108.新たな修行先
金曜日、今日の日中はアップデート作業が行われていた。
アップデート作業は予定通りの時間に終わったようでなによりだ。
いつも通りの時間にログインすると、階段前のメッセージボードのところでユキと出会った。
「あ、こんばんは、トワくん。今日はこれから作業?」
「こんばんは、ユキ。今ログインしてきたところだからそうなるが、どうかしたのか?」
「あ、うん。これを見てね。ちょっと考え事してた」
「うん? どれどれ……」
メッセージボードに書かれていた内容は『今日から新しい修行先で修行してくるからホームにいないことが多い』と言ったことだった。
柚月達も今日から本格的に修行を開始するらしい。
「どうやら、弟子入りクエストの続きをやるみたいだな。それで、これがどうかしたのか?」
「……うん、私も続きをやった方がいいのかなと思って」
「それは、できれば続きをやった方がいいが……」
「うん、そうだよね。……でもまずは、お店の在庫補充しなくちゃね」
「ああ、そうだな。早いところ始めるか」
……うーむ、またユキの悪いところが出始めたか?
ともかく、今は一緒にお店の在庫作りに励むとしよう。
―――――――――――――――――――――――――――――――
在庫作りが一段落した後、俺はユキとともに新しいユキの修行先を訪れていた。
新しいユキの修行先はそこそこ大きなレストランと言った感じの店だった。
俺達は店の中へと入り、いつも通り紹介状をお店に渡す。
すると店主らしき初老の女性が出てきてユキと話を始めた。
どうやら、ユキもこの店で修行することが決まったようだ。
ユキを無事送り届けたのでこの場から立ち去ろうとすると、店主から呼び止められた。
どうやら俺の方にも用事があるらしい。
「呼び止めてすまないね。お前さん錬金薬士なんだろう? なら、この子の修行が終わった後にこのレシピが必要になるから持っていきな」
手渡されたのは数種類のレシピ。
全て薬膳料理用の薬草処理についてのレシピだった。
「私の修行が終われば
「それは、ありがとうございます。必ず役立てますね」
「ああ、それでいい。……錬金薬士って事は、あの爺さんのところで修行だろうががんばんな」
「……? わかりました、それじゃあユキをお願いします」
「それじゃあ、またね、トワくん」
この店で修行することになったユキを残し、俺は自分の修行先へと移動する。
この店からだとサブポータルを使ったり駅馬車を利用するより、辻馬車で移動した方が早い。
なので、一番近い辻馬車乗り場から料金を支払い移動することにした。
馬車での移動の間に先ほど渡されたレシピを覚えようとするが……
〈言語学レベルが足りません〉
という事だった。
……ここに来て、言語学がないと覚えられないレシピの登場か……
イベントアイテム扱いなのか、譲渡・破棄不可だし申し訳ないがしばらくはインベントリの中で眠っていてもらおうか……
馬車に揺られること約10分。
新たな修行先であるワグアーツ氏の家と思われる場所へとたどり着いた。
家というよりは、アトリエと言った方がしっくりくる建物だった。
家の前で立っていてもしょうがないので、ドアノッカーを使って家人を呼び出す。
「どなたかな?」
姿を現したのは初老の男性。
この人がワグアーツ氏だろうか。
「失礼します。異邦人のトワといいますが、ワグアーツさんでしょうか」
「いかにも、私がワグアーツだが。何用かね?」
「錬金術ギルドと調合ギルドから紹介状を預かっています」
「……なるほど、弟子入り希望者か。とりあえず入りたまえ」
「では失礼します」
招き入れられた家の中は、確かに錬金術と調合術を修めているということがわかる家だった。
「まずは紹介状の内容を確認させてもらうぞ。疑うわけではないが、念のためな」
「はいどうぞ」
ワグアーツ氏は紹介状2通をそれぞれ開封し内容を確認する。
「……錬金薬士志望か。また希有な道を選んだものだ。……まあいい。それならばこの道の先達であるわしが指導するのが一番正しいだろう」
「それでは弟子入りを認めてもらえるのですね?」
「ああ、良かろう。……まずはそうだな、このレシピを覚えてみせろ」
渡されたのはまたしてもレシピ数枚。
試しに、使用してみるが……
〈言語学レベルが足りません〉
うん、予想はしてた。
「……やはり、まだそれらのレシピは早いか。ならば、まずはそのレシピを覚えるところからだな」
「……つまり、レシピが覚えられるようになってから修行開始だと?」
「そうなるな。基本的な作業はできるだろうからそちらの指導はしてやれるがな」
「……わかりました。よろしくお願いします」
これは思った以上に大変そうだぞ……
―――――――――――――――――――――――
チェインクエスト『次の段階に備えて』
クエスト目標:
ワグアーツから渡された全てのレシピを習得
クエスト報酬:
次段階へのクエスト進行
―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――――
「うむ、今日のところはここまでにしよう」
あのあと、特殊ポーションをしばらく作った。
今日の修行はこれで終わりのようだ。
「……そうそう、お主、ホームポータルは持っているか?」
