107.王都散策

 木曜日、いつも通りの時間にログイン。


 今日はユキが予定があってログインできないそうなので、1日1人で行動することになるだろう。

 ……ユキがいないとタンクがいない、うちのクランって大丈夫なんだろうか。


 一応、ドワンがサブタンクのような構成もできるらしいけど。


 そんなとりとめもない考えを巡らせながら、談話室へと入る。

 そこには、俺とユキを除いたクランメンバー全員が顔を揃えていた。


「こんばんは、トワ。早速で悪いけど、少し相談事よ」

「こんんばんは。本当にさっそくだな、どうしたんだ?」

「さっきホーム屋に行ってきたんだけど、ホームポータルの機能拡張ってのがあったのよ」

「機能拡張? 何ができるようになるんだ?」

「その名もズバリ『王都サブポータル転移の開放』よ」

「……うん、ストレートでわかりやすい名前だ。それで、わざわざ俺を待ってたってことはそれなりの値段がするのか?」

「まあ、それなりね。私達なら一切苦労しない額だけど」

「ちなみにいくらなんだ?」

「100万Eよ」

「なるほど、相談したくなる額だな」


 ホームポータルの値段が100万E程度だったはずだから、かなり高い値段だ。

 だが、今のクラン資金を考えればたいした痛痒にはならない。


「他の皆も揃ってるてことは話は通ってるんだよな?」

「うむ、わしらは賛成だぞい」

「正直、王都の転移門に移動して、転移門前広場からさらに移動してーって面倒だったからねー」

「あとはユキの了承があれば全会一致何だけど、ユキは今日遅くなるの?」

「いや、ログインそのものができないらしい。ユキには明日説明しておくから機能拡張はしてしまおう」

「あら、ずいぶんと即決即断ね」

「多少の金額で余計な手間を省けるならそれに越したことはないだろう」

「まあ、その通りね。それじゃ、私はホーム屋に行ってさっくり拡張手続きすませてくるわ」

「任せた。……ところで今日の予定は自由行動でいいよな?」

「うむ、そのつもりじゃ」

「新しい修行クエストもあるからねー。しばらくは別行動じゃない?」


 まあ、修行先はバラバラだし、別行動じゃないと手間がかかってしょうがないか。


「わかった。それじゃあ、今日は俺も適当に行動させてもらうよ」

「うん、わかったー。気をつけてねー」


 イリスやドワンに見送られながら俺はホームポータルより王都へと転移した。

 さすがにまだ機能拡張はされていなかったため、転移門への転送となった。


 転移門を抜けて、俺が今日最初に目指す場所はガンナーギルドだ。

 昨日まわったギルドの中にはガンナーギルドは含まれていない。


 単純に場所が離れすぎていたことと、夜遅くになっていたことから後回しにしたのだ。

 ……どうせ、行けば今までのパターンで行くと厄介ごとを頼まれそうだし。


 王都のガンナーギルドは今までのパターンに漏れず街の端に存在している。

 端とは言っても、戦闘系ギルドの並ぶ地区の端であるから街の外壁近くなどではないのだが。


 しかし、ここはアクセスが悪い。

 近くのサブポータルに移動して、そこからさらに駅馬車を利用して、駅から降りてさらに歩く、そんな場所だ。

 とにかく、アクセスの悪さを嘆いてもしょうがないのでさっさと最寄りのサブポータルから、駅馬車へと乗り込む。


 駅馬車に乗っている時間もそこそこ長く、暇なので明日のアップデート内容を確認してみる。

 そう、明日は日中にゲームのアップデート予定となっているのだ。


 今回は前回よりは、かなりアップデート内容が少ないらしく、アップデート予定時間も6時間程度だ。


 気になるアップデート項目はあまり公開されていないが、新規のレイドエリア開放や、眷属の追加などが目玉だろう。

 あとそれから、BPを振り分ける際に、いくつかのパターンを記憶しておいて、必要に応じて切り替えられるというシステムも追加になるらしい。


 こちらは課金要素だが……値段もそこそこだし、そのうち買おうかなと思っている。


 あとは、一部のアイテム、職業の名前が変わるらしい。

 例えば俺の銃士は『ガンナー』へと置き換わる。

