101.5.GW9日目 ~閑話 武闘大会 エキシビションマッチ 白狼の場合~
本日2話目の更新、1話目がまだの方はそちらからどうぞ。
(なお2話とも閑話なのでどちらから読んでも大丈夫です)
なろう様の感想欄でリクエストのあったエキシビションマッチの白狼視点からの話です。
最初は運営管理室、途中より白狼視点です。
**********
「あー、ここで眷属召喚かー」
ここは運営管理室ゲーム内管理室。
そこでは今現在行われているエキシビションマッチの様子が映し出されていた。
「まあ、普通に考えて1次職のプレイヤーが2次職のプレイヤーに正攻法で勝てるわけないもんな」
「そうよね。職業補正だけで2倍のステータス差があるわけだし……そもそもイーブンバトルって、種族レベルのみ等しくしてスキルの制限は一切なしでしょう? それで勝てというのも酷な話だわ」
「だよなー。眷属召喚自体は制限されたスキルでもないし問題ないが……これじゃあ眷属がやたら強かったってイメージが残るんじゃないのか?」
「実際に眷属、特にフェンリルは戦闘特化だ。強いのは仕方が無いだろう」
「そうだけどさ。このまま終わらせたらプレイヤーとしてのトワが強かったのか、眷属が強かったのかわからないんじゃないか?」
「それは一理あるけど……でも、それまでも拮抗してた訳だしプレイヤーとしての差はあまりないんじゃないかしら?」
「ふむ、何やら面白い話をしているな」
「ああ、榊原室長。こちらにおいででしたか」
「先ほどまでは観客席に紛れ込んでいたがな。まさか、眷属召喚まで使って勝ちに行くとは思わなかったな」
「ええ、そうですね。それで室長、どうしてお戻りになられたのでしょうか?」
「なに、エキシビションマッチをもう少し盛り上げようと思ってな。GM権限での処理が必要なのでこちらに一度戻ってきた次第だ」
「……GM権限ですか。それで、何をするおつもりですか?」
「なに、フェンリルを使った試合をするならフェンリル同士の戦いもあった方が盛り上がると思ってな。ちょっとあるプレイヤーにもエキシビションマッチに参加してもらおうと考えただけだよ」
「……あるプレイヤーですか。まさか……」
「トワ君の他にフェンリルを持っている有名プレイヤーは彼しかいるまい?」
「……ですよね。ですが、果たして彼が参加承諾してくれるんでしょうか?」
「ダメだったときは、これでエキシビションマッチが終了するだけだから問題あるまい。さて、それでは仕事をするとしよう」
こうして運営管理室室長、榊原の半分趣味の入った依頼はそのプレイヤーに向けて発信されるのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「……まさか、眷属召喚という手札まで切って勝ちを拾いに行くとはね。そこまでして勝ちたかったか、あるいは兄としての意地か、それともフェンリルを持っている事を世間に知らしめたかったのか……」
僕は観客席からエキシビションマッチの様子を観戦していた。
もし、決勝戦で勝てていればあの場に自分が立っていたと思うと少しばかり悔しさもある。
βテストの最後に行われた武闘大会。
僕はトワ君に敗れてしまい、最終的には4位という結果になった。
あの時はトワ君達、通称【三鬼衆】は全員『ライブラリ』謹製の武器・防具・アクセサリー・道具とβ時代最高の環境を揃えて武闘大会に臨んでいたわけだが……結果としてはトワ君だけではなくリク君にも負けてしまった。
当時の僕の装備は★8程度だったと記憶しているし、回復アイテムなども持ち込めた。
その差が大きかったのは認めるが……それ以外にもプレイヤースキルで劣っていた。
トワ君達とはそれ以前から交流があったから知っているが、当時はまだ全員中学生だったらしい。
ゲームがVR主流に切り替わってからというもの、キャラクターのスペックだけでなくリアルセンスがゲーム内における優劣差に大きく影響を与えるようになっていた。
β時代はトワ君はアーチャーだったわけだが、それだけでなく格闘戦もこなしていた。
その格闘技術はゲームによるアシスト機能を大きく逸脱しており……はっきり言わせてもらえば、リアルでも何かの格闘技術、それもかなり実戦――実践ではない――を意識したものを習得している様子だった。
トワ君の代名詞となっていたいわゆる爆撃ハメは回避できたが、その後の接近戦ではその格闘技術により僕の剣技は封じ込まれてしまい、結局負けてしまった。
その次の3位決定戦に関しても同様で、実戦を意識した剣技を使うリク君相手に敗退してしまったのだった。
これでも僕は学生時代剣道をかじっていた事もあり、剣の腕前にはそこそこ自信があった。
その自信を完膚なきまでにたたき折ってくれたのが、トワ君とリク君だ。
そして、βテスト終了後、僕は仕事の合間に通える剣術道場を見つけて剣道の腕前を鍛え直す事にした。
これは社会人になってからろくに運動もせずに衰えていた体と心を鍛えるためでもあり、対人戦という試合勘を取り戻すためである。
最初はやはり相当に鈍っていたらしく、まともに竹刀を振るうことにも苦労した。
そして竹刀とゲーム内で扱っていた長剣の扱い方の差にも苦労させられたが……こちらは、VRで出来るタイプの西洋剣術練習ソフトとやらを買って練習することが出来た。
こんなニッチなソフトもあるのかと関心もしたが……昨今の完全没入式VRゲーム人気を考えるとあっても不思議じゃないのかな?
