100.GW9日目 ~武闘大会 エピローグ~

記念すべき本編100話目です。

これからもよろしくお願いします。


**********


「それじゃあ皆、今日までお疲れ様と言うことで乾杯!」


「「「「かんぱ~い!!!」」」」


 ここはクラン『白夜』のクランホーム。

 時間はGWゴールデンウィーク最終日の夜時間。


 今、この場では『白夜』や『インデックス』、それに『ライブラリ』や、ハルやリクのパーティメンバーなどが集まって武闘大会の打ち上げ会をやっていた。


 まあ、打ち上げ会と言う名目で単に騒ぎたかったメンバーが多いのだろう。


 このゲームでは料理が冷めることはない。

 そのため、数日前から大量の料理を仕込んであったらしい。


 お、このから揚げ美味しい。


「おう、トワ。楽しんでるか?」

「ああ、鉄鬼か。そうだな、楽しんでるよ」


 ちなみにだが、鉄鬼達『百鬼夜行』のメンバーも何人か参加していた。


 トップクラン同士、それなりにつながりがあるらしい。


「そいつは良かった。お前はマイスタークラスの優勝者なんだからな。主賓の1人だろ今日はな」

「ああ、そうだがな。さすがに今日は疲れたよ……」

「そんなもの、あんな目立つ場所で目立つスキル使う方が悪い」


 そう、エキシビションマッチで眷属召喚を使った結果、それで終われなくなってしまったのだ。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



『勝者トワ選手! っていうか眷属召喚ってなんだ!? 眷属召喚って!?』


 さすがにうるさかった。

 というか、眷属召喚ぐらい話題になってるから知っててもおかしくないのだが……


 あ、そう言えば、この実況、第2陣だったか。


『眷属召喚については私の方から説明しましょう』

『本当ですか榎田GM! よろしくお願いします!!』


 かなり食い気味にいってるな、実況。


『眷属召喚とは、その名の通り眷属を呼び出すスキルですね。今回トワ選手が呼び出した眷属は『フェンリル』、高い戦闘能力を誇る万能型の眷属ですね』

『高い戦闘能力ですか!? 具体的にはどのくらいの強さになるのでしょう!?』

『眷属はその主人によって成長の方向性が決まってくるのですが……一般的な成長を遂げているフェンリルですと、普通に主人と同レベル程度の強さは持ちますね。ハル選手が一方的に敗れたのは、不意を突かれたせいだけではなく、純粋に相手の戦闘力が2倍になったのと等しい状況だったからですね』

『あのー、それって武闘大会で使っていいスキルなんですか?』

『もちろん、武闘大会中は使用不可なスキルでしたよ。ですが、今行われていたのはあくまでエキシビションマッチ。全てのスキルの使用可能な状況でのPvPですからね。使用可能なスキルを使用しただけですから何の問題もありません。それに、エキシビションマッチの勝ち負けは特に意味はないのですから』

『それもそうですね。ちなみに、眷属を手に入れる方法はどうすればいいのでしょうか!?』

『それにつきましては、もうゲーム内で情報が出回ってますよ。とある情報屋クランがクエスト情報を拡散させていますから。ただ、フェンリルのクエストは実装されている中でも最上級の難易度を誇るクエストですからね。そう簡単にはクリアできないでしょう』


 確かに、あのクエストは簡単にクリアさせるつもりがないのは見え見えだったからな。

 先週の月曜日にも挑んだ人間がいたという話は聞いているが、クリアした人間がいるとは聞いていない。


 まあ、先週は堅実に『幻狼の腕輪』をとるために挑んだパーティが多いと聞くが。


『それから、先日の公式生放送をご覧になった方は知っていると思いますが、実装されている眷属はフェンリルだけではありません。フェンリルの他に、ケットシー、ユニコーン、ガーゴイルが実装済みです。ですが、これらの眷属につながるクエストを発生させたプレイヤーはまだ皆無ですがね』


 そういえば、そっちの情報収集はどうなっているんだろう。

 確か、教授には教えていたはずだから『インデックス』が動いたと思うんだが……


 でも、この連休中は忙しくてそちらまで手が回っていなかったのかもな。


『眷属の性質は種族によって異なりますが、どの種族であっても様々な形で冒険の手助けになってくれることは間違いないでしょうね』

『なるほどー。ちなみに、眷属のメリットやデメリットはあるんでしょうか?』

『メリットは1人のときでも頼れる仲間が呼び出せることでしょうね。きちんと愛情を持って育てれば、必ず役に立ってくれます。デメリットは……そうですね。眷属を召喚中はパーティ枠を1つ使ってしまう事でしょうか。パーティプレイで遊んでいただくときに、眷属を使いたいときは眷属も含めて6人のパーティ枠内に収めていただく必要があります』