 魔導銃も『マギマグナム』へと変わるらしい。


 後から変えるぐらいなら最初から統一しておけよ、とは言いたくなるのだが、そこは運営と開発の間で何かやりとりがあったんだろう。


 そのほかにも細々とした変更点は載っているが、スキルの強化や弱体化はないようだな。


 アップデート内容を確認しているうちにガンナーギルド近くまで、駅馬車がきていたので俺は次の駅で馬車を降りる。

 駅から徒歩10分ほどでガンナーギルドにたどり着いた。


 王都のガンナーギルドはそれなりに立派だった、ガンナーギルドとしてはだが。

 ガンナーギルドの入口を抜けた先には、他のギルドに比べると小規模な受付スペースがあった。

 ただ、職員が数名いる事を考えれば他の街よりもマシだろう。

 俺は、そんな受付のうち1つに向かった。


「すみません」

「はい、何でしょうか」

「異邦人のトワと言います。ここに第4の街のギルドマスター、アメリアさんから預かってきた紹介状があるのですが……」

「少々お待ちください、確認させていただきます。……確かにこれは第4の街のギルドマスターからの紹介状ですね。ギルドマスターを呼んで参りますので少々お待ちを」


 奥に消えていった受付担当者を待つことしばし、戻ってきた受付担当者に案内されてギルドマスターの部屋と思しき部屋に入る。


「ようこそ、よくいらっしゃいました。私は当ギルドのギルドマスター、アリシアよ。メリッサとアメリアの母になるわ」

「異邦人のトワです。よろしく。……ところで、ガンナーギルドってやっぱり家族経営なんですか?」

「あまりいいことだとは思わないけれどね。今のところは私達家族でやって行ってるわ。なにせ、ガンナーのための銃を考案したのは私の夫だし」

「サザンさんでしたっけ? やっぱりあの人が創始者ですか」

「ええ、そうなるわね。夫に会っているということは、魔導銃についても知っているのね」

「ええ、便利に使わせてもらっていますよ」

「それは良かったわ。あの銃は生産コストが高すぎて流通させられないものだから……」

「でしょうね。自分も多少は作っていますがとてもじゃないですが大量生産には向きません」

「そうなのよね……魔法銃士には便利だと思うのだけど……」


 確かに便利だろうが、属性を考えると複数持ち歩く必要がありそうだし、管理が大変だろうな。


「ところで、娘からの紹介状には凄腕の錬金術士だと書いてあったけど、間違いないかしら?」

「凄腕かどうかはわかりませんが、錬金薬士を名乗れる程度の腕前はありますよ」

「そうそれなら大丈夫そうね。1つお願いがあるのだけどいいかしら?」

「お願いの内容にもよりますが、何でしょう」

「やってもらう事は大したことじゃないわ。魔砲銃の大量製造を依頼したいのよ」

「……この街でもやっぱり流通が滞っているんですか?」

「流通が滞るというほどじゃないけど。異邦人の方々が現れて以降、ガンナーも増えたでしょう? はっきり言ってそちらに回せるほどの在庫は持っていないのよ。あなたがそれを解決してくれるなら流通量を増やせるのだけど、どうかしら?」

「……わかりました。引き受けましょう」

「たすかるわ。それじゃあお願いね」


〈Wクエスト『魔砲銃の製造』を開始します。このクエストが達成された時点より、魔砲銃の流通が行われます〉


 いつものワールドクエストのメッセージだな。

 詳細はっと……


 ―――――――――――――――――――――――


 Wクエスト『魔砲銃の製造』


 クエスト目標:

  王都のガンナーギルドにて魔砲銃の製造を行う 0/10

 クエスト報酬:

  SP10

  魔砲銃の流通再開


 ―――――――――――――――――――――――


 ……この表示だと10回はこなくちゃいけないのか……


「あら、どうかしたのかしら?」

「いえ、どの程度の量を製造しなくちゃいけないのかと思って……」

「そうね、流通させようと思うとかなり大量に必要になるから全部で500といったところかしら。ただ、一度に500丁作られても保管場所に困るから、1日50丁程度で複数日に分けてお願いできる?」