「ええ、持っています。それが何か?」
「ならばこちらに来い」
ワグアーツ氏に案内されたのは玄関横にある小部屋だった。
そこにはホームポータルが設置されていた。
「このホームポータルからお主の家と行き来できるようにしてやろう。わしがいないときはホームポータルが起動しないから気にせず使うがいいい」
「それは助かりますね。ありがとうございます」
「気にすることではない。では、あのレシピの内容は出来る限り早く覚えるように」
「……わかりました。なるべく急ぎます」
「それでいい。難解なレシピも読み解けてこそ一流への道が開けるというものだ。もっとも、文字を追うだけでは一流へはとうていたどり着けないがな」
「つまり、見て技術を盗めるようになれと」
「そういうことだ。言葉や文字では伝えきれない繊細なものも多いからな」
「わかりました、精進します。それでは今日はこれで」
「うむ。時間があるときにはまた来るといい」
ワグアーツ氏の家からクランホームへと戻った俺を出迎えたのは、談話室でくつろいでいる俺以外のメンバー4人だった。
「あら、おかえりトワ。遅かったじゃない」
「ただいま。それよりもそっちはずいぶん早いな?」
「あー、それがねぇ。……修行をつけてもらう事にはなったんだけど、そのとき渡されたレシピがねぇ……」
「うむ、言語学を必要とするものでな。わしらでは覚えられなかったわけじゃ」
「それで、基本的なことは教わってきたけど、その先がねー……」
「私も、レシピが読めなくて……」
「なんだ、皆一緒か……」
「あら、トワもなの? 確か、あなた【言語学】覚えてたわよね?」
「覚えているけどレベル13だ。それじゃ足りなかったんだよ」
「レベル13でもダメならどこまで上げればいいのかしら……」
「こうなっては図書館に通って【言語学】をレベリングするしかないのぅ」
「時間はかかりそうだけどそれしかないよねー」
「勉強か……よし、がんばろう!」
ユキは気合い十分なようだな。
……ちょっと気になるし教授に弟子入りクエストについて情報が無いか聞いてみるか。
フレンドリストからから教授を選択してフレチャをつなぐ。
幸いというべきか、教授もログインしていてすぐにつながった。
『もしもし。何かあったのであるかな、トワ君?』
「ああ、教授。ちょっと聞きたいことがあって」
『ふむ。何が聞きたいかは後で聞くことにしよう。今はクランホームかね?』
「ああ、そうだ」
『ではすぐに向かうとしよう。少し待っていてほしいのである』
「わかった、談話室にいるから適当にきてくれ」
フレチャを切って、皆に教授が来ることを説明する。
「確かに教授なら何か知っていてもおかしくないわね」
「それじゃあ、私、お茶の用意してきますね」
「ええ、頼んだわよユキ」
ユキがお茶の支度をするために談話室を出て行って少しした後、教授がクランホームにやってきた。
「やあやあ、待たせたのであるな。……それにしても勢揃いとは珍しい。どんな用件であるかな?」
「とりあえず立ち話も何だし座って頂戴、教授」
「うむ。……それで、改めて聞くが用件は何であるかな?」
「実は弟子入りクエストについて聞きたいんだが……」
「弟子入りクエストであるか。それならば、おそらく私が持っている情報の方が、君達の持っている情報よりも劣るのである」
「そうなのか?」
「うむ。『
「ああ、それは……」
「あ、教授さん。こんばんは。お茶を持ってきました」
「おお、ユキ君。いつもすまないのである」
「ユキも来たしちょうどいいか。実は……」
教授に現在の弟子入りクエストに関しての進行状況を簡単に教える。
要は、【言語学】スキルがないと先に進めない状況という事をだ。
「ふむ、君達全員が同じ状況ということは全ての弟子入りクエスト共通の可能性が高いのであるな」
「今まで、情報は入ってこなかったのか?」
「君達が最初である。そもそも弟子入りクエストの第4段階まで進んでいる職人自体極めて稀である」
「そうなのか」
「そうなのである。とりあえず、『インデックス』でもこの情報は調べてみるのである」
「そうか。ちなみに、【言語学】をレベリングするにはどこがいい?」
「王都にたどり着いているなら、王都の図書館がお勧めである。あそこはサブポータルからも近く、初心者から上級者まで幅広い層に向けた本を揃えているのである」
「そうか、わかった。それじゃあ、しばらくはそこで【言語学】スキルのレベリングだな……」
「それがいいのである。ちなみに、どれぐらいのレベルが必要だったかも教えてもらえると助かるのである」
「わかった、でもレベル1刻みで調べるつもりはないからな」
「それは構わないのである。大体の目安がわかればいいのである」
その後、教授は出されたお茶を飲み干してから帰っていった。
【言語学】スキルのレベリングをするなら、INT上昇系のバフをつけておいた方が気持ちレベルが上がりやすいと言うアドバイスを残して。
俺達はその教授のアドバイスに従い、INT上昇のバフをつけてから王都の図書館へと向かうのだった。
……これからしばらくは、商品作り、修行、勉強の繰り返しかなぁ……
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