99.GW9日目 ~武闘大会 エキシビションマッチ~

 目の前の仮想ウィンドウにはエキシビションマッチへの参加についてYes/Noの表示が出ている。


「トワくん、参加するの?」

「うん? ああ、そうだな。いっちょ派手に負けてきますか」

「あら珍しい。勝つつもりじゃないのね?」

「さすがにハルとのレベル差をひっくり返すのはきついよ。まあ、せいぜい足掻かせてもらうけど」

「準備はできておるのかの?」

「昨日のままになっているから平気」

「それじゃ、気をつけてねトワー」

「ああ、行ってくる」


 皆の声援を受けて俺は仮想ウィンドウから『Yes』を選択した。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 ウィンドウ操作後、転移されたのは予想通り武闘大会の舞台上だった。

 舞台上には既に白狼さん達2位以下の選手の姿はなく、代わりに見覚えのない青年がいた。

 おそらく彼がノービスクラスの優勝者なのだろう。


『トワ選手も参加表明をしてくれた模様です! これで3つのクラス全ての優勝者が出そろいました!!』


 実況のミオンが勢いよく宣言する。


『なお、このままだと三つどもえの戦いになってしまいます。なので、まずはノービスクラス優勝のマグダリア選手に戦いたい相手を指名していただき、その勝った方と残りの1人の試合とさせていただきます!』


 普通に3戦でもいい気がするがどうなんだろう?


『また、このエキシビションマッチでは『イーブンバトル』ルールを適用いたします! 『イーブンバトル』とは、対戦者の種族レベルを同じ値として戦うモードです!』


 一種のハンディキャップ戦か。

 それならハルに対しても勝ち目がある、かな?


『なお『イーブンバトル』ではスキルやジョブレベルなどの値は変わりませんのでご了承ください!』


 スキルレベルやジョブレベルが制限されないんじゃだめじゃん……


『それではマグダリア選手、戦いたい相手を指名してください!』


 順当に考えると俺なんだがな……


「俺はオープンクラス優勝のハル選手と戦うぞ!!」

「え?」

「ふむ」


 マグダリアの発言に一瞬間の抜けた顔をするハル。

 俺の方は、発言の真意を見極めようとした。


『マグダリア選手、構いませんが理由を伺ってもよろしいですか?』

「俺は確かに第2陣だ。だがな、だからと言って第1陣に劣ってるわけではない! この戦いでそれを証明してみせる!!」


 歓声が巻き起こる場内。

 ただ、これは挑戦者であるマグダリアへの激励というより、無謀な挑戦に対するものだろう。


 ……正直、種族レベルが一緒になったところでスキルレベルが変わらないなら、マスクデータ上はとんでもない差があるはずだし。

 それに、装備の質だってまったく違う。

 何よりも、強力なスキルが揃っているオープンクラスの実力者と戦えるはずもない。


「うーん、お兄ちゃん……トワとやった方が勉強になると思うんだけどなぁ。正直、ノービスクラスのときの戦い方を見ているとわたしと戦ったところでなにも得るものはないんだけどなー」

