104.テストが明けて

 テストがあった翌週の月曜、夜時間。


 俺はようやくゲーム内でいつもの時間を取り戻していた。


 テスト勉強をしている最中も、俺とユキは1日1時間ぐらいログインしてお店の商品を作ってはいた。


 だが、1時間で作れる量はたかが知れており、俺の場合、各種ポーションに専売状態の銃各種があったため完全に需要が供給を上回っていた。

 そのため、テストが終わった後の土日も商品補充の日々が続いていた。


 特に、魔砲銃と魔導銃の需要がすさまじく、これらの需要を満たすために大量の銃を作成することとなった。


 魔砲銃については、初心者向けの弱い銃から王都周辺でも使えるような威力の銃まで、幅広く作る事になった。

 魔導銃に関しては、その性質故に、魔法銃士のプレイヤーからの要望が多く、威力はそこそこで属性を色々変えて作って置いた。


 完全独占販売状態から抜け出す事はしばらく出来そうにない、と言うか自分以外が作れるようになるまでは時間がかかるだろう。


 なんでも、ようやくライフルが市場に出回るようになったばかりらしいのだから。

 ともかく、ライフルについては自分以外でも作れるプレイヤーが現れたため、『ライブラリ』での販売数は減らしている。

 せっかく新規で作れる人が現れたのに、自分が潰すようなまねをしても仕方が無いだろう。

 その新規のプレイヤーも★3~4ぐらいは作れるらしく、ライフルの需要については大分収まってきている。


 また、各種銃の製造をかなりの数こなした結果、【ガンスミス】という新しい称号を手に入れた。

 効果は『銃を作成する際に品質補正・小』との事だった。

 正直、自分では効果の検証ができなかったため、教授に丸投げした。

 もっとも、『インデックス』では銃の製造はできないため、こう言う称号があると言う情報だけを掲示板に書き込むだけで終わりにするそうだが。


 そんな激動の週末を過ごし、月曜の分の在庫補充を終えた後、談話室でユキとのんびり話をしていると柚月がやってきた。


「トワ、ユキ、ちょっといい?」

「ん、どうかしたか柚月?」

「ええ。ちょっとお願いがあって」

「お願い? しばらくはこれ以上在庫を増やしたくはないぞ?」

「お店の在庫はもう十分よ。それよりもお願いって言うのは、王都に行きたいのよ」


 王都か。

 そういえば俺もまだ行ってないな。


「俺もまだ行ってないからいいけど、柚月だけか?」

「いいえ、『ライブラリ』全員になるわね」

「ふうん、ちなみに今の柚月達の種族レベルってどれくらいまで上がってるんだ?」

「あなたたちがいない間に全員レベリングはしておいたわよ。30台後半までは上がってるわ」


 そこまで上げてるとは意外だ。

 せいぜい30前半だと思ってたのに。


「そんなに私達がレベル上げしてた事が意外?」


 おっと、顔に出てたようだ。


「まあな。種族レベルのレベリングする時間があったら、生産レベルのレベル上げに使うと思ってた」

「それは否定できないわね……でも、私達だってたまにはレベル上げするのよ?」

「なんでまた、そんな急にレベリングなんてしてたんだ?」

「まあ、ぶっちゃけると、生産をこれ以上上げようと思うと王都に行く必要が出てきたからよ」

「ああ、なるほどな。弟子入りクエストの続きか」

「まあ、そう言う事ね。王都にいる各職人への紹介状をもらったはいいけど王都にいけないじゃない? それでレベリングしてたのよ。タンクがいなかったから大変だったけどね」

「えっと……すみません」

「ユキのせいじゃないから気にしないで。それに私達も興味があったしね、聖霊武器には」

「なんだ、鉱山ダンジョンの深層部に潜ってたのか」

「そ。簡単に行き来ができて、タンクなしでもそれなりに狩れる、結構いい狩り場だったわ。インスタンスダンジョンだから、他のプレイヤーとかち合う心配も無いしね」

「確かに。それで聖霊武器はできたのか?」

「そっちはまだ。聖霊石の欠片を30個集めるのに手間取っててね……今は私が23個、ドワン達も20個前後のはずよ。やっぱりタンクなしだと35階のボスを倒せないのがきついわ」

「……ああ、ショートカットが開通できないのか」

「そういうこと。おかげで30階のボスを毎回相手にすることになってね……ロックゴーレムの対処は完璧よ」

「言ってくれれば、1日ぐらい時間作ってショートカット開通ぐらいは手伝えたのに。なあ?」

「うん、さすがに何日もってなると無理だけど、1日だけなら何とかなりましたよ?」

「そう言ってもらえるのはありがたいけどね……やっぱり私達だけでも何とかできないといざってときに困るでしょ?」

「そのときは伝手を辿ればいいのに。『白夜』とか『インデックス』に話せば、タンクとヒーラーの1人ずつぐらい力を貸してくれたと思うぞ」

「まあねー……それもそうなんだけど。困ったときに毎回あそこに頼るのも違うと思ってね」


 変なところで律儀なんだよな、柚月って。


「そんな些細なこと気にしないと思うがな。何より、『ライブラリうち』の生産力が強化されないと困るのはあっちな訳だし」

「それもその通りなんだけどね。まあ、あなたたちが戻ってくるまでガマンしてればすむ話だからって事で頼まないでいたのよ」

「まあ、それはそうだが……」

「それに、私達って裏口に近い方法で上級生産セットを手に入れてるじゃない? 今更、王都に行きたいから手伝ってほしいとは言い出しにくかったのよ。王都に生産職が行く最大の理由は上級生産セットなんだから」

