95.GW7日目 ~武闘大会 勝利者インタビュー 1 ~
『それでは、まずそうですね、第4位のきこりーや選手から聞いてみましょう』
どうやらインタビューは本当にやるようだ。
『まずは4位入賞おめでとうございます。ズバリ、今回の入賞の要因はなんだと思いますか?」』
「いやーオラは運がよかっただけだよ。予選のときもあまり積極的に狙われなかったし、準々決勝も相性のいい相手だったしなぁ」
『そうですか……では、メイン武器が斧なのは一体なぜでしょうか?』
「普段から使い慣れてるでな。普段はサブ職『ランバージャック』として活動してるだよ。ああ、ランバージャックってのは木こりの事な」
『なるほど、普段から手になじんでいる武器が一番という事ですね』
「んだなあ。サブ武器として剣も鍛えてるけど、やっぱり斧が一番性に合うだよ」
『ちなみに装備情報を公開していただいてもよろしいですか?』
「こんなオッチャンの装備でよければどうぞ」
『それでは失礼して……榎田GMお願いします!』
『はいはい、今からきこりーや選手の装備情報を公開しますね』
きこりーやの装備情報が公開される。
その装備は品質的にいえばお世辞にも整っているとは言えなかったが、それでも王都周辺で戦えるほどの実力は持っていた。
目立ったのは斧装備でこれだけ★7と頭1つ飛び抜けた性能だった。
なお、銘が入っていないので『ライブラリ』製でない事は確かだった。
『おお、結構いい装備で揃えていますね!』
「見た目のみすぼらしさからは想像できない武器や防具だべよ。オラのロールプレイにあわせて職人にオーダーメイドで作ってもらってるだよ」
『なるほど、そう言うことでしたか。ちなみにステータスの方は公開していただけませんか?』
「ステータスも構わないだよ。対してすごくはないがね」
装備情報と同じようにステータスが表示される。
表示されたステータスは割と平均的で、多少STR-VIT寄りと言ったところか。
なお、スキルや称号については公開されないらしい。
『それでは、きこりーや選手から何か一言あればどうぞ!』
「あー、オラは木こりをやっているきこりーやと言うものだべ。もし、変わった木材がほしければ相談してくんろ。王都周辺で取れる木材であればモンスター素材でも仕入れることができるでよ。ボスクラスについては応相談だべ」
『それでは、きこりーや選手ありがとうございました! 続いて3位の【城塞】鉄鬼選手に移りたいと思います!」
場内が一時拍手と歓声に包まれる。
さすがにネームバリューが違うか。
『まずは3位入賞おめでとうございます。上位入賞の勝因は何でしょうか?』
「ああ、上位入賞の勝因? 敗因の間違いだろ? 俺の中じゃ【爆撃機】に負けた事の方がウェイトが重いからな」
『ええと……それでは【爆撃機】トワ選手に負けた敗因ですか? それを伺っても?』
「ああ、かまわねえさ。もっとも、何も面白い話じゃねぇ。単なる俺の準備不足だよ」
『準備不足……ですか? 少なくとも私には十分に鉄鬼選手も強かったように思えますが……』
「ああ、他の連中には悪いが俺の目標はあくまでも【爆撃機】の撃墜だったからな。直接対決の機会に恵まれたのに、それに失敗した。それが結果の全てだよ」
『しかし、それにしても十分な装備も調えられている用ですし……装備情報の方は公開していただけますでしょうか?』
「あ? ああ、まあ、かまわねえぞ? ただし作れって言われても、クランメンバーに頼まれてる分優先だから、他人に作ってやる余裕なんて無いがな」
そうして鉄鬼の装備情報が公開される。
その詳細情報に会場が静まりかえった。
『……え、これ、本物ですか? 剣が★10、それ以外の防具が全て★11とか。それに防御力も恐ろしく高いじゃないですか!? これで準備不足なんですか!?』
「ああ、トワに負けたって事は準備不足だったんだよ。……まさか、防御力も耐性も全部ぶち抜いてくる特殊攻撃なんて奥の手を隠してやがったんだからな。想定できない手段で負けたって事は準備不足だったてことよ」
『それは……ちょっと理解できない話なのですが……あの、ステータスも拝見してもよろしいですか?』