 俺の場合はフルパーティなど滅多に組まないから大丈夫だが、固定パーティの人には結構大きいんじゃないかな。


『つまりパーティプレイ中に仲間が1人増えるようなものだという事ですね。わかりました。ちなみにその入手方法についてヒントなどは……』

『それは私の方からは答えられませんね。やはり、こう言った内容を探していただくのもゲームの楽しみ方の1つなのですから』

『そうですか……残念です』

『ああ、ただ1つだけ言わせていただくと、ケットシーについてはクエスト情報を集めることができれば、割とゆるい条件で仲間にすることができますよ。ユニコーンは普通。ガーゴイルは難易度高め。フェンリルは最上級難易度ですね』


 やっぱりそういう分類はあったのか。

 俺が得た情報でもガーゴイルは難易度高めそうだったものな。


『そして、眷属としてのフェンリルの強さは実際にフェンリルが戦っているのを見ていただければわかると思います。ちょうど、トワ選手の他にもフェンリルを眷属として召喚出来るプレイヤーがいて、その方にもエキシビションマッチに参加していただけるようですので』


 その言葉と同時に、プレイヤーが1人、舞台上へ転移してきた。


「やあ、トワ君。お邪魔するよ」

「やっぱり白狼さんでしたか……」


『オープンクラス2位の白狼選手も眷属フェンリルの主人ですからね。今回はフェンリルの主人同士、イーブンバトルで戦っていただきましょう』


「そういうわけだから、すまないけど僕と戦ってもらうよ。眷属召喚、こい銀牙!」


 白狼さんの足下に魔法陣が現れ、そこから銀色の毛並みを持った3メートルクラスの狼が現れる。

 初めて見るが、これが白狼さんのフェンリルか。


 やっぱり、と言ってはなんだが既に亜成体なんだな。


「さて、ここからは真剣勝負だ。それじゃあ、行くよトワ君」


 その後、エキシビションマッチという事で何回か白狼さんとそのフェンリル相手に戦ったが、全敗したとだけ伝えておこう。

 ……さすがに白狼さんの守りを後方から支援回復するフェンリルがいたんじゃ勝ち目なんてないさ……



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「そいつは大変だったな。だが、あんな目立つスキルを使ったのは自業自得だろう?」

「まあ、その通りなんだけどな。どうせどこかのタイミングで使って、移動の足とかに使いたかったから結果オーライでもあるんだが」

「ならいいじゃねえか」

「それだけですんでたらな」

「あん? まだ他にもあったのか?」

「ああ、クランホームに戻ったときにな……」



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「ああ、トワ! ようやく帰ってきた!」

「どうかしたのか柚月?」


 エキシビションマッチも終わったので一度クランホームでログアウトしようと思っていた矢先、柚月に捕まった。


「トワ、あなた魔砲銃なら量産できるわよね?」

「うん? そりゃ、銃身とグリップがあれば量産できるけど、それがどうかしたのか?」

「メッセージボードを確認したんだけど、魔砲銃や魔導銃がほしいって書き込みがたくさんあったのよ。その対応をしてもらわないとまずいわ」

「まずいって……そんなにか?」

「そんなによ。ドワンとイリスにはもう銃身とグリップは頼んであるから。共有倉庫にミスリル銀合金の銃身ができているはずよ。それで量産できる分は量産しちゃって!」

「俺結構、疲れてるんだけどなぁ……」

「それは理解してるけど、とりあえず30ほどお願い。後は明日以降で構わないから!」

「……はあ、わかったよ。とりあえず作っておくよ。作ったら共有倉庫に入れておくから出品作業は任せてもいいか?」

「それぐらいなら任せなさい。あ、あと、あまり強すぎたり品質が良すぎるものは作らないでね?」

「わかったよ。さすがに疲れてるから上手くはいかないと思うが気をつけるよ」


 こうして俺は急遽30丁の魔砲銃を作る事となった……



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「なるほどなぁ……完全に専売状態ってのも善し悪しだなぁ」

