101.GW?日目 ~閑話 武闘大会 ある男の場合~

本日2話更新、これは1話目です。

2話目は19時頃公開予定。


トワ以外の一人称視点で話を書くのは初めてです。

トワ以上に話し方とかぶれてたらどうしよう……

(なお、トワでもぶれている自覚はある)


**********


 俺はその日の夜、指定されたクランホームを訪ねていた。

 同じクランのメンバーで、ここのクランの元メンバーでもある【城塞】鉄鬼からの紹介だ。


 間違いなく俺の尋ね人はいるのだろうが、クランホーム自体は一切人気が無い。

 事実、ここ数日はクランごと『雲隠れ』しているとの噂だ。

 ここのクランメンバーと接触できたという話は聞かない。


 そんな事を考えていると1件のメールが届いた。

 差出人は俺の尋ね人からだった。


『ゲスト権限で店舗内部に入れるように設定しておいた。適当に入ってきてくれ』


 どこからか俺の様子を窺っていたのだろう。

 ともかく、俺は指示に従い、店舗部から内部に続くドアを開けてクランホームの廊下へと出た。


 するとそこには、事前に聞いていた通りの容姿をした狐獣人の少年が立っていた。


「あんたが鉄鬼からの紹介者か。俺の名前はトワ。よろしく。とりあえず立ち話もなんだ、奥に談話室があるからそこで話を聞こう」


 挨拶もそこそこに俺は店の奥にある談話室へと通された。


「で、依頼内容の確認だが『強い銃を作ってほしい』で間違いないな?」

「ああ、間違いない。俺が今持っている銃よりも上等な品を頼む」


 そう言ってから机の上に2丁の銃を置いた。

 この2丁もこのクランで購入したものだ。


 流通量、特に高攻撃力の武器の流通量が少ない銃種において、俺の持っている銃はそれなり以上の高性能品だろう。

 だが、既に最前線では厳しい攻撃力になっていた。


 目の前にいる狐獣人、トワは俺の銃を一瞥すると事もなげにこう言った。


「俺が作った数打ち品の中でも最上位ランクの武器だな。これ以上を求めるなら、基本オーダーメイドになるけど構わないのか?」

「ああ、それで構わない。金ならそれなりに用意してある」

「どちらかというと金よりも素材を用意してほしいんだがな……さすがに今の状況じゃ無理か」

「すまない。俺のクランでも素材系はクラン内で消費してしまうため持ち出せなかった」

「……じゃあ、銃を作るための素材はこちらの持ちだしになるが……正直、こちらとしてもどのランクの素材を使えるかは未知数だ。少なくとも今の銃よりは強いものができるのは確かだが、どの程度のものになるかは蓋を開けてみないとわからんぞ?」

「ああ、それでも構わない。5月4日までに完成してくれれば文句は言わない」


 そう、俺は武闘大会オープンクラスに参加する。

 世間一般に根付いている『ガンナーは弱い』というイメージを払拭するためだ。

 俺1人が活躍したところで汚名返上とはならないだろうが、1つのくさびを打ち込むことはできるだろう。


「わかった。それで作るのは拳銃2丁で構わないのか?」

「いや、できればそれにライフルを1丁頼みたい」

「ライフルを? 何でまた。決して楽に使える装備じゃないぞ」

「それは知っている。その上でこれを見てくれ」


 俺はトワに自分のステータス表示を見せる。

 普通はこう言う場合、SSスクリーンショットで見せるのが定番だが、俺はあえてステータス表示をそのまま見せた。


「ジョブが【アサルトコマンダー】か……おそらくだけど特殊1次職【コマンダー】の上位職だな。ジョブ詳細を見ても構わないのか?」

「ああ、そのためにステータスをそのまま見せたのだからな」


 トワはアサルトコマンダーのジョブ詳細を見て唸るようにこう言った。

 というか、コマンダー系特殊ジョブの存在を知っているとは驚きだ。


「『拳銃とライフルの各種扱いに補正・大』か、なるほど、それでライフルもねぇ。……見たところSTRもありそうだし、それなりのライフルを取り扱えるか」


 後半のセリフは小声だったため、あまり良く聞こえなかったが、ライフル作りにも納得してもらえたようだ。


「それで、今までライフルを扱った経験は? それから威力重視と運用性重視の2パターンがあるがどっちが望みだ?」

「ライフルの扱いなら住人売りのライフルだが少々。作ってもらうライフルは運用性重視でお願いしたい」


 動画は見たが、スキルを使う度に後に転がるのはゴメンだ。

 致命的な隙ができるのもあるが、には相応しくない。


「……じゃあ、とりあえずどの辺のライフルまでなら実用範囲かテストしてからだな。幸い使い捨てにできるライフル素材はそれなりにある。適当にライフルを攻撃力別に作ってくるから待っててくれ」


 そういうとトワは談話室から出て行った。

 勝手に店の中を見学しているわけにもいかないので、大人しく談話室で戻ってくるのを待つ。

 トワが戻ってきたのは10分程度後のことだった。


「とりあえずサンプルの準備はできたよ。そこの扉から訓練所に出られるからそこで試射だな」


 そして案内された訓練所で俺はいくつかのライフルを渡された。


 ……って言うか、全部の攻撃力が存在を疑いたくなるような攻撃力なんですけど!?


