97.GW7日目 ~武闘大会 祭りの後~

「うむ、きたのであるな。」


 武闘大会マイスタークラス終了後、俺は『インデックス』を訪れていた。

 教授には用件を既に伝えてある。

 用件に関してはすぐに、あるいは既に調べてあったらしく表彰式の間に返事が来た。


「まずは、優勝おめでとう、と伝えておくのである」

「それはどうも。正直、教授に連れ回されて聖霊武器を手に入れてなかったら、【城塞】を砕けなかったよ」

「うむ。怪我の功名、あるいは棚からぼた餅と言うヤツであるな」

「まったくで。まさか、【城塞】もミスリル金にたどり着いてて、しかも重装防具に加工できるなんて夢にも思ってなかったよ」

「その割には、十分な対処であったと思うのである。……さて、挨拶はこのくらいにして本題に入るのである」

「そうですね。マリー=ゴールド。彼女の所属クランは『ローズガーデン』で間違いないか?」

「うむ、間違いないのである。彼女は『ローズガーデン』のクランマスターである」


 クランマスターがあの態度とはねぇ……


「正直、彼女自身、そしてクランもあまり良い噂はないのである。ついこの間も、生産系大手クランと揉めたばかりである」

「よく知ってるな。表彰式前から今までの間に調べたのか?」

「調べた、とは言えないのであるな。元より知っていたのであるから」

「知っていた?」

「その生産系大手クランは『インデックスわれわれ』の上得意先でもあるゆえ。そこのクランマスターが愚痴を言いに来ていたのであるよ」

「それはまた……で、どうなったんだ?」

「マリー=ゴールド本人および『ローズガーデン』をブラックリストに入れて終了、であるな。クラン同士のいざこざ、それも生産系クランならばそれで決着はつくのである」

「ま、違いない。『ライブラリおれたち』もそうさせてもらおう」


 俺はクランメニューを操作し、ブラックリストにマリー=ゴールドと『ローズガーデン』を追加。

 ついでに個人のブラックリストにもマリー=ゴールドと『ローズガーデン』を追加しておいた。


「今回の件で、『ローズガーデン』は相当追い込まれるはずである。よりにもよって武闘大会、それもマイスタークラスで生産職をバカにする行動をとったのであるからな」

「へえ、もう動き出してるのか」

「マイスタークラスはトワ君が思っている以上に注目されていたのである。特に生産職にとっては」

「何でまた? 戦闘、特に対人戦に興味がないのが一般的な生産職だろう? 注目を集める理由がよくわからないな」

「単純に同じ生産職がどのような技術を持っているか確認するためである。そういう意味では、鉄鬼君の『ミスリル金』の存在はインパクトがすごかったのであるな」

「それはそうだろうな。俺だって、自分の装備のために存在を秘匿したぐらいだし」

「然りであるな。あれほどのステータスを生み出す素材ならば誰でも欲しがるのである。実際、生産スレや鍛冶スレではお祭り状態である」

「当然だろうな。もっとも、ギルドランク12って結構高い壁だけど」

「そこを嘆いている書き込みが多いのである。ちなみに、トワ君の魔砲銃と魔導銃もガンナー関係スレでお祭り騒ぎを起こしているのである」

「そうか? 参照攻撃力がINT依存になるから使いにくいと思ってたんだけどな」

「むしろ魔法攻撃になるという一点だけでもお祭りである。ガンナーにとっての天敵は物理防御が高い相手で、そういう相手は基本的に魔法防御は低いのである。火力が下がる分については強攻撃スキルで補えば良いという考えであるな」

「ふーん。それなら、帰ったら少し店舗に並べてみるか。作りやすいミスリル銀とアイアンで」

「それが良いのである。現状、トワ君しか作れないのは運営が認めたようなものである。放っておけば、『ライブラリ』の店舗に押しかけることになるであろうな」

「そんな大げさな……」

「サーバー上で1人しかいない生産者ガンスミスという事実を軽く見過ぎである。……あと、ついでに銃の攻撃力で参照ステータスがDEXだという事もなかなかインパクトがあったようである」

