98.GW8~9日目 ~武闘大会 オープンクラス~

『決まったー!! さすが【流星雨】星夜選手、バトルロイヤルのような乱戦では無類の強さを発揮します!!」


 本日はGWゴールデンウィーク8日目、オープンクラスの予選と第1回戦が行われる。

 なぜ第1回戦までなのかというと、ノービスクラスやマイスタークラスが予選通過者8名なのに対して、オープンクラスは倍の16名が決勝トーナメントに駒を進めるためだ。


 シングルイリミネーション方式のトーナメントであるが故に、決勝に進める人数が増えればその分試合数も増える。

 決勝に進んだ人間が倍なのだから、単純に試合数も2倍だ。

 そのため、オープンクラスは2日間の日程で行われるそうだ。


 なお、今は予選の第4グループの試合が終了したところだが、極めて大きな波乱はない。

 むしろ、勝ち上がりそうな人間が当たり前のごとく勝ち進んでいる。

 具体的には【白騎士】白狼さん、【魔剣姫】ハル、【鎧王騎】リク、そして第4試合では【流星雨】星夜だ。

 それぞれ、別の予選グループに回っているところを見るに、いつだか妹が言っていた『運営による、意図的なマッチング』というのもあながち嘘ではなさそうだ。


 ついでに言ってしまうと、ここまでの4組で2位に入った選手は『運が良かった』から勝ち進んだ、そう思われても仕方が無いほどプレイヤースキルの差があった。


 特に今行われた第4グループは、【流星雨】の代名詞、『メテオストーム』に最後まで当たらなかったプレイヤーが2位だったのだから。


 そんな試合を俺達『ライブラリ』のメンバーは総出で見物していた。


「こうして、タダ見てるだけって言うのも飽きてくるな……」

「あら、だったらマイスタークラスじゃなく、オープンクラスに出場したら良かったんじゃない?」

「オープンクラスで参加して勝てるものかよ。さっきの解説GMのセリフ聞いただろ、参加者の平均種族レベル52だとよ」

「ほんとうにすごいよね、トワくん。ちなみにハルちゃんはいくつになったんだっけ?」

「昨日1日追い込んで59になったって言ってたな。ちなみに、今日レベル上げしてもステータスは巻き戻されるそうだから意味ないってさ」

「まあ、妥当な判断じゃろう。確か、装備も今日持ち込んだものしか使えないんじゃったか」

「そうらしいねー。おかげでボクらの依頼も昨日期日が多くて本当に大変だったよ」

「なら、応援にこなくてもよかったのに」

「それはそれこれはこれよ。それに私の作った最高傑作がどこまで通用するか見てみたいじゃない?」

「運営から現仕様上限界ギリギリの装備とまで言われたけどな。多分、これで★12だったら紛れもなく限界値の装備だったんだろうが」

「さすがに私達のスキルレベルじゃまだまだ★11が限界だったみたいだからね。そこは諦めるしかないわ。でも、スキルレベルが上がったら★12装備にアップグレードさせてもらうわよ」

「はいはい。それよりも装備のスキル付与後で頼むぞ」

「わかってるわよ、【耐久値自動回復】を全装備にでしょ? 正直そのクラスの装備に【耐久値自動回復】はもったいないんだけどね」

「いつでも修理を依頼できるわけじゃないからな。手間は減らすに限るだろ。他のスキル付与したくなったら外せばいいんだし」

「まあ、その通りではあるけどね。それじゃあ、帰ったら装備一式貸して頂戴。あと、ついでだから装備者固定も行っておくわ。このゲームじゃ他人の装備を奪うなんてことできないけど、気分的にね」

「まあ、その辺は任せるよ。……さて、次の予選グループが始まるようだな。今回は少しは波乱があっても良いものだが」

「それを期待するのは酷ってものじゃないかしら。まあ、実際には自分が負けるのを覚悟で二つ名持ちに特攻をかけるプレイヤーと、逆に可能な限り二つ名持ちから逃げるプレイヤーの2つに別れてるんだけどね」