「ああ、かまわねえさ。何だったらスキル情報も開示してもらっても構わないぜ?」
『えーと、榎田GM可能ですか? ……あ、はい、可能なんですね。それではスキルも含めたステータス情報を表示いたします』
開示されたステータスに再度、会場が息を飲む。
そこに表示されていたステータスには種族レベル56と書かれていたからだ。
もちろんメインジョブも2次職にクラスチェンジしているし、サブジョブも2次職になっているようだ。
『え、これ、本当に生産職のステータス? 普通に前線の攻略組じゃ?』
「俺らのクラン『百鬼夜行』なら生産職も戦闘するからな。俺は2軍のサブタンクをやってる」
『それって、いつ生産する時間があるんですか?』
「時間なんぞ作ろうと思えばいくらでも作れるぞ。俺はサブタンクだからな。いざとなればいなくても何とかなる」
『ええと、さすがは戦闘系クランと言うべきでしょうか。まだまだ伺いたいことはある気がしますが、最後に一言お願いします』
「あー、そうだな。次に戦う機会があれば今度こそトワに勝つ! それぐらいか」
『えーと、トワ選手とは仲が悪いのでしょうか?』
「そんなことはねえぞ? むしろ、俺が『百鬼夜行』に移籍する前は『ライブラリ』で一緒にいた仲だからな」
『え、そうだったんですか?』
「おう、クランの移籍だって揉めたわけじゃなく、俺が『百鬼夜行』を気に入って移籍しただけだしな。今でもたまには連絡を取り合う仲だぜ」
『そうだったんですか。てっきりいがみ合ってる敵同士だと思ってました。……ちなみに、私からの質問なのですが、その金色の装備や最初の黒色の鎧などはどのように作ったのでしょうか? 私が見たこともない素材でできている気がするのですが』
「おう、それは職人にする質問じゃないな」
『えっと?』
「職人ってのはそれぞれ、オリジナルレシピや他人にはない技術を使ってたりするもんなんだ。それを軽々しく口には出来ないな」
『そこを何とかお願いできませんか? 正直、お二人の装備は強すぎて実況としても困るんですよ』
さすがにオリジナル装備の話を持ち出されるのは困る。
職人がオリジナルレシピを聞かれたらホイホイ答えるものだ、などと認識されたら困るからだ。
ここは俺の方からも助け船を出しておこう。
「そう言われてもなぁ……俺の装備も鉄鬼の装備もオリジナルレシピ製だし。少なくとも防具は」
「そうだな……それをタダで教えるってのは、今後のことも考えるとよろしくないな」
『では、賞品の上乗せを行いますので少々教えていただけませんか?』
口を挟んできたのは解説を担当していたGMの1人、確か篠原GMだ。
『装備の素材などについてお話しいただければ、賞品の上乗せをしてもいいと上から許可……と言いますか、命令ですね。それがありまして……何とか少しだけでもお願いします』
上、つまりは今ここに来ている篠原GMや榎田GMよりもえらい人間のことだろう。
……なぜだろう、俺の脳裏には一人の運営室室長の顔しか思い浮かばないのだが。
「ちなみに、上乗せしてくれる報酬って何だ、GMさんよ」
『通常の報酬に加えて……そうですね。マイスタークラスの優勝賞品の1つである『生産用ゴールドスキルチケット』を1枚余分におつけしましょう』
「そんなに椀飯振る舞いして大丈夫なのかよ?」
『ええ、大丈夫ですよ。御二人から装備情報を引き出すためにはある程度の対価を渡しても構わない、そう言われてきてますから』
「そこまでする理由は何だよ?」
『先ほど実況をお願いしているミオンさんが言ったことと同じですよ。現状、お二人の装備は強すぎる……それこそ現時点での仕様上において限界値ギリギリ近くまで強化されてるんです。その情報を公開していただくことで、これから生産を行う他のプレイヤーの皆さんへの1つの指標になればいいかと考えております』
「ふーん、そんなもんかね? 俺としては悪くないと思うが。おいトワ、お前さんはどうするよ?」
スキルチケットでは『簡単に手に入らないスキルも手に入る』という触れ込みだからな。
俺としてもメリットが大きいか。
バカは実力で黙らせればそれでいいんだし。
