしたのはお礼を申し上げるのと、少し相談に乗ってほしいことがあるからですニャ」

「相談ねぇ。聞くだけ聞いてみるけど無理そうなら断るわよ?」

「それは構いませんニャ。立ち話も何ですのでこちらにお越しくださいニャ」


 歩き出した長老の後をついていく俺達一行。

 たどり着いた先は、人間サイズで出来た1軒の建物だった。


「ここはかつてニンゲン族の方が訪れた際におもてなしをしていた場所ですニャ。建ててから年月は経っていますが、手入れはしっかりと行き届いていますので入ってほしいのですニャ」


 そう言って、自分から先に入っていく長老。

 俺達も後に続いて入っていく。


 建物の中は確かに手入れが行き届いており、ここが人間族と交流があった頃に建てられた建物としては十分過ぎるほどキレイであった。

 長老に案内された部屋は打ち合わせスペース、もしくは会議室のようになっており、全員が座れるだけのスペースがあった。


「まずはお席に着いてくださいですニャ。今お茶を用意させていますのニャ」


 長老に促されたので皆思い思いに席に座る。

 相談事という事で、メインになるであろう教授と俺、それから柚月は長老のすぐ側に着く。


 席について少し経つとお茶が運ばれてきて、全員に配られた。


 お茶を配り終えたのを合図にしたのか、長老が話を切り出してきた。


「相談事というのは2つありますニャ。まず1つ目は、この里にある転移門を使えるようにしてもらいたいのニャ」

「転移門? そういえばさっきあるって聞いたけど使えなくなっているの?」

「はいですニャ。昔、ニンゲン族と諍いがあった際に転移門を使えなくしましたニャ。その後、数百年が経ち、街に姿を変えて調査にいっていた同胞から、もう転移門を修復しても大丈夫そうだと話を受け、修復したのですが転移門は作動しなかったのですニャ」

「ふむ。話を聞く限り、使えなくした際に大きな破損があったようにしか思えないのであるが……」

「それはありませんニャ。我々がやったのは転移門の核になっている巨大魔石の取り外しだけですニャ。その際にも魔石に傷をつけないよう慎重に作業してますニャ」

「そうは言われてもねぇ……転移門は私達も使うけど、作り方は知らないのよ。ましてや直し方になると余計わからないわ」

「そうですかニャ……とりあえず、何かわからないかだけでも調べてもらいたいですニャ」

「それならば構わないのである。それで、2つ目のお願いとやらは何であるか?」

「2つ目は我々の同胞を外に連れ出して鍛えてもらいたいのですニャ。出来れば戦闘方面だけではなく物作り方面でもですニャ」

「物作り方面? そう言えばさっきいた狩りに出ていたケットシーたちの装備は大分くたびれていたみたいだけれど……」

「はいですニャ。お恥ずかしながら、ケットシー族の今の生産技術はニンゲン族の皆様のそれに遠く及ばないですニャ。かつて交流があった際には、ケットシーがニンゲン族の皆様の弟子になって働かせていただきその技術を学んで来ましたニャ。ですが……」

「交流が途絶えた結果、技術を学ぶ機会も失われて、残っていた技術も伝承が上手くいかなかった、そう言うところかしら?」

「まったくもってその通りですニャ。我々は手先は器用だと自負しているのニャ。ですが、新しい物を考えて作るのはイマイチ苦手なのですニャ……」

「うーん、その辺の理由ってわかるのかしら?」

「おそらく、武器や道具がなくてもある程度は魔法や特技で何とかなってしまうためですニャ。ですが、それだけではどうにもならない相手もいますのニャ」

「今日のウルフみたいにな」

「はいですニャ。ポーション作りの技術なども魔法頼りで何とかなっていたために失伝してしまい……お恥ずかしながら、自力で作れるポーションは低品質のポーションだけですニャ」

「なるほどね。それで私達のところに出来れば弟子入りしたいと」

「はいですニャ。幸い、我々も妖精族の端くれ、眷属契約の儀式は伝わっていますのニャ。異邦人である皆様とでしたら眷属契約を結べるはずですニャ」

「うーん、どうしたものかしら……」

「あまりこちらにメリットのない話ではあるよなぁ……」

「ああ、それでしたら、修行中に皆様からいただいた素材で作った品物は全てそちらに差し上げますニャ。幸い、この里には修行に使う品物が山のようにありますのニャ。自分達の修行用の素材には困りませんニャ」

「つまり、私達にとっては完全にお手伝いさんが増えるだけだと?」

「そうなりますニャ。無理を言っている自覚はありますのでそれぐらいは当然ですニャ。ついでに戦闘面でも鍛えていただけると助かりますニャ」

「戦闘面はあまり期待しないでほしいわね。私達は職人であまり戦闘はしないから」

「それでも構いませんニャ。千載一遇のこの好機を逃すわけにはいかないのニャ」

「うーん、本当にどうしたものかしらね……トワ、教授、何か意見ある?」

「俺からは何とも言えないな……俺やユキの場合、既に眷属としてフェンリルがいるし……」

「我々は職人ではないのであるからな……期待に添えるかは疑問である」

「そこは、皆様の自由にしてほしいのですニャ。出来れば作業場所を与えて使用の許可をいただければ自分達で修練に励むように言い聞かせておきますし、転移門を修復していただければ、眷属召喚中以外でも皆様の元で修行できますニャ」