「それもそうだがなぁ……」

「まあ、そういうわけだから、王都に行きたいのよ。第4の街に行ったときと同じように『ライブラリ』だけで行くことは可能かしら?」


 ふむ、ライブラリの戦力だけでか……

 ザコの相手はまったく問題が無い。


 となると、問題はボスのみ、つまり白銀魔狼の相手ができるかという事だが……


「うーん、白銀魔狼か。ユキ、いけそうか?」

「白銀魔狼ってどんな相手?」

「そういえばユキは知らなかったな……いや、俺も正式サービス後はあまり知らないな。ちょっと待ってくれ」


 俺は外部サイトにつなげるために外部接続用ブラウザを起ち上げる。

 見るのは攻略サイト、と言うか攻略Wikiだ。

 一般的な攻略情報を知るだけならわざわざ教授に聞くまでもない。


 白銀魔狼、つまり王都に向かうためのエリアボスの情報は既に攻略Wikiに公開されていた。


「ふむ……」


 文字で読むだけなら、白銀魔狼はウルフ系の正統進化と言ったところだ。

 ウルフ系の特徴である俊敏な動き、強力な爪による切り裂き攻撃と、かみつき攻撃。

 さらに『魔狼』の名前に相応しく、魔法攻撃も使ってくる。


 もっとも厄介とされる行動は、HPを半分切ったときに行われる配下の召喚だ。


 第5エリアに出現する、ブレードウルフ、ニードルウルフ、ファングウルフの3体ずつを同時に呼び出してくるらしい。

 また、時間をかけすぎるとおかわりの召喚までしてくるとのこと。

 この辺の行動はβのときにはなかったから、確認して正解だっただろう。


 しかし、ブレードウルフたちを召喚出来るからと言って、即座に脅威となるわけではない。

 サブタンクを用意しておいて、召喚された配下はすぐさまサブタンクがターゲットを確保。

 その後、アタッカーが範囲攻撃等を用いて速やかに殲滅するのがセオリーらしい。


 実際、各種配下のウルフは、第5フィールドに現れるそれよりもHPはかなり少なめになっているらしく、適性レベルの魔術士が上級魔法の1発でもお見舞いしてやればほぼ全滅するらしい。

 焼け残ったとしても瀕死にはできるそうで、後は焼け残りを適宜処理するだけらしい。


「で、トワ。私達だけでも勝てそう?」

「うん、シリウスじゃなくてプロキオンを使えば何とかいけそうだ。……そう言えばユキ、プロキオンのステータスってどんな感じだ?」

「えっと、ちょっと待ってね。……こんな感じかな」


 ――――――――――――――――――――――――

 名前:プロキオン 種族:フェンリル(亜成体) 種族Lv.8

 HP:631/631 MP:314/314 ST:322/322

 STR:51 VIT:108 DEX: 49

 AGI:70 INT: 65 MND:101

 スキル

 攻撃:

【爪】【牙】【体当たり】【蹴り】【挑発】【ウォークライ】【咆吼】

 魔法:

【治癒魔術】

 その他:

【金剛不壊】【敵意増加】

 補助:

【回復上昇Ⅲ】【物理防御上昇Ⅲ】【魔法防御上昇Ⅲ】

【ノックバック耐性Ⅱ】【ヒットストップ耐性Ⅱ】

【幼体化】【騎乗】

 ――――――――――――――――――――――――


 シリウスもそうだったがプロキオンも大概ステータスが高い。

 これにはカラクリがあって、スキルや装備品のステータス上昇を受けられないため、素のステータスが高くなっているのだ。


 ちなみに【ウォークライ】は【挑発】の上位互換で、広範囲の敵をかき集めるのに使われる。

 あと、弱い敵には軽度の恐怖効果を与えられるので地味に便利なスキルである。


 総評するに、プロキオンはガチタンクの性能なので防御系はかなり優れているが、攻撃面では期待できないだろう。


「……このステータスならメインタンクをプロキオンに任せても大丈夫そうだな。サブタンクをユキにお願いできるか?」

「うん、わかった。……でもこの先、プロキオンがメインタンクになると私の役割がなくなっていくよね?」

「うーん、戦闘によってはサブタンクの需要が必須になるし、そのままでいいんじゃないか?」

「トワくんがそう言うならそうするけど……あまりお荷物にはなりたくないな」

「大丈夫よ。ユキはちゃんと役に立ってるから。細かいことを気にしすぎよ」

「……そうですか、ありがとうございます」

「そういえば、プロキオンに【金剛不壊こんごうふえ】っていう見慣れないスキルがついてるけど、これって一体どんなスキルなんだ?」

「ええと、24時間に1回15秒間だけ完全に無敵になるスキルみたいだよ。スキル効果中は行動出来なくなっちゃうみたいだけど……」

「つまり切り札的スキルって事か。使いどころは選ぶが便利そうだな」

「あと、【金剛不壊こんごうふえ】だけは私が指示しないと使ってくれないみたいなの」

「なるほどな。効果が高い分、主の判断にゆだねられるスキルか。まあ、ボス戦では期待してるよ」


 例え短時間であっても、無敵状態になれるスキルはありがたい。

 使用タイミングはユキ次第だが、上手くはまれば白銀魔狼ぐらいは楽勝だろう。


 その後、俺達は攻略Wikiに載っていた戦闘動画を3人で見ながら、これならいけそうだと判断。

 2日後の水曜日に王都へ向けて出発することになった。


 ちなみに道中の移動は、俺とユキがフェンリルに騎乗、残りの3人はそれぞれ騎乗用のペットを購入したらしいのでそれで移動する事になった。




 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 打ち合わせが終わった後、俺は第4の街にある錬金術ギルドを訪ねた。

 新しい師匠への紹介状を受け取るためだ。


 思えば『武闘大会が終了した頃にきてほしい』と言われてたのにかなり遅くなってしまった。


「あら、いらっしゃいませ、トワ様。お久しぶりです」

「久しぶりです、メシアさん。王都での紹介状の件でギルドマスターに会いたいのですが取り次ぎお願いできますか?」

「構いませんよ。少々お待ちください」


 いつものやりとりの後に、ギルドマスターの部屋へ通される。

 そこには相変わらずギルドマスターが待ち構えていた。


「ようこそ、トワ君。久しぶりだね。ひょっとして、紹介状を持たずに王都へ向かったのかと思ったよ」

「さすがにそこまでマヌケじゃありませんよ。ちょっと事情があって、しばらく余裕がなかったのです」

「それについては話を聞いているよ。何でも銃の製造販売で忙しいそうじゃないか」

「その通りですけど、よくご存じで」

「君の販売規模はなかなか大きいからね。錬金術ギルドはガンナーギルドとも仲がいいんだ。嫌でも耳に入ってくるものさ」

「なるほど。それで紹介状の件ですが……」

「うむ、既に準備はできているよ。ただ、相手は錬金薬師。それも元王宮勤めだった御方だ。君なら大丈夫だろうが粗相のないようにな。あと、念のため調合ギルドからも紹介状を出してもらえるようにお願いをしてある。この後に、調合ギルドを訪ねてくれたまえ」

「わかりました。ありがとうございます」

「うむ、優秀な人材がこの街を離れるのは寂しいが、致し方あるまい。たまにはこちらのギルドにも顔を出してもらえると助かる」

「ええ、暇を見繕って様子を見に来ますよ」

「それではよろしく頼むよ」

「はい。それじゃ、失礼します」


 錬金術ギルドを後にした俺は、その足で調合ギルドを訪ねた。

 距離的にはそんなに離れていなくて楽だった。

 やはりこの2つのギルド間には相応のつながりがあるのだろう。


 調合ギルドに入り受付嬢に話しかける。


「すみません。錬金術ギルドからの紹介でこちらを訪ねるように言われてきた、異邦人のトワという者ですが……」

「トワ様ですね。少々お待ちを……確かに錬金術ギルドマスターからの紹介となっていますね。……しかし、トワ様はまだ調合ギルドに登録されていない様子。とりあえず先に登録をお願いできますか?」

「わかりました」

「異邦人の方の登録は楽で助かるんですよね。……はい、これで登録完了です。なお、トワ様はこれまでの実績を考慮してランク14からのスタートとなっております」


 いきなりランク14か、念のため理由を聞いておこうか。


「そんなにランクが高い理由を窺っても?」

「隠し立てするようなことではありませんので、構いませんよ。……一言で言ってしまえばトワ様の薬の販売実績がものすごい数になっているためです。そして品質も申し分ない。本来ならランク10に上がるときのテストを行わなければならないのですが、そちらの課題となるべき内容も既にこなしていますからね」

「なるほど。それでは紹介状がほしいのでギルドマスターの部屋へ案内してもらえますか?」

「わかりました、こちらへどうぞ」


 受付嬢に案内された先ではギルドマスターが待っており、錬金術ギルドと同じく紹介状をもらえた。


 また、ついでとばかりにガンナーギルドに足を運んだら、そちらでも王都のガンナーギルドへの紹介状をもらえた。

 何より嬉しかったのは、ガンナーギルドの場所がわかったという事だった。


 地図を見る限りでは、とてもじゃないが自力でたどり着くのは不可能っぽい場所だったのだから。


 とりあえず、関係するギルドの挨拶回りがすんだ俺は、明後日のボス戦に備えてポーションの作成などに励む事にした。


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