そんな風に色々準備をすることで正式サービスが始める前には試合勘を取り戻すことに成功し、準備万端で正式サービスを迎えることが出来た。
正式サービス開始後も時間を見つけては道場に通い、剣の腕と試合勘を磨き続けている。
そして迎えたこの武闘大会ではあったのだけど……まさか、今度はハル君に負けるとは思わなかった。
トワ君の妹であり、年下であると言うことで油断していたというのは否めないかも知れない。
でも、僕自身の剣の腕前は相当上がっていたはずで……最終的には剣の腕前以上に戦闘における駆け引きで負けてしまった。
やはり【三鬼衆】は【三鬼衆】と言うことなのか、その戦闘センスは僕以上のものがあった。
「……さて、どうやらエキシビションマッチの結果も出たようだし、クランホームに戻って打ち上げ会の準備を……」
準備をしよう。
そう言おうと思った矢先、目の前に仮想ウィンドウが開いた。
内容は……エキシビションマッチへの参加の可否だった。
「どうしましたか白狼隊長?」
「え、ああ。どうやら僕にもエキシビションマッチのお誘いが来たようだ」
このタイミングでエキシビションマッチの参加要請という事は……エキシビションマッチでフェンリル持ち同士の戦闘をやってほしいと言うことなんだろうな。
「そうですか。それで、受けるのですか?」
「ああ、もちろん。それじゃあ、ちょっと行ってくるよ」
クランメンバーに別れを告げて僕は参加を承諾する。
すると僕は転移されて武闘大会の闘技場に立っていた。
僕の目の前にはもう1人のフェンリル保持者、トワ君がいる。
こんな形ではあるがリベンジマッチが出来るなんて思ってもみなかった!
「やあ、トワ君。お邪魔するよ」
「やっぱり白狼さんでしたか……」
逸る気持ちを抑え、出来る限り冷静に挨拶を済ませる。
せっかくの舞台だ、楽しめなくては損だろう。
『オープンクラス2位の白狼選手も眷属フェンリルの主人ですからね。今回はフェンリルの主人同士、イーブンバトルで戦っていただきましょう』
「そういうわけだから、すまないけど僕と戦ってもらうよ。眷属召喚、こい銀牙!」
僕は早速自分のフェンリル、銀牙を召喚する。
銀牙はその名前の通り銀色の毛並みに包まれたフェンリルだ。
銀牙のレベルは既にカンスト済みの亜成体レベル30。
銀牙のレベルがどの程度まで下げられるかはわからないが、トワ君とハル君のバトルを見る限りだとトワ君と同程度のレベルまではレベルが制限されることになるだろう。
さて、自分の剣術がどこまで通用するようになっているか、あるいはイーブンバトルではまだ勝てないのか。
ここからは手加減なしで挑ませてもらおう!