「それでも一波乱ぐらいは起きてほしいものだろう」

「まあ、見てる方からすればね」


 だが、結局その後の試合でも波乱らしいものは起きず、二つ名持ちは全員決勝トーナメントに出場する運びとなった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 お昼休憩を挟んで午後からはまず決勝トーナメントの組み合わせ抽選会が行われた。


「ふむ、面白い結果が出たな」


 トーナメントの抽選結果、順当に勝ち進めばリクと白狼さんが準決勝で、さらにハルが勝ち進んでいれば、その勝者とハルが決勝戦を戦うことになった。


「あの3人が順当に勝ち進めば上位を独占に近いことができるわね」

「リク、張り切りすぎてミスしなければいいんだけど」

「まあ、大丈夫じゃろ」

「勝負は時の運ともいうしねー」


 ここまで上手く分散していると、運営の方で何か操作したんじゃないかと疑いたくなるな。


「それにトワ、じゃが、1戦目で【追跡者】と、順当に勝ち進めば2戦目で【流星雨】と戦うことになるぞい」

「ふうん。それならそこまでは勝てる見込みがあるな」

「せっかくわしら謹製の装備を売ったんじゃ、がんばってもらいたいものよ」

「そうだな。せっかくならベスト4までは行ってもらいたいものだな。そうすればガンナーをバカにする連中も減るだろうよ」


 開始された決勝トーナメント第1回戦は、ほとんどが二つ名持ちの勝ち、あるいは二つ名持ち同士のつぶし合いという結果になった。

 なお、だが、【追跡者】に勝つという大金星を唯一あげたプレイヤーとして掲示板では騒がれたらしい。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 明けてGWゴールデンウィーク9日目。