「念のため言っておくけど、それは素材の強度が足りなくて1発撃つごとに最大耐久値の半分以上を消費する産廃装備だ。本番ではきちんとまともに扱える素材で作るから安心してくれ」


 安心できる要素が1つたりともないんですけど!?

 そんな俺の内心を悟られないように、銃の試射を行う。

 意外な事だったが、俺の体はATK+300にライフルでさえスキルを使っても射線がぶれる程度で済んでいた。


「この様子なら、ATK+300までは大丈夫そうだな。それで、作る装備の値段なんだが……」

「それは完成品の質を見てからで構わない。……ただ、2Mの範囲で収めてくれると助かる」


 2Mは今の俺の財産のうち、自由に使っても支障が出ないギリギリのラインだ。

 手痛い出費とはなるだろうが腕のいい銃職人は他におらず、飛び込みで仕事を依頼しているのだからその程度は支払ってもしょうがないだろう。


 それに、こう言う取引って闇取引みたいで少しあこがれてもいた。


「わかった。5月4日には仕上げてメールを送るよ」

「頼みました。それでは失礼」


 俺はこのとき、性能について詳しく詰めておかなかった事を後々後悔することになる。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 数日過ぎて5月4日、メールで頼んでいたブツが完成したとメールが来たので、指定された時間に改めてクランホームを訪ねる。

 そこで、前回と同じようなやりとりをした後に、談話室へと案内される。

 するとそこには、前回いなかったドワーフの鍛冶師がいた。


 彼の名はドワン、俺でも知っているほどの凄腕の鍛冶師だ。

 同じクランに所属しているのはもちろん知っているが、なぜこの場に同席を?


「とりあえず、依頼されていた銃だ。まずは受け取って確認してくれ」


 何気なく渡された銃の性能を見て、俺はその性能とこれを作った錬金術士の顔を3度ほど見比べてしまった。


 なんなんだよ! 拳銃で攻撃力200超え、それも2丁って! しかもしれっと★10品でしかも装備ボーナスが2つプリセットされてるし!

 装備の名前と素材を表すフレーバーテキストは既に消されていたが、代わりに作成者名で銘が入っていた。


 そして、ライフルにも目を向けるとこちらはこちらでおかしかった。

 攻撃力386もあるんですけど! しかもこっちも★10品で装備ボーナスはSTR高めに設定されてるし!


「とりあえず、拳銃については俺が自分用に用意していた分のあまりの素材を利用させてもらった。あと、ライフルは自分用の素材だとオーバースペック過ぎるからここにいるドワンに頼んで今回の依頼の範囲で問題なく作れるものを用意してもらった」

「紹介に与ったドワンじゃ。『ライブラリ』では鍛冶を担当しておる」

「ドワンにきてもらったのは、もしライフルを作り直す必要があったときに素材を用意してもらうために残ってもらっている」

「わしの出番が無いことを祈るがのぅ。さあ、訓練所に行くぞ」


 訓練場で試し撃ちをした結果、どれも問題なく使用できた。

 攻撃力が増して反動がきつくなったはずのライフルでさえ、この前のより扱いやすくなったのだから不思議だ。


「……ああ、説明してなかったな。ライフルの反動をどれだけ受けるかはSTR依存だ。ライフルでSTR伸ばすように設定してあるから取り回し易いだろう?」

「……ああ、正直助かった。それで、値段の方なんだが……この前もいった通りに2Mまでしか用意できない……正直、ここまでの品ができてくるとは思っても見なかった……」

「ああ、それだが、素材は拳銃の素材は塩漬けになる予定だったアダマンタイト製の銃身を流用させてもらったから問題ない。逆にライフルの銃身や魔石購入費に元手がかかってるからな。そっちを少し高めに設定させてもらって……拳銃が2丁で120万、ライフルが80万の合計2Mで構わないぞ」


 これだけの装備が2M!? さすがにそれはないんじゃないか!? もしオークションのような場所に出せばその倍以上の値段がつきかねないぞ!?