「……わかりました。そうなるとここまで来るのが大変なのですが、まあガマンしますよ」

「……そういえば、この近くの広場にサブポータルを設置する話はどうなっているのかしら……」

「ん? この近くにサブポータルができるんですか?」

「ええ、その予定よ。この近辺にはサブポータルがなくて色々不便でしょう」

「まあ、その通りですね」

「だから、サブポータルの設置届けを出して、それが受理されているのよ。ただ、いつまで経ってもサブポータルが設置されなくてね……」

「それは……大変そうですね」

「そうなのよね。私が確認にいければ話は早いのだけど……そうだ、あなたが代わりに確認に行ってもらえないかしら?」

「……俺でいいんですか?」

「まあ、私の紹介状があれば文句は言われないでしょう。すぐに紹介状を用意するから少し待ってもらえるかしら」


〈Wクエスト『ガンナーギルド広場のサブポータル設置』を開始します。このクエストが達成された時点より、利用可能なサブポータルが増えます〉


 ああ、これもワールドクエスト扱いなんだ。


「それじゃあ、これが紹介状ね。街の役所に行って受付に紹介状を見せれば話は通じると思うからお願い」

「わかりました、それじゃあこの後にでも確認に行きますよ」

「よろしくお願いするわ。それから魔砲銃の製造は受付にいえばわかるように連絡しておくから。それで、今日の分の製造は今からお願いできるのかしら?」

「ええ、構いませんよ」

「そう、じゃあ作業場所に案内するから着いてきて」


 ギルドマスターに案内されてついたのは作業部屋。

 ただし、今までの街の作業部屋ほど狭くも散らかってもいなかった。


 案内された作業部屋でちょうど50丁の魔砲銃を作成したところで今日の分の作業は完了となった。


「失敗なしで作るなんてかなりいい腕前なのね」

「これでも【ガンスミス】ですからね。この程度の作業なら滅多に失敗しませんよ」

「あら、もう【ガンスミス】なのね。という事は魔導銃もそれなりに作ってるのね……」

「ええ、まあ。ひょっとして魔導銃も流通させるんですか?」

「今は、その余裕はないわね。……でも、いつかはそれも考えなきゃいけないわね」

「そうですか。そのときに手伝えるようでしたら手伝いますよ」

「あらそう? とにかく、今日の分の作業は終わりね。受付に行って今日の分の報酬を受け取っていって頂戴」

「わかりました、それではまた明日以降にきます」

「ええ、よろしくね」


 受付に戻ってきた俺は作業完了を報告、今日の分の報酬を受け取ってガンナーギルドを後にした。

 なお、クエストの進行状況も『1/10』になっていたから、合計10日作業すればいいことは確認出来た。


 ガンナーギルドを後にした俺は、ギルドマスターから指示された通りに役所に向かう。

 これまた、場所が離れているため、駅馬車やサブポータルを使用しての移動となった。


 役所に着いたら指示通りに紹介状を見せ、担当窓口に案内してもらう。

 そこで、改めて紹介状を手渡すと平身低頭といった感じで担当者から謝罪を受けた。


「最近、いろいろなギルドからサブポータルの設置依頼が来てまして……どうやらこちらの案件が漏れてしまっていたようです」

「わかりました。それでいつ頃にはサブポータルが設置されますか?」

「明日には設置完了して使えるようになると思います。サブポータルを増やすのでしたら、それほど手間はかかりませんので」

「……それなのに、設置作業が遅れてた原因は?」

「……手続きの問題ですね。申請があった場合、本当に必要なのかを審議する必要がありまして……そこで許可が下りないと設置できません。その審議の後、設置作業が多くて作業漏れが発生してしまったようですね」