「そう思うなら思っていればいいさ! 条件が同じなら必ず俺が勝つ!」

「うーん、仕方が無いね。相手になってあげよう」


『決まったようです! 1戦目はノービスクラス・マグダリア選手対オープンクラス・ハル選手です!』


 どうやら対戦カードは決まったようだ。

 舞台上にいても邪魔だろうから、大人しく舞台から降りて試合の様子を見ることにする。


『さあ、準備はよろしいですか? カウントダウン開始です!』


 その言葉と同時にカウントダウンが始まる。

 カウントダウンが終わった時に先に駆けだしたのはマグダリアだった。


「食らえ! メガスラッシュ!!」


【片手剣】スキルの高倍率攻撃スキルをいきなり繰り出すマグダリア。

 はっきり言って、フェイントも牽制も何もなしに当てられるスキルじゃない。


 このスキル自体がフェイントだと思ったのか、ハルは大きく飛び退ることで回避する。


「まだだ! フォワードステップ! トリプルスラッシュ!!」


 今度はハルも大きく躱すような真似はせず、最小限の動きで躱す。

 そして、相手の技後硬直の間に剣で切りつけた。

 なんの変哲も無い通常攻撃だが、1撃で3割近いダメージを与えていた。


「くっ! この!!」


 切られたマグダリアは反撃とばかりに剣を振り抜くが、既にハルはそこにはいない。

 また、再び間合いを離していた。


「うーん、やっぱりそんな大振りのテレフォンパンチばっかりじゃ当たらないよ? もう少しスキルの運用方法を考えようね?」

「うるさい! まだ終わった訳じゃない! 今度こそ当てる! ツインスラッシュ、パワースラッシュ!」


 馬鹿の一つ覚えみたいにスキルを連打して突っこんでいくマグダリア。

 PvEならそれでも何とかなるだろうがPvPじゃ意味がないって気がつかないものか。

 ……これでも優勝者なんだからどんぐりの背比べだったんだろうなぁ……


「これ以上あなたに付き合っても仕方が無いから、決めさせてもらうね。スターセイバー!」

「なにっ!」


 あっさりとマグダリアのスキルをかわしたハルが、反撃でスキルを決める。

 確かスターセイバーは【魔法剣】スキルの攻撃スキルだったような。

 ……例え家族であってもお互いのスキル構成は見せあってなかったからなぁ。

 今のハルがなんのスキルを持ってるかなんてわかったもんじゃない。


 ああ、マグダリアだったらスターセイバーの1撃でHP全損して舞台上から退場したよ。


『勝負あり!! 勝者ハル選手!!』


 実況の勝利宣言にあわせてハルが手を振れば観客席から拍手と歓声が巻き起こる。


『いやー榎田GM、かなり一方的な試合運びとなってしまいましたが……』

『仕方が無いでしょうね。ノービスクラスでは、フェイントや小技などはほとんど用いられていません。ですがマイスタークラスやオープンクラスでは当たり前の技術ですからね。正直、戦闘の駆け引きを知らないノービスクラスの選手がオープンクラスの優勝者に勝つのは無理があるでしょうね』