 今日でGWも最終日だ。


 今日は午前からオープンクラスの残りの試合が行われ、3位決定戦と決勝戦のみが午後に行われる予定になっている。


 そんな準々決勝は第1試合が【白騎士】白狼さん、第2試合が【鎧王騎】リクの勝利で終わってこの2人が準決勝第1試合で戦うことが決まった。


 そして、第3試合、【流星雨】とが戦う試合だったが。


『なんとここでも大波乱!! あの【流星雨】がここで姿を消しました!!!』


 とまあ、実況のこのセリフでもわかる通り【流星雨】の敗退と言う結果になった。


 なお、その後に行われたハルの試合は危なげなくハルが勝利することとなった。


「まあ、ここまでは順当と言えば順当よね」

「まあな、波乱があったと言えばぐらいだが……」

「それだって、トワとドワンの特別製の銃を渡してるんでしょう? それなら勝ててもおかしくないじゃない。元々プレイヤースキルは高いって話だったんだから」

「まあ、その通りではある。装備が整えばどの職でも強いって事だな」

「もっとも、準決勝に進んだ4人のうち3人がソードマン系列だけどねー」

「それぞれ派生ジョブが違うからいいんじゃない? まあ、これじゃあソードマン最強説がまた浮上するわけだけど」

「それは仕方がないさ。ソードマン系統が汎用性高いのと、特化ジョブになればそれぞれの方向に長所を持てるのは事実なんだから。弱点らしい弱点もないしな」

「その通りなんだけどね。おねーさんとしてはいろいろな方向性を持ってほしい訳よ」

「対人特化の連中はそんな事言ってられないけどな。強ジョブ・強ビルドが見つかればすぐそっちに乗り換える。それがあたりまえだからな」


 このゲームでは対人戦の行われる比率は極めて低い。

 PK不可能というシステムに加えて、ユーザー層があまりそっちに向いていないからだ。

 実際にこの武闘大会に参加したユーザー数も全体の3割未満という話だ。

 そのためなのか、強ビルドが見つかるとすぐにそちらに乗り換えようとする傾向があるらしい。


 あと、武闘大会の参加者だがマイスタークラスは特に少なかったらしい。


 ……まあ、普通の職人は戦わないしな。


「そういえば、トワ。あなた誰かに賭けているの?」

「ん? 一応ハルに1万Eほど賭けてる」

「少ないわね。あなた、今はそれなりに裕福なんだからもう少し賭けてあげてもよかったんじゃない?」

「いいんだよ、こんなもので。勝てるかどうかなんてわからないんだし」

「堅実というか、夢がないというか……おっと、そろそろ準決勝ね」

「そうだな、白狼さんとリク、どちらが勝つか見物だな」


 結論から言うと、準決勝第1試合は熾烈を極めた。


 強力かつ正確な剣技で攻める白狼さん。

 対してリクは、ガードで堪え忍び、カウンター技を繰り出していた。


 壮絶な削りあいを制したのは白狼さんだった。

 最後のカウンターを外してしまったリクはその隙を突かれて負けてしまったのだ。


 まあ、リクも納得しているようだしこれはこれでいいか。



 そして、残りの準決勝第2試合も別の形だが熾烈な争いだった。


 ともにアタッカーという事もあり、守りよりも攻めに主体を置いた、足を止めずに移動しながらの戦闘となったのだ。


 近づかれたくないガンナーの男は拳銃とライフルを巧みに切り替えて攻撃の手を休めず、ハルもまた遠距離から攻撃出来る各種魔法スキルで応戦していた。

 ハルは魔法剣士系統の特殊2次職にジョブチェンジしているらしく、剣による攻撃だけでなく魔法攻撃も高い攻撃力を有しているようだった。


 そしてよく見てみれば、ハルの剣は刀身部分こそダマスカス鉱のようだが、刀身以外の部分はミスリル金合金でできているようだった。

 その事実に気付いた後、ドワンを見てみれば軽く笑ったので、おそらくドワン製の武器なのだろう。


 そして、この試合の決着は決めに動き始めてからはあっという間だった。


 フィジカルプロテクションで物理防御を高めダメージ軽減をするバリアを貼ったハルが、多少の被弾を無視し一気に間合いを詰め、強力な剣技と魔法で一気にHPバーを砕いたのだから。


 さすがにこの決着までの早さは予想外だったようで観客も呆気にとられていた。

 しかし、実況が再起動するとともに大歓声が会場を包み込んだ。



 次は3位決定戦。


 奇しくも、この試合は俺と鉄鬼の試合の焼き直しのような形となってしまった。

 守りを固めつつ堅実な攻撃を繰り返すリクに、ガンナーの男は有効打を打てずに負けてしまったのだ。


 ガンナーの弱点が完全に浮き彫りになった形と言ってもいいだろう。

 もっとも、後衛職であるガンナーがここまで勝ち上がってきた時点ですごい事なのだが。



 そして、ついに決勝戦。

【白騎士】白狼VS.【魔剣姫】ハル。


 物理特化型剣士系特殊ジョブ対魔法特化型剣士系特殊ジョブの争い。


 その戦いもまた激しかった。


 ともに、系統は違えど攻撃特化型ジョブ同士。

 その戦いが短期決戦になる事は自明だった。


 白狼さんは今まで使ってこなかったドワンの盾を取りだし魔法防御を高め、対するハルはそんな事などお構いなしに超接近戦でゼロ距離から魔法を叩きこもうとする。


 実際には3分と続かなかった激しい攻防の結果、勝者となったのはハルだった。

 相打ち狙いの剣技同士のぶつかり合いの最中に、のだ。

 どうやらミスリル金合金でできた剣は魔法発動用の触媒になるらしく、剣の先から魔法を放つと言う事も出来たらしい。

 その隠し球を最後に解き放ち、見事に白狼さんを討ち果たしたのだ。


 そして、表彰式や勝利者インタビューもつつがなく進行し終了。

 俺達のときのような運営GMから情報開示を要求されるなどと言うこともなかった。


 これで無事、大会終了かと思っていたら、実況のセリフとともに目の前に仮想ウィンドウが開いた。


『オープンクラスは終了いたしました! ではこれより、各クラスの優勝者同士によるエキシビションマッチを開始したいと思います!!』


 なにそれ聞いてないんだけど?

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