「まったくだ。早いところ他の人もレシピを手に入れてもらいたいのだけどな」

「無理なんじゃね? 戦闘系ギルドのランク10って試験もあるが、それ以前に貢献度もかなり必要って話だからな」

「そうだよなぁ。俺も9から10の間は長かったしなぁ……」


 この先もしばらくはライフル・魔砲銃・魔導銃の3種は専売状態が続きそうだ。

 ライフルは住人からでも買えるようになってるけど、使い勝手は断然俺の作ったものの方がいいらしい。

 おそらくDEXが上がるせいだと思うけど。


「そういや、お前らのところでミスリル金の装備って取り扱うのか?」

「そっちは取り扱いの予定はしばらくなし。とりあえずお得意様に使ってもらって、それのフィードバックができて、量産可能な供給体制ができたら販売するって、柚月がいってた」

「つまりはしばらくはないんだな」

「そういうことだ」


 それから少しの間、鉄鬼と情報交換を行った。

 鉄鬼も聖霊武器については興味があるらしく、今度教授に聞きに行くそうだ。


 やがて鉄鬼は俺のそばからいなくなり、仲間の方へと向かっていった。


 俺もクランの皆のところに戻るか。

 そんな事を考えていると、ユキから声をかけられた。


「お疲れさま、トワくん。今日も一日大変だったね」

「ん、ああ。そうだな、本当に今日は疲れたよ」

「でも、武闘大会に出ているときのトワくん、楽しそうだったよ」

「んー、それもそうだな。武闘大会は結構楽しめたよ。鉄鬼とはまたギリギリの勝負になったしな」


 それから2人でしばらくの間料理を食べながら話をした。

 正直、このGWはずっと忙しくしていたせいで、こんなのんびりした時間は久しぶりだな。


「そう言えば、明日からは学校だね。トワくんは大丈夫?」

「うん? まあ、ゲームにログインする時間が減るぐらいで特に問題は無いんじゃないか?」

「トワくんなら起床時間とかは大丈夫だよね……うちはリクが……」


 ああ、アイツもGW中はレベル上げで忙しかったはずだしな。


「まあ、最悪たたき起こせば大丈夫だろ。そんな事よりも、アイツの場合、中間試験が心配だな」


 そう、GWの休みが終われば中間試験まで残り2週間を既に切っているのだ。


「それは……対策をちゃんとさせないとダメだね」

「そうだな。……試験明けまでは必然的にログイン時間が減りそうだな」

「そうだね。お店の在庫を作るぐらいしかログインできないかも」

「ああ、それはそれで仕方がないさ。リアル優先なのは基本だし」

「うん、そうだね。……それじゃあそろそろ皆のところに戻ろう?」

「ああ、そうだな」


 こうして何かと忙しかった俺のGWは終わりを告げたのだった。


 ちなみに休みが明けてから知ったことだが、マイスタークラスのベストバウト賞には俺と鉄鬼の準決勝が選ばれたようだ。

 公式サイトで得票数を確認出来たのだが……2位である決勝戦とのポイント差は三百票差程度しかなかった。

 あの試合内容については、「あまりにも可哀想」という意見も少なからずあったらしいので、運営側で得票数の操作を行ったんじゃないかという噂も流れているらしいが……まあ、そこまでは俺の関与する話ではないだろう。

 景品の楯はクランホームの自室に飾らせてもらい、賞金については臨時収入としてありがたくいただくことにした。


 それから、問題発言が大々的に流れたマリー=ゴールドとクランその『ローズガーデン』愉快な仲間達だが、やはり生産系クランから絶縁状態となってしまったらしい。

 前々からマリー=ゴールドは問題行動を起こしていたが、クランメンバーがフォローしていたらしくそこまで大きな問題にはなっていなかったらしい。

 だが、公式の武闘大会決勝戦という大舞台で問題発言を連発したことが原因で、堪忍袋の緒が切れたと言ったところか。


 ほとんどの生産系クランから出禁になったクラン『ローズガーデン』は解散、マリー=ゴールド本人についてはその姿を見かけたという話は聞かなくなったらしい。

 単純に取り巻きがいなくなって前線にいられなくなっただけなのか、ゲーム自体を続けられなくなってゲームを辞めた引退したのか、それともキャラデリしてアカウントを作成し直したのか……

 いずれにしても俺に直接関わりのある話じゃないし、まあいいか。


 それよりもリクに勉強させて、赤点をとらせないことの方が優先課題だ。

 中間テストが終わるまではゲーム時間を最低限まで減らして、そちらの問題に取り組まなければ……


**********


これにて第3章は完結となります。

次回以降、閑話や掲示板回を挟んで第4章に移りたいと思います。

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