「俺も構わないかな。もしレシピを要求してくるバカがいれば、今回と同じ報酬を要求してやればいいんだし」
『プレイヤーでは用意できない報酬ですが……まあ、いいでしょう。それではこのチケットを賞品に上乗せという形でお話いただけますか?』
「ああ、いいだろう」
「俺も構わないよ」
正直、こっちの方が儲けが大きいしな。
『おお、答えてくださいますか! ではまず、鉄鬼選手の装備について教えていただけますか?』
「ああ、構わないぜ。俺の装備は、最初に使っていた黒い鎧の方はアダマンタイト製の鎧だな」
『アダマンタイトですか……それはどこで手に入るのでしょう?』
「基本的には王都を越えた先にある、氷河の地下遺跡か、荒野の天上遺跡群のどっちかだな。そこで少量採掘が出来る」
『少量ですか? それに氷河や荒野と言えば最近実装されたばかりの新エリアのはずですが……』
「もう攻略組って呼ばれてる連中はその辺も攻略対象だってことだよ。それにアダマンタイト製の装備はトワだって使っていただろう?」
『え、そうなんですか!?』
「気付いてたのか……」
「当たり前だろう。あの黒い銃身のライフルはアダマンタイト製だろう?」
「当たりだ。あのライフルに使っている銃身はアダマンタイト製だよ」
『うわぁ……最新エリア産の装備を普通に使っていたんですね……』
「それぐらいやらないとな、こいつには勝てないんだよ。実際、こいつだってアダマンタイト製の武器を持ちだしてきたんだからな」
「まあ、否定は出来ないな。実際に少量とはいえ持ち込んでるんだから。こいつみたいに全身鎧に盾と剣、全部アダマンタイト製なんてまねは出来ないけどな」
そこは釘を刺しておかないとな。
『ライブラリ』にアダマンタイトが大量にあると思われても困る。
「俺達だって今回の装備一式作ったら在庫なんて残ってなかったよ。結構カツカツだったさ。この装備が出来たのも昨日だったしな」
『なるほど……それであんなに防御力が高かったんですね……それでは、次に使っていたあの金色の鎧は何でできているのでしょうか?』
「金の鎧の方か……あれはあまりしゃべりたくないんだがなぁ……」
『ちゃんとその分の補償はGMがしてくれてますよ。さあ、教えてください!』
「……まあいいか。報酬も別にもらうことになってるしな。あの金色の鎧は『ミスリル金』合金製だ」
『ミスリル金ですか? ミスリル銀ではなく?』
「ああ、金の方であってる。ミスリル金の作り方だが……まあ、しゃべっちまってもいいか。鍛冶ギルドのランクが12になると買えるようになる特別なレシピを使って製造できるようになるんだよ。ああ、レシピなしで再現しようとしても無駄だぞ。レシピ使用者じゃなきゃ必ず失敗するからな」
『ミスリル金ですか。それってどんな金属なんですか?』
「武器に利用すれば魔法攻撃力がミスリル銀より高くなるし、防具に使えば魔法防御力がべらぼうに高くなる。ただし、やわらかすぎてそのままじゃ使いもんにならないがな」
『えっと、それじゃあどうやって使えるようにしたんですか?』
「そんなもん、他の金属との合金にしたに決まってるだろう? 上手く別の金属に混ぜれば高い魔法防御を持ったまま普通の武器や防具の素材にできるようになるからな」
『ちなみに、その合金の作り方なんてのは教えてもらえるのでしょうか?』
「そいつは無理な相談だな。賞品の上乗せはありがたいが、合金の作り方については一切喋る気はねえよ」
『えー、そんなー……篠原GMこれで大丈夫ですか?』
『ええ、そうですね。ミスリル金の存在とアダマンタイトの採掘方法がわかっただけでも十分でしょう』
『そうですか……わかりました。それでは鉄鬼選手へのインタビューでした! ありがとうございました!』
場内が再びの大歓声に包まれた。
そりゃ、生産職やってるのにあれだけのレベルやスキルを揃えていれば受けもいいか。
さらに、装備の生産方法まで一部隠しているとはいえ公開したんだからな。
会場が沸き立つのも無理はないか。
……さて次は俺の番だな。どこまで話せばいいものやら。
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