96.GW7日目 ~武闘大会 勝利者インタビュー 2 ~
『それでは、次はマリー=ゴールド選手……の予定でしたが、まだ戻られていないので、マイスタークラス優勝者トワ選手に話を伺いましょう!』
場内にまたはち切れんばかりの大歓声が巻き起こる。
……これ、運営のやらせじゃないだろうな?
『それでは改めまして、優勝おめでとうございます。今の心境はいかがでしょうか?』
「心境と言われてもな……とりあえず勝ててよかったよ。決勝じゃなく【城塞】鉄鬼にだがな」
『なるほど、準決勝は確かに盛り上がりましたものね! それでは決勝戦の方はいかがでしたか?』
「いかがでしたか、と聞かれてもな……あんなのただの消化試合だったからな。コメントできるような事はないよ」
『ええと、消化試合ですか?』
「ああ、消化試合だ。わざわざ秘蔵の特殊ポーションを使って相手をしてやったが、特に対策も出来ずに終わるような相手だ。あんなの消化試合以外のなにものでもないさ」
『……えーと、でも決勝戦でしたよね?』
「あんなの当たった相手が良かっただけだろうよ。事実、アイツが鉄鬼と戦っていれば俺の試合以上に惨敗していた筈だ。そうだろ、鉄鬼」
「ん? ああ、確かにそうだろうけどよ、死体蹴りはあんまりしてやるなって。可哀想に思われるだろう。……まあ、お前と同じ立場だったら俺も採算度外視でぶっ飛ばすけどな!」
『えーと、お二人とも、何をそんなにお怒りで?』
「うん? 聞いてなかったのか? アイツ、わざわざ試合前に『生産職は自分の傘下に加われ』って言ってきたんだぞ。なめられたままでいられるか」
「そうそう。それに『思い上がった生産職にお灸を据えるためにやってきた』とかもほざいてやがったな。わざわざサブジョブを生産職に変えてまでマイスタークラスに出てくる気概は認めてやるが、それ以外は性根の腐った最低の女だな」
「確かにな。……ああ、思い出した。最近似たような事言われた気がしてたが『漆黒の獣』の連中と同じ理屈だったな」
「『漆黒の獣』か。そう言えばあいつらお前がとどめ刺したんだって?」
「勝手に人の家の軒先に来てギャンギャン喚いてたからな。証拠の動画を撮りながらGMコールしてたんだよ。途中から規約違反の脅しをかけてきたからそこで終わりにさせてもらったけどな」
「相変わらずこえーなお前。あの一件でクラン自体が運営に潰されたんだろ」
「そんなの知らんよ。それまでの余罪も大分あったらしいからな。それも加味されての一斉BANだろ」
『あのー、そろそろ次の話題に移ってもよろしいでしょうか?』
「うん? 構わないぞ。何だ?」
『あ、はい、それじゃあ、今回の大会で勝利した一番の要因って何でしょう?」
「何かと聞かれてもな、そりゃ生産職なんだ。十分な準備が出来たことに決まっているだろう?」
『十分な準備ですか? もっと直接的なもんだと思いましたが。例えば聖霊武器とか』
「それも含めて全部『準備』だよ。俺ら生産職の戦いなんて戦闘が始まったときには9割方勝負はついてるからな」
『戦闘が始まった時点で9割ですか!? それってどういうことでしょう』
「そんなの準決勝と決勝を観てもらえればわかると思うが……あえて説明するなら、鉄鬼は俺への対策として、あのバカみたいな防御力を誇る防具を2セットも用意した。そして、決勝戦では俺はあらかじめ用意してあったアンチマジックポーションとレジストマジックポーションを使って相手の魔術士を完封して見せた。それが答えであり結果だな。準決勝で勝てたのははっきり言って残りの1割、戦闘センスと運だったな」
「よく言うぜ。準決勝だって十分に最初から勝てる見込みだったくせによ」
「勝てる見込みが立たないのに戦闘なんて仕掛けないさ。……正直、偶然手に入れることになった聖霊武器がなきゃ負けてたがな」
「当然だろ、こっちはお前用にメタ装備用意してきてんだからな。それで簡単に負けましたじゃクランに帰れねーつの」
『……なるほど、準備が大事と言うお話はわかりました。それでは装備を見せていただくことは可能でしょうか?』
「うん、かまわないぞ」
『それでは失礼して…………って何ですかこれは! 防具が全部★11なだけじゃなくて、聖霊武器を除いて全ての武器も★11じゃないですか! 一体これほどのものをどうやって揃えたんですか!?』
「一体もなにも、普通にクランメンバーに頼んでクラン総出で作ったんだよ。……ああ、その気になれば、また作る事は可能だぞ。素材はもう使い切ったし、そもそもやる気になるかが何とも言えないが」
『★11ですよ!? それをその気になれば量産できるって一体何なんですか!?』
「なんだと聞かれてもな……それが俺達『ライブラリ』だ、としか言えないな」
『クラン『ライブラリ』がとにかく最上級品を作ってるのはきいたことがありますが、★11なんて聞いたことないですよ!?』
「それを言ったら鉄鬼の装備だって★11と10だろうに……最近、上級生産セットを手に入れる機会があってな。全部入れ替えたんだよ。その結果、品質の上限値が上がって★9以上が作れるようになった訳だ」
『生産設備で品質上限があるって言うのも聞いたことありませんが……これ以上、この話は止めましょう。なんだか深い闇のそこを覗いている気分です。……それでは次にステータスなんですが拝見させてもらっても大丈夫ですか?』