「そうですか、わかりました」

「本日は大変申し訳ありませんでした。ガンナーギルドには私どもの方から改めて謝罪をさせていただきます」

「それじゃあ、よろしくお願いいたします」


〈Wクエスト『ガンナーギルド広場のサブポータル設置』をクリアしました。明日以降ガンナーギルド前広場にサブポータルが設置されます〉


 あ、これはワールドアナウンスじゃないんだ。


 役所での用事が済んだ後は、王都の中を適当に見て歩いた。

 βテストのときと変わらない部分や、大きく変わった部分など見て歩くだけでも結構楽しかった。


 王都中心部が商業区画になっているのは前と変わらずと言ったところか。

 大小様々な店が建ち並び、さらには『商業ギルド』なる施設も存在している。

 俺達のような異邦人プレイヤーを含む冒険者にとって商業ギルドは、オークションへの出品や参加をする際に訪れる場所、と言うのが一般的な認識だろう。

 実際、異邦人プレイヤーでは商業ギルドに参加することはできず、オークションへの出品や参加ぐらいしか出来ないという話だし。

 なお、本来商業ギルドが取り仕切るような買取・販売などの業務は生産ギルドで行われているので問題ない。

 確か、設定マニア曰く『市場マーケットの管理は商業ギルドの管轄』らしいがプレイヤーからしてみれば些細な事なのでほとんど気にしていないだろう。

 役所や大神殿などの公的な意味合いを持つ施設もこの中に建てられている。

 なお、商業区画には外れの方だが生産ギルドも存在している。


 次に商業区画と貴族区画の間にあるのは上流階級向けの居住区画。

 ここは、一般プレイヤーがイベントなしで入れる最北の区画だ。

 だが、ここの区画を訪れる理由はクエスト絡み以外では基本的に存在しないので、異邦人プレイヤーの数はまばらだ。

 一応、綺麗な公園などが整備されているので一時の憩いを求めて訪れるプレイヤーはいるらしいが。


 次は王都の南東方面。

 こちらは冒険者ギルドなどを含む戦闘系ギルドが存在している区画だ。

 冒険者ギルドなど、王都の中では荒くれ者が多い区画なので雰囲気はかなり違う。

 大手の戦闘系クランがクランホームを抱える場所もこの区画が多い。

 あと、南東の外れ、外壁沿いはスラムになっていたりする。

 スラムとは言っても、そこまで薄汚れた区画などではないのだが……闇ギルドなども存在するらしく、一部のクエストではここ絡みのイベントも発生する。

 なお、ガンナーギルドはこの区画の外れではあるが、スラム地区からは遠く離れた東門側にあると言うだけだ。


 残る南西区画が、工業区画である。

 大小様々な工房が立ち並んでおり、王都の工業面での施設はほとんどこの区画に揃っている。

 生産系や趣味系ギルドもこの区画に集まっており、生産活動がメインになるプレイヤーはこの区画に出入りすることが多い。

 あとは、生産系の大手クランがこの区画にクランホームを持っている事が多いと言うことか。

 生産系クランがこの区画にクランホームを持つことは一種のステータスシンボルになっているとか。

 ただし、もちろん地価は高いので相当な金額を要求されるのだが。


 なお、中産階級以下の居住区画は王都南側に散見される形となっており、これといってまとまった場所にあるわけではない。

 あえて言えば、南側の中でも北より、中心部付近に多いというところか。


 俺はそんな中を散策して各区画を周り、いくつかのスキルショップを見つけたのでそこのラインナップを確認してまわった。

 やはり、人気のあるスキルは売り切れも目立つが、各種ステータス上昇系スキルが売っていたので買い込んだ。

 各種ステータス上昇系スキルは全部で4つまでしか覚えられないという制約があるためSTRとVITの上昇系は見送った。

 元から壊滅的に低いステータスを向上させるより、他のステータスを伸ばした方がいいからだ。

 そう言うわけで俺は【器用さ上昇】【敏捷性上昇】【知力上昇】【精神力上昇】の各スキルを覚えた。

 1つ当たり15万Eとなかなか高めではあったが、有用なスキルだし覚えて損はないだろう。


 さすがに王都のスキルショップだけあって品揃えも豊富だが、他にはこれといってほしいスキルは見当たらなかった。


 そういえば、武闘大会の景品のスキルチケットも使ってなかったな。

 ……とりあえず今日はもういい時間だし、明日以降でいいか。


 俺は最寄りのサブポータルにアクセスして、クランホームに直接アクセスできる事を確認、クランホームに戻りログアウトした。

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