「さて、ここからは真剣勝負だ。それじゃあ、行くよトワ君」
『さて、お二人の準備も整ったようですので試合開始です!』
実況の声が響くと同時にカウントダウンが始まる。
カウントダウンが終了した瞬間に僕は飛び出してトワ君との間合いを一気に詰める。
だが、
「ガァァッ!」
トワ君のフェンリル――確かシリウスだったかな――によって僕の行く手は阻まれてしまう。
どうやらトワ君のフェンリルはスタンダードに近接戦闘タイプらしい。
トワ君自身は中距離から遠距離で戦うタイプのガンナーだし、ちょうどいい組み合わせだろう。
横手から爪による斬撃を受けた僕は、防御が間に合わなかった事もあり2割程度のダメージを受けてしまう。
だが、そこについては何の問題もない。
「アォォォン」
僕のフェンリル、銀牙の遠吠えとともに僕の体が光に包まれ減っていたHPが回復する。
そして続けて攻撃力アップや防御力アップなどのバフが次々とかけられていく。
「……白狼さんのフェンリルは支援回復型ですか」
「うん、僕は場合によってはサブタンクもこなすからね。攻撃力よりも継続戦闘能力をとった結果だよ」
「それは厄介そうですね! チャージショット!」
「おっと、そう簡単にはいかないよ?」
トワ君のチャージショットは僕の盾で受け流す。
チャージショットをまともに防御してしまうと、そのノックバック効果を受けてしまうが盾で受け流せば何の問題もない。
……まあ、矢にしろ銃弾にしろそんなものを受け流せるのは、さすがゲームといったところなのだけど。
「ッ! さすがのプレイヤースキルですね!」
「それはどうも。これでもβが終わった後にリアルでも体を鍛えさせてもらったからね。一筋縄には行かないよ?」
「元々強かったのにさらに鍛えるとか、頑張りすぎでしょう……」
「まあ、僕も思うところがあったからね。さあ、それじゃあ続きと行こうか!」
まずは目の前で僕の行く手を塞いでいるシリウスから相手にする。
狼が相手である以上は人間を相手にした場合のフェイントなどは通用しないだろう。
それでも、フェイントを混ぜ込みながらスキルを交えて攻撃を仕掛けていく。
シリウスは見た目通りのスピードアタッカーらしく足を止めての防衛戦は不得手のようだね。
そしてトワ君の方はといえば、シリウスの事を時折回復しながらこちらに攻撃を仕掛けてくる。
今度はチャージショットのような派手な技ではなく、ダブルショットやラピッドショットのような連発系スキルに切り替えて攻撃してきている。
僕はそれらを時には盾で受け止め、時にはシリウスの影に入ることで射線を切るなどして対応していた。
また、
うーん、ドワンさんに作ってもらった盾だけど、魔法防御に優れていてやっぱりいいな。
そんな消耗戦の様相を呈してきた戦いであったが、状況はこちらの有利で進んでいた。
何せ、こちらの方が防御力と回復力で上回っているからだ。
トワ君としてはシリウスを幼体化で小さくして射線を通したいところなのだろうが、シリウスが幼体化してしまうと足止め効果が減ってしまう。
いくらステータス的には変わらないとは言っても、3メートルの巨狼と1メートル未満の幼狼では足止め効果が異なる。
本来の戦い型が出来ない2人は、次第にシリウスのダメージ蓄積という形で追い詰められていっている。
そして戦闘開始から数分経った頃、遂にトワ君が動いた!
インベントリから例の高攻撃力ライフルを取り出したのだ。
狙いは……銀牙か!
「チャージショット!」
「銀牙!」
起死回生を狙った必殺の一撃ではあったが、うちの銀牙もそう易々とはやられない。
高速で飛んでくる弾丸をしっかりと避けたのだ。
そして、トワ君はと言えばライフルを使った反動で転んでしまっている。
これは一気に勝負を決めるチャンスかな?
「悪いけど一気に決めさせてもらうよ! パワースラッシュ! レイズスラッシュ! トリプルスラッシュ!!」
「ギャウン!!」
温存していた高攻撃力スキルを一気にコンボで叩きこみシリウスを倒しきることに成功した。
あとは、トワ君だが……
「くっ…………リザレク」
「甘いよ! 縮地! シールドバッシュ!」
さすがのトワ君でもリザレクションの即時発動は出来なかった様子で、僕が縮地で間合いを詰めた後のシールドバッシュの直撃を受けてスタンしてしまった。
もちろんリザレクションも効果を発揮しないし、トワ君には数秒程度だがスタンが付与されてしまい動けない。
「デルタブレイク!!」
「くあっ!」
僕は残っていた高攻撃力スキルをトワ君に叩きこむ!