「んー、あまり手札は晒したくないんだが……スキルを非公開なら構わないか」
『ありがとうございます。それでは拝見させてもらいますね……って、レベルも39しかないんですか!?』
「生産職なんてそんなもんだよ。日がな一日ログインしている廃人でもなきゃレベリングまで手が回らないし。レベル39まで上がってるのだって、狙ってと言うよりも別のことしてたらついでに上がったって感じだな」
『レベル39なのにレベル56に勝てるって一体……』
「それはマイスタークラスのレベル制限が大きいな。スキルレベルも制限されるから、マスク値も下がってるはずだし。スキル制限の受けない生産系やその他のスキルを育ててった方が有利なレギュレーションだったからなこのクラス」
「さすがに、レベル制限がなければトワに勝てただろうな。なんせジョブだって2次職だし」
「そりゃ勝てるわけないだろ。わかりきったことを言うな」
『あははは……もう訳がわかりませんね、このお二人』
それはそうだろうな。
クラン間での移籍なんてそう単純な話じゃない。
『それでは、次にトワ選手にお伺いしましょう。ズバリ、聖霊武器ってどうやって作るんですか!?』
「それは答えられないな。俺が最初に発見したわけじゃないし」
『えー、いいんですか篠原GM』
『そうですね、聖霊武器については皆さんプレイヤー自身で探してもらった方がいいでしょう』
『そんなぁ……せっかく私も強力な武器が手に入ると思ったのに……』
「ああ、でも。『インデックス』に行けば情報を売ってもらえると思うぞ。何せ最初の発見者はあそこのクランマスター【蒐集家】教授だからな」
『『インデックス』ですか!? わかりました、仕事が終わったらすぐに行ってみます!』
「ただし、相応の対価は必要だからな」
『対価ですか……
「まあ、その辺の交渉も『インデックス』とやってくれ。で、運営的に聞きたい情報は
『そうですね。トワ選手に伺いたいのは、あの特殊な弾丸を発射していた銃の事ですね』
「なんだ、やっぱりそうか。それなら早く言ってくれればいいものを」
『私もGMとしてあまり干渉したくありませんので。それであの銃については教えてもらえるのでしょうか?』
「構わないさ。どうせその情報を引き出すように言われてたくせに」
篠原GMは苦笑いを浮かべる。
「俺が使っている銃だが
『そうですね。入手経路についてはそれで十分でしょう。それでその武器の特性はどのようなものでしょうか』
「そうだな、最大の特徴は弾丸が実弾から魔法弾に変わった事だな。つまり、物理攻撃だった銃による攻撃が、魔法攻撃に置き換わるんだ。あと、
『なるほど、つまり魔法剣士のガンナー版のようなことができるようになると』
「攻撃時の参照ステータスがINTになってしまうし、通常攻撃やスキル攻撃も魔法攻撃扱いになるから少し違うが……考え方としては似たような感じだな。普通に物理攻撃をしたいなら普通の拳銃やライフルを使えばいいんだから」
『その通りですね。では最後の質問ですが、あなた以外にこれらを作れる人はいるのでしょうか?』
「いないんじゃないか? なにせライフルだって、まだ俺しか作れないんだから、
『それでは、『ライブラリ』のお店で取り扱う予定はありますか?』
「ずいぶんグイグイくるな……まあ、興が乗れば作るかもな。魔法攻撃力が上がる銃なんて使い勝手がいいものでもないしな」
『そう思っているのはあなただけかも知れませんが……それから、その
「うん? 確かにミスリル金は錬金術でも作れるが、これに使ったミスリル金はドワンに頼んで鍛冶で作ってもらったミスリル金だぞ。ミスリル金の素材がミスリルインゴットと金インゴットな事を考えれば、わざわざ錬金術で作成する意味って俺達的にはあまりないしな。……ああ、それからミスリル金のレシピは錬金術ギルドの方でもギルドランク12から買えるみたいだな」
『確かに、鍛冶士もミスリル金を作れるのでしたら錬金術士がミスリル金を作る必要はありませんね。……それにミスリル金のレシピの入手方法も教えていただきましたし、今日はこれぐらいで大丈夫でしょう』
「ああ、俺も
『そうですね。それではミオンさん。そろそろ進行をお願いします』
『あ、はい。えーと、最後にトワ選手から何か一言ありましたらお願いします』
「そうだな……『ライブラリ』は基本身内クランだ。新人の募集はしていないから押しかけられても追い返すだけだ。それから、『
「生産職にケンカか……いいね、もし売られたら俺も一枚かませろ。すぐにすっ飛んでいってやるからよ!」
『あはは…………えーと、トワ選手ありがとうございました。これにて勝利者インタビューを終わります』
そして場内からは、まばらながらもだんだんと大きな拍手が巻き起こった。
うん、これで十分に釘は刺せただろう。
俺は本来の優勝賞品である300万Eとプラチナスキルチケット、生産用ゴールドスキルチケット1枚ずつの他に、生産用ゴールドスキルチケットを1枚追加でもらうこととなった。
なお、マリー=ゴールドは表彰式の間も結局戻ってこなかった。
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