「……何それ。そんなのとっくに検証班が調べてると思ったんだけど」

「少なくとも『インデックス』では検証していなかったのである。そして検証班にはガンナーはほぼいないのである」

「……それで今まで知られずにいて、今日の俺の発言で明らかになった、と」

「そういう事であるな。……もっともトップガンナー達にとっては既知の事実でしかないのである」

「……つまりDEXは手ぶれ補正とクリティカル率でしかないと思われてたのか」

「然りである。もっとも、その補正が必要であるが故にほとんどのガンナーはDEX多めに成長させていたようであるが」

「だろうな。DEX低くちゃヘッドショットなんて狙えないからな」


 ガンナーにしろアーチャーにしろ、ヘッドショットの確定クリティカルはバカにできないダメージソースだ。


「……さて、用件も済んだし帰らせてもらうか。情報料はいくらだ?」

「いらないのである。元々、注意情報は拡散する予定であったがゆえ。まあ、優勝祝いの一部とでも考えてくれればいいのである」

「わかった。それじゃ、俺はこれで失礼するよ」

「うむ、さらばである。お疲れ様会には『インデックスわれわれ』もお呼ばれしているのでまたそこで、である」

「ああ、じゃあまたな」


 俺は『インデックス』のクランホームから転移で去った。

 ……他のクランのホームポータル使えるのって地味に便利だな。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「まさか、盾2つが両方間に合うとは思ってなかったよ」


 時間は過ぎて夜時間。


 ここは『ライブラリ』クランホームの談話室。

 そこに白狼さんが訪ねてきていた。


 事前にドワンに依頼していた盾を受け取るためだ。


 ちなみにクランホームに残っているのは俺とドワンの2人だけだ。

 残りのメンバーは既に用件を済ませてログアウトしている。


「うむ。わしも間に合うとは思ってなかったが、試しに色々作ってみた結果が良くてのぅ。満足のいく品ができたというわけじゃ」

「さすがドワンさんだね。装備の能力を確認しても大丈夫かな?」

「ああ、問題ないぞい」

「では失礼して……これは……さすがとしか言いようがないね」


 ちなみに完成した盾――カイトシールドの詳細は俺も知っている。

 なにせ、今回の盾の開発には俺も一枚噛んでいるのだから。


 ちなみに盾の性能はこんな感じだ。


 ―――――――――――――――――――――――


 ミスリルゴールドカイトシールド(水氷) ★10


 ミスリルゴールド合金製のカイトシールド

 (製作者:ドワン)


 装備ボーナスVIT+15

       MND+20

 ハードコーティング

 盾防御時

 水属性耐性・中

 氷属性耐性・大

 全属性耐性・中


 DEF+30 MDEF+50 VIT+15 MND+20

 盾防御時

 DEF+90 MDEF+150

 耐久値:250/250


 ―――――――――――――――――――――――


 ―――――――――――――――――――――――


 ミスリルゴールドカイトシールド(風土雷) ★10


 ミスリルゴールド合金製のカイトシールド

 (製作者:ドワン)


 装備ボーナスVIT+15

       MND+20

 ハードコーティング

 盾防御時

 風属性耐性・小

 土属性耐性・小

 雷属性耐性・大

 全属性耐性・中


 DEF+30 MDEF+50 VIT+15 MND+20

 盾防御時

 DEF+90 MDEF+150

 耐久値:250/250


 ―――――――――――――――――――――――


 うん、これなら鉄鬼の装備品にも劣らない出来栄えだ。

 カイトシールドとタワーシールドという種類の違いを考えれば甲乙つけがたいだろう。

 今回は俺も作成に加わると言うことで、一般的に高性能と呼ばれている対魔法用の盾の性能を調べてみたが、結果は以下の通りだった。


 ―――――――――――――――――――――――


 ミスリルカイトシールド ★7


 ミスリル製のカイトシールド


 装備ボーナスMND+7


 DEF+10 MDEF+25 MND+7

 盾防御時

 DEF+30 MDEF+60

 耐久値:120/120


 ―――――――――――――――――――――――


 盾はステータスボーナスの上昇量が少ないそうで、ドワンの装備と比べるとかなり低いのだが……これが一般に出回っている高品質品の限界らしい。


 一般的に出回ってる中で『高品質』と呼ばれるのは★5以上であって、★6以上となるとかなり数が少なくなる。

 おそらくはホームを持てないことによって、生産セットの更新が出来ていないのが最大の要因だろうが……こうして一般品を見てしまうと、自分達の作っている装備がいかに異常な高品質品であるかがわかるな。

