113.ケットシーとの邂逅 ~ケットシーとの交渉 1 ~

「いやはや、無事だったようで何よりである」

「まったくですニャ。普段は狼に襲われる事はありませんのニャ」

「普段はって事はここにはよく来るのか?」

「はいですニャ。毎週一回狩りをしにこの湖まで来てますニャ。ここのおさかニャはとってもオイシイですニャ」


 どうやら、情報は正しかったらしい。

 ただ、週一って事は今日の夕方時間とかに会いに来てもまた会えるわけではなさそうだ。


「ところで、ウルフたちにおそわれていたようだが大丈夫だったのか? はぐれた仲間とかは?」

「そちらの方は大丈夫ですニャ。こう見えて僕等は集団行動が得意ですニャ。先ほど点呼をとりましたがはぐれたニャかまはいませんでしたニャ」

「そうであるか。それは重畳である。……して、お仲間の方々は大丈夫であるか?」

「命に別状はニャいニャ。ただ、大ニャり小ニャり怪我をしてますニャ」

「ふむ、それは私達の回復魔法で何とかなるのかね?」

「回復魔法もいいですが、ポーションの方がいいですニャ。どうにもニンゲン族の回復魔法は僕等には効きが悪いですニャ」

「ポーションか。とりあえずHPポーションだけで足りるか?」

「それは願ってもニャいはニャしですニャ。でも、見ての通りニャかまの数も多いですニャ。また、怪我の度合いも違いますニャ」

「それなら大丈夫だろう。これを皆に配ってくれ」


 俺がインベントリから取り出したのはケットシーの数より少々多めのHPポーションだった。


「これは……ニャかニャかの値打ちものに見えますがよろしいのですかニャ?」

「ダメなら出さないさ。それに俺の基準じゃそれはまだまだ一級品ではないからな」

「それニャらばとりあえず預からせていただきますニャ」


 そう言い残して仲間の元へと駆け出すケットシー。

 仲間に対してHPポーションを分配している。

 渡したのは★8のHPミドルポーション。

 最近では★10ぐらいまでなら簡単にできるようになっているため、実際に一級品というわけではない。

 もっとも、費用対効果コストパフォーマンスを考えると一番バランスが取れていて一番の売れ筋ではあるが。


 全部のケットシーにポーションを配り終えたらしい、ケットシーは駆け足でこちらに戻ってくる。


「あのポーションはすばらしいですニャ! みんニャの傷がたちまちニャおっていきましたニャ!」

「それは重畳。それで、他にほしいポーション類はあるのか?」

「ニャん名かがMPが尽きそうですニャ。あとそれからSTポーションもいくつかあると助かりますニャ」

「わかった、それぞれ10個ずつぐらいでいいか? 今後のための備えも必要だろう?」

「それは本当に助かりますニャ、ニンゲン族の方。……そういえばニャ前をニャのってニャかったのですニャ。僕のニャまえはウルスですニャ。よろしくですニャ」

「ああ、よろしくウルス。俺がトワでこっちが教授だ。どちらも異邦人だな」

「ニャンと、異邦人の方々でしたかニャ。まさか、異邦人にこのようニャ場所で会えるとは……」

「そんな事より先にポーションを配ってきた方がいいんじゃないのか?」

「ああ、そうでしたニャ。すぐに戻ってきますのでお待ちくださいニャ」


 ウルスは慌てるようにしてMPとSTポーションを仲間達の元へと届ける。

 仲間達の方でも喜んで受け入れられたようだった。

 ポーションを配り終えると、再びウルスはこちらに戻ってきた。


「今日は本当に助かりましたニャ。……ところで、異邦人の方々がどうしてこの場所に来ていたのですかニャ」

「ふむ。端的に言ってしまえばケットシー族に会いに来たのである」

「まあ、簡単に言ってしまうとそうなるな。王都の図書館でケインって人にこの場所を教えてもらったんだ」

「ケイン……ケイン…………ああ、年にニャン度か姿を見せる探検家さんニャ。みニャさんはケインさんの紹介ですかニャ?」

「まあ、そうなるかな。あ、これ、お土産のマタタビ酒。ケインさんにケットシーへのお土産ならこれが一番いいって聞いたから」

「私達もあるのである。ただ、ここで渡すのは少々量が多いのである」

「そんニャに沢山ですかにゃ!? 最近は人化の術を使って王都に入ってもニャかニャか数が手に入らニャかったので助かりますニャ」

「ちなみに俺達だけじゃなくて、後のメンバーもそれなりの量を持っているぞ」