それによりシールドバッシュでも3割近いダメージを受けていたトワ君はHPを全損することになり、この勝負は僕の勝利となった。
『決まったー!! フェンリル持ち同士の熾烈な対決を制したのは白狼選手だー!!』
観客から歓声が沸き上がるが、なんだろう……イマイチ違和感があるような?
「……あれ、これで終わり?」
「……さすがに今の俺にはそこまでの攻撃を耐えられるほどのHPはありませんよ?」
「いや、何となくそんな気はしてたんだけど……それにしてもあっけないなって」
「それは1次職と2次職の間の差じゃないですかね? 多分、イーブンバトルってそこまで緩和されてませんよ?」
ああ、そう言うことか。
妙に与ダメージが高いと思っていたけど、2次職のステータス補正はそのまま残っているのか。
うん、待てよ……という事はだ。
「……ひょっとしてスキルレベルによるステータス差も緩和されてない?」
「そんな気がしますね。さすがにデルタブレイクを受けたとは言え、スキルレベル差が埋まっていれば7割以上のダメージを受けるとは思えませんから」
うーん、これじゃあリベンジが出来たとは言い難いな……
ほとんどキャラスペックで押し通したものじゃないかな……
「トワ君、もしよければもう少し勝負してくれないかな?」
「それは構いませんが……多分、俺の方が大分スペックで負けてますし勝負になるとは思えませんよ?」
「まあ、それはやって見ないとわからないじゃないか。とりあえず再戦と行こう。実況さん、そう言う訳だから再戦をお願いできないかな?」
『えっと、どういうわけかわかりませんが再戦ですね。……GMから許可が下りましたので第2回戦です! それでは準備をお願いします!!』
その後、合計5戦ほどやってみたが僕の全勝となった。
色々と試してみたが、やはりプレイヤースキルの差が縮まった事よりもキャラスペック差が開いてしまっているのが大きな要因だったと思う。
エキシビションマッチという事で4戦目はそれぞれのフェンリルに騎乗しての馬上戦ならぬ狼上戦、5戦目はフェンリル抜きでの1対1などを行ったが結局は僕が勝ててしまった。
1対1の試合では僕のスキルを水鏡投げや合気投げでカウンターをすると言った、さすがのプレイヤースキルを見せてくれたのだが……
やはりキャラスペック差には勝てず、結局は僕の勝利に終わったのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「ふぅ……」
そして、
僕はイマイチ悶々とした気持ちが晴れないままだった。
「どうしました白狼隊長? 何か問題でも?」
「ああ、問題というかね……今日の僕とトワ君の試合、どう思った?」
「そうですね、2人ともプレイヤースキルは高いと思います。ですが……キャラスペック差がかなりあったように思えますね」
「……うん、やっぱりそうか。イーブンバトルとは言ってもスキル差は大きいよね」
他人から見てもキャラスペックの差を感じるほどなんだ。
きっと、僕が考えているよりもスペック差は大きかったのだろう。
「どうせなら、完全に平等なレベルやキャラスペックで戦いたかったものだけど……」
「さすがにそれは無理が過ぎますよ。相手はβ優勝の【爆撃機】とはいえ、今は生産者プレイを優先している訳ですから」
「そうなんだけどね……やっぱり同じレベル同士でリベンジマッチと行きたい所なんだけどね」
「さすがにそれは難しいかと。……運営にイーブンバトルの改善要望を送るしかないでしょうね」
「そうだね、そうしようか」
僕は気持ちを切り替えてこの打ち上げ会を楽しむことにした。
なお後日運営に問い合わせをした結果だが、イーブンバトルでは種族レベルこそ等しくなるが、職業補正やスキルレベルはそのままだったという事らしい。
なので、その辺も平等になるようなシステムを実装してほしいと要望を送るのだった。
……どこかでまたトワ君をパワーレベリングに連れ出してレベルカンスト状態で再戦というわけにはいかないかな……
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