 βの時の経験からサービス開始直後よりクランホームの取得を目的として行動に出ていたが、その差は俺の想像以上に大きかったようだ。

 ★5だと、防御時の防御力上昇でさえ『DEF+15 MDEF+40』とかだったし。

 あと、住人NPC売りの品についてはわからない。

 少なくとも、俺達が今のところ行動できている範囲で対魔法盾と呼べる品は売ってないから。

 装備ボーナスの上昇量が少ないのは詳しくは聞いていないがそう言うものなんだそうな。


「これは昼間に鉄鬼君が持っていた盾と同じ合金だよね? まさか『ライブラリ』でも持っていたとはね」

「それについてはトワに礼を言ってもらいたいのう。このミスリル金のレシピはトワが持ってきたものだからのぅ」

「そうだったのかい? ありがとうトワ君。おかげで最高の装備が手に入ったよ」

「別にお礼なんていりませんよ。俺自身がほしくてドワンにミスリル金のレシピを渡したんですから。ミスリル金で実際に防具を作れたのは、ドワンの技術ですよ」


 実際、あの柔らかい金属を盾に利用可能にしたのはドワンだ。

 俺が手伝ったことは貼付剤としての属性金属の品質上げと魔石の魔力値上昇だ。


 魔力値上昇は銃作りの実績があったため、いきなり限界値付近まで上げて見たが問題なく盾に使えた。

 その結果が『氷属性耐性・大』と『雷属性耐性・大』だ。


 ちなみに使用した魔石は、俺の銃を作るときに余っていた氷鬼と雷獣の魔石だった。


 それらの素材を用意することは手伝ったが実際に形にしたのはドワンだ。


「それにしても、本当にいい盾だ。何というか気品すら感じる気がするよ」

「さすがにそれはいいすぎじゃのぅ。それに品質も★11に届かなんだ」

「それでも十分過ぎるさ。頼んでいた属性耐性だけじゃなく全属性耐性、それも耐性・中がついているんだからね」

「ふむ、そのことなんじゃが。……ここだけの話にしてほしいが、一定以上の品質のミスリル金装備は全ての防具に全属性耐性がつくらしい。試しに盾以外の鎧や籠手なども作って見たが全属性耐性を持っていたのでな」

「それはすごいな……防具の革命と言ってもいい。……ちなみにそれらを譲ってもらう事は出来ないかな?」

「スマンがもう鋳潰してしまった。品質があまり良くなかったのでな」

「そうか……それは残念だ。僕も【アーマーチェンジ】を使えるからサブ装備にできるかと思ったんだけど」

「さすがに高品質の鎧や籠手を作るまでは時間が足らんかったのう」

「……逆を言うと、時間さえあれば作れる、と?」

「……うむ、可能じゃな。もっとも合金にするための鉱石が足りないから頼まれても不可能じゃが」

「……他には漏らさないから、その鉱石を教えてもらえないかな? ぜひミスリル金でタンク用装備を一式揃えたいんだ。僕とメインタンクをやってる者、2人分をね」

「……まあ、白狼さんならば良かろう。わしが作る防具用のミスリル金合金は『ミスリル金』と『ダマスカス』じゃよ」

「ダマスカスか……確かにそれは集めるのが大変そうだ。でも、集めたらお願いできるかな?」

「うむ。集めてもらえるなら是非もないのう。スキル経験値も美味しいのでな」

「……やっぱり【中級鍛冶】が必要になってくるレベルの金属か……わかったよ、ダマスカスは何とかしよう」

「うむ、頼んだぞい」

「さて、それじゃあ値段なんだが……さすがに55万でこれはダメだ。せめて1つ80万E、2つで160万Eをだそう」

「ふむ、本来ならば最初に提示した金額よりもらう訳にもいかないのじゃが……言っても聞いてはもらえまい。それで受け取ろう」

「良かったよ。それじゃあ、すまないけど僕はこれで失礼するよ。僕も明日は戦いだからね。……トワ君にリベンジ出来ないのが本当に残念だけど」

「悪いけど俺もオープンクラスに出られるようなレベルじゃないからね。そこは諦めてもらいたいな」

「わかっているよ。でも条件が揃ったら、リベンジさせてもらうよ」

「そのときはお手柔らかにお願いしますね」

「ああ、そうだね。いい試合ができるようにしたいよ。……それじゃあ、またね」

「うむ、がんばってくれ」

「がんばってくださいね、白狼さん」


 白狼さんがクランホームを去るのを見送り、その後ドワンに話しかける。


「お疲れだ、ドワン」

「うむ、さすがに疲れた」

「これで残りの引き渡しは後1か」

「うむ、1じゃの。トワ、先方に連絡は?」

「さっきした。もうすぐ来られるって」

「そうか、それが終われば終わりじゃな」

「ああ、さすがに俺も疲れたよ」

「そうじゃろうな。さあ、最後の仕事じゃ。だらけてはいられんぞい」

「そうだな。さっさと納品して早く休もう」


 その後、最後の納品を終えた俺達はそれぞれログアウトするのであった。

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