『まあ、そうですね……それでは、次にトワ選手舞台に上がってください!』


 さて、マグダリアとやらがどこに行ったか気にはなるが、俺の出番のようだし早く舞台に上がるか。


「さあ、勝負だよ、お兄ちゃん!」

「はいはい、そう焦りなさんな」


 俺はインベントリから建御雷と氷華を取り出す。


「それが噂の聖霊武器だね! わたしもほしい!」

「だったら『インデックス』に行け。こいつを手に入れるためのクエスト詳細を教授は知ってるから」

「わかった! それじゃあ明日にでも聞いてみる!」


『お二人とも準備はよろしいですか? カウントダウンスタート!』


 カウントダウンが始まり、だんだんとその値が小さくなっていく。

 そして『START』の文字が浮かぶと同時に駆けだしてきたのはハルだった。


「まずは先制! スターセイバー!」


 ハルの剣から五芒星の形をした光が

 どうやらスターセイバーには物理攻撃だけじゃなく飛び道具としての効果もあるらしい。


 威力がどの程度なのかを確かめるために、わざと腕をかすらせてみる。

 するとHPの減った量は1割強。

 おそらく直撃しても飛び道具部分だけでは即死はないだろうが……


「なかなか、凶悪だな。その剣は」

「いいでしょ? ドワンさんに作ってもらった★11の魔法剣だよ!」


 そういえば、さっきの装備紹介のときに詳細まで見てなかったな。

 しかし、よりにもよって★11か。


 相変わらずドワンもオーダーメイド品には手を抜かないな。

 さて、妹様を相手にどう戦えばいいでしょうかねぇ……



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 戦闘開始から約5分、俺達はともに攻めあぐねていた。


 中距離戦をメインに近距離でも戦える俺。

 近距離戦をメインに中距離でも戦えるハル。


 お互い、自分の得意な距離に持ち込もうとして隙の少ないスキルや牽制攻撃を行う。

 そして多少ダメージを受けても互いに自分で回復可能なため、すぐに回復してしまう。


 まさに一進一退の攻防を繰り広げる中、ハルの動きが止まる。


「このままじゃ埒があかないものね、行くよ、スターブレイカー!」


 ハルの剣から放たれた五芒星の光は飛び出すことなく、その場で前方に向かい衝撃波を放つ。


「ちっ!?」


 つい、光の五芒星が飛んでくると思っていた俺は、不意を突かれて大きく身をよじるように回避するしかなかった。


「今! フレイムウェポン! エレメントブレイク!」


 回避した先に向けてハルは炎の魔法剣を振り下ろし、その炎が俺を襲う。


「このっ!」


 さすがに崩れた体勢からでは回避することがかなわず、とっさにガードすることしかできなかった。


 使用された技はかなり上級の魔法剣だったらしくHPを8割も削られてしまった。

 それでも、即死せずにすんだのは全属性耐性のおかげだろう。


 俺は、硬直がとけるとすぐに縮地でその場を離れる。

 すると直前まで俺が立っていた場所に無数の炎弾が撃ちこまれていた。


「ちぇ、さすがにこれで決めさせてはくれないか!」

「そういうことだ……ハイヒール、これでまた振り出しだな」


 とりあえず、ハイヒールを使いHPを全回復しておく。


「さすが、お兄ちゃんだね。【精霊剣】を使っても倒れてくれないなんて」

「【精霊剣】? ……【魔法剣】上位派生か!」

「そういうこと。これでも最前線組の1人なんだからね! 超級スキルの1つや2つ持ってるよ!」


 超級スキル。

 基本スキルから派生、または上位進化したスキルのさらに上のスキルを指す言葉だ。


 やっぱり、超級スキルを持っていたか。

 あの口ぶりだと他にも超級スキルを持っているな……


「ちなみにこんな魔法もあるよ、インフェルノ!」

「おいおい!」


 我が妹様は【詠唱破棄】も覚えてるのか!


 俺は慌ててインベントリからアンチマジックポーションとレジストマジックポーションを取り出して使う。

 だが、ポーション2種を使ったにもかかわらず、俺のHPは4割以上削られていた。

 ……さすがに決勝戦で使ったような高品質ポーションじゃなかったとは言え、攻撃力が高すぎじゃなかろうか。


 さすがに超級魔法の詠唱破棄は消耗が激しかったのか、ハルもポーションで回復している。

 その隙に俺も魔法でHPを回復した。


 ……これ以上、時間をかけてもじり貧だな。

 もとより、スキルの成熟具合に差がある戦闘だ。

 装備品の質の差で何とかだませてきたがそれも限界が近い。


 ならばいっそこちらもを切らせてもらうか!


「今度はこちらから行くぞ。眷属召喚・シリウス! 幼体化!」


 足下に浮かび上がった魔法陣から幼体状態のシリウスが飛び出すとともに、幼体化スキルの効果を受けて本来の亜成体の大きさに戻る。


「ちょ、眷属召喚って! しかも大きな狼になった!?」


 さすがに眷属召喚には驚いた様子のハルが一瞬動きを止める。

 動きの止まったハルに対してシリウスは全速力の体当たりを行った。


「くっ!?」


 大きくはじき飛ばされるハル。

 そしてはじき飛ばされた先には俺が待ち構えていた。


「食らえ! 聖霊開放・紫電一閃建御雷!」

「きゃあ!?」


 はじき飛ばされている最中に紫電一閃で追い打ちをかける。

 少し距離があったため紫電一閃は完全な威力ではなかった。

 そのため、ハルのHPはわずかにだが残っていた。


 だが、そこにさらなる追い打ちをかけるものがいた。


「ガフッ!」


 シリウスだ。


 大きく跳ねたシリウスからの爪撃を受けてハルのHPバーは全損した。


『勝者トワ選手! っていうか眷属召喚ってなんだ!? 眷属召喚って!?』


 うるさいな。

 武闘大会中とは違ってスキル使用状態だったんだから問題ないだろうに。

 ……目立ち過ぎてはしてしまったが。

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