94.GW7日目 ~武闘大会 表彰式~
マリー=ゴールドのHPバーが砕け散るとほぼ同時に、彼女の姿が消えてしまった。
「あれ?」
本来であれば戦闘終了後はフル回復するはずなのに、何で彼女は消えたんだ。
『えー、運営から1つお知らせがあります』
解説の1人、確か榎田GMからこの状況について説明があるらしい。
『ただいまの戦闘の結果ですが、トワ選手の勝利です。なお、マリー=ゴールド選手は現在強制ログアウト処理が実行された事が確認されております』
強制ログアウト処理? はて、何があったのだろう?
『ただいま手元にある資料によりますと、外部から、つまり現実側からの干渉ではなく、利用者本人の急激な心拍数の増加による緊急ログアウト処理であることが確認されております』
ふむ、つまりは。
『おそらく、一連の爆破ハメによって追い詰められていた状況に、転ばされて身動きを封じられた上でのヘッドショット。これらの結果、精神的な恐怖が許容範囲を超えて緊急ログアウト処理となった模様です』
あちゃー、少しやり過ぎたかな。
……まあ、これも勝負だし、仕方が無いよね。
『なお、今回の戦闘内容につきましては、個人としてはいかがなものかと思いますが、運営の公式見解としてトワ選手へのペナルティ等は発生しないとの判定がすでに決定済みです。あくまでも通常のPvPの試合範囲であり、試合開始前におけるマリー=ゴールド選手による挑発行為も確認されております。これらの事情を勘案してノーペナルティとなります』
ノーペナルティの判定が決定した結果、歓声が武闘大会の舞台上にも轟いた。
「よくやってくれた【爆撃機】!」
「あの生産者を小馬鹿にしていた女をよくやってくれた!」
「さっすが【爆撃機】に賭けててよかった!」
「最後かっこよかったぜ! あの後、よろけなければ最高だったんだがな!!」
聞こえてくる歓声はおおむね好意的のなものが多い。
逆に敵愾心を向きだしにしているものはといえば、
「よくもお姉様を!」
「よくも団長をやってくれたな!」
など、関係者によるものがほとんどのようだ。
とりあえず歓声には手を振って答えつつ、仮想ウィンドウを起ち上げて教授へメールする。
マリー=ゴールドとクラン『ローズガーデン』に関しての調査依頼だ。
個人情報が含まれる内容なので、断られる可能性も高いが依頼だけはしてみたほうがいいだろう。
仮想ウィンドウは自分にしか見えないように設定も出来るし、思考入力による手で直接入力せずに本文を書き上げることも出来る。
こうして俺は闘技場の全方位に向けて挨拶をしている間に、教授へと調査依頼のメールを書き上げ送信しておいた。
『さて盛り上がっているところ申し訳ありませんが、そろそろ表彰式に移らせていただきたいと思います!』
実況のミオンが舞台上まで降りてきて、そんな事を言い始めた。
気がつけば舞台上の真ん中に表彰台のようなものが設置されていた。
「おーい、GMさんよ。2位のヤツが今いねえんが、そこはどうするつもりだ?」
『そこはご心配なく、もし戻られなくても2位のマリー=ゴールド選手には後日運営からのメールという形で賞品を送らせていただきます』
「ふーん、ならいいけどよ。さっさと始めちまおうぜ。ほら優勝者、お前が一番最初に段に上るんだよ」
よくわからないが、確かに優勝者である俺が1番最初に登壇するというのもわかる気がする。
なので、俺が一番最初に表彰台の中央へと登る。
するとまたしても歓声が上がるので手を挙げて答えておく。
次は本来であれば2位が登壇する予定なのだが……強制ログアウトとなった場合、最低でも現実世界での1時間、ゲームだと2時間は再ログインできない。
また、再ログインする際にはVRギアによる簡易的な心身状況のチェックも行われるらしく、すぐにログインできる訳でもない。
したがって2位が登ることになっていたであろう場所には誰もいなかった。
次に俺の左手側、3位の選手が登る場所に鉄鬼が上がり、その隣には4位になった斧使いの彼が立つ。
これで表彰式を始める準備が出来たようだ。
『それではまず、トワ選手の表彰から始めたいと思います。とは言っても小難しい祝辞を述べるわけではなく優勝賞金や副賞のあれこれを授与するだけなのですが! まずはマイスタークラスの優勝賞金として300万Eが贈られます!』
ほう、300万Eかこれはなかなかの収入だな。
クランメンバーにも色々手伝ってもらっている分、彼らにも分配しなきゃいけないだろうが、この臨時収入は美味しい。
『そして副賞ですが、まずは称号【第1回武闘大会マイスタークラス優勝者】の称号が贈られます。こちらに関して作成するアイテムの品質がほんのちょっとだけ上がりやすくなるという効果になっております』
「そんな称号もらっていいのか? ありがたいのはありがたいが」
『GMが許可した称号ですので御心配なく。そしてこの称号効果は第4位までの方にも、名称こそ違えど同じ効果の称号が与えられますのでたいした問題ではないと思います!』
「そっか、ならいいか。それで副賞はこれで終わり?」