「いや、その値段設定はさすがにまずい。……即金で支払えるのは2Mが限界だが、そのほかに2M必ず用意して持ってくると約束しよう」

「ほれ、だから言ったじゃろう。この武器を2Mで売るのは安すぎると。大人しく4M受け取っておけ」

「……わかったよ。それじゃ、即金で今2M受け取って残りは後からだな。……ああ、急ぐ必要はないぞ。いざとなったら鉄鬼から取り立てるから」


 ……鉄鬼を敵に回すのは恐ろしい。

 なるはやで2M集めないと……


「それじゃ、この装備はお前さんのもんだ。……最後に武器名の変更と装備者固定をさせてもらうけど構わないか?」

「ああ、構わない。それで武器名は俺の趣味でもいいのか?」

「構わないよ。できればフレーバーテキストもそれにあわせてつけてもらえると助かる」

「ならば、拳銃は『インフェルノ』と『パラダイソ』、ライフルは『プルガトリオ』で頼む」

「……ダンテの神曲か。いい趣味だな。どうせなら、アルファベットでつけようか?」

「ああ、それはいいな。それでフレーバーテキストなんだが……」


 こうして、フレーバーテキストまで詳細に作り込まれた俺の相棒が完成した。



 そして、翌日オープンクラスの予選が始まったが、その内容は圧倒的なものだった。


『おーっと、クラン『百鬼夜行』所属次元弐選手、多くの下馬評を覆して決勝トーナメント進出決定だ!』


 正直、この武器の攻撃力こわいから! トワがマイスタークラスで見せたみたいな、スプレッドショット1発でHP全損は無理だったけどそれでも5~8割削ってたから! あとはその後に各個撃破、と言う名前の処刑をするだけで済んだから!


 そして、俺の名前は『次元弐』。

 某有名怪盗が出てくるアニメの相棒役をリスペクトしたキャラだ。

 装備もそれにあわせてあつらえてある。


 しかし、あの方はこんな大量殺戮を行うようなヒットマンじゃないから!


 とにかく、俺は決勝トーナメント1回戦に駒を進めることになった。


 決勝トーナメント第1試合の相手はなんと【追跡者】だった。

 だが、辛くも俺は勝利を収めることができた。


 対戦後に聞いた話によると、【追跡者】は対人よりも対モンスター用のビルドのため、PvPはきついそうだ。

 それでも、予選のあの混戦に勝利して、決勝トーナメントに進めるのだからたいしたものだと思う。


 そして、2回戦。

 ここを勝てば準決勝だが、立ちはだかる壁はまたも二つ名持ち【流星雨】だった。

 だがしかし、対【流星雨】戦についてだけはトワから勝利方法を聞いていた。


 その方法とは、セルフバフをかけられるだけかけておいて、最強の一撃でワンショットキルを狙うという、単純明快なものだった。

 聞いた話によると、メテオストームは発動から着弾までに数秒のタイムラグがあり、その間、発動者本人もほとんど身動きができないらしい。


 実際、俺はその戦法を使い、なんと【流星雨】にまで勝利を収めることができたのだ!

 トワの特製武器のおかげとはいえ、ここまでこれただけでも十分に目的は果たせただろう。


 なお、準決勝は【魔剣姫】が相手だったが、速攻でボロ負けだった。

 近接戦闘が苦手な俺では、勝ち目がまったくなかった。


 そして、俺が今回の武闘大会で最終戦となる3位決定戦だが、こちらも負けてしまった。

 ガンナーにとって相性の悪い重装歩兵タイプの【鎧王騎】が相手だったというのもるが、それ以上にプレイヤースキルで負けていた。

 悔しいが、準決勝に続いての完敗だった。


 さすがに、βのときの上位4人に入賞していただけの事はあった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 表彰式も無事に終わり、クラン『白夜』の慰労会に呼ばれた俺は、その会に参加した。

 同僚である鉄鬼が参加すると言うのもあったが、改めてトワにお礼を言いたかったのだ。


 幸いにも慰労会が始まってすぐにトワと話す機会ができたが、

「俺は単に武器を用意しただけ、あとは全部あなたの実力」

 と言われてしまいそれ以上のお礼は受け取ってもらえなかった。


 せめてもの謝礼として、入賞賞金の50万Eは全て借金の返済に充てようとしたがそれも断られ、結局は鉄鬼の取りなしもあり半分の25万Eだけ受け取ってもらうこととなった。


 その後、トワは鉄鬼とともにどこかへ行ってしまった。

 ……今度こそは自分でお金と素材をためて最上級の銃を発注しよう、そう心に決めたのだった。

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