「本当ですかニャ!? でも、ケットシーの里にニンゲンを入れるには長老の許可が……おい、誰か傷の癒えたもの数名が走って長老に許可をもらってくるのニャ!」

「ウルス隊長、本当によろしいですのかニャ?」

「我々の窮地を救ってもらいポーションまで分けてくれた恩人ですニャ。ここでそのまま帰してしまっては、その方が長老に怒られますニャ」

「わかりましたニャ。それではすぐに行って参りますニャ!」


 伝令役であろうケットシーが数名森の中へと走り去っていく。

 一方で、その他のケットシーと柚月やドワン達が話している様子も窺えた。


「おう、その剣ずいぶんとボロボロじゃのう。直してやるからわしに貸せ」

「あなたの革鎧も大分傷んでるわね、貸しなさい、その程度ならリペアでまだ補修がきくから」

「君の弓は弦を張り替えないとだめだねー。予備の素材は持ってるから直してあげるよ」


 どうやらあちらはあちらでケットシー達の装備品を直しているらしい。


「ふにゃ。トワ殿達のおニャかまは装備品の修理が出来るのですかニャ?」

「ああ、俺達は職人集団だ。簡単な修理だけだったらこの場でも対応できるぞ?」

「ニャンと! それはいいことを聞きましたニャ!! それならば是非にでも我らの里に来てもらわねば!!」

「うん? 職人がケットシーに何か関係があるのか?」

「それにつきましては長老から説明させていただきますニャ。……それで、そちらの方々も職人さんですかニャ?」

「ふむ、私達は職人集団という訳ではないのである。簡単に言えば調査隊のようなものであるな」

「調査隊ですかニャ?」

「然りである。王都の図書館にてケットシー殿達の事を調べているうちに数百年前から交流が途絶えていると聞いたのである。その理由とできれば友好的な関係を結びたいと思いここに来たのである」

「……そうですかニャ。アレよりもう数百年も経っているのですかニャ」

「ふむ? その口ぶりで行くとケットシー殿達はそんなに時間を気にしていなかったのかね?」

「吾輩達はこれでも妖精の端くれですニャ。それ故に寿命もとても長いのですニャ。吾輩でさえ500年は生きてる……はずですニャ。大概のケットシーはある程度の年齢になったら歳を数えるのを止めますニャ。ニャがく生き過ぎて数えるのがばからしくニャってきますのニャ」

「なるほど。それで、職人を探しているのはその長老とやらに聞くとして、そんな簡単に隠れ里に外部の人間を連れて行っていいのか?」

「本来はダメですニャ。ですが、トワ殿達は吾輩達をウルフの魔の手から救ってくれただけでニャく、あんニャ効果の高いポーションを惜しげもニャく分けてくださったのですニャ。これでニャンのお礼もせずに返してしまっては一族全員の恥になってしまいますニャ」

「……貴重ねぇ。最近だとあれぐらいのポーションは普通に作れるようになってしまっているからなあ。感覚が麻痺してるかも」

「……つまり、トワ殿はポーション職人であるのですニャ?」

「ポーション職人というか錬金術士で調合士だな。ポーション作りはそれで行っている」

「ニャるほど。それニャらばますます吾輩達の里に来てもらいたいのですニャ」

「ケットシーの里ねぇ。行くのは構わないが、帰ることは出来るんだろうな?」

「それはもちろん大丈夫ですニャ。古い型のものにニャりますがニンゲン達の使う転移門もありますニャ。それを修理していただければ利用者登録をすませた方々はフリーパスで出入りすることも出来ますニャ」

「……ずいぶん至れり尽くせりだが、何か裏があるんじゃないか?」

「裏と言いますか、割と深刻ニャ問題がケットシー族を苦しめていますニャ。どのようニャニャい容かは長老から聞いてほしいニャ。もちろん協力するも断るもトワ殿達の自由ですニャ」


 うーん、イベントが進んでいるのはわかるが、ずいぶんあっさり進んでいる気がするぞ。

 ちょっと詳細を見てみるか……


 ―――――――――――――――――――――――


 シークレットクエスト『ケットシーとの邂逅』


 クエスト目標:

  ケットシー族との友誼を深める

   達成率 100%

  ケットシー族の隠れ里で話を聞く

   

 クエスト報酬:

  ケットシーの里への案内


 ―――――――――――――――――――――――


 いつの間にか達成率100%になっているし。

 これは俺達が職人である事も関係しているのか?


 その後もウルスと話をして時間を潰していると、伝令役だったケットシー達が戻ってきた。


「ウルス隊長、ただいま戻りましたニャ」

「ご苦労ニャ。それで許可は下りましたかニャ?」

「はい、許可が出ましたニャ。むしろこれお礼もせずに別れてはケットシーの恥だと言われましたニャ」

「それは良かったですニャ。それにトワ殿達は職人さんでもあるらしいニャ。是非とも吾輩達の里に来ていただいて話を聞いてもらわねばニャらニャいのニャ」

「わかりましたですニャ。それでは我々はもう一度里に戻り話をしておきますニャ」


 戻ってきたばかりだというのに、また駆けだしていく伝令役達。

 ずいぶんとタフだな。


「伝令役達がタフだとお思いですかニャ? あれには秘密がありますのニャ」

「秘密?」

「ケットシーの里は吾輩達の魔力で満ちているのですニャ。ニャので一度里に戻れば元気いっぱいにニャるのですニャ。ひとまずは里に案ニャいする許可が取れましたので案ニャいしますニャ」


 ウルスはそれだけ言い残すと、他のケットシー達の元へと戻って行った。

 休憩中だったケットシー達はウルスの号令できびきびと出立の用意を始めた。


「トワ、そっちの話はどうなったの?」

「一応、ケットシーの里には連れて行ってもらえるみたいだ。ただ、何か訳ありの様子だったが……」

「訳ありのう。そう言えば装備品がずいぶんとくたびれた様子じゃったが」

「弓や杖もそうだねー。何度も補修した跡があったよ」

「あの子達が身につけていた革鎧もそんな感じね」


 俺達はそれぞれ情報交換をする。

 教授はと言うとクランチャットで連絡を取ってるようだ。


「ふむ。興味深い事が起きているようである」

「何が『興味深い』んだ、教授?」

「『インデックス』のもう1つのパーティであるが、ケットシーが襲われているイベントは起きていないようである。また、マタタビ酒を振る舞ったりもしたそうであるが、達成率は40%止まりであったようである。それで、また会う約束をして別れてイベント終了となったようである」

「うーん、そうなるとやっぱりパーティ編成によるボーナスが入ったのかな? あの様子だと職人の協力を取り付けたい様子だったし……」

「その可能性が高いであるな。あちらのパーティには職人と呼べるほど生産系スキルを持った人間はいなかったのである」

「とりあえず里に行けるようにはなったが、ここから先のイベントがどうなるかだな……」

「そうであるな。私達も便乗させてもらうのである」

「それは構わないさ。乗りかかった船だもの」


「おはニャし中申し訳ニャいニャ。出立の準備が出来たのニャ。準備がよければ里の方にあんニャいしますのニャ」

「ああ、ごめん。……準備はいいか?」

「私達は問題ないのである」

「私達もよ。行きましょうか」


「それでは里の方にあんニャいしますニャ。ついてきてほしいのニャ」


 俺達はウルスの先導に従い、ケットシー族の隠れ里へと向かうのだった。


**********


~あとがきのあとがき~


ネコ語が難しい……

「な」を「ニャ」に置き換えるだけなのに相当神経を使う……

無駄な設定をしなければ良かったか?



それから気になる方向け、『ケットシーとの邂逅』イベント進行率上昇一覧


・ケットシーにマタタビ酒を渡す   1個につき1%

・ケットシー達との会話       会話内容によって変化

・ケットシー達に職人である事を示す 1人当たり初級以下15%、中級以上25%


襲撃イベントが発生している場合、

・ケットシーをウルフから助ける   20%

・ケットシーにポーションを渡す   1種類につき10%+3種全部渡した場合、里へ招待される

(渡す必要があるポーションの数は襲撃イベントの状況によって変化)


ケットシーに職人である事を示すには、自作のアイテムを渡すか柚月達がやっていたようにケットシーの持ち物を修理するなどして示さなければなりません。


どうして生産職がここまで優遇されているかについては、この先の話で出てきますので少々お待ちを。


そして、1回で進行率100%を達成してしまった教授。

情報屋としてはこの先のイベントを知ることができる反面、進行率に関する情報が検証出来なかった事になるため、微妙な結果になった模様。

『インデックス』はそこまでガチの検証勢というわけではないので仕方が無いかで済みますが、ガチ検証勢だったらたまったものではないでしょうね。

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