『何を言っているんでしょうかこの優勝者は。賞金や副賞については公式ホームページにも記載されていたじゃないですか』
「ゴメン、まったく読んでなかったわ」
『……それで何で勝ててしまうんですかね。いえ、圧倒的な強さではありましたが。では次の副賞ですが『マイスタークラス優勝記念の楯』となります。これはホームオブジェクトですのでマイホームやクランホームにお飾りください』
ふむ、これはクランホームのどこかに飾るか。
優勝できたのはあくまでクランメンバー全員の協力の元に成り立っている勝利だからな。
場所はあとでのんびりと決めればいいだろう。
『最後にある意味メインの賞品となりますが、『各種スキルチケット1位用詰め合わせ』になります!』
「『各種スキルチケット1位用詰め合わせ』? なんだそれは?」
『この場で私に聞くよりはGMに聞いた方が早いですね。という訳でのお二方説明をよろしくお願いします!』
『やれやれ、ここで説明するのもあれですが、説明いたしましょう。『スキルチケット』とは『スキルブック』と同じように使用することで様々なスキルが覚えられるアイテムのことです。『スキルブック』との違いは『スキルブック』がそれぞれ決まったスキルしか覚えられないのに対して、『スキルチケット』はそのグレードによって様々なスキルから選択して選ぶことが出来ます』
「つまり『スキルブック』の上位互換って訳か」
『その認識で間違いありませんね。ちなみに1位用のセット内容は『プラチナスキルチケット』『生産用ゴールドスキルチケット』のあわせて2枚になります。ああ、ランクが高いほどいいスキルを覚えることが可能となっていますよ』
「ゴールドチケットについている『生産用』ってどういう意味だ?」
『それは数多くのスキルの中から『生産者向け』のスキルのみ覚えることが出来るというものです。プラチナスキルチケットは戦闘用やその他分類のスキルも取得可能となっております。ああ、スキルを覚える際には検索機能や絞り込み機能も実装されていますのでご安心を』
検索機能や絞り込み機能がなかったらとんでもないスキル数が表示されるんだろうな。
「また、スキルチケットのランクによりまして、覚えられるスキルの種類も違いますのでご注意ください。プラチナチケットを使って、ブロンズチケットでも覚えられるスキルを覚えてしまうこともありますので。ちなみにスキルの詳細を確認いただければスキルのレア度がわかる仕組みになっておりますのでご確認ください」
うーん、これは至れり尽くせりな
「ちなみにチケットの譲渡って可能?」
『不可能ですね。ご自分でお使いください』
「それじゃあ、例えばプラチナチケットでしか今はまだ入手経路のないスキルもあったりする?」
『あちゃーそこに気付かれましたか。答えは『Yes』です。まだスキルブックも行動条件による入手も不可能なスキルがいくつか混じってますね。それを見つけられるかどうか、またはそれを使いこなせるかどうかは別の話ですが』
つまり現時点では入手不可能なスキルも用意されているが、効果は保証しないと。
『ああ、スキルチケットについてですが、使用期限はございませんのでゆっくり考えてから取得していただいて結構です』
それなら
『それでは優勝賞品の授与に移りたいと思います! こちらをどうぞ!』
渡されたのはかなり大きな楯と優勝賞金の書かれた1枚のボード、それから籠に入ったボールだった。
最後の籠の中身が『スキルチケット』なのだろう。
全部あわせると一抱えある賞品群はスキルチケットについてはインベントリに直行、残り2つの内、賞金が書かれたボードは足下に立てかけ、楯を頭上に掲げて見せた。
それと同時に、また武闘大会の観客席から割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
『それでは次は2位のマリー=ゴールド選手の番なのですが……戻ってこられてませんので、賞品類については後ほどメールで直接運営から送らせてもらう事とします』
『なるほど、わかりました。それでは次に鉄鬼選手の表彰に移りましょう!』
その後も、表彰式は
なお、賞品は3位の鉄鬼が賞金100万Eに副賞の楯、それから『生産用シルバースキルチケット』が1枚と『シルバースキルチケット』だった。
4位の斧使いについては賞金30万Eに副賞の楯、『生産用ブロンズスキルチケット』が1枚に『ブロンズスキルチケット』だった。
『それから忘れちゃいけない『ベストバウト』投票は今日もありますよー! 観客の皆様からみてもっとも見応えがあったと思われる試合に投票してください! 見事ベストバウトに選ばれた試合の選手には、後日運営から景品が届くことになっております! 投票期間は
そんなイベントもあったのか。
昨日のノービスクラスを全然観てなかったから知らなかったぞ。
『さて、これにて表彰式は終了となります。そして皆さんお待ちかねの勝利者インタビューに移りたいと思います!』
……そんなのあるなんて聞いてなかったんだけどな。
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