 メリットは作業の助手が手に入ること、デメリットは育てる手間が増えること、か……


「……とりあえず、しばらくお試しで受け入れてみるか? ダメそうだったら引き上げてもらえばいいわけだし」

「そうであるな。『インデックス』にも生産職はいるわけであるから、そちらに指導をお願いすれば暇なときは指導してもらえるはずである」

「まあ、その辺が落としどころかしらね。という訳だけど構わないかしら?」

「受け入れてもらえるだけでもありがたいのですニャ。それでは、受け入れてもらいたい同胞達を連れてきますので少々お待ちくださいニャ」


 長老は急ぎ足で部屋から出て行った。

 こちらが渋っていたので、気が変わらないうちに契約までこぎ着けたいのであろう。


「……あら、好感度一覧にケットシー族の値が出てるわ。既に好感度110もあるわね」

「私も一緒である。……今回の1件で一気に上がったようであるな」

「単に眷属としてのケットシーについて情報を集めるつもりがずいぶんトントン拍子に話が進んだな」

「それだけあちらも困っていた、という事じゃろう。実際、あの装備で王都周辺のウルフの相手はきつすぎるわい」

「そうだね。弓や杖もかなり痛んでたし、早急に解決したいんだろうね」

「でも、ネコさん達に料理とか教えられるのかな……食べちゃダメな料理とかもありそう……」


 待っている間、『インデックス』の面々も含めて思い思いに言葉を交わす。

 10分ほど待っていると、長老が戻ってきた。


「お待たせしましたニャ。隣の部屋に候補のケットシー達を集めましたニャ。こちらに来てほしいニャ」


 長老の言う通り隣の部屋にいくと20人ほどのケットシー達がいた。


「この者達が今回の候補者ですニャ。特技はそれぞれ違うので注意してほしいのですニャ」

「そうなの? じゃあまず私から。この中に裁縫の得意な人っているかしら?」


 柚月の言葉に何人かのケットシーが手を上げて前へと進み出る。


「この子達ね……あら、ステータスも見られるのね。……ドワン、こっちの子は鍛冶もできるみたいだけどどうする?」

「ふむ、それではわしも募集してみるか。わしは鍛冶師だが、鍛冶を修めている者はこの中にいるか?」


 ドワンの言葉に反応して歩き出すケットシー達。


 その中には先ほど柚月の言葉で集まったケットシーの1人も含まれていた。


「ふむ、お主は裁縫も出来るのであろう? 鍛冶希望と言うことでよいのか?」

「はいですニャ。出来れば両方ニャらいたいですがまずは鍛冶からニャらいたいですニャ」

「ふむ……少し待っておれ、他の者達も確認させてもらおう」

「はいですニャ」


 そんなやりとりを繰り返し、柚月、ドワン、イリスのケットシーは決まった。


 選ばれなかったケットシー達は残念そうではあったが、これも眷属契約の縛りのためであり仕方が無い。


 次はユキの番だがこっちはすんなり決まった。

 料理を習っているケットシーが1人しかいなかったためだ。


 そして俺の番なのだが……


「うーん、やっぱり調合と錬金、両方を修めているケットシーはいないか……」

「申し訳ないのニャ……両方となると里全体を探してもおそらくいないのニャ……」


 長老が本当に申し訳なさそうに言葉を返す。


「うーん、それなら、これからでもその両方を覚える覚悟のあるヤツはいるか? 決して楽ではないが調合をするときに錬金を使えると何かと便利だぞ?」


 その言葉に調合を習っているケットシーの1人が反応する。


「それならボクがやってみたいのニャ! 本当の見習いからになるけどよろしくお願いしたいのニャ!」


 おや? ネコ訛りがないぞ?


「教えるのもあまり得意じゃないし、俺の眷属にはフェンリルもいるからあまり出番はないぞ? それでも構わないのか?」

「はいですニャ! 族長の息子としてがんばらせていただくのニャ!」


 その言葉に長老の方を振り向くと、長老は首肯した。


「……わかった。とりあえず面倒を見てやろう」

「はい! お願いしますニャ!!」


 その後は『インデックス』の面々だが、こっちは割とすんなり決まった。

 全員が生産職ではないため、簡単なやりとりだけですんだのだ。

 あえて言うなら同じ分野のケットシーがかぶらないように注意していたぐらいか。


「それでは皆様の相棒も決まったようですので眷属契約を行わせていただきますニャ。すぐにすみますので楽にしていてくださいですニャ」


 長老がそう言うと、俺達と相棒のケットシー達が光の柱に包まれ出した。

 光の柱が出ていた時間はそれほど長くなく、すぐに光は収まった。


〈チェインクエスト『ケットシーの頼み事』をクリアしました〉

〈眷属『ケットシー』を入手しました〉

《とあるプレイヤーにより『ケットシー』が開放されました。詳しくは追加されたヘルプをご確認ください》


 無事眷属契約出来たシステムメッセージと、ケットシーの開放を告げるワールドアナウンスが流れた。

 さて、また眷属掲示板とやらが活発化するんだろうなぁ……

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