112.ケットシーとの邂逅 ~ケットシーとの出会い~
「さあ、行くのである。準備はいいであるか?」
土曜日朝8時、俺達は王都の城門前に集合していた。
全員に号令をかけているのは教授だ。
元々は『ライブラリ』で受けていたシークレットクエスト。
なのに、なぜ教授がいるのかというと、『インデックス』との合同調査と言う形になったためだ。
経緯は前日の金曜日にさかのぼる。
―――――――――――――――――――――――――――――――
木曜日にケットシーに関するシークレットクエストを受けた俺達だったが、その日はもうかなり遅くなり始めていたのでその場は解散となった。
明けて金曜日の夜、それぞれが修行先で修行用素材を持って帰ってきて修行を終えた後、談話室に全員で集まって進捗状況を確認した。
「……つまり、マタタビ酒は割といろんな場所で買えると?」
「そう言う事ね。ドワンと私で王都を手分けして探してみたけど、酒屋だけじゃなく雑貨屋とかにもおいていたわ」
「そのとおりじゃ。探したのは商業区だけじゃったが、それでも5本ずつ手に入ったぞい」
「5本ずつですか? 色々な場所で手に入るにしては数が少ないような……」
「それがイベントアイテム扱いらしくって1カ所で1本しか買えないのよね」
「ちなみに、今日素材を受け取りに行ったついでに昨日行った雑貨屋にもう1度行ってきたがマタタビ酒はなかった」
「どうにも、手元にその店で買ったマタタビ酒がある限り同じ店では買えないみたい」
「……よく見ると瓶のラベルが全部違うな」
「王都では割とポピュラーなお酒らしいのよね、よくわからないけど」
「調べてみたが現実でもマタタビ酒はあるらしいからのう」
へぇ、現実にも存在するのか、マタタビ酒って。
「というわけで、マタタビ酒はいろんなお店を巡って集めるしかないわね」
「わしらが昨日行った店のマップはここに用意してある。スマンがこれを参考に3人も買いに行っとくれ」
「その間に私達は新しいお店を探してみるわ。こんな仕掛けがあるんですもの多いに越したことはないわ」
「わかった。それじゃ、そっちは頼む」
「任せて。それじゃ、今日の行動開始ね」
「うむパーティを組んでおけば地図情報も共有できるしちょうど良かろう」
「がんばってねー」
俺達は5人でパーティを組み、それぞれ行動を開始した。
とりあえず、俺とユキそれにイリスの3人は昨日柚月達がマタタビ酒を買ったお店に行くこととなった。
お店に行くと確かにマタタビ酒はおいてあったが1人1本しか売ってもらえなかった。
やはり、イベントアイテム扱いなのだろう。
俺達が店をまわっている間にも、パーティで共有しているマップ情報には新しいマーカーがつけられていく。
柚月達も順調に新しいお店を発見していっているようだった。
俺達の方もお店を巡る最中に発見した新たな雑貨屋にて、マタタビ酒を購入してマーカーをマップにつけたりして順調に本数を稼ぐ。
合計本数が10本を越えたあたりで、俺とユキは別行動をとることになった。
それは話に出てきた湖までの距離の確認である。
方角はわかっているが詳しい場所まではわからない。
朝と夕方という時間帯は、それぞれゲーム内時刻で午前5時から午前7時と午後5時から午後7時の間である。
ゲーム内時間で2時間というと長いようにも聞こえるが、道に迷えば割とすぐに経過してしまう時間である。
そのため、俺とユキの2人で今日のうちに一度湖を確認しておいて、明日に備えようという事になった。
俺達2人は一度パーティから離れて、新しくパーティを組み直す。
そして、王都外に出たらそれぞれフェンリルを召喚してその背に乗り、一路目的の湖を目指した。
道中は街道が整備されており走り抜けるのも楽だった。
南西にしばらく走ると話に出てきた分かれ道があったため、地図を確認して森の方へ向かう道に進路をとる。
森の中に整備された道を走ることしばらく、森の中に目的地であろう湖が見えてきた。
「あそこの湖だよね、きっと」
「ああ、そうだろうな。ここまでの所要時間は……40分か。戦闘を避けてきたのもあるが1時間を移動時間と見ておけば問題ないな」
「そうだね。……ちょっとだけ湖の様子も見ていかない?」
「そうだな、行ってみるか」
俺達はフェンリルを加速させて湖へと向かう。
たどり着いた湖には先客がいた。
それも見知った顔だった。
「教授? どうしてここに?」
「うん? トワ君であるか。ここに来たという事は目的は一緒であるよ」
「『インデックス』でも今まで検証が出来ていなかったのか?」
「うむ。まあ聞いてほしいのである。ケットシーの情報は住民から一度情報を聞いていないと図書館に行っても調べられないのである」
「つまり、最初に行ったときは空振りだったと」
「うむ。絵本でケットシーの存在を知ることは出来たのであるが、そこで足踏みとなってしまったのである」
「それで今までかかったと?」
「うむ、実際には先週のうちに住人からの情報は手に入っていたのであるが、条件が確定しなかったのである。そこで、先週の金曜日に行われたアップデートが関係してくるのである」
「金曜日のアップデート……ああ、ひょっとして好感度」
「その通りである。ケットシーやその他の眷属情報を聞き出すには好感度80近辺が必要とわかったのである」
「ずいぶんと細かい範囲でわかったんだな」
「それはもう人海戦術である。好感度70のプレイヤーではダメで、好感度80を越えていたプレイヤーなら話を聞けたのである」
「それはまた詳しい検証で。それで、先週の土曜日はこの湖まで調べていないと?」
「そう言うことである。なにせ、図書館での調べ物が終わり、クエストを受注出来たのが月曜日だったのである」
「なるほどね、それで『インデックス』も明日、ここに来るために下見に来ていたと」
「その様子だと『ライブラリ』もその予定のようであるな。……どうせならいっそのこと合同調査という事にするのである」
「合同調査ねぇ……一応皆に確認をとってみるよ」
俺はクランチャットモードに切り替えてクランメンバーに確認をとる。
『教授達との合同調査ね。別にいいんじゃない?』
『確かに。わしらに不利になることはないじゃろう』
『ボクも反対しないよー。明日1日でクリアしなきゃいけないクエストでもないしねー』
『私も構わないですよ』
『それじゃあ、教授と話を詰めておくよ』
合同調査の件はすんなりと通った。
そのことを教授に伝えると、ことのほか嬉しそうだった。
「これでサンプルデータが増えるのである。『インデックス』内では2パーティ分の進行しか出来ていないので助かるのである」
「2パーティね。そういえば、住人から情報を聞くのってパーティ内に1人いればいいのか?」
「その通りである。パーティ内に1人いればクエスト受領のための資料を探すことが出来るようになるのである」
「『インデックス』ならその辺は得意そうだったんだがな」
「……我々でも【言語学】が30に届いているメンバーは少ないのであるよ」
「ああ、そう言えば必要だったなそのスキルが」
「そういう訳なので、いくつかのパーティが【言語学】のレベル上げ中なのである」
「【言語学】なんてとってるプレイヤー少ないだろうからなぁ」
「普通にクエストを受けるだけであれば必要ないであるからなぁ」
「それで、明日って何時に集合なんだ?」
「現実時間の朝8時に王都の城門前に集合である。問題ないであるか?」
クランチャットで改めて確認したところ、全員問題ないとの事なので了承することにする。
「では、明日の朝8時に。またである」
「ああ、また明日」
教授達は調査を終えていたのであろう、全員で去っていった。
「トワくん、私達はどうしようか?」
「湖の場所や所要時間はわかったわけだし、明日は『インデックス』との合同調査だからな。これ以上、ここに留まる必要もないだろう。俺達も帰るか」
「うん、そうだね。……でも、こんな場所にケットシーが現れるのかな?」
「まあ、その辺も含めての調査だろうよ。さあ、帰ろう」
このようにして『インデックス』との合同調査は決定したのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
土曜の朝8時に集合した俺達はそれぞれでパーティを組み、レイドチームとして編成された。
レイドチームを組んだ理由は、どのような形での接触になるかわからないことと、クエストを受けていないパーティでもケットシーと遭遇出来るかを確認するためらしい。
実際、『インデックス』側でレイドチームに参加しているのは教授のパーティを含めて2パーティ。
それにレイドチームを組んでいないが、シークレットクエストを受けているパーティが1つ同行する。
全員が騎獣を持っているため、湖までの移動はスムーズに行われた。
そして時間を調整しながら移動して、湖に到着したのはゲーム内時間で午前5時を少しまわった頃だった。
湖の近辺まで全員で移動するとかすかな違和感とともに周囲の景色が少し変化した。
具体的に言うと同行していたパーティがいなくなったのだ。
「教授、どうなってるか確認できるか?」
「今確認中である。……どうやら私達はインスタンスフィールドへと入ったようであるな」
「インスタンスフィールドか……他のパーティの様子は?」
「クエストを受けていたパーティだけがインスタンスフィールドに飛ばされたようである。レイドチームを組んでいただけではダメなようであるな」
「そして、レイドチームを組んでいれば同じフィールドに飛ばされると……さて、これからどうなる事やら」
とりあえず全員が騎獣から下りて辺りを見渡す。
なお、今俺達のパーティにはシリウスが組み込まれている。
周囲を見渡しただけではおかしなところはなかったが、気配察知の効果範囲内に多数の反応を見つけた。
「教授、湖の左手の森の中に多数の生命反応あり。それがだんだんこちらに近づいてきてる」
「うむ、我々のスカウトでも確認出来たのである。しかし、この反応は戦っている?」
「なんだかそんな様子だな。一応戦闘準備しておこう」
「そうであるな。何かあったときにすぐ動けるようにしておくのである」
俺達はそれぞれの武器を取り出して様子を窺う。
1分ほど経った頃、森の中から2つの集団が飛び出してきた。
1つはウルフ系モンスターの集団。
そしてもう1つはそのウルフたちに襲われているネコ、おそらくケットシー達であろう。
「教授!」
「うむ、ケットシー達を手助けするのである!」
俺達はケットシーとウルフの戦闘へと介入、ウルフたちの数はそれなりに多かったが難なく倒す事が出来た。
「これで、ウルフは全部倒したであるな」
「ああ、もういないな」
念のため周囲を警戒するが、もうウルフのものと思わしき反応はなかった。
「いやはや、どこのどのニャたかは存じませんが助かりましたニャ。ニンゲンの方々」
これが俺達とケットシーとの出